Talkative Shadow
征服人形の生みの親にして神代において次代を創り出した天才達の一人。恐らくオルケストラが再現した「エリーゼ・ジッタードール」の秘密を握るであろう人物、アンドリュー・ジッタードール。
当然既に死んでいる彼のラボからオルケストラに関する情報を得るべく転送された俺たちを出迎えたのは……
『やぁ新人類、私がアンドリュー・ジッタードールだ』
───ご本人だった。
「……えっ」
『ふむ、随分と間抜けな頭部をしているがそんな奇天烈な進化を辿るような設計だったかな……ああ、被り物なのか。奇天烈な進化を辿ったのは種ではなく文化か、嘆かわしい』
あれもしかして今ものすごく遠回りに馬鹿にされました? というかもしかしなくても応対可能? いやまぁ間抜けな頭部に関して反論の余地がないのは事実だけれども。
そこまで広くない一室、その最奥にある椅子に座っていた金髪にオールバック、眼鏡という服が白衣でなければなんかインテリなアウトローにも見える男が態とらしくため息をついている。
自称が正しければあれがアンドリュー・ジッタードールなわけだが……
「ドルオタにどうこう言われたくねぇな……」
『身嗜みというものは如何な文明においても常識にカテゴライズされる項目の筈だが……成る程、個体の問題かな』
「オイオイオイ喧嘩したいなら最初に言ってくれよ」
『あいにくと、こういう者でね』
「すり抜けたですわ!!」
立ち上がり、壁に伸ばした手がそのまま壁を貫通する。壁が脆いわけじゃないだろう、つまり……
「ホログラムか」
『ふむ、ここまで来ただけのことはある。今更「常識」を一々説く手間は考慮しなくていいようだ』
では、と男はホログラムでありながら極めて人間的な動きでこちらへと歩み寄り……そしてそのまま首をサイナへと向けた。
「っ、」
『エルマ型……317号か、喜しくも嘆かわしい。エルマ・サキシマの美貌が317体存在する事は世界の充実と言っても過言ではないが、その全てが無事というわけではないのだろう。317号、現在稼働しているエルマ型は?』
「解答:待機状態の機体も含めれば現存数は214機です」
『百三機も!? ああなんて事だ、単純計算で世界が百四回は絶望を迎えている……っ!!』
ダメだ、サバイバアルとかジョゼットとはさらに別方向で頭がおかしいタイプだ。見てて面白いのがタチ悪い。ていうかなんで損失百三に対して絶望が百四回……あ、そうかオリジナルのエルマさんが死んだ分か、納得。
「で、サイナ。父親と会った感想は?」
「想定の1.5倍ほど、度し難く……」
『サイナ? ふむ、成る程317か。中々良いセンスだ』
「そりゃどうも……で? あんたはアンドリュー・ジッタードール本人ってわけじゃないんだろう。亡霊か何かか?」
『亡霊? また随分とナンセンスな例えをするものだ。いや、あるいはマナの摂理が敷かれた新世界であれば現実的なのか?』
「刹那博士なら亡霊になってたぜ」
厳密には本人ではないらしいが、少なくともあのド外道文房具が入れ込むくらいには情緒があったのだろう。
だがなんの気無しの皮肉で飛ばした言葉だったが男には相当の衝撃であったらしく、目を丸くして唸り始めた。
『───なんと。それは……いや、そうか。納得は出来る、出来る……が。そうか………………君、個体名は?』
「サンラク」
『成る程サンラク、君の評価を改めよう。君は思ったよりも話が通じるらしい』
考えてみればこの男……特にユニークシナリオ限定というわけでもなく、見た限り何かをトリガーに消失する事も無さそうだし相当重要な立ち位置にいるのでは……?
『では改めて自己紹介させてもらおう。私の名はアンドリュー・ジッタードール……正確には「アンサーコード・トーカー Type アンドリュー・ジッタードール」なのだがね』
まぁ、単語のニュアンス的に限りなく本人に近い思考をするAIとかそんな感じなんだろう。とはいえ兎だろうがAIだろうがNPCであることに変わりはない、そしてここに来た理由もアンドリュー氏本人が出てこようがAIが代理してようが変わる事はない。
まぁ、強いて予定変更があるとすれば聞く順番だろうか。
「ほらサイナ、覚悟は決めたんだろ? もし殴る必要が出てきても大丈夫なように後ろでスタンバっておくからよ」
「……了解:」
エリーゼ・ジッタードールについては後でいいさ、先にサイナのイベントを済ませちまおう。
死せる生者、あるいは生ける死者。限りなく本人に近いAIを実質アンドリューが生きていると考えるか死んでいる事に変わりはないと考えるか。んなもん生物学か哲学の違いでしかない、俺にとってもサイナにとっても問いの答えを持つのであれば「これ」がアンドリュー・ジッタードールということになる。
人形らしからぬ緊張と不安、そしてそれらを背負って一歩踏み出す勇気と覚悟を以て、被造物が創造主の影へと正面から相対する。
「…………」
『……ふむ、流石はエルマ型。静寂が似合う、そうは思わないかサンラク』
「空気読めよ」
今何か確信したぞ、「象牙」の空気の読めなさの元凶絶対こいつだろ!!
「当機、は……アンドリュー・ジッタードール。貴方に問いたい、事があります」
『聞こう。そしてこの身の機能が可能な限りは答えを返そう、それがアンサーコード・トーカーたる私の機能だ』
サイナの問いはただ一つ。「再征服計画」の備品たる征服人形のアイデンティティとは望まれたものか否か。オルケストラは無言を通した、「象牙」は何を言っているんだと取り合わなかった、ではアンドリュー・ジッタードールはどう返す?
「質問:征服人形はいち存在たり得ないのですか? 創造主よ、貴方の作り上げた征服人形は所詮替えの利く道具でしかないのですか?」
果たして、アンドリューの返答は。
『………ふっ、ふくくく、そう来たか! ふっ、ははははは! これは傑作だ!! どうせ姿を見せないだけで聞いているんだろう「象牙」! このベヒーモスは余すところなくお前の胃袋の中だ、出てくるといい!!』
「な……」
「…………」
「大笑いしてるですわ……」
爆笑。腹を抱えての大笑いにサイナは硬直している。
黙っていれば男前なヨーロッパ系のアンドリューがバンバンと椅子の肘置きを叩いて(質量の無いホログラムなので音はしないが)笑う姿はなんというか印象がちぐはぐのパッチワークになっているようで妙な気味の悪さがある。
『だから言ったでしょうエルマ=317……アンドリュー・ジッタードールとはこういう人物なのですよ。おはようございますアンドリュー、三千年ぶりですね』
『私としては一晩寝た程度の感慨なのだがね。ふくくくく……これを笑わずしてどうする! 電算を限界まで回しても大笑い以外の解答が見つからない! アンドリュー・ジッタードールという存在の全てが笑えと叫んでいるようだ。ははははは!!』
これはどういう感情に起因する爆笑なのか、見方によっては笑われている側であるサイナは拳を握りしめ、だがそれでも答えを追求する一声が出ないらしい………全く、「この部屋」を見れば答えなんてほとんど出ていると思うんだがなぁ。
『エルマ=317、いいやサイナだったかな? このラボに至る条件を設定してから初めて辿り着いた征服人形が君であった事は本当に幸いだった! その勘違いを早期に正す事ができるのだから!!』
「勘、違い……?」
いい加減気付いてもいいだろうサイナ、いつものインテリジェンスはまだメンテ中か?
アンドリュー・ジッタードールの笑いに嘲りの感情なんざひとかけらも入っていない、そもそも……
部屋一面アイドルグッズで埋めてるドルオタがフルスクラッチのフィギュアを使い捨てにするわけないだろう。
サイナ「征服人形のアイデンティティは望まれないエラーでしかないのでは?」
サンラク「どう考えても望まれたイレギュラー展開です本当にありがとうございました」
象牙「いやあのクソドルオタが望まないわけないでしょ何をアホな質問を」
アンドリュー「待って!!!!!推しが尊い!!!!!!」