もしもし本部、素敵兵器を貸して下さい
さてどうしたものか、数分逃げ回って分かったがヤバいのは「聖剣」じゃない……あの両手の剣鋏だ。いやどっちもヤバい事に変わりはないがあの両手は当初の想定を超えている。
まず何がヤバいって可動域だ。ただでさえ鋏というよりも鎌のような動きをする癖にあの前肢、手首を回すみたいにひねる事ができる。明らかに通常個体達とは違う、刃物を取り回す動きだ。
そして「聖剣」。明らかにヤバいのは見れば分かるし水晶群蠍系列の特性を見ればただの剣とも思えない、何かえげつない初見殺しが仕込まれてそうなもんだが真に恐ろしいのはそこじゃない。
割り切っている。奴は「聖剣」を無闇矢鱈に振り回すようなことはしない。あくまでも俺たちを一撃で仕留める火力はあるが大振りな攻撃として完全に割り切った運用で尻尾を振り回す。要するに必殺技だ。蠍のくせに恐ろしく繊細なバトルスタイルしやがってからに。そういう所までガチ剣聖に似なくていいっての。
「推測:長期戦」
「いつものことだろ! 朝日が昇る前に倒せりゃ早いくらいだ!」
チッ、メイン火力……甦機装の超過機構を殆ど使い切ってるのが痛すぎる。いや煌蠍の籠手に関しては同族の力を使ってるが故かそんな有効打にならないんだがそれにしたって素の膂力で斬りつけるよりはダメージ貢献は高いはずだ。
だが手札を使い切ったわけじゃない、どでかい切り札が無くてもローコストを並べて殴れば勝てる……すなわちウィニービート戦法!!
「頼むぜ【廻渦白波】、一撃で百万ダメージ出せないとしても百万回1ダメージ叩き出せる耐久があれば同じようなもんだ……!!」
久々のフル稼働だ、リソースで殴り合おうぜ"皇金世代"!
「サイナ! 欲張らない範囲で尻尾を狙え!! 効果が薄くてもあれを折らないとどうにもならん!!」
水晶群蠍の身体はほぼ全身鉱物なので鋏や尻尾はある程度破壊できる……のだが、壊毒は恐ろしく聞きづらいし徹底的に特定箇所を殴り続けてようやく破壊できるような代物だ。
だから基本的に同じ蠍同士を激突させて壊す、あるいは脆くするのが基本戦術なのだが生憎皇帝陛下はタイマン主義だ。自力のみで壊すしかない……いや無理ゲーでは?
「めげない! 諦めない! てめーに朝日は拝ませない!!」
晴天流「斬風」、晴天流は刀剣系の流派に見えて実際は素手というか刀に頼らない技ばかりだし、刀を使うスキルが「風」系しかない。だが、それが役に立たないかどうかは別問題。むしろ「風」さえあれば大体何とかなると言わんばかりなのが晴天流……!!
肉薄からの抜刀。体格の不利は逆に言えば体格の有利にもなり得る、どれだけ剣鋏が巧みに動こうとその大きさによって生じる隙だけは誤魔化せない。
狙うは冠の如く黄金の水晶が発達した頭部、有効打と信じるには硬すぎる手応えに握る手が若干痺れるがそれでもダメージは入った。
「悪いが剣術勝負をする気はサラサラないんでなぁ!!」
廻渦白波を放り投げ、握った拳にスキルを宿す。食らえ孤児パンチ、「戦砕琥示」!!
柔らかなジャブが巨人をも倒す衝撃波を生み出し、"皇金世代"の身体を押し除ける。だが皇帝陛下はそうそう青天井をするつもりはないらしい、剣鋏や尻尾が目立って忘れがちだがあの恐るべき機動力を成している脚力はノックバック特化のエクゾーディナリー・スキルを顔面に直撃させたにも関わらずあまり吹き飛んでいない。踏ん張って耐え切りやがった……!!
物理演算に従って落ちてきた廻渦白波をキャッチし、すぐさま後退。恐ろしい復帰速度で攻撃を仕掛けてきた"皇金世代"の剣鋏を回避し、奴の追撃に合わせてこちらから再び肉薄。
晴天流「貫雷」、硬い外殻の下に柔らかな肉があるとかではなく骨の髄までほぼ水晶な"皇金世代"に効くかは微妙なところだがそれでも貫通技だ。この際全てのスキルを使い切って「愚者」のリキャスト半減すら追いつかないくらい暴れてやる。
「要求:十五秒。最大の打撃火力を発動します」
「請け負った!!」
金晶独蠍は月光と星空の輝く夜こそがホームグラウンド、だがそれは俺もまた同様!!
蠍と多く関わっているからか、あるいは初っ端からリュカオーンなんていう夜の塊みたいなやつにちょっかいかけられたせいか月の光が齎す恩恵は奴だけが独占するものではない。
「はしゃげよ皇帝陛下、チャンバラに付き合ってやる」
大はしゃぎで飛び込んできた"皇金世代"に対して武器を切り替える。タフネスな廻渦白波から境光の宝剣へ、月光を受けて真紅に輝く夜光刃を突きつける。
"皇金世代"の行動パターンを完全に把握したわけじゃないが適材適所の一撃必殺を放つ「聖剣」を持つ尻尾とは異なり、剣鋏による攻撃はメインの戦法にしているだけあって手数と対応力に特化している。
鋏をフル展開した「剣」、半分展開した「鎌」、そして鋏を格納した「拳」。拳モードに関しては鋏の関節部分で殴る性質上、デメリットも大きいので苦肉の策という感じなので警戒度は低い。つまり警戒すべきは鎌と剣による攻撃だ。
当たるだけで即死な攻撃は当然最大の警戒をするべきだがそれだけじゃない。単純に剣鋏を振り回すのではなく鎌から剣、剣から鎌への切り替えすらをも「攻撃」に転用する器用さ……近距離に近づかなければならないが近距離が最も危ない、さらには巨体からは想像もつかない機動力。
「だったらその「択」を潰すところからだ……」
鎌では届かず剣なら届くギリギリの距離をキープ、境光の宝剣による遠隔斬撃で攻撃を加えながら徹底的に"皇金世代"の意識を集める。
地面が平坦になっていて本当に助かった、俺をそう簡単に捕まえられると思うなよ皇帝陛下。根無草の愚者はフットワークが軽いんだからな……!!
「十五秒!!」
「要請認証:再征服計画に基いた契約者の接敵レベルから征服人形エルマ=317へのクラスVIII武装「爆圧噴射式杭撃機」の一時使用を許可。転送……完了、即時使用します」
「なにその素敵武器!!?」
巨大三脚で支えなければ構えることすらできない巨大パイルバンカーをどこからか呼び出したサイナが巨大金属杭の先端を"皇金世代"へと突きつける……オーケー理解した、動きを止めればいいんだな。
仕方ねぇ、付き合ってやるよインファイト……!!
・爆圧噴射式杭撃機
クラスVIII(初期段階の始源眷属・族くらいの敵)の特殊武装であり、ジェットエンジン技術を転用したマナ粒子の爆発力で杭を叩き込む。武器としての性質上、クラスVIIIの敵に対して大きな隙を晒す事になるためこれを使用するということは「自身が破壊される」事を前提とする覚悟か……あるいは、「敵の注意を引きつけてくれる誰かがいる」という信頼が必要となる