鏡面に響け、摩天より吼えろ 其の十二
俺と「俺」が一進一退の戦いを繰り広げる中、二人の歌姫による世界の主導権を奪い合う戦いもまた苛烈を極めていた。
忖度ガードにキレ散らかしそうになりつつも、前回のような反撃でやられる事を避けるべく急ぎ距離を取る。いやもうホントマジで「どこからともなくシンバルが!」みたいなのホント腹立つなマジで……いやマジで。
だが良い事が知れたし悪い事も判明した。
まず良い事、やはり征服人形の存在はオルケストラ攻略で大幅に有利となる。歌による世界の主導権争い、こちら側の領域ではオルケストラは地面から楽器を生やすなどのクソ忖度ができない。あの自家製楽器はレッドカーペットからしか生えない、アスファルトは突き破れない!!
悪い事は単純に楽器を射出してくるって事だな、クソが。
「サイナ! もっと声張り上げてけーっ!!」
「───地に頬を当てて、揺れぬ眠りに夢を見る。私は空の中でなく、空を見上げて眠りたい」
返事は歌で返される。俺vs「俺」の戦いは単なるPvPにしか見えずとも環境の主導権争いはド派手に繰り広げられている。
アスファルトが溶岩の如く広がってレッドカーペットを呑み込み、大量の金管楽器を粉砕しながらビルが聳え立つ……かと思えばアスファルトの上をレッドカーペットが敷き広がり、ビルを内側から食い破って壁面から飛び出した大量の巨大トランペットがビルを爆破処理の如く倒壊させる。
まさしく世界と世界の殴り合い、二つの旋律が相手を押し除け合って我を通そうとしている。あるいはこの戦いにおいてプレイヤーは脇役ではないかとすら思える戦いだ。
だがそれならサイナと「歌姫」の歌合戦を口を開けて見てればいいというものでもない、依然として「サンラク」は殺意全開だし奴を追い詰めれば追い詰めるほど「歌姫」の注意がこちらに向く。つまりサイナの有利に繋がる。
「だったら何度でも忖度させてやるよ!!」
ウェザエモンが決められた時間を生き残る事が重要なシナリオであるとするならこちらは逆、制限時間は無制限というよりも未設定! 格上を凹凹になるまで凹ませ続けるシナリオ! 延々と格ゲーのトレーニングモードをやらされてる感じだ、コンボが途切れて転倒から立ち上がると体力全回復する奴な。
やる事が明確に定まったのなら、戦い方も変わるというもの。過剰伝達を切り、回復ガチャをしながら黒い雷電の代りに未だ全貌の見えない嵐を纏う。殲嵐のメビウスだっけ? やたら洒落た名前だが要するに加速効果だ、それだけ分かればあとは使いこなすだけ……!!
「本邦初公開! 歯車式加速……!!」
このスタイルを見出すまでに二十回以上は壁でもみじおろしにされました!!
踏み込んだ右足、その瞬間に全身へとかかる左向きの回転エネルギーが全身を回転させる前に左脚を前へ繰り出して逆回転。回転を交互に繰り返してスピードスケートのように進むのが兇嵐帝痕・極の基本だが……それをさらに発展させたものが歯車式加速!! 念のため黒曜纏の石外套を付けてVITを上げておく、焼け石に水でも多少はヌルくなるだろうさ。
「行くぞオラァ!!」
『…………』
この強制加速、適応されるのは足を前に踏み込んだ時だけだ。さらに厳密に言えば前に踏み込んだ足を起点に身体を前に進める瞬間……つまりその場で跳躍する分には加速はかからないしその他にも活用の道がある。ただ普通に歩いて生きていく分には(自他共に)殺傷力が高すぎるだけで。
だからこんな芸当もできる!
踏み込んだ足で逆時計回りの回転、だがあえて左足を前に出すことなく回転に身を任せる。回転速度は踏み込みの強さに比例する、力強く踏み込んだ事で三半規管を考慮しないような回転力を得たスピンはこんな芸当ができる。
回転力を活かした後ろ回し蹴り、対する「サンラク」は剣を構えた守りの構え、直撃すれば刃に触れた俺の足が切れるだろうが……はいここで空中ジャンプ。
さて問題です、兇嵐帝痕・極の回転エネルギーは何を基準として円を描くのか? 正解は「頭が向いている方向」です!
道理で何度やっても失敗する時があったわけだ、よそ見厳禁だったとはな。だが分かってしまえばその厄介さは武器になる。ヨットを操るように首の動きで回転の方向を変えれば……はいここで蹴り足である左足をちょっと前に。
「食らえ変形サマーソルト!!」
歯車が噛み合うように、異なる回転による円でつなぐバトルスタイル! 対モンスターではあまり意味がないが対人に限れば恐ろしく強力だ。
踏み込みが動作トリガーってのぎイイ、あとはどれだけ三半規管が持ち堪えるかってだけだが……所詮はゲーム、リアルの脳みそがシェイクされるわけじゃない、つまり頑張って正常だと思い込む。まさかの解決策に根性論を採用する事になるとは。
『………』
殲嵐のメビウスの効果は推進力と回転力の複合だ、厳密には前に進みながら回転するこの特殊状態最大の特徴は一歩進むごとに付与される運動エネルギーの方向がリセットされる事だ。
だから後ろ回し蹴りからサマーソルトなんて動きが出来る、常人には困難な動きもイアイフィスト流の使い手であると同時にバグにも精通する便秘プレイヤーならば実現可能!!
突如として動きの変わった蹴りにさしもの「サンラク」も対応できなかったらしく、爪先の引っかかった奴の顎が勢いよくカチ上げられる。
「好機!!」
回転! 検証の結果、一歩分の回転力は体勢に関係なく一回転半する! この確定付与される540度分の回転エネルギーを利用する事でェ……食らえ晴天流・改!!
「渦潮「引波」!!」
ビルの果てまで大暴投ーーーーーーっ!!!