鏡面に響け、摩天より吼えろ 其の一
やっと……長かった……ここまで……あまりにも……
そもそも、俺はずっと勘違いしていたんだ。
あの音楽プレーヤーはアンドリューにとって何か大きな意味があり、そしてエリーゼ・ジッタードールがその鍵を握っているのだと思っていた。だがベヒーモスでほぼ本人なアンドリューがそれを否定した、それによって思考の方向性を変えることができたわけだ。
アンドリュー・ジッタードールにとってあの音楽プレーヤーは後世に残してやろうと思う「程度」には愛着のある道具……それ以上でもそれ以下でもない。
ではオルケストラとはなんなのか? 簡単な話だ、オルケストラの正体は音楽プレーヤーだ。
「数百年間、電子機器を使い続けることは可能か? いいや不可能だ」
そして一人の人間が数百年間存命して音楽プレーヤーを所有し続けることもまた不可能。つまりあの音楽プレーヤーは……
───幾度となく「修理」され、数多の所有者の手を渡ってアンドリューのところに辿り着いた継承とバトンタッチの結晶だと言う事だ。
テセウスの船だったか、あれと同じ原理であれとは真逆の思考を要するって事だ。即ち「生産された時のパーツが一つも残っていない程に修理され続けた音楽プレーヤーはされど「音楽プレーヤー」として存在している」とでも言うべきか……これだけなら意味の分からない謎掛けだがこれがオルケストラに関わってくるなら話は変わる。
オルケストラ正典「最終楽章」。
消えた楽団の代わりに感じた「視線」と「気配」とは
リヴァイアサンで得た神代人類と現代人類の差異とは
この世界の根本原理を踏まえた上での「オカルト」とは
今日一日の集中力と学校生活を犠牲に導き出した「冥響のオルケストラ」の正体、その解答は……
「あの音楽プレーヤーが生産されてから今に至るまでに関わってきた神代人類達の意志……いや、遺志。それこそがエリーゼを「歌姫」として展開された「楽団」の正体であり、この惑星に来る以前の存在が展開する「劇場」の正体だ……実証はまだだけどな」
「素晴らしい考察だ、では早速検証せねばなるまい」
「オルケストラ関連のまとめ役はミレィさんか。この時間だともうインしてるかな、それともリアルの方でメール送ったら反応するかな」
流石は【ライブラリ】、恐ろしく話が早い。
九層攻略の為に準備していた磐斎氏とキョージュの二人を見つけた俺は彼らをとっ捕まえると一日を犠牲にした考察を語り、果たして俺よりも数十倍は賢いだろう考察厨達は俺の「説」を有力としつつもさらなる補足を勝手に加えながら行動を開始した。
「成る程、この世界の根本原理は生きた思考に由来する。であれば死者の……いや、この場合は死と言うよりも「過去」と言うのが適切か。本来であれば生死で論ずる以前の存在の意思を実行するもの……確かにそれは紛う事ないオカルトだろう」
「ですがキョージュ、そうなると正典と偽典の違いに疑問が出てきます。過去の人物がなんらかを問うと言うのであるなら分ける必要性が無い」
「恐らくだがオルケストラは複数の「意志」が奇跡的に混じり合った複合体なのではないかな。正典と偽典はオルケストラ側からのアプローチが違うのだろう」
「この段階で論じても答えは出なさそうだ、僕らとしては今すぐにでもオルケストラ攻略を始めたいところだが……どうやらサンラク君はここでやる事があると言った様子だね?」
考察中にいきなりこっちにでかい矢印を向けてくるのはちょっとやめて欲しい。びびる。
「え、あ、うん。この仮説には一個でかい穴がある」
「神代……いや、この惑星で滅びるまでの期間を神代と定義するなら神代「以前」人類と言うべきか。彼らの目的だね?」
「ウィッス」
仮説の穴についてなんも言ってないのに既に把握されている……
だが磐斎氏の言う通りだ。俺の説が正しい場合、そもそもその「音楽プレーヤーに関わってきたはるか過去の人物達の意志」はオルケストラを通して何を問い掛けてきているのか。
オルケストラは己を観測者と言った。比較の果てに答えが出るのだとも、ここから先が纏まらない。そもそもオルケストラに自我はあるのか? 何を観測している? 比較、つまり力比べの果てに結論が出るなら何故あの時忖度ガードが発動した?
今だから分かる、あの忖度ガードは「問い」に答えていないから差し込まれた妨害だ、逆に言えばに問いに答えて初めて勝利条件が満たされる。
「と、すれば必要な条件は……」
「身元を洗い出す事ではないかね? 少なくともここはベヒーモスだ、オルケストラの本体たる音楽プレーヤーがベヒーモスの船内にあった頃の所有者を調べる事はできるのではないかね?」
「まぁ、メタ的にも調べられそうですね」
「そこを指摘するのは無粋だよ磐斎君」
そう、何を問うているのかではなく具体的に誰が問いかけてきているのかという視点だ。そもそもオルケストラが神代以前人類の疑問を問う代理人だとしても具体的に誰に何を問えばいいのか、そして何より……征服人形が単にアンドリューの趣味と執念の産物というだけで終わるとは思えない。
サイナが劇場内にいた時、オルケストラが作り出した「サンラク」の動きには露骨な変化があった、無関係ではないにせよアンドリューという存在はオルケストラを構成する成分としてはそこまで大きくない……では何故?
俺の予想が正しければ、全ての答えはベヒーモスの最奥にある。だからこそ俺達はベヒーモスから逃げてはいけない、最後の試練……詳細不明の一時間サバイバルの答えをまずは見つけ出さないとな。
というわけで、イかれた面子を紹介するぜ!
見た目は聖騎士、中身は完全ヒーラー特化! 毘猩々 磐斎氏!!
辻斬り上がりの手腕は軽戦士の高速機動にすら回復を合わせる事ができるとか。まぁ俺他者からの魔法系大体弾くから意味ないけど。
見た目は魔法少女、中身はバッファー! キョージュ!!
一応自己バフから後方火力としての活躍も見込めるが基本的には支援型だそうで。まぁ俺他者からの強化系も大体弾くから意味ないけど。
見た目はいぶし銀な重戦士、中身は……うん、なんだろうね。エターナルゼロ!!
ベヒーモス突入時から妙な存在感を放っていたあのプレイヤーである、アクセサリー枠を一つ使ってでもおしゃぶりを採用する「凄み」はただのタンクに収まらない何かを感じさせる……あまり関わり合いになりたくないタイプだがどこか鯖癌イズムを感じさせる男だ。
「この先に揺り籠がある、そうだろうツチノコさん」
「いや知らんけど」
「魂がオギャってんだよ……」
「そうか……」
イかれてやがる。
そうは思っても口には出さない、それがダンディズムだ(聖杯効果で女体化中)
本当ならここに玲さんもといレイ氏がいれば完璧なんだが……やはりあの顔の赤さは尋常ではなかったらしく、今日は早々に早退したのだと得間さんから聞いた。何故俺にそれを伝えたのかは分からない、だが得間さんと親しく話しているように見えたのかまた尋問されたのは勘弁してほしい。
そろそろ「熟成雑ピマル秘爆弾情報三連星」を開放する時が来たのかもしれない……だがあれは割とガチめに雑ピがマジギレしかねない諸刃の剣、取り扱いには細心の注意が必要だ。例えばそう、女装……いやなんでもない。
さぁ行こう、いざベヒーモス最終攻略!!
エタゼロの友人はちょっと距離置いてる