光より疾い風を知っている
ついにその時が来てしまった。
俺は立っていて、攻撃を続けていた。"皇金世代"は立っていて、しかし光が今まさに消えようとしていた。
「…………」
当然だ、光鋏と光針を展開してからの"皇金世代"は攻撃の激しさや機動戦への変更など派手な変化も多かったが、それと同じくらい時間が経過するほどに消耗する様子が見られた。恐らく底の抜けたバケツのようなものなのだろう、砕いた尻尾や自ら破壊した鋏の内側から光が生じるならばそれすなわち体内から体外へと放出され続けていると言うことに他ならないのだから。
水晶群蠍が円陣を組んで出来上がったコロシアムの中で、俺と皇帝陛下の戦いを見守るのは会場兼観客の水晶群蠍とサイナだけ。そしてサイナが喋っていない以上、この場所は危険度とは反比例するような静寂が広がっている。己らの皇帝が窮地に陥っていると言うのに、蠍達は依然じっと円を形成するだけでこちらに向かってくる様子はない。このままいけば俺の勝ちだ、なんならもう突っ立っているだけでも"皇金世代"が勝手に自滅する可能性すらある。
だが、なんだろうな………
「 今この瞬間が一番緊張してるぜ俺は!!」
手負いの獣が一番恐ろしいとか油断大敵とかそういう寓話から学ぶ警戒みたいなものではなく………ただ単純に目の前の"皇金世代"が恐ろしくて仕方ないって意味だ。何故だろうな、その全身の輝きは今や見る影もなく曇っているし先程までの動きが嘘のように砕けた鋏と尻尾から力の抜けた様子は俗に言う「死に体」なんだろう。
だが俺にはどうも、奴がどデカい一発をぶちかますために全身のエネルギーを集中させているようにしか見えない。迂闊に近寄れないし、かといって遠ざかって安心感が得られる気もしない。今の俺にできるのは真界観測眼をいつでも発動できるようにすることだけだ。
早押し系のミニゲームのようだ、あの手のミニゲームはルールがシンプルだからこそ成否がはっきりと突きつけられる。今この瞬間この場を支配するルールも同質だ、恐らくこれが最後の攻防となる………勝つか、負けるか。
「………来いよ皇帝陛下」
いつ来るのか分からない、ってのはどんなゲームであってもプレッシャーをプレイヤーに与えてくる。目の前に集中すればいいのか? 行動するべきなのか? カウンターを狙えばいいのか? 焦燥が思考を過剰に回転させる、それが結果として集中力を削いでいく。
だが俺はあえてその過剰回転をさらに加速させる、考えろ………"皇金世代"が為しうる行動の中で「何をしてくるのか」「どうすればいいのか」を。
水晶群蠍……エクゾーディナリー……金晶独蠍………月………水晶………アムルシディアン・クォーツ……鉱石……魔力……「聖剣」………
泡のように浮かんでは消えていく情報、未だ動かず。段々夜の黒色が明るくなりつつある空の下、皇帝陛下は沈黙を続ける。
「………………」
息が詰まる、回復ポーションを使う勇気がない。過剰伝達自体は既に解除しているが、回復中はどうあっても無防備な一瞬が生まれる………ダメだ、思考をどれだけ膨らませたとしても身体は常にフルスロットル寸前まで研ぎ澄ませなければ。
だが、あるいは。ここで一手指す事が勝ち筋に至る唯一の正解だとしたら?
「………………さぁ」
勇気。
そう勇気だ。
サイナに説教かました手前だ、俺が怖気付いてどうする?
なら、何をする? 身の毛もよだつ直感で嫌でも分かる。ここが最後だ、ここで何をするのか決めなければ……俺は皇帝陛下に対して後手に回る。この、一瞬で……………何をすればいい?
「………………早撃ち勝負だ!!!」
真界観測眼起動! 右手で握っていた傑剣への憧刃を手放し、そのまま指を高速で動かす!!
だがやはりここで"皇金世代"も動いた。人間でいうなら腕を組むように触肢を内側へと丸めていた蠍皇の右鋏が消え、光が───
違う、これは!!
「うおおおお!!?」
「───な」
背後でサイナの声が聞こえた気がした、だが今ばっかりはそれどころじゃない。すまんサイナ、構っている余裕がない………こればっかりはな。
"皇金世代"最後の切り札、それは体内に残っていた魔力を圧縮し…………超、超、超射程かつ「線」で敵を灼き断つ。まさしく光速で襲いかかるレーザーの抜刀!!! そして、奴の銃口はあと二つある!!
「来い!!!!」
思考を置き去りにした直感と反射によるスキルの取捨選択、地を這うように俺の脚を断ち切らんとした一発目はジャンプで回避した。だが真界観測眼で加速しているからこそ分かる、二撃目は着地する前に俺に届く!!
ならどうする、どう動く!? まただ、真界観測眼によるスローモーションの世界の中ですらかろうじて攻撃した瞬間が分かるだけという超高速での触肢の振り抜き、既視感、だが、ああそうだ、あれよりは遅い……が、あれより長い!!!
「こ、のぉぉお!!」
俺の脳みそが算出した答えは二つのスキルだった。すなわち空中機動を可能とするヘルメスブート、そして走れる場所ならどこでも円を描く動きを可能とする多重的円周運動によって半径約1.8メートルの円を空中で描く!!
言うなれば己の頭部を円の中心点としてコンパスのようにくるりと回る一回転。だがそのように動けば一瞬であっても胴体の位置が変わる、それは残った右腕ごと胸を真横に切り裂く軌道で振り抜かれた文字通り「光線」の回避という結果を掴み取る。
「〜〜〜〜〜っ!!!」
視界が揺れる。
当たり前だし慣れたものだ、だがどれだけ慣れても目が回っていることに変わりはない。その一瞬の時間が経過する頃には、俺につきまとう死の影はこれまでで最大の規模にまで膨れ上がっていた。
"皇金世代"の破損部位は三つ。レーザーで欠損を保管していた部位は三つ。今放った攻撃は両鋏による二回。であれば、最後の一発は。
「く、お……………ぉお!!!」
空が切り裂かれていた。
違う、ピンとまっすぐ天を指差すように伸ばされた奴の尻尾から放たれている必殺のレーザーが夜の星よりなお輝いて、俺の眼に映る夜空を真っ二つに割っているのだ。そしてその光は空を右と左に分けるだけのただの線じゃない、俺は今境界線に立っている。境界線に斬られようとしている。
たった一つの答えを。
最後の一手を突きつけろ、何故なら先手は俺だった!!
「王手だ!!!」
突きつけたそれは、剣では無かった。槍でもなく、斧でもなく、ただ右手で支えられる限界ギリギリの質量を以って使い手たる俺を守らんと、秘めたる冥府の鏡で「夜空」と「境界線」と、そして"皇金世代"を映し出す!!!!
ではここで簡単な問題だ。鏡に真正面から光を当てるとどうなる? 皇帝陛下、答えをどうぞ。
「………………」
冥王の鏡盾がいやな煙を上げている。当然だろう、魔法を……魔力を反射する鏡の部分は円盾の中心部分だけで、その周囲は盾として、甦機装としての部分なのだからそこにあれが直撃すれば耐久が削られるのは当然のこと。
「………………あ、」
だが、鏡の部分……アトランティクス・レプノルカのレンズを加工した鏡は確かに夜空を別つ境界線の光を跳ね返した。その上で間違いなくあの光線は上から下に振り下ろされたわけだが…………
「あっっっっっっぶねぇえ………………」
冥王の盾は確かに光を隔て、俺を守りきっていた。片手で扱える盾の中でもタワーシールドに次ぐサイズである円盾は俺の胴体と股間に対する死の一刀を防いで、そして盾の防御範囲から脱した光が貫いたのは丁度俺の股間から五センチほど下の座標だった…………丁度、下を見れば股下を抜けた光が地面に着弾し、振り下ろしの軌道に従って抉り刻んだ奇妙な一本線が地面に見えた。
そして、
「………は、」
口から意図せず漏れた吐息にはこの戦闘で俺を支え続けていた緊張の全てが詰まっていた。
体から力が抜け、膝をついた俺の目の前には………冥王の鏡盾によって反射された外でもない自分自身の攻撃によって自分自身を一刀両断してしまった"皇金世代"の姿。
「勝鬨を上げる気力もねぇ…………」
ならば私がと言わんばかりに俺の前に表示されたもの、それは───
『モンスター不世出……解明!』
『討伐対象:金晶独蠍 "皇金世代"』
『エクゾーディナリーモンスターが撃破されました』
『称号【黄金革命】を獲得しました』
『称号【金色に輝く不夜の空】を獲得しました』
『不世出の奥義「皇金時代」を習得しました』
プレイヤーの勝利を告げる、システムアナウンスだった。
趣味1000%の寄り道、決着…………!!!!
エクゾーディナリー・スキルはモンスター名と同じにする縛りを課していたんだけどどうしてもこいつのスキル名は「エイジ」を「世代」と「時代」、二つの意味で表記する逆パターンが使いたかったので縛っていた鎖を自分で破壊しました。アイアムアストロング………