鏡面に響け、摩天より吼えろ 其の十
数多の視線に囲まれて、壇上に残るは四つの影。俺、サイナ、「歌姫」、そして「俺」。最終楽章はとても静かなオーケストラ。「歌姫」は一人歌い、戦士は二人戦う…………それが最終楽章、神代以前人類に己が輝きを見せつける最後の一幕。
「いいえ、いいえオルケストラ。此度はそうはいきません」
だがあえて俺達はノーを突きつける、だってそうだろう? たった一人の歌声だけじゃあなんとも味気ない。
ぶっちゃけサイナは隠したがっていたが、あんなドルオタの部屋で隠し持てるようなものなんて限られている。それにオルケストラのユニークに征服人形が関わってくる以上、何をするつもりなのかはだいたいわかる。
つまりそう言うことなんだろう、「俺」に俺が相対するなら、「歌姫」に相対するのは同じく歌姫でなくっちゃな。
円形の舞台に対面する俺達と「歌姫」達。この世界の支配者たる「歌姫」に降り注ぐスポットライトの光。招待された俺はともかくサイナは異物であり侵入者。サーチライトに照らされることはあってもスポットライトを浴びることはない。
だからどうした? そんなしょうもないことで凹みに来たわけじゃない、俺達はここに勝ちに来たんだぜ!!
「認証省略、自己判断にてプロセス開始。
簡易格納機構……展開。
重奏支援拡声機、設置。
自律浮遊照明、起動。
光子仮想有線、誘導開始………接続完了。
当機エルマ=317を中心点に半径1メートルを領域指定。
偶像概念舞台……形成!」
「オイオイなにその素敵機能!?」
己の輝きは己で照らし出す。サイナを中心点に虚空から出現した機器の数々がアウェーたるオルケストラの世界のほんのわずかを切り取ってサイナの為だけのステージへと作り変えていく。
「当機は当機自身の意思でここに立つ………なおこの機能は征服人形の基本機能の一つです」
「アンドリュー君……」
やるやん。やるやんアンドリュー君、分かってる。お前はロマンのなんたるかを分かっている。人間という生き物は武装展開と全身換装の変身と巨大魔法陣の出現、この三つの誘惑に抗えない身体の構造をしているんだ。
巨大なスピーカーを左右に控え、瞬く間に形成された円形のステージ。その中央に立つサイナをドローン型のスポットライトがまばゆく照らす。歌姫は揃った、あとは前衛が身体を張るだけだ。
「ここからは俺達がステージの主導権をもらおうか!!」
ここにるのは歌姫が生き写し! 星行く船にて栄華に咲き誇った花びらの一つ!! 造花が何だ、匂いが欲しいならアロマキャンドルにでもブッ刺しとけってな!!
「インストール開始:いつでもいけます」
「冥響、張り合うに遜色なし! こちとら星に響く華の歌! さぁオルケストラ、紅白歌合戦しようぜ!!!」
その言葉が合図になるようにシステム側が空気を読んだのか、それとも単なる偶然か。果たして俺が叫ぶと同時に二人の歌姫達が同時に声を出す。
「『La──────」』
なんとも綺麗な音の空砲だ、だが俺も「俺」もそんな音を背に受けて同時に前へ走り出す。奴のステータスは俺を僅かに上回る、即ち先手は奴が………否!!
「先手奪取!!」
「サンラク」がアラドヴァルと思しき直剣を出すならば、こちらはSTINGを展開! 距離を射程で詰めて先手を取る! その蓮コラみたいな仮面ごと頭蓋をブチ抜け槍弾頭!!
助走はブラフ、前に踏み出した足は俺の慣性を受け止めて踏ん張る。突きつけたクロスボウ型の長銃を
「サンラク」へと突きつけて、貫通特化の一撃弾をぶちかます。
だが、事態は俺の想定とは別の方向へと変異していく。
『…………』
「ん゛!?」
俺が驚いたのは「サンラク」が弾頭を回避したからではない、奴の背後と俺の背後に起きた異変に気づいたからだ。
『La───、La、La───』
「───遠く、遠く、在りし日の姿を夢に見た」
歌詞のない純粋な音でこの世界を構築する「歌姫」の旋律。それに対抗するように想いの込められた言葉を奏でるサイナの歌声が響く。
オルケストラが歌で世界を創り上げるならば、それはつまり歌=世界ということ。すなわちサイナというもう一つの歌が響くことで……今、世界が二つに割れようとしていた。
「過去の栄光、天を摩る威容。旅立ちを見送り、故郷に残ったその姿を」
レッドカーペットが下からの隆起に堪え切れず引き裂ける。サイナの左右で旋律を響かせるスピーカー、そこから放たれる大音量が世界を揺らしてオルケストラに抗う。この世界を塗りつぶすのは自分であると、そう言わんばかりの傲慢さを音に乗せて。
「今は亡きその姿、私は今も夢に見る。憧れの中に根ざす私の───」
それはエルマ・サキシマのソロ曲が一つ。サイナ自身の想いをエルマの姿で歌い放つ、オルケストラに対抗する歌姫の心よりの叫び。
「───摩天楼!!!!」
空間が引き裂ける。劇場の天蓋が真下より突き上げられた屹立によって砕け散り、劇場を覆う半分が砕けた先に見えるのは地よりそびえ立つ摩天の楼閣に全貌の何割かを隠された星空───
「契約者、どうか存分に」
「いいねぇ!!」
こちらへと斬りかかってくる「サンラク」を見据え、アスファルトを踏みしめて迎撃の姿勢。STINGはとっくにインベントリアの中へ。無手の状態で肩を狙って振り下ろされた刃を受け入れるように一歩踏み出す。
半歩のズレが刃を回避、踏み込んだ数十センチの肉薄が無手を「サンラク」へと届かせる。攻撃反応、回避の後に掴んで一本背負いに投げる。これぞ晴天流「防波」!!
「オイオイどうした! 電波が混信でもしてんのかァ!?」
追撃の蹴りは地面を転がられたことで不発、回転により再び「サンラク」の顔がこちらを向く頃にはその手にリボルバー!
『…………』
「っ!!」
躊躇いのない発砲、だがリボルバーがこちらに突きつけられ、引き金が引かれるまでに真界観測眼は既に発動されている!! 加速した時間の中で生み出された僅かな猶予が追加のスキル発動を可能とする、回避のモーションをスキルでさらに加速させて弾丸を回避。それでも遅いと感じてしまう右腕の動きで左胸を叩いて──────
来たぜ等速、ここから畳み掛ける!!
過剰伝達中でも例外的に指の動きだけは過剰伝達の効果を受けづらい、というよりもコンソール操作中だけは過剰伝達の対象外というか……こんな自爆率10割みたいな効果を実装した運営でも1割程度は情けが残っていたらしい。
UI操作しつつ現状把握、敵は転倒中でこちらは仰け反り中。共に万全に到るまで一手必要、だったらより有意義な一手を打って畳み掛ける!!
アンドリュー君のシュテルンブルームソロ曲レビュー
「今回紹介するのはエルマ・サキシマの代表曲と言ってもいい名曲「スカイスクレイパー」だ。シュテルンブルーム自体、文化規制が解除された直後に結成されたアイドルグループではあるがその中でも地上に建造された高層ビルへの憧れをダイレクトに歌った曲はエルマ・サキシマの大人しいイメージとは真逆の、政府への反抗を歌うデスメタル系に近い歌詞の内容から当時も相当の反響があったらしい。歌そのものはバラードに近いがやはりサビに入る瞬間の転調が素晴らしくエルマ・サキシマ自身が作詞をした事もあってエルマソロ曲の中でも頭ひとつ抜けた代表曲と言っても過言ではあるまい。エルマソロ曲の中でもエルマ本人が作詞したものはバハムートの中に存在しない、惑星特有の事象に対する憧れを歌ったものが多くファンとしては彼女の物静かな佇まいの中に秘められた炎のような……」
象牙「この後三十分ほど会話内容がループしていましたのでここで以下略とさせていただきます」