背水にて相対する黄金双つ
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ここで一つ、金晶独蠍"皇金世代"について語ろうと思う。
その姿はまさしく黄金の皇。歩く大地とまで言われる水晶群蠍の老成個体には及ばぬものの、他個体とは一線を画するサイズを他個体とは一線を画する出力で動かす規格外の身体能力。
天性の肉体は鉄を弾き、鋼を毀し、力を砕く。
前肢の「剣鋏」は時に練達の戦士のように、時に恐るべき死神のように変幻自在の動きを見せる。
そして何よりも尾の「聖剣」の神々しさたるや、そう謳われる根拠となる本家本元の聖剣エクスカリバーと比較してもなんら引けを取らない……だが、
───その程度の事、この蠍たちの皇を語る上では全く重要ではない。
その本質は"皇金世代"の種族が「金晶独蠍」であることにある。
金晶独蠍。
水晶群蠍の亜種であり、通常種とは異なり同属を捕食することでしか自身を存続させることができない偏食個体の一種である。
その最大の特徴は夜行性に特化した生態、及び「月光」を受けることで傷ついた肉体を再生させる驚異の能力にある。
では、"皇金世代"もまた再生能力を備えているのか……答えはノー、だが部分的にイエスとも言えるだろう。
金晶独蠍の再生能力は「月光から摂取した魔力で自身の再生能力を活性化させる」というものであり、厳密には月からの魔力そのものが回復の原理というわけではないのだ。その本質はあくまでも月光魔力の「受信」にこそある。
"皇金世代"はこの「受信」特性をさらに発展させた力を生まれながらに持っている。故にこの世に生を得て、揺り籠であり玉座でもあるエルダーの肉体を喰らって育ち、晴れて王として君臨し、そしてその果てに朽ちて死ぬまでに過ぎていく幾千幾万の夜を……かの蠍は月光の魔力を受け止め、貯蔵する。
その魔力を再生に使うことはない………何故ならば再生を使わなければならない敵と相対したならば、再生行動などに魔力を使っている暇などないからだ。
普段は体内に貯蓄された月光魔力を長い年月をかけて圧縮、浸透させていき、皇はより絶対的な力を補強していくわけだが………もし仮に、皇が命の危機に瀕した場合。
例えば……そう例えば、己の一部でありそして己の身体以上に"皇金世代"としての象徴である「聖剣」が万が一にも破壊などされたなら。
風船の栓を抜くように、あるいは門の閂を外すように。
生まれ、今に至るまでに溜め込まれた魔力を以て蠍達の皇帝は決死の戦いを挑むだろう。「聖剣」というリミッターを壊した宿敵に対して、自身の命を賭けた最期の戦いに。当然都合よく途中で止めることなどできない、勝利するにせよ敗北するにせよ体内の魔力全てを使い切った"皇金世代"に待つものは死だ。
だがあるいはそれこそが"皇金世代"という特異な個体の矜恃なのかもしれない。
ノブレス・オブリージュ、高貴なる者は相応の義務を果たさねばならない。時に自らを皇に捧げるほどに尽くす民達のために"皇金世代"が命を賭けなければならない場面があるとするならば、
きっとそれは今なのだろう。
◆
やらかした。
直感的にそう悟った。欲に目が眩んだのもあったがそういう手合いだと思考が及ばなかったのも事実だ。
特定の状況に反応する特定行動、いわゆる地雷行動……例えばそう、一定時間内に一定ダメージを与えなければ即死攻撃が飛んでくるとか、あるいは複数体いるボスを同時に倒さなかった場合、生きている方が死んだ方を蘇生させるとか。
そして"皇金世代"の「地雷」は尻尾の部位破壊だったということだろう。俗に言う発狂モードってやつだろうな。
「警告:明らかな危険状態です」
「大層お冠ってことだろうさ」
尾を断たれた瞬間、"皇金世代"が悶え苦しむのでもなくぴたりと動きを止めた時点でもう嫌な予感しかしなかったのだが、それにしたってこうも劇的に発狂するとは。
今の"皇金世代"を表現するとして「ブチ切れ」以上にしっくりくる表現もなさそうだ。尻尾が破壊された時点でいきなり剣鋏が内側から弾け飛んだのはわりと予想外が過ぎたが……尾も含めて傷口から莫大な光が溢れ出し、剣の形になったとなれば謎の自爆も納得がいくというもの。
今の奴は二つの前肢を合わせて二本、そして尻尾や背中の一部からも試さなくても危険だと分かる莫大な光熱のレーザーソードを出力した姿となって、先程までとは比べ物にならない威圧感を俺とサイナにのみ叩きつけてきている。
「どう見ても受け止めたらそのまま殺すタイプの防御貫通くさい」
防御力がどうとかじゃなくてレーザー直撃したら死ぬよね? っていうシンプルな理不尽の気配だ、この手の予感は外したことがないので試す気にもなれない。
「向こうも死に物狂いか」
光鋏は先程までのような変幻自在の動きこそしなくなったが、代わりに射程距離が剣モードの二倍はある。そして尻尾も同様だ……あのスペックで射程距離二倍の超高火力or即死攻撃を振り回す? 冗談キツいぜ。
だが向こうもノーリスクってわけではないらしい。明らかな消耗が見られる、さらに光鋏や光針に不自然な揺らぎ……もしかして時間制限かな? なんとも有情な事で、逃げ回っているだけで勝てるじゃないか。
「サイナ、待機で」
「……契約者は如何するつもりで?」
「ん? ほら、俺とアイツはもはや親友という枠すら超越した真友みたいなとこあるし?」
逃げ回ってようやく死んだかわーい、なんて喜んだ日にはラビッツを出禁にされかねない。
最近エムルの態度を見てると思うのだが、連中が俺に求めるヴォーパル魂の条件が厳しくなっている気がしてならない。最大値が、ではなく最低値が、だ。
この程度の事で日和らないよな? みたいな視線をナチュラルに向けられているというか……日頃の行いか? 日頃の行いがいけないのか?
「真友が一世一代の大勝負を挑んできたならば! 応えてやらねば男が廃る!!」
「質問:本音」
「後悔の無い選択! 逃げない覚悟! 苦難に挑む姿に人は勇気を見出すのさ!!」
「質問:本音」
「ここまで来てシケた勝ち方して明日の朝食が美味いかよ!!」
多分朝ご飯は鮭フレークがかかった卵かけご飯と予想。さぁ来い皇帝陛下、奇しくもこの地の鉱石を糧に鍛えられた剣を以てお相手しよう。そして傑剣への憧刃君、相方に置いていかれたお前も羽化の時だ。
夜明けは近い……真友よ、革命の時は来た!!
皇金世代「お前と友になった覚えはねぇよ」