2025年春、東京都・墨田区議会自民党系会派の下村緑区議(43)は、同じ会派の滝沢正宜区議(55)から長年にわたりセクハラを受けている、と区議会に訴え出た。区議会の「特別委員会」は9月、セクハラと認定。滝沢区議を5日間の出席停止処分とした。
ところが、自民会派の判断はおかしな方向へ進む。被害者である下村区議を広報部会のメンバーから外したのだ。
理由はこうだ。「事前に会派へ相談しなかったことが規約に反している」
さらに、下村区議が自分の被害をSNSなどで公表することに党議拘束をかけ、口を封じた。一方で、滝沢区議は自分から会派を退会したため、処分なし。
セクハラを追及した区議会もほぼ非公開の「秘密会」だったため、区民は何がなんだか分からない。専門家も指摘する。「表沙汰にしたくない様子がうかがえる」。
一体どうなっているのか。関係者の話や入手した資料から検証すると、理不尽さが浮かび上がってくる。(共同通信=武田惇志)
▽関係者や入手資料をまとめると…
以下は、複数の関係者の話や委員会などに出された資料をまとめたものだ。
下村区議が訴えた被害内容は2021年から始まっている。それによると、この年の10月4日夜、滝沢区議がこんなLINEを送っている。
「今日はお尻と、胸に触れたので。また楽しい(ビールの絵文字)をお願いいたします」
下村区議は「それ、あかんやつでしょ」と応答している。この日、滝沢区議から「タクシー内で服の上や中から胸を触られた」という。
ほかに下村区議が訴えた被害は次の通り。
①2022年5月25日、ステーキ屋の入り口で背後から股間を触られた。
②2024年2月20日、区役所エレベーター内で滝沢区議がバイアグラの処方について言及した際、こちらを一瞥した。
③2024年9月11日、区議会控室で「手伝っているんだからハグして」と言いながら接近してきた。
▽「今日のブラ黒だろ」
2025年3月には、ある店舗のエスカレーター内ではこんな会話があったとも訴えている。
滝沢「今日のブラ黒だろ。透けてる」
下村「これはキャミソールです」
滝沢「下着が一体になったものか、ダメだよ、高級下着じゃないと胸が垂れる。でも、今日は胸も見れてよかった」
翌日、耐えられなくなった下村区議は滝沢区議に直接、LINEで抗議した。
下村「服は捨てました。やはり、滝沢さんの昨日の言動は気持ち悪く、生理的に受け入れがたいものでした。
大変苦痛でした。普通の方は口に出して言いません。触れません」
滝沢「昨日は余計な事を言ってしまい大変失礼しました」
下村「やめてほしいと言ったことは本当にやめてほしいのです。滝沢さんに身体を触られて嬉しい気持ちには全くなりません。恐怖と不快とフラッシュバックが起こります。
繰り返しになりますが、普通に仕事仲間として接してください。
最後のお願いです。よろしくお願いします。」
滝沢「そぅすね
もう頼らないでくださいねw」
下村区議の真剣な抗議に対し、返ってきたのはちゃかすような言葉だった。
この件について、滝沢区議は後に議会でこう反論をしている。
「議員として服装の注意をしただけで、それ以外の発言はしていない」
▽議長に相談…なぜ自民会派が知っている?
委員会資料や関係者によると、4月10日、下村区議は佐藤篤議長に面談を申し入れた。
だがその4日後の19日、自民党墨田総支部の関係者から下村区議に連絡があった。内容はセクハラ問題でこう告げられた。
「滝沢区議が涙を流しながら助けを求めに来た」
非公式な和解の提案もあったが、下村区議は断ったという。相談内容が党支部に漏れていたことで、不信を募らせたようだ。
下村区議はその後、佐藤議長と正式に面談。議員政治倫理調査特別委員会を開催する方向で話が進み始める。
だが翌5月に開かれた自民会派の役員会では、ある女性区議がこんな発言をしたという。「こんなの好きな女子に対して、男子がスカートをめくるようなもんじゃない」
5月、区議会の議会運営委員会は、特別委員会の開催が決定した。
下村区議は委員会の公開を求めたが、委員会は賛成多数で「秘密会」とすることに決まった。理由は会議録によると、「双方のプライバシーに配慮」。これにより、原則的に一般傍聴はできず会議録も残らなくなった。
▽「不自然ではないでしょうか」
この特別委員会で、滝沢区議は反論している。
「そのような行為を私の方から積極的に行った記憶はありません」
「もしセクハラ行為に悩まされていたのであれば、(下村議員が)自分から2人での飲み会に誘ったり、私に車での送迎を頼むなど2人きりになる行動をとるのは不自然ではないでしょうか」
委員会はその後、弁護士の意見聴取などを経て9月に審査結果を公表。セクハラは認定した。
報告書によると、認定されたのは2024年5月~2025年5月間のセクハラ行為だった。身体的接触を求める言動や、服装に関する発言が複数回あったと判断した。
事実認定が1年間に限定されたのは、墨田区の条例が調査請求期間を1年と定めているため。ただ、それ以前の被害申告についても、報告書はこう記載している。
「身体的接触を伴う複数回のセクハラ行為があったことが推認される」
▽被害者を処分「それ以上話すことない」
だが翌10月、自民会派は下村区議について、会派の広報部会のメンバーから外したと発表。下村区議には党議拘束がかけられ、外部公表を禁じられたという。
なぜ、このようないびつな経過をたどることになったのか?
関係者はこう説明した。
「下村区議はみんなの党出身で、いわば『外様』。一方、滝沢区議の叔父は長年にわたって墨田区議を務めてきた重鎮。こうした権力差が背景にあるんでしょう」
滝沢区議のXのプロフィールにはこう書かれている。「祖父の代から墨田区政に関わり」
自民会派に取材した。返答はこうだった。
「発表文が全てで、それ以上に話すことはありません」
滝沢区議に取材すると、「議会のあれ(事実認定)なので」とセクハラについては認めた上で「ノーコメント」。
下村区議はこう回答した。「党議拘束があって話せません」
下村区議の知人によると、「誰にも寄り添ってもらえず、死にたいと思うときもあった」と漏らした時があったという。
▽権力がある側が加害者に
こうした釈然としない経過になぜなるのか。女性議員や候補者をサポートする「Stand by Women」代表の浜田真里さんはこう説明する。
「日本の地方議会では従来、問題を表に出さず、議会内で解決しようという傾向がありました。しかしハラスメントやいじめは、年齢や当選回数などで権力のある側が加害者になりやすい。だから議会内で処理しようとすると、被害者が不利な立場に立たされてしまう可能性が高いわけです」
事実、墨田区議会は秘密会を選択。セクハラの実態は公表されずに終わった。
また自民会派が下村区議を処分したり、外部公表を党議拘束で禁止したりした点でも「事態を表沙汰にしたくない様子がうかがえます」。
一方で、こうしたケースは全国の地方議会でも少なくないという。
「(首長のセクハラ問題をきっかけに制定された)東京都狛江市のハラスメント防止条例を皮切りに、近年は各地でハラスメント防止条例の制定が続いています。何か起きたときに適切に対処できるよう、相談窓口を設置したり、議員向けの研修を実施したりするなどの取り組みが少しずつ進んできています」
条例にはどの程度効果があるのだろうか。
「私が調査の中で実際に聞いてきた声として、条例ができたことで議員から職員への理不尽な行為が減り、一定の効果を実感しているというものもあります。旧態依然とした議会文化を変えていくには、こうした外部の視点が入る仕組みや透明性を高める取り組みを積み重ねていくことが欠かせません」