誹謗中傷から学ぶ法律超初心者入門
SNSにおける誹謗中傷が社会的問題になっている昨今ですが、そもそも誹謗中傷って法的にはどのように解釈されているのか、皆さんはご存知でしょうか。
法的見地から誹謗中傷について解説します。
名誉権やプライバシー権とは
誹謗中傷において認知されつつある「名誉権」や「名誉感情」、「プライバシー権」とは何によって定義されているのでしょうか。
なお、名誉権が「社会的評価を守る権利」であるのに対し、名誉感情は「自分の名誉に関する内心の平穏を守る感情的利益」とされています。
言葉に注目してみましょう。「名誉『権』」「プライバシー『権』」と、権という文字が入っています。これは権利、いわゆる人権のことです。
では、人権を規定している法律は何なのでしょうか。
皆さんもご存じのとおり、日本国憲法です。
憲法とは
では、憲法とは何なのでしょうか。
歴史的に「国家は暴走する恐れがある」ことの反省から、君主主権から国民主権にシフトしたのが現代の憲法です。国民主権とは、簡単に言うと「国民が一番大事だから人権保障を規定しよう。そのために国家の統治権には制限を設けよう」というものです。
統治権について補足します。君主主権の頃の憲法は、君主に全ての権力(統治権)が集中していたため、時には人権を蔑ろにするような国家運営が行われてきました。そこで、国民主権下の憲法では、立法権(日本国憲法では国会)、行政権(同じく内閣)、司法権(同じく裁判所)と権力分離することで国家に制限を設け、それを人権保障の担保としたのです。
日本国憲法にも、前半部分で人権保障について列挙されています。
では、名誉権や名誉感情、プライバシー権について記載されている条文はどれでしょうか。
結論から申し上げると、それらが直接記述されている条文はありません。
ただし、第13条が根拠とされています。
第十三条 すべて国民は、個人として尊重される。生命、自由及び幸福追求に対する国民の権利については、公共の福祉に反しない限り、立法その他の国政の上で、最大の尊重を必要とする。
日本国憲法に記載がなくても、新たな人権が判例を通して幸福追求権から導き出される、という仕組みなのです。
憲法と他の法律(国会による法律や省庁による省令など)との違いを図にまとめてみました。
人権が無制限に認められると国家の統治が制御不能になりますから、国家は憲法に違反しない範囲で法律を作り、それを国民は守ることになります。(つまり、人権が一定程度制限される。例えば都市計画法に基づき家を建てられる場所が制限されていますよね)
そして、国民は「その法律は人権を侵害するから憲法違反であり無効である」と裁判所にその判断を委ねることができるのです(違憲立法審査といいます)。
つまり、憲法は国家を対象としたもの、法律は国民を対象としたもの、と整理すると大変わかりやすいかと思います。
ここで目ざとい方は、ひとつ疑問が生じるはずです。
「国家との関係で人権を主張できることはわかるが、そうなると名誉権侵害といった私人間の事件には、名誉権といった人権の根拠となる憲法の条文を直接適用できないのでは?」と。
まず、名誉権侵害や名誉感情侵害、プライバシー侵害については民法709条(不法行為による損害賠償請求権)を適用します。
第七百九条 故意又は過失によって他人の権利又は法律上保護される利益を侵害した者は、これによって生じた損害を賠償する責任を負う。
そして、権利(=人権)について憲法13条を解釈として間接的に適用する(間接適用説といいます)、というロジックなのです。
名誉権 VS 表現の自由
さて、誹謗中傷については各種人権の侵害にあたるわけですが、それと対立することになるのは表現の自由です。表現の自由も自由権という人権のひとつであり、誹謗中傷についての訴訟は「人権 VS 人権」という構図になります。
ここで、大切な判例(最判昭和41年6月23日)をご紹介しましょう。
背景:
衆議院議員に立候補しようとした者について、新聞社が「学歴および経歴を詐称し、これにより公職選挙法違反の疑いにより警察から追及され、前科があった」という記事を掲載したことを、立候補者が名誉棄損として新聞社に損害賠償を求めた。
判決抜粋:
民事上の不法行為たる名誉棄損については、その行為が公共の利害に関する事実に係りもつぱら公益を図る目的に出た場合には、摘示された事実が真実であることが証明されたときは、右行為には違法性がなく、不法行為は成立しないものと解するのが相当であり、もし、右事実が真実であることが証明されなくても、その行為者においてその事実を真実と信ずるについて相当の理由があるときには、右行為には故意もしくは過失がなく結局、不法行為は成立しないものと解するのが相当である
として、棄却(原告である立候補者の訴えが退けられた)となった。
名誉権侵害について実務で取り扱ったことのある方なら、この判決内容でおわかりだと思いますが、違法性阻却の3要件(公共性・公益性、真実性(真実相当性))が初めて示された判例です。
この判例のポイントは、名誉権と自由権のぶつかりあいをどう処理したか、という点です。
裁判所は「確かに名誉権という人権は重要だ→しかし表現の自由という人権も重要だ→今回の事件は、国会議員に関することで公共性があり、国民の判断に役立つという公益性がある。そして、経歴詐称以外は真実性があり、経歴詐称についても真実と信じるに相当する真実相当性があった。よって、被告(新聞社)の表現の自由で得られる利益の程度は、原告(立候補者)の名誉権の侵害の程度を上回るので、名誉権の侵害はやむを得ない、つまり不法行為とまでは言えない」と判断したわけです。
このように、人権同士の争いについて片方を制限する形で調整することは公共の福祉のひとつの形です。また、天秤にかけて判断することを比較衡量といいます。
というわけで、法律の超初心者入門でした。
皆様のお役に立ちますと幸いです。



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