鏡面に響け、摩天より吼えろ 其の九
古戦場から生きて帰ってきました
さて次は火か……ヒヒが、ヒヒが欲しい
◇
ある者はサンラクの強さの本質を「UIへの適応速度」と言う。
またある者はサンラクの強さとは「別ゲーの技術を持ち込む事」だと言う。
またある者はサンラクの強みとは「自分の100%を引き出すスキル構成と120%に補強する装備構成」と考察した。
確かにそれらはサンラクの強さを構築する上で重要な柱と言えるだろう。だがそれらはあくまで支柱でしかない、根本を支える柱はもっとシンプルなものだ。
───即ち、一度の体験から得る情報の反映速度と尽きせぬモチベーション。それこそが陽務楽郎の根本を支える大黒柱。
ラビッツのコロシアムに刻まれた壁と地面のシミの数は挑戦と改良の数。尽きせぬ炎が炉を動かす、故に「サンラク」は強い。
「記憶に新しい! 予備動作の初動からディレイのタイミングまで頭に残ってンだよ!!」
金晶独蠍"皇金世代"。三段階の射程による変幻自在の戦法を剣聖が如き閃きと野性の冴えを両立させた異形の剣技によって行使する黄金の皇。
映像越しでもその一挙一動に込められた殺意のリソースを感じ取れる蠍が、しかしたった一人の人間を捉えられない異様な光景。
時に最小の動きで回避し、時に最速の動きで逃れ、時に最適な動きで弾く。リアルタイムで配信されるそれは「プレイヤーはここまで出来る」という証明であり「ここまで出来て初めてユニークモンスターをソロで討てる」という宣告でもある。
厳密にはサンラクがユニークモンスターをソロで討伐した事は一度も無いのだがそれを知る者は多くない。
「何度だってへし折るぜ!!」
漆黒の焔剣が舞う、黄金の剣が乱舞する、戦うサンラクにとっては二度目の戦いも第三者が見れば初見の死闘そのもので。
これまで皮だけが膨れ上がり続けていた「サンラク」に実力という名の骨格が、実際の光景という血肉が充填されていく。
何者かの残影が飛び交い、亀裂の入った聖剣が叩き折られる。それを合図に展開される三振りの光剣が劇場の空気を灼き、さらなる苛烈さでサンラクへと襲いかかる。
だがそれでも届かない。過去の再現でしかない"皇金世代"では本物を打倒し、さらに前へと進んだサンラクには敵わない。
最期の輝き、世界を斬り裂く三つの光輝。されどそれすらもが焼き回しに過ぎない、世界を縦に断ち割る光ですらも対峙する当人からすれば「角度こんなもんだっけ?」程度の逡巡を生み出すだけだ。
「あ、そうだ今回は過去の再現だから反射したけど気合で避けた方が安全、食らったら一撃で脚が消し飛びます」
盾を構え、花開いた鏡が光を反射して黄金の皇を断ち切る最中…………ぐりん、と首だけ動かして隕鉄鏡に目線を送ったサンラクがそう結論づけて、四戦目の強敵は撃破されたのだった。
◆→◇
「さて……これで第四楽章は終わり、次が本題の最終楽章だ」
隕鉄の鏡に向けて話しかけながら、装備を整える。
ここより先は鏡写しの戦い、すなわち「サンラク」をサンラクが対策しなければならず、サンラクを「サンラク」が対策してくる。
「偽典はフルオーケストラで戦うとか言ってたが、正典は「歌姫」一人だけの独唱だ」
「オーケストラは一人を残して消失、「歌姫」が仮面を渡す事で残った一人がプレイヤーのコピーになる。インベントリの中にある装備も完全コピーするから気を付けろ、オルケストラの性質上装備を絞るのは悪手だ」
「コピーの性能だが……自分と同じキャラを使う自分より強いプレイヤーと考えてくれて構わない。ステータスも1.2倍くらい強い気がするし」
「ただ征服人形が場にいる状態だと詳細不明だが行動パターンが乱れる。ランクマで同じ実力のプレイヤーとかち合ったくらいになる、ステータス格差はどうしようもないけど」
「まぁライブラリ相手だしネタバレ考慮とか別にいいか………あー、多分理由はオルケストラの歴代使用者の中にシュテルンブルームのメンバーがいるからだ。ベヒーモスで調べてきたけど短期間でシュテルンブルーム全員に所有者権限が移っていた、多分貸し回してたんだろうな」
「だから征服人形……シュテルンブルームの似姿であるあいつらがいると混線が起きるんじゃないか……っていう考察。征服人形自身が邪魔するんじゃなくてオルケストラ内で主導権の混線がな」
「問題はここから。普通に倒そうとすると倒す寸前でオルケストラが忖度ガードしてくる、つまり普通に倒すだけじゃない何かが必要ってわけだ」
「冷静に考えてオルケストラユニーク発生に征服人形との契約が大前提な時点で無関係なわけないんだよな」
「……というわけで、だ。俺は失敗前提で複数回挑戦なんてかったるい真似はできないんでな。全力でシナリオクリアに注力する」
「ので登場していただこう、ウチのサイナさんにな」
隕鉄の鏡がこの場に現れる人影を映し出す。
創造者の趣味全開の衣装……しかし契約者の見たことのない、黒を基調とした新たな衣装を身に纏い、決意の眼差しを湛えた一機の人形がこの世ならざる格納の世界より現世に降り立つ。
「好調?」
「上々かと」
「それは重畳」
さぁ、楽団が消えてきたぞ。最終楽章……今回は観客多めだが、こっから先はもう気にしていられない。
◆
楽団が消えていく。一人、また一人と奏でられる旋律が消えて、細くなっていく。だが今だからこそわかる。楽団は消滅したんじゃない、楽器を置いて観客席へと移動したのだ。
神代、神代。この星に根ざし生きゆく事を試み、滅びたかつての人類……その盛衰の時代。成る程、今の人類からすればまさしく創造主にして偉大なる神の時代なのだろう。
「さぁて…………来たぜサイナ、最終楽章だ」
「理解:この一戦は当機にとって決別であり……宣言であり、」
「深く考えてるとまたインテリジェンスがバグるぞ」
「フッ…………天が地に落ちる事に怯える姿のなんと愚かなことか」
「言うじゃねーか」
杞憂ってか、その言葉あとで覆すんじゃねーぜ。
派手にネタバレをぶちまけつつ、ついにオルケストラは最終楽章へ……!