歪んだ捩れがメビウスとなり、無限のモチベーションになる
なんやこのドルオタ
一通り笑い続けたアンドリューは表情を正すと、サイナ……と、俺に視線を向けて口を開いた。
『そも、征服人形を語る上でまず「シュテルンブルーム」について説明しなければなるまい。当然基礎知識の履修は済ませているだろうね?』
「推しはストロベリーです」
『ふむ、なるほど良いセンスだ。で、推しは?』
「自分ハコオシってやつなんで」
『箱推しか』
まぁぶっちゃける知ってる単語だけで会話に喰らいつく「ニワカ話術」の一環なのでイチゴ組以外のグループは知らないしそもそもイチゴ組のメンバーもサイナと……あー、リリエル? だったかしか知らない。
『成る程、それしか知らないといったところか』
速攻でバレたわ。
「……にわかですまんな」
『誰しもがにわか知識から始めるのだ、いわんや次世代の文明がリセットされた新人類ではな……後でコンサート動画を貸し出そう』
「いや別にそれはいらないかな……早速本題から逸れてるぞ」
『成る程、ではシュテルンブルームの素晴らしさについてだが……』
「おいアンサーコード・トーカー、質問に対して教科書の目次から話し始めるのはやめろ。そこそこ俺も急いでいるんで本題から入れ、後で聞いてやるから」
『全く、これだから文明文化のリセットには反対だったんだ……獣の道理からやり直してどうすると言うのだ。アリスめ、積み上げた歴史に空白などあってはならんと言うのに……まぁいい、ならば答えよう』
露骨に好感度が下がったが、生憎六時半までにはログアウトしておかないとリアルに響く。俺は磐斎氏のように気軽に風邪を引く事はできないのだ。
『そも征服人形とは私、アンドリュー・ジッタードールが開発した「三号計画」の主題たる至高の創造物だ』
「三号?」
一、二号計画なら分かる。
要するに生物的な繁殖と繁栄によって歴史を「作る」のが一号計画。
そしてベヒーモスで生産出荷され、開拓と制覇によって歴史を「拓く」のが二号計画。
では三号計画とは? 主軸が征服「人形」の「人類」のための計画とは───
『三号計画とは征服人形という文化的不死性質を持つ人類種を一号、二号計画人類種と並行して定着させ、シュテルンブルームを未来永劫この世界の「アイドル」として後世に遺す偉大なる計画である』
………うん。
………うん?
………んんん?
いや、あの、その………
控えめに言って頭おかしいじゃん?
「あー、その、なんだ。俺は言葉が通じて話が通じれば霊長類でなくてもその尊厳を尊重すべきだと思う器のでかい人間だが……うん、気分を害さないで欲しいんだが」
あー、うん。
「人類種?」
『いかにも』
「人形だよね?」
『些末な問題だ』
「無機物だよね?」
『何か問題でも?』
………はい、少しタイム。タイム要求します。よしサイナ、エムル、こっち来い。
「どうする、俺はどうすればいいのか分からない」
「じ、自信満々過ぎて間違っていない気がしてきたですわ」
「否定:当機達は征服人形、一号及び二号計画そのどちらとも合致しないヒューマノイド……の、はずですが」
よし分かった、ドルオタのキャラが濃過ぎて俄然気になってきた。俺も少しばかりリアルを削るリスクを受け入れよう。持ってくれよ俺の身体、朝食抜きだ……!!
「オーケー、分かった。話の円滑化を優先しよう……で、アンドリュー氏は征服人形を……なんだ、新たな人類種として生み出した、と」
『その通り。ベヒーモスにQ.E.D.が搭載され、二号計画を稼働させる事が決定した時点で母体が苦難を乗り越え子宮で子を育てる絶対性は消失した。ゼロから成体の肉体を構築し、コピーアンドペーストの人生を脳に焼き付ける時点で年月による教育の絶対性もまた消失した。ならばもはや二号人類と三号人類の違いは肉体を構築する物質が有機か無機かの違いしかあるまい』
「な、成る程確かに」
恐ろしい事に筋は通っている……いや、通ってしまっている。
確かに二号人類の生い立ちは生物としてあまりに異形だ、メタ的な中の人を考えなければベヒーモスは100%同じ肉体、同じ性格の人類を量産できるわけで。
全く同じものを与えられ、同じ教育を受けた双子ですら主義思想が分岐する。それすら無いというならば二号人類と征服人形の違いはマジで材質……いや、いや、臓器とか違いはあるはず、うん。
『故に三号計画。至高の文化たるシュテルンブルームを後世に伝える為の偶像! 自ら思考し、人に寄り添い歌い踊る……この寂しい星に賑わいと彩りを齎すための救世主!! それこそが私の研究の全て!!!』
「言わんとしてる事は分かるが……」
百聞は一見にしかず、資料を百回見るよりも現物を一回見たほうがより精巧で詳細な感動を得る事ができる。仮にそのシュテルンブルームのオリジナル達がとっくの昔に死んでいるとしても大事なのはシュテルンブルームがファンに与えていた感動を再現できるかどうかという事だろう。
『故にこその三号計画だ。一、二号計画……即ち「バトンタッチ」が実行されるにあたり二機のバハムートは一時的に歴史の舞台からその身を隠すことになった。それが何を招くか分かるか?!』
「え? あー、そうだな。話の流れ的に……ていうか、その三号計画のコンセプト的に文化の断絶、とか?」
『素晴らしい、正解だサンラク。通信の断絶したジズを除けばベヒーモスとリヴァイアサンにはかつて人類が捨てた母なる星から、星の海を旅してこの星に辿り着くまでの歴史! 文化の全てが記録されている!! それらが歴史の影に隠されたならば、新たな人類は文化を! シュテルンブルームを知らぬままに歴史を作ることになるではないか!!』
シュテルンブルームの「歴史」に空白などあってはならない、ホログラムを動かすAIが出しているとは思えない焼き焦がすような熱意にサイナが一歩後ずさる。
要するに人類の歴史から推しが一秒でも忘れられるとかあり得ねえ、と叫ぶドルオタに俺はドン引きしすぎて一周回りきったのか感心すらしてきた。
『認めよう、確かにシュテルンブルームは過去の存在だ。私が彼女達の輝きを知った時には既にメンバー全員が天寿を全うしていたからな……あと80年早く生まれていれば、如何に科学を極めたとて時間の不可逆性に人類が手をかける事は出来なかった』
だが、とアンドリューが拳を握り締める。今も昔も、己を動かすものはそれが全てなのだと言わんばかりの力を声に詰め込んで天才は叫ぶ。
『生まれ遅れた私がかつての同志達の遺志を継ぐ方法はただ一つ……即ち、シュテルンブルームを枯らさずを永遠とする事……故に三号計画、永遠に咲き続ける星の華……!!』
うん、要約すると……推しは推せる時に推せって事だな!
いやなんだこのクソ拗らせたドルオタは。
シュテルンブルームは永遠に愛されるコンテンツでなければならなぁい……(ねっとり)
半裸鳥頭、君は絶版だぁ……(クリティカルクルセイド)
とはならないのでご安心ください