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編集者自身の世界を変える、作品づくりのあり方

「物語の力で、一人一人の世界を変える」

このミッションをコルクでは掲げているが、自分の世界を大きく変えてくれたと感じられる物語と、人は生涯でどれほど出会うのだろうか。

ぼくの場合、遠藤周作との出会いが、物語によって自分の世界を変えられた原体験だ。小学生の頃に『沈黙』を読んで以来、小中学生時代は遠藤周作の作品にどっぷり浸った。

遠藤周作の多くの小説で主題として描かれているのは、人間の根本的な「弱さ」や、その「弱さ」とどう向き合うかだ。強い人間が勝ち残ることが当たり前とされている社会で、弱さを許容できる強さを持ちたいと、遠藤周作の物語を読むなかで思うようになった。

他にも、高校時代に出会ったミラン・クンデラの『存在の耐えられない軽さ』だったり、自分の世界を変えてくれたと感じる作品は幾つかある。

でも、自分のこれまでの人生を振り返ってみると、いち読者として出会った物語よりも、自分が編集者として関わった物語たちのほうが、自分の世界を大きく変えてくれたように感じる。

その一番最初の作品となったのは『ドラゴン桜』だ。

ドラゴン桜は、思考停止に陥らず、成長していくための教えが沢山詰まっている作品だ。桜木が生徒たちに語る内容は、新人編集者だったぼくにも刺さるものばかりだった。だからこそ、「この作品を多くの人たちに届けたい」と心から思うことができた。

また、『宇宙兄弟』も自分を大きく変えた作品だ。

例えば、「俺の敵はだいたい俺です」といったムッタのセリフがある。
小山さんも、ぼくも、このセリフに背中を押してもらった時がたくさんあるように思う。何か予期せぬトラブルに直面すると、誰かのせいにしたくなったりする瞬間がある。そうした時に、何度も心の中でこのセリフがこだまする。

30代の自分のあり方を大きく変えてくれた作品といえば、『空白を満たしなさい』をはじめとする平野啓一郎作品だ。

先日投稿した『自分を知る手掛かりとして、物語を読み返す』というnoteにも書いたが、平野作品を通じて、分人主義の概念と出会ったことで、世界の見え方が一変した。
他者を愛するとは何か、自分とは何者なのか。そうしたことの捉え方がガラッと変わり、それまでに抱いていた孤独感のようなものが形を変えた。

こうやって振り返ると、編集者という仕事についていなければ、ぼくの人生は全く違ったものになっていただろう。
もし並行世界があって、編集者という仕事を選んでいない自分がいたとしたら、どうなっているのか。想像がつかない。

そして現在、ぼくは自分の働き方を、編集者という立場から、経営者としての立場に重きを置こうとしている。
編集者が育つ組織づくり。
このテーマに最も力を入れていこうとしている。

そう考えた時に、「物語の力で、一人一人の世界を変える」というミッションへの捉え方も、ぼくの中で変化してきている。

これまでは、自分が編集者として作品づくりに直に関わって、自分の人生を変える力をもつ作品をひとつでも多く生み出すことがゴールと捉えてきた。
今は、そうした作品を生み出せる仲間を一人でも多く育てることが、コルクの経営者であるぼくが目指すべきゴールだ。

自分が編集者として関わった物語ではなく、仲間が担当した物語で、ぼくの世界が変わる。
それが今のぼくが叶えたい目標だ。

仲間が、自分の世界をガラリと変えるような物語を、作家と一緒に作っていく。その延長線で、読者としてぼくの世界も変わっていくだろう。

そして、なぜ自分が編集者として、自分の世界が変わる物語を生み出せたのかを考えてみると、それは「さらけだす」「やりすぎる」「まきこむ」というコルクの行動指針を無意識のうちにやっていたからだと思う。

例えば、作家と打ち合わせする際には、自分の過去の経験や、その時の感情を「さらけだす」ようにしていた。創作の打ち合わせがなければ、言語化されることがない感情がたくさん存在した。

さらけだすと、自分と作家で共通していることが見つかっていき、それが作品に落とし込まれていく。作品と自分の結びつきが強くなり、結果的に自分の世界に影響を与えるような物語が育まれていく。

「さらけだす」「やりすぎる」「まきこむ」という行動指針の言葉をつくった時は、「物語の力で、一人一人の世界を変える」というミッションの言葉はまだ生まれていなかった。でも、このミッションへの理解を深めれば深めるほど、この3つの行動指針へのフィット感が湧いてくる。

では、「さらけだす」「やりすぎる」「まきこむ」を、作品づくりにおいてやっていくには、どうすればいいか。

編集者が育つ環境を整えるべく、自分の「べき」を棚卸し』というnoteに書いた通り、現在、自分の経験を知見に変えていくための取り組みを行なっているが、この問いを深く掘り下げることになりそうだ。


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表では書きづらい個人的な話を含め、日々の日記、僕が取り組んでいるマンガや小説の編集の裏側、気になる人との対談のレポート記事などを公開していきます。

『宇宙兄弟』『ドラゴン桜』などのマンガ・小説の編集者でありながら、ベンチャー起業の経営者でもあり、3人の息子の父親でもあるコルク代表・佐渡…

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編集者自身の世界を変える、作品づくりのあり方|佐渡島庸平(コルク代表)
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