横浜流星が走り抜けた“蔦重栄華乃夢噺”に拍手を…大河ドラマ『べらぼう』が1年通して伝えたかったこととは? 最終話考察
蔦重(横浜流星)の原点は、いまも吉原に
さて、治済の亡骸のかたわらに立っていたとされる「変わった髷の男」だが、その後ろ姿は平賀源内(安田顕)にそっくりだった。腹心の友である田沼意次(渡辺謙)を追い詰めた治済が生きているのでは死んでも死にきれず、怨霊となり、最後に雷を落としたのかもしれない。 また後ろ姿といえば、こんな嬉しいサプライズも。長谷川平蔵(中村隼人)に急遽呼び出され、ある宿場町を訪れた蔦重。2人が見つめる駕籠屋では、担ぎ手の男たちが休憩中にこぞって本を読んでいた。平蔵曰く、女将が本好きなんだそうだ。 そして平蔵が紡ぐ言葉から、われわれはその女将が瀬川(小芝風花)であることに気づく。 しかし、平蔵も蔦重も決してその名前を口にはせず、声をかけることもしない。ただただ幸せに暮らしている瀬川の後ろ姿を、かつて彼女に惚れ込んだ者同士、静かに優しく見守っていた。粋なサプライズ、粋な演出に思わず胸が熱くなる。 そもそも蔦重の本づくりは、瀬川をはじめとする吉原の女郎たちを幸せにしたいという思いから始まった。幸せにしたい対象はどんどん広がっていったけれど、やはり原点はそこなのだ。 蔦重は瀬川を守りきれなかったことを後悔していたが、彼が出し続けてきた本は彼女の心を守っていたのである。
死の間際まで“書を以て世を耕す”という覚悟
蔦重は最後の瞬間まで本を作り続けた。伊勢松坂で活動する和学者・本居宣長(北村一輝)を定信の協力も得て口説き落とし、彼の本を江戸で売り広めることに成功。 一方、滝沢瑣吉(のちの曲亭馬琴/津田健次郎)と重田貞一役(のちの十辺舎一九/井上芳雄)には、江戸のみならず地方をもターゲットにした物語を作らせる。 そんな中、蔦重は当時死亡率の高かった脚気を患うが、本を作る手は一切緩めなかった。お抱えの戯作者や絵師たちを集め、「あいつは死の間際まで書を以って世を耕し続けたと言われたい」と告げる。 山東京伝(古川雄大)には諸国めぐりの戯作を、北尾重政(橋本淳)には新作黄表紙すべての絵付けを、大田南畝(桐谷健太)には飛び切りめでたい狂歌集を依頼。 勝川春朗(のちの葛飾北斎/くっきー!)には「春朗は男を頼りに描いていくといいと思うぜ」とアドバイスし、自身もまた朋誠堂喜三二(尾美としのり)に手伝ってもらって黄表紙を書き上げた。 どれもこれまでの出来事が走馬灯のように浮かぶ感動的なやりとりだったが、特に涙を誘ったのは病床での歌麿(染谷将太)との会話だ。 歌麿は、山姥が盃に入った酒を金太郎に飲ませている絵を見せる。第18話で幼い頃の歌麿が母親に「お乳でも吸うかい?」と言われ、「出てくるの、お酒じゃないの」と返すシーンがあったように、歌麿は金太郎と山姥を自身と母親に見立てていた。 「おっかさんとこうしたかったってのを二人に託して描いてみようかと思って」と蔦重に語る歌麿。 「お前は人の命を吸い取る鬼の子」。幼い頃に母親から言われたそのひとことが呪いとなって、歌麿を苦しめ続けてきた。 だが、みんなと一緒に写楽絵を作り上げたことで、許された気がした歌麿はようやく自分の存在、感情も含めて、すべてをありのままに受け止めることができるようになったのではないか。蔦重への愛情も、てい(橋本愛)への信頼も。 それは相反するものではなく、歌麿の中で両立している。 歌麿はていに「声かけてくれてありがとう、義姉さん」と感謝を告げ、蔦重には「(絵の続きが見たいなら)死ぬな」と励ましの言葉をかけた。 ここまでどうにか蔦重に生かされ続けてきた歌麿が、逆に蔦重を生かそうとするなんて。すっかり頼もしくなった歌麿の姿に涙が止まらなかった。
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