鏡面に響け、摩天より吼えろ 其の十三
飛距離に特化した「引波」を選んだのは適当な理由ではない。回転の加速も含めて勢いよく飛んで行った「サンラク」は……空中ジャンプを使ったとしてもサイナが生み出した摩天楼の領域から逃げ出すことができない!! 馬鹿めがァ! 何のために無駄に跳ね回ってたと思ってやがる、全ては劇場領域からお前を引っ剥がすためだ!!
「さぁ、必死こいて走れ走れ走れーっ!!」
三度の飯よりマガジン三つ、とかアホな事抜かしてたアホ直伝! 単発強襲偏差撃ち!!
STING第三の弾頭、「楔弾頭」!! 針より重く、槍より速い。即ち単発撃ちのアサルトライフル的使用法だーっ!!
でもどっかのアホみたいに「射程さえ完全把握できれば全ての単発撃ちは狙撃銃だよ」とか意味の分からない事はできないけどな!!
バスン! バスン! と引き金を引く度に釘打ち機のような音を立てて10センチ程の弾頭が宙を舞う「サンラク」へと飛んでいく。「俺」が苦手な攻撃パターンは他でもない俺が一番よく知っている、ホレホレふくらはぎの辺りを重点的に狙われると武器での対処がしづらかろう。フフフハハ、弁慶も泣きすぎて脱水症状だぜーっ!!
『…………』
「クレー射撃ってか! 自分から当たりに行ってるんじゃ競技にならんぜオルケストラ!!」
涙ぐましい援護というか、劇場領域の方から勢いよく飛んできたバイオリンが楔の弾頭に貫かれる。次々と飛んでくるシンバル、チェロ、コントラバス、コントラバス、コントラバス……いや後半雑ゥ!!
まぁ分からんでもない、空中を走ってる最中ってのは実を言うとそこまで多彩な動きはできない。空中をジャンプしてる最中とか踏み込む瞬間とかならUI操作に意識を割くこともできるが、地上で攻撃を避けながら次を用意するのを空中でもやろうとすると……案外、ミスるのだ。
如何に上位互換と言えど、プレイヤーのコピーであるならば万能存在ではあるまい。CPUだってミスをする、ミスをしないのはTASだけだ。
つまり「サンラク」が追い詰められるほどオルケストラは忖度の頻度を上げざるを得ず……そして、片手間の歌ではウチの歌姫様には敵わない。何故ならこちとらアンドリューが太鼓判を押した完全再現超銀河アイドル!!
「さぁさぁさぁ! 侵食率八割オーバー!! このまま俺達の勝ちって事でいいのかぁ!?」
照準合わせ……確かにコントラバスは面積がデカいがその分射出速度に劣る! ここだ。ゲージMAX! 今こそウィズダム……リヴァイアサン製造の遺機装、その最後の弾丸を見せる時!!
「【超過機構】!!」
STINGのみならずウィズダムガード撃破によって作成可能な遺機装はタイプ超排撃で統一されている。一定時間の使用で蓄積された余剰熱を意図的に排熱せず特定機構内にチャージ、そして最大まで溜まったそれを利用して放つ自損度外視の必殺技……!!
「公式名称、魔力熱量過剰加圧弾頭!!」
通称:超排撃! 熱量を情報質量に変換し、データ的に圧縮したものを再展開する事で圧縮された熱量の弾丸を飛ばす荒技!! ヒューウ! 超排撃タイプに保身の二文字は無ぇーーーっ!!
「ファイヤー!!!」
閃光、そして踏ん張ってなお後ろに押し込まれるような衝撃。
その性質上、膨張しながら前進する圧縮熱量は余波だけで前方の空気を焼き払いながら今まさに着地せんとする「サンラク」へと襲い掛かる。
コントラバスか? トロンボーンか? なんだっていいさ、多少VITを上げたところで余波で死ぬ! というか余波で死ね!!
俺の似姿、最終楽章の番人、上位互換「サンラク」が何かアクションを起こそうとしているがもう遅い。スキルがリキャストで使えないのは分かっているし、過剰伝達で逃げようとしても巻き込まれる。装備を変える時間もなく、インベントリアエスケープも転移するまでに数秒ラグがあるので逃げ切れない。
「勝っ……………」
───何か、とても悔しそうな顔をしていた。
「サンラク」が、ではない。奴は顔全体が画面で隠れてるから精々目が見開いているのか閉じてるのかくらいでしか感情の機微を感じ取る事はできない、そしてその目が何か感情らしきものを示した記憶はないので「サンラク」ではない。
もはや世界の九割が摩天楼に塗りつぶされた中で、わずか一割の劇場の最奥、そこで悔しげな顔をしていたのは「歌姫」……エリーゼ・ジッタードールだ。成る程、自分の手駒である「サンラク」は既に王手に追い込まれた。忖度しようにも範囲攻撃、対抗しようにも間に合わず……だがおかしい、それはおかしい。
オルケストラの目的は問いかけだ、納得するしないはあっても悔しがるってのはあまりに妙だ。
そして何より……
エリーゼ・ジッタードールはこちらを見ていない。
「誰だ……いや待て、は? まさか…………」
「歌姫」が見ているのは自分の背後、彼女の肩を叩くもう一つの影。
振り返れば歌う事を止めて目を見開くサイナの姿。何故歌を中断したのかは聞くまでもない、そしてサイナの姿を見た事で逆説的に答えが導き出される。
『…………』
距離が離れているからその表情を伺う事はできない。だが明らかに変わった空気が、何故かはっきりとした確信を以って「彼女は笑ったのだろう」とそう感じさせる。
女、そう女だ。「歌姫」を咎めるでもなく、責めるでもなく。ただ静止し、何かを説くようなその姿は………
マジか、マジか、マジかこれ! ここに来てさらに形態あんのかよ!?
STINGの放つ灼熱の光が「サンラク」を呑み込み、さらにその先の「歌姫」達へと熱波が迫る。
そして、「歌姫」の姿が消えて、代わりに前に出たのは………
『───頬を撫でる夜風。他所見で見上げた月に微笑み、私は加速する』
べろん、と。
床に敷かれた紙をめくるようにあっさりと、アスファルトの道路が地面から剥がれた。
「はっ」
めくれあがったアスファルトが盾となって何者かを熱波から守り切る。劇場に亀裂が走り、ガラスのように木っ端微塵に砕け散る。
熱波が防がれたということはそれ以外の要因でわずかに残っていた劇場が粉微塵に砕け散ったということ。
オルケストラが敗北を認めた? いいや違う、その証拠にサイナが作り上げた摩天楼が侵食されている……!!
アスファルトが……否、「道路」が唸りのたうちながらビルを粉砕する様子はシュールでありホラーであり、これ以上なくアクションしている。あのゴルドゥニーネが従える龍蛇を思い出す。
砕けた一割の世界を元手に、一瞬で世界を5:5にまで戻してのけたその女は。
「おいどうするよサイナ、本人登場だ」
「エルマ・サキシマ……!!」
『誰よりも速く、風も追い越して。そうよいつか私が……ハイウェイスター!!』
アイドルのそれと言うよりも先程まで「歌姫」が身に纏っていたドレス。
無手の「歌姫」とは異なり、色々と現実離れしたデザインだが形状的にギターと思しきものを持ち。
そして何よりも、サイナそっくりの顔をした女がまさにロックンロールと言うべき歌声を張り上げるのと同時。
『…………』
どういう原理か、エルマ・サキシマの近くに移動していた人影ひとつ。先程の猛攻が効いているのかいなのか、それは分からない。だが……
「……そうこなくっちゃな」
いっそ憎らしい程に、「俺」は何度でも立ち上がる。
帰ってきたアンドリュー君のシュテルンブルームソロ曲レビュー
「エルマ・サキシマ。物静かな佇まいに澄んだ清流のような声、どれだけ明るいキャッチーな曲であってもどこか涼やかな雰囲気を崩さない彼女だが……こと「ハイウェイスター」に限って言えば、彼女のソロ曲の中でもその異端さにおいて唯一の輝きを放っている。まず彼女自身が作詞作曲をしたこともさることながらギターを彼女自身が担当する弾き語りという時点で申し訳ないが他の曲とは一線を画する、そしてエルマ作詞の曲に共通するバハムートに存在しないものへの憧れを込めた歌声をロックチューンで歌い上げる。まさしくこの曲はエルマ・サキシマの魂の歌と言うべきなのだろう。無論他の曲に妥協があるかと言えば決してそうではなく(以下略)