明けゆく空に神を見ゆ
とはいえ俺の戦法は体力がゼロじゃないならセーフ理論と当たらなければどうということはない理論の二つを柱として成り立っている。つまりカッコよく啖呵を切ったとしてもやる事は隻腕というハンデを抱えた上での全力回避である。
「このっ、急にダンサーとしてのソウルに目覚めおってからに……!!」
器用さを失った腕の代わりに、戦闘開始時とは比較にならない足捌きでこちらの距離感を乱してくる"皇金世代"の動きはあまりにも危険極まりない。
なにせ当たったら死ぬタイプの攻撃がクソみたいな動きで走り回るモーションの中から放たれるのだ。機動力に特化した俺をして油断すると片足が持っていかれそうな場面をゼロにできない。
"皇金世代"のバトルスタイルは剣鋏をメインとしつつ「聖剣」による必殺の一撃というものだったが、今は高速で走り回りながら光鋏と光針の射程による「ラグ」で攻めてきているスタイルに変貌している。回避が無理ゲーというわけではないがここに攻撃を絡めるとなると途端に綱渡りだ。
「だがどれだけ性能を上げても……っ!」
生まれついた「形」は誤魔化せないようだな皇帝陛下!
潜り込んだ背後から傑剣への憧刃で攻撃を加え、立ち回りに細心の注意を払いつつさらに追撃。離脱と同時にスキルを再起動して光から逃れ切る。
この体躯の蠍型モンスターはどうしても足元への攻撃が緩くなる、尻尾の可動域以前に素材が水晶だからどれだけ尻尾を振り回しても届かない死角というやつだ。だからこそ奴は高速で走り回ることでそもそも懐に入れないようにしたいらしいが……速さ比べをする相手を間違えたな、地面を平面的にしか走れないお前と違って俺の走るサーキットは天地に及ぶ!!
「ほらほらどうした!息切れするならせめて堂々とぶつかり合おうぜ!」
投げかけた言葉は良くも悪くも自分を鼓舞するためのものだ。何年徹夜じみたゲームライフ送ってると? 自分のコンディションくらい分かる、そろそろ眠い!!今日は特に何も対策せずに徹夜してるから気をしっかり持たないと足がもつれかねない。
尻尾のスイング、ジャンプして回避。足の動きから横に回り込んで着地を狙うつもりだろう、ならば重律踏覇起動、無重律の恩寵起動、ヘルメスブート起動。スキル連結の弊害がこんなところに出てくるとは、これで合ってたよな? 実行、よし理想通りの挙動だ。
空中ジャンプの恩恵を受けた上でさらに多重的円周運動を起動、光鋏の振り上げによって空間を灼くレーザーを回避しつつ足元に着地して攻撃を仕掛ける。
狙うは脚だ、部位破壊できるという事もあるが何より機動力を削がないとロクに攻撃もできやしない。まぁ破壊できれば最上だが理想としては引きずるくらいまで機能を削げればそれでいい。
「残りカスの燃料も炉にくべていけ!!!」
方針変更! 後手の対応じゃ間に合わない、先手を取って、後手で詰める……即ち攻めの攻略! 掟破りの相手ターンスキップ!!
「ふ、ふふふふ……はははは……」
"皇金世代"の高速移動に攻撃を加えながら追従、攻撃を加えながら回避して攻撃を加えながら攻撃、攻撃、攻撃、攻撃、攻撃ィィィ!!!
DPSにこそ正義が宿る! DPSだけがこの世の真理! もはや俺がDPSそのものと言っても過言ではない!!
「ふふふふはははははは!! 見えたぞ真理! DPS神のご加護がキてる!!」
くたばれ乱数の女神! ゼロになるまで殴り続けるDPSこそが全てを救済するのだ!!
もはや温存の必要はない、封雷の撃鉄・災を発動してさらなるDPSを行使する! 隻腕がなんだ! いつもの二倍攻撃すれば問題なし! 四倍殴ればいつもの二倍!! ちょっと待て、つまりいつもの十倍殴れば……なんて事だ、無限にDPSが上がっていくじゃないか! これは学会で発表しなければ。
学会って何? まぁいいか。
「折れない! 曲がらない! 毀れない!!」
ビームを出さなくていい、特殊な属性を付与しなくてもいい、ただ「壊れない」という絶対の個性。あるいは一部例外を除けばほぼ全ての武器が破損、損失するシャンフロにおいては最強の能力ではなかろうか。
過剰伝達状態の俺は加減が利かない、何をするにしてもフルパワー・フルスイングでしかないのでこれを使った以上は攻めに攻めるしかない。DPSの高まりに心躍らせつつ、もう何十回使ったかも分からない真界観測眼で目まぐるしく動き続ける状況に視界を、思考を追いつかせていく。
斬る、斬る、バックステップ。【ウツロウミカガミ】でヘイト分離、距離を詰めて再攻撃。斬撃、斬撃、蹴り……ダメージがゴミぃ!! 向こうからの攻撃に対して頭を伏せつつ剣を地面に置き、足の付け根に貫手を放つ。DPSが落ちる、由々しき事態だ地面の剣を蹴り上げて浮いたところをキャッチし振り抜いて……
「イケるっ!! 走れるっ!! ハハハハッ、ぶちのめす!!!」
ニューロンからエナジーが滲み出ているようだ! 脳味噌の回転がモーターとなってDPSという名の歯車と噛み合い、高速回転………あっ、やべっここで回避しな───
「ぷべるっ」
「契約者!!」
宙で体勢を立て直し、着地! よし死んでない! 生きてる! 体力は……Foo! 風前の灯火!!
狂ったように、と断じるにはいささか的確すぎる攻撃だが逆に言えば効率が良すぎるが故にその軌道を読み切れる。
積み上げてきた水晶群蠍系列の行動パターン解析がそのまま流用できる程度には効率的な「水晶群蠍らしい」動きになっているからだ。次は同じ手には引っかからん! 回避! からの距離を詰めて……イエス! DPS!!
「にらめっこしようぜ、ビンタありでな!!」
水晶群蠍と言えど「口」は存在する、なんというかシュレッダーみたいなエグい形状なので手を突っ込もうとは思わないが……少なくとも口の中は他の部位よりは脆い、よし突っ込もう。
「歯ァ食いしばれ!!」
鋭結点睛、この一瞬一撃の為にわざわざ真正面なんてキルゾーンに踏み込んだんだ、食らえやスタミナ残量一割切りから放たれる最高火力を……!!
「せぇい!!」
やはり雑に扱える武器ナンバーワンたる傑剣への憧刃はこうでなくっちゃ。スキルエフェクトが炸裂し、口の中でダメージが発生した"皇金世代"の身体が痙攣する。
だがその程度で死ぬなら俺も数時間戦っていない、膠着していた口腔……厳密には蠍特有の鋏角に圧倒的STRが込められていくのがこの距離ならはっきりと分かる、成る程宝石塔すらチョコバー感覚で噛み砕く力で傑剣への憧刃を噛み砕くつもりか。
「だが残念だったな、こいつはただの鋼じゃねぇ」
これは戦う為に鍛えられた刃であり、傑剣への憧刃と名付けられた剣!! 迷い無き意思が不滅の刃を作る、無敵の刃は隕石と地面に挟まれたって負けはしない!!
「このゲームのクリティカルは正しい角度と……」
剣と対象への出所を問わない運動エネルギーに依存する。
つまり「傑剣への憧刃に左右から噛みつく鋏角」という剣自身が殆ど運動エネルギーを持たない状況であっても……!!
ガギッ!!!
「うへぇ、ご愁傷様」
例えるなら間違えて梅干の種を全力で噛んだような、噛んだ歯の方が負けた時のあの嫌な感じが今目の前で実演された。
耐久度が減らない即ちこの一瞬だけ世界で一番硬い物質となった傑剣への憧刃へと全力で力を込めた事で欠けた鋏角に若干の哀れみを感じつつ、剣を引き抜く。
「どうした皇帝陛下、光鋏が細くなってるぜ?」
いよいよここが最終局面だ、DPS神よご加護を!!
・DPS神
MMOでは広く信仰されている神。人によっては邪神と忌み嫌うが、大抵は好き嫌いに関わらずMMOプレイヤーはこの神にその身を捧げることになる
極まった狂信者はヒーラーやバッファー、タンクなど直接戦闘がメインではない者にも入信を迫るという……