高額療養費見直し、新たな負担額に患者は 「現役世代に重い負担」

聞き手・松本千聖 上野創

 医療費の患者負担に月ごとの上限を設ける高額療養費制度。その制度見直しに向けた方向性が今月示され、24日には患者が負担する上限額の具体的な金額も明らかになった。制度のあり方を議論してきた国の専門委員会の委員で、全国がん患者団体連合会(全がん連)の天野慎介理事長に聞いた。

 ――高額療養費制度の負担上限引き上げをめぐり、昨年から続いてきた議論がまとまりつつあります。

 石破茂政権だった2024年11月に、高額療養費制度の上限引き上げ案が浮上しました。高額療養費制度は、患者さんの収入によって上限額が異なりますが、収入区分によっては7割も増えるケースがある大幅な引き上げ案でした。

 これでは支払いが厳しくて治療ができなくなる患者さんが続出するため、ほかの患者団体と協力して声をあげました。患者さんの声を集めるアンケートを実施したところ、3日間で3623人から不安の声が寄せられました。それらをもとに、国に要望を続けました。今年3月、石破前首相が引き上げの「全面凍結」を決めました。

 ――アンケートにはどんな声が?

 幅広い世代の方々から、医療費の重い自己負担に悩んでいる声が届きました。中でも「子育て中」というのが一つのキーワードだと感じました。

 そもそも、現役世代である20~40代のがんの罹患(りかん)者は、乳がんや子宮頸(けい)がんなど女性のがんが多い特徴があります。こうした世代から、子どものための出費と、自分の医療費をてんびんにかけているという声が多くありました。実際に、子どものために治療を諦める、安い治療を選ぶといった人はいます。

 また、現行制度のもとでも、医療費によって家計が貧困に陥る「破滅的医療支出」に該当する人が一定程度いることがわかっています。

患者不在だった議論 当事者の声踏まえ

 ――全面凍結となって以降の動きは?

 昨年に浮上した上限引き上げ案は、厚生労働省の社会保障審議会医療保険部会で議論されていたのですが、その場に患者や家族、その声を代弁できる人はおらず、問題だと感じていました。

 議論が仕切り直しとなってからは、「高額療養費制度の在り方に関する専門委員会」が設置され、全がん連と、日本難病・疾病団体協議会から委員が任命されました。患者の声も踏まえ、8回にわたって議論がなされ、基本的な考え方や方向性が明らかになってきたところです。

当初案に比べれば抑えられたが…重い負担

 ――新たな見直し案をどう評価しますか。

 評価できる部分と、課題となる部分があると思います。

 今回示された月ごとの上限額は、当初案に比べれば半額程度の引き上げ幅になってはいるものの、十分には抑制されていないと言わざるを得ません。特に現役世代では、高い社会保険料を支払いながら、負担上限額が重くなることになり、特段の配慮が必要と考えます。治療断念や生活破綻(はたん)につながらないように、さらなる金額の抑制を検討してほしいと思います。

 ――長期療養者への配慮など、議論の成果が見られる部分もありました。

 長期療養の患者を念頭に、多数回該当(年に3回以上、上限に達した月があれば、4回目以降の上限額が大幅に下がる)の金額を据え置く方針が示されたことは評価できます。これはとても重要で、ここが守られないと、治療が続けられなくなって命に関わる患者さんが出てきます。

長期療養者への配慮 低所得層にも

 ――低所得者層への配慮も見られました。

 今回、年収200万円未満の人については多数回該当の金額が引き下げとなる方針です。

 専門委員会では、厚生労働省から、乳がんの40代女性で、年収200万円未満という例が示されました。高額な分子標的薬を使い続けなければならず、多数回該当の仕組みを使っても現行制度では毎月のように4万4千円を払い続け、とても大変です。一般的な家計状況に照らし合わせると、「破滅的医療支出」に容易に該当します。

 たとえば、治療しながらシングルマザーとして子どもを育てていて、収入はパートのみ、といったケースが当てはまると思います。実際にこういった方はしばしばいらっしゃいます。

新たに「年間上限」 負担に制限

 ――新たに「年間上限」を設ける方針も示されました。

 今回、月ごとの上限額が引き上げられれば、多数回該当が適用されずに高額な自己負担額を払い続ける患者さんが新たに発生することになります。年間上限によって支払いが青天井に伸びていくことがなくなるのは大きいと思います。

 一方で、70歳以上が対象の「外来特例」(所得が高くない70歳以上の人が外来受診で負担する額に上限を設ける仕組み)については、上限額引き上げなどの見直しがなされる方針です。これは、現役世代には同様の仕組みがないので、公平性について指摘する声があがっていました。

負担抑制や影響見極め 今後も訴える

 ――今後、国に何を訴えていきますか。

 高額療養費制度は、収入でしか患者を区別しておらず、家計や扶養人数などは全く考慮されません。それは制度上、仕方のないことなのかもしれませんが、患者さんの生活を鑑みれば大きな欠点です。今後、さらに負担が抑制されるよう訴えたいですし、引き上げによってどのような影響が生じるのか、丁寧にみていく必要性があります。

 また、高額療養費制度は重要なセーフティーネットです。今後、医療費を節減していくためには、ほかの代替手段がないか、優先的に検討していってほしいと考えます。

「デジタル版を試してみたい!」というお客様にまずは1カ月間無料体験

この記事を書いた人
松本千聖
くらし科学医療部
専門・関心分野
医療、子どもや女性の健康、子育て
上野創
横浜総局
専門・関心分野
教育、不登校、病児教育、がん、神奈川県、横浜市
高額療養費制度見直し

高額療養費制度見直し

政府は昨年末、医療費の患者負担に月ごとの限度を設けた「高額療養費制度」の見直し案を決めました。しかし、がん患者や野党が凍結を求める中、政府は改革案を修正する方針を決めました。関連ニュースをお伝えします。[もっと見る]