鏡面に響け、摩天より吼えろ 其の十一
轟々と世界が揺れる。荘厳なる劇場を喰らって展開される摩天楼が砕け、新たに構築されているのだ。
征服人形にそんな超パワーがあったのか? アンドリューがインストールした謎データによるものなのか? わからない、だが多分違うのだろう。
ゲーム的に言えばアンドリューとの面会及び征服人形のアップデートはオルケストラ攻略に必要なイベントだったのだろう、だが物語で言えば恐らくだが理由の本質ではない。この現象の理由は………オルケストラの主導権の奪い合いだ。「歌姫」とサイナによる、ではない。征服人形を通してオルケストラに記憶されたシュテルンブルームの誰かの想いが、エリーゼのそれとぶつかり合っているのだ。
「くたばれ!!」
『…………』
封雷の撃鉄・災の効果によって体力が1になる。もう一撃も受けられないが受けるつもりもない。過剰伝達に支配された足で地面を全力で踏みしめる。暴走した運動エネルギーが過剰な推進力を生み出してその場でバック宙返り。「サンラク」が起き上がるよりも先に体勢を立て直す。
「サンラク」の選択は起き上がりつつもリボルバーでの攻撃、だが遅い遅い遅い! もはや徒手空拳は俺にとってハンデたり得ない! 食らってくたばれ不世出の奥義「戦砕琥示」!!
バック宙返りからの着地、軽く踏み込んだ脚力が今度は前への推進力を暴発させる。後退で出来た間合いを一気に詰め、下から抉りこむような挙動でリボルバーの弾丸を回避。振り抜いた拳に全力を込めて一撃を放つ。
だが、
「何っ!?」
打ち据えるはずの顎が消えた……違う! 向こうも過剰伝達状態か!!
流石は「俺」なだけある、バック宙返りよりもさらに無茶な動きで身体をのけぞらせた「サンラク」が片手を地面につけた無謀なバク転で拳を回避する。追撃しようにも今の俺はつま先に掠っただけで死ぬ。幸運をアテにする程俺は乱数に信頼を置いていない。
軽く地を蹴って1メートル後退、その間に武装を整えつつ立ち上がった「サンラク」との間合いは約3メートル。近距離に遠く遠距離に近い。既に双方ともに次の武器を構えている。俺は傑剣への憧刃と傑剣への憧焉終刃、奴は煌蠍の籠手と思しき巨大な手甲。
再現体の武装は見た目こそ「若干似てる」程度で本物とは異なるが性能そのものは同一だ。おおよその輪郭で何が再現されたのかを見極めなければならないのは厄介だが、あれだけ目立つ形状なら何をしてくるのかも把握できる。
「っ!!!」
『…………』
互いにインファイト狙い、しかしあの手甲にはギミックがある。案の定こちらに拳を突きつけた「サンラク」が水晶の弾丸を撃ち放つ。あれ自体に破壊力はほとんどないが当たれば1ダメージくらいは出るだろう。弾き飛ばすには少々前のめりが過ぎる。
胴体の中心を狙われることでどう足掻いても俺は身体を捻らざるを得ない、そして僅かな隙を見逃すほど「サンラク」は甘くない。先ほどの意趣返しとばかりに顔面を狙って叩き込まれた拳を右剣による自前パリィで弾き、弾く寸前にスキル「百閃の剣」を起動したことで二撃目以降のヒット数を増やす! 重厚な打撃に対してヒット数の増殖で拮抗する!!
1、2、4、8、16、32、64、128から28切り捨ての100、効果時間は8回のヒット。既に三度斬りつけて激突時の拮抗でこちらが勝ってきた、あと五回で巻き返せるか? 試しに実戦だオラーっ!!
『…………』
「どうしたどうした上位互換! 出力負けしてるぜ!!」
8ヒット斬撃、「サンラク」の右腕が衝撃に耐えきれず後ろへと弾き飛ばされる。向こうも過剰伝達な以上は削り切れると思ったのだが、プレイヤーの似姿ではあってもプレイヤーそのものではない再現体はウィンドウを操作する必要がない。僅かに見えた柔らかな光のエフェクトは体力回復のものだ。お前も回復ガチャしろよぉ!?
16ヒット斬撃、この一瞬でこちらの攻撃に対する対処を割り出したらしい。システムアシストめ、空振りではヒット判定にならないから攻撃を「スカす」ことで脅威への対処とするらしい。こちらへと無造作に投げつけられたアラドヴァルっぽい直剣を叩き落としながらそうはさせじとさらに前へ。
32ヒット斬撃、後退を続ける「サンラク」へとさらに肉薄していく。過剰伝達で高速機動をしている以上、互いに一撃でもかすればそれが決着の一撃となりうる。故に猛攻を仕掛けているように見えても、反撃に転じているように見えても、互いに僅かな負傷すらも許容しない最善の動きで動いている。
巨大な盾が道を塞ぐ、多重的円周運動を起動し半円挙動で回避。回り込むまでの周囲確認で「サンラク」の位置を把握して剣を振る………チッ、そりゃ攻撃が続いている以上は防御に専念しているか。俺の顔面へと飛んできた多分海喰の剣がモチーフと思しき剣を弾き落とす。
64ヒット斬撃、いいやもうここで詰める。このまま一撃ずつ斬りつけても各個対処されていくだけだ。
スキルの輝きが全身を包む、向こうもこちらの前のめりを察知したのか同様に機動力を高めているが………再現体だって全ての強化を同時にできるわけじゃない。必要なスキルを全て発動しきるのは先手をとったこちら、つまり先に動くのもこちらってことだ!!
一気に踏み込んで加速、空中ジャンプで「サンラク」の上を取って一気に剣戟を叩き込む。しかし攻撃は確かに「サンラク」を捉えたはずなのに手応えがない、まるで空振り……【ウツロウミカガミ】の幻像か! 背筋に寒気、幕末で培われた自前の直感が迫り来る一撃を感じ取っている。だがそこまでは読めている!!
「相対的立体運動!!」
体勢が迎撃に間に合わなくとも、迫り来る攻撃を視認さえすればドッヂボール式回避スキルが使用できる。空中で明らかに不自然な跳ね方をして突き込まれたハルバードを避けた俺はラストの100ヒット斬撃を………あえて放棄する。
だってそうだろう、一発斬り込める射程まで近くより二本ぶん投げた方が手数が多い。
「凹めオラァ!」
カシャシィィィィィン!!!(横から飛んできたシンバルに剣が弾かれる音)
んああああああああ忖度ガーーーーーーーーーーード!!!!!!!!!!!
この間、大体三十秒!!