クールなハートをヒートにブースト
このゲームのいいところはレイド以外なら時間制限がない事だが、このゲームの悪いところはレイド以外は時間制限がない事だろう。
えー、はい戦闘開始が大体1時くらいで現在深夜3時半! えー、"皇金世代"さんは未だピンピンしております!!
既に十発近くサイナによるクラスVIII武装とやらを叩き込んでいるが……それでも尚、皇帝陛下は健在だ。恐ろしくタフネスというのもあるが、やはり左腕がお陀仏したのが痛い。
メイン火力をサイナのレンタル武装に頼らなければならない以上、有効打が15分に一回な上に向こうも向こうで何度も何度も攻撃を受ければ「サイナの方が脅威度が高い」と学習する。つまり俺を無視してサイナを狙う事が多くなった。
「だが……ふふふふ、あと一息って感じだよなぁ?」
パイル三回電鋸二回、光熱ブレード二回に他は空振り。その殆どが「聖剣」に叩き込まれた事で奴の尻尾はもう限界に近い、あと少し攻撃を与えれば砕ける事がわかる。
だがそれは向こうも理解しているのか、行動パターンが変わってきている。「聖剣」を温存し、積極的に動き回る事で剣鋏の射程に入れる機動戦スタイルに変わった皇帝陛下の動きは本当に厄介だ。うざったい動きしやがってとボヤいたら何故かサイナにガン見されたがそれは同意という意味でいいのだろうか。
あと二時間戦って分かったがアイスクリームの経験は役に立ったわ、正式名称は「ドルチェフェアリー☆スクランブル・アイスクリーム!」……通称「ドブアイス」、可愛らしいタイトルと設定からは想像もつかないタイムアタックアクションゲームとでも言うべきインディーズゲームだ。
インディーズと言ってもどこぞの潰れたメーカーの元社員数人が作ったものらしく、今思えばある種の自己PRだったんだろうな……ゲームバランスを考える奴がいなかったのと邪道を選びたがる連中しかいなかったのか、完成した代物がまぁまぁアレな点を除けば我々の界隈的にはそこそこ面白かった。
「あぶねぇ!」
主人公はドルチェの妖精アイスクリームちゃん、恋人のプリンちゃんに会いに行くために野を越え山を越え……という感じなのだが、このアイスクリームちゃんは時間経過で身体が溶ける。つまり真夏の炎天下を虫みたいな羽の生えたアイスクリーム(擬人化とかではなくまじでそのまんま丸いアイスクリーム単体)が命がけで駆け抜けるタイムアタックゲーなのだ。
「うおお俺から目を逸らしてんじゃねぇ!!」
ところでインディーズクソゲーのヤバいところって何かご存知だろうか? 答えは簡単、個人制作なので変なところがやたらに雑だったりする事だ。このゲームにおいてはずばり主人公の声である、よりにもよってどう聞き直してもおっさんの裏声にしか聞こえないボイスでアイスクリームちゃんが絶叫するのだ。
太陽光で身体が溶ける度に極道映画の親分みたいな声で「うんぬ、ぐぉああああああああ!!」と叫ぶアイスクリームちゃん(妖精です)
「くっそ、まだ折れないのか!?」
己の身体を守るべく比較的冷たい下水道の水に浸かり、熱い温泉に入ったおっさんみたいな声で「ぬぅ、ふぅぅぅぉぉぉああああ………」と息を吐くアイスクリームちゃん(一応二歳の女の子です)(耐久ゲージが回復するがずっと視界の端に「※彼女は妖精なので神秘のパワーで清潔なままです」と表示され続ける)
「小技連打はやめろォ!!」
天ぷらの鎧を得るために料亭に忍び込んで灼熱の油へ身を投じ、拷問に耐える歴戦の戦士の如き「おごぁぁぁあっ! ぐっ、がぁぁぁああ!!」と叫ぶアイスクリームちゃん(ボイスチェンジャーが限界を迎えたのかもはやただのおっさんボイス)
「サイナ! まだか!!?」
「報告:あと二分」
今だからこそ分かる、あのひりつくような緊張感……急ぎながらも急がない、身の保全と身の犠牲を天秤にかけた限界点の見極め、なによりも刻一刻と変わる状況の中で最適なルートを瞬間的に見極める力。
よくよく考えてみれば今この瞬間に恐ろしくマッチしていた、皇帝に対抗するのはアイスクリームパワーだった……? いやでもラスボスが飢えたホームレスなのは正直言って頭おかしかったしそういう思考してるから再就職できないんだろ、と彼らには伝えたい。あとゲームバランスがゴミだし物理演算が安っぽいから言うほど元ゲームクリエイターとしての優位性は感じないぞ、と。
界隈のインディーズ・クソゲーハンターからの情報ではまだヘッドハンティングはされてないらしい………あの人、顔出し動画制作もしてるんだけど見込んだインディーズ製作者がヘッドハンティングされてメジャー界隈に旅立つ度に泣き始めるから大真面目にやってるけど面白枠なんだよなぁ。
「うーん、数時間も戦ってると思考も散らばってくるなぁ」
サイナがヘイト稼ぎまくってるせいで思ったより暇になってくるんだよな。いや働いてはいるがお前に構ってる暇はねぇと適当にあしらわれるので必死に逃げるサイナと比べてそこそこ思考に余裕がある。
「サイナ! 行くぞ!!」
「了解:超電圧溶断剣、展開します」
もうここまで来ると当てるにしても手間と工夫が必要になる、奴のターゲットはほぼサイナ一択だ……いや厳密には「巨大質量を展開したサイナ」と言うべきか。
ただ狙うだけじゃない、二時間かけてガッスンガッスン攻撃を叩き込んでいれば奴も「聖剣」の破壊が狙いだと理解できるというもの。それでもあの手この手でサイナを尻尾前に移動させて攻撃を当ててきたが既に三回連続で攻撃に対処されている……あと一息って感じなんだが、その一息が随分と遠く感じる。
「さぁどうしようか……」
ジェットパイルは完全に学習された、玄武を落として動きを止めるのも見切られたし………いや、そろそろクライマックスか? まだ温存するつもりだったが……当時のステータスで通常の金晶独蠍を倒すのに一晩かけた、今のステータスなら一時間ちょいで畳めるようになったがエクゾーディナリーが通常個体とは比較にならないことくらいは分かる。が、それにしたってユニークモンスターやレイドモンスターより飛び抜けて強いって事はないだろう。
このゲームにおけるレイドモンスターは「人数」がダメージレース以上に設定的な意味を持つって感じだが、エクゾーディナリーはレアモンスターの親戚のようなものだ、向こうも平気なツラして案外追い詰められているんじゃないか?
「……サイナ! ターボかけるぞ勝負をかける!!」
「しかしながら攻撃を当てる難易度は時間の経過に比例して高まっています」
「不可能じゃなければ! それ即ち可能という事だ!! 小数点刻みの確率を恐れるな、試行しないと成功の確率はゼロから変動しないんだぜ!!」
拳を握れ! 剣を掲げろ! 槍を構えろ!! 無血じゃ勝てない、だったら血ィドバドバに流して勝ちを掴むのさ!!
任せろサイナ、避けタンクも血液タンクも俺が受け持とう! 故に応えろアラドヴァル、戦闘開始から数時間……そろそろ温まってきただろう。生憎竜ではないが本気出してもらうぜ!!
「其は在り得ざる槍、断章積み編みて紡がれし非実在の輝き!!」
・隻腕
主に破壊属性の攻撃や破壊属性を付与する壊毒で部位の欠損が発生する。
この場合、物理的に腕が使えなくなるので装備欄が消滅する。その為、両手に一本ずつ装備する必要のある対刃剣などは装備することができないが拳武器などのシステム上は両手武器扱いになるものは装備が可能、ただし欠損した側の武器は地面に落ちる。
仮に欠損部位にアクセサリーが装備されていた場合、アクセサリーは破損しない為に地面へとドロップする。ただし地面にドロップしたアクセサリーはアイテム扱いな為、アイテム状態のアクセサリーは攻撃などでロストする。