生まれたての世界よ天秤に座せ、今ここに是非を問う
さぁ本当どうするべきか。
オルケストラの謎は未だ霧の中、霧に突っ込んだ手が掴んできたのは征服人形のイベント。いやなんでやねん。
「うーん……」
ほぼ一日中考えていたが分からない、普段なら思考を切り替えて学業に専念するところなのだが……何か、何か掴みかけている感覚があるのだ。霧に突っ込んだ手の指先のさらに先、爪先に何かが引っかかっているような……パズルのピースはすでに全部持っているが、いくつかのピースをどのポケットに入れたのか忘れた、みたいな。
オルケストラの「本体」は音楽プレーヤー。所有者はアンドリュー・ジッタードール、厳密には貰い物なので最初の所有者は不明。というか人類が宇宙に旅立つ前ってことはガチで地球産ってことではなかろうか。
つまり……宇宙を何年彷徨っていたのか、確か数百年くらいだった気がするので単純計算であの音楽プレーヤーは三千と数百年、下手したら四千年モノの超超超超レトロなアンティークって事になる。四千年って、リアルで例えるなら紀元前二千年前くらいか? 粘土板とかの時代かよ。
「……駄目だ、後一歩なんだが」
これはもう思考でどうにかなるモンじゃないな、起爆剤となるひとさじのインスピレーションがないと永遠に解けないタイプの謎だ。来い来いインスピレーション……こういう時は別のことを考えると意外に思いついたりする。
そうだな……あ、そうだ幕末のバグ、あれなんか過去ログが変な参照されたせいでプレイヤーが操作していないアバターだけが過去訪れた場所に出現してるらしい。
聞いた話じゃレイドボスさんを始めとするランカーが複製されまくって阿鼻叫喚になったとか……複製アバターかと思ったら本物でしたとか下手なホラーより恐ろしいわ。
「ん……マジか、今何かキたぞ」
何か爪先を掠った気がする! マジかよ幕末、真理は天誅の先に存在したのか……?
天誅、増殖、アバター……どれが引っかかった? クソッ、インスピレーションが離れていく。あーもう駄目だ、また分からなくなった。おのれ幕末、思考能力を全て天誅に費やすからこういう時に役立たないんだ。とりあえず増殖バグは再現性があるのかだけ気になるってところか、今回のは放置案件ではなさそうだから修正かな……
「ん?」
玲さんだ、誰かと話してるようだがここからだと微妙に見えないな。あんまり和気藹々って感じではなさそうだけど。まぁいいや、帰るか………あ、玲さんがこっちに気づいた。
「すいません、では失礼させてもらいます………ら、楽郎君っ、今……帰るところ、ですか?」
「え、うんまぁ」
「その、シャンフロについて……ええと、お話ししたりとか」
「別に構わないけど……なんか結構無理やり話切り上げてたっぽいけどいいの?」
話していた相手は……もういないか、下校するために玄関に向かった俺とは逆方向に行ったのか。部活でもあるのかな?
「その、大丈夫です。ちょっと……ええと、その、進路について……アドバイスを貰ってたというか。いえその! 来鷹一択なんですけど、ね!!」
「いや一択は不味くない?」
第二第三候補は一応入れておいた方がいいんじゃ、それとも一発合格するから問題はないという自負なのか。
「その……海外留学について、強く推してくると言いますか……」
「留学?」
「日本から離れるつもりはない、と何度も言っているんですけどね」
ははは、と困ったように笑う玲さんであったがまぁ分からなくもない。控えめに言ってこの人めちゃくちゃ頭いいからなぁ……覚えてる限り、テストじゃ大体学年上位とかにいた記憶しかない。
しかし海外、海外か……武田氏からも候補の一つとして挙げられたことあったなぁ。まぁクソゲーの入手難易度が上がるって事で却下したけど。
「しかし海外か……」
「ら、楽郎君は……その、興味とか……あるんです、か?」
「いや別に、ただちょっとアメリカには近寄りたくないなって」
なんかこう……補足されそうな気がする! 最近は変なツテで住所特定してくるパターンが多いし、海向こうから割とガチめのお誘いとかが来てるってカッツォ経由で伝わってくるんだよ!! ファーストクラスのチケットをタダで渡そうとするのはやめてください!!
「そ、そういえば昨日はいきなり抜けちゃったけどあの後どうなったの?」
「へ? え、はい。あの後、何人かで九層に向かったんですが……」
リヴァイアサンの方式と同様ならば、ベヒーモスの最下層はゴールそのもの。つまり九層こそが最後の試練となる。
予想通り、玲さんの話では九層がベヒーモス最後の「試験」が課される場所であったらしいのだがどうもその難易度はリヴァイアサン第四殻層の買い物カゴエレベーターよりも難解であるらしい。
「あー、つまり「擬似再現された自然環境に説明なしで制限時間だけかけられて放り出される」ってこと?」
「はい……何をすればいいのかも分からず、タイムリミットを迎えてしまって……」
現在分かっているのは少なくとも、
・制限時間一杯まで生き残ることではない
・擬似環境内のモンスターを倒すことでもない
・何か特定のアイテムを探す可能性はゼロではない
・が、その気配すら感じられない
とのことだ。つまり単純な条件ではない、ある程度複雑な何かを達成しなければならないって事か。
「できれば、その、えとですね。楽郎君も協力していただけると、その……ええと、大きな助けになるかな、と」
「んー。まぁ用事も済んだし昨日いきなり抜けた分を挽回する為にも……」
ガン!! ゴン!! ガン!!! ガギィィーーン!!!(着信音)
「ひゃあっ!?」
「むっ」
この着信音「金属の打撃音でベートーベン「運命」を演奏してみた」を設定している奴……いや、お人はただひとり!!
「ちょっと失礼」
件名:【至急】協力願いたい
差出人:武田インゲン
宛先:サンラク
本文:仔細は問わず、このインディーズゲームをプレイしてクソゲーか否かを判定してほしいで御座る
ちょっと知り合いとこのゲームの是非について揉めていましてな
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「……………」
「あの………何か、あったんですか?」
「ああいや、別に何か大ごとってわけじゃないけど……」
師匠にやれと言われればやるしかあるまい。武田氏が判断を求めるってことは界隈でも結論が出ていないゲームということだ、お歴々の中に「これはクソゲーちゃうやろ」と判断した人がいるということで………ならばやるしかあるまい。URLを踏んで調べた限りではインディーズ、それも先行プレイというか資金を集めるためのお試し版ってところか…………インディーズ、それもベータ版でクソゲー界隈の議題に上がるとは中々ファンキーなパワーを感じるぜ。タイトルは………「デスゲーム・リベリオン・オンライン」ね。
うーん、タイトルは35点かな! ただ内容次第ではプラス40点!!
「ていうかこれオンゲなの……? インディーズのベータ版で……?」
正気か? 正気なのか? 金ないから資金集めしてるんじゃないんですか!? なんでサーバーなんて………いや違うのか、まさかこれは……「このゲームはオンラインでこそ輝く」という絶対の自負があるのか? とりあえずオンで遊ばせれば金を出したくなると、それだけの自信があるのか?
でもクソゲー審判にかけられてるんだ…………
「何かの、ゲームですか?」
「あーうん、ちょっと知り合いの人から評価を聞きたいって…………」
「ええと、何か……」
…………評価が必要なんだよな? それも、「もしかしたらクソゲーではない」ゲームの。
「時に玲さん、ちょっと息抜きにこのゲーム一緒にやってみない?」
「デひょもっ!?」
でひょも?
本来は楽郎一人でやるつもりでしたがヒロインちゃんの回し蹴りでプロットが骨折したのでヒロインちゃんもやります