ポケモン廃人、知らん地方に転移した。【完結】   作:タク@DMP

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第109話:激闘・王冠山

 ※※※

 

 

 

「ジュワッ!!」

 

 

 

【イルカマンの ジェットパンチ!!】

 

 

 

 クレーターが空く程の強烈な殴打が地面を穿つ。

 それをすんでのところで避けたパッチラゴンは、電光石火の勢いで嘴を振り下ろすが──イルカマンもまた、溶岩を身に纏いながらそれを受け止める。

 

「もうやめて──イルカマン! それ以上は、あんたも辛いだけなんだから!」

「ジュワ……ッ!!」

「聞こえてる!? あたしの声! 戻ってきて!」

 

 呼びかけたところで、強制オーライズによる洗脳が簡単に解除されないことなど分かっている。

 しかしそれでも、ユイは声をかける。それがイルカマンのブレーキになると信じて。

 地を駆け、電気を帯びた嘴で突き続けるパッチラゴンと、それを受け止め、感電しながらも突き飛ばすイルカマン。

 両者は互角だ。トレーナーが居ないが故に、その力を十全に出せてはいないものの、それでもマイティフォルムのイルカマンの基礎スペックは伝説のポケモンを優に上回る。 

 あのリュウグウが、奥の手の奥の手としていたポケモンは伊達ではないのである。

 

【イルカマンの ウェーブタックル!!】

 

 マグマを身に纏ったイルカマンが勢いよく体全部でパッチラゴンにぶつかった。

 幾ら炎を受け流す龍の鱗と言えど、その一撃はあまりにも重く、軽く吹き飛ばされてしまうのだった。

 

「パッチラゴン!! しっかりして!!」

「バッチラララーッ!!」

 

 しかしそれでも空中で態勢を立て直したパッチラゴンは、勢いよく着地すると、そのまま再びイルカマンに向かう。

 

「確かブースターのタイプは炎と鋼だから──オーライズしてるなら効果てきめんよね! ”じならし”!」

 

 一気に地面が揺れて、そのエネルギーがイルカマンを目掛けて飛ぶ。

 しかし──イルカマンは地面に拳を叩きつけると、それは打ち消されてしまうのだった。

 

「なぁっ!? 技を掻き消したァ!?」

「ジュワ……ッ!!」

「ヂラララ……!!」

 

 流石のユイも冷や汗を掻く。

 瞬時に技の特性を見抜いて、それを無効化する術を編み出したのだ。

 これは、リュウグウの育成によって身に着けた方法であり、他のイルカマンが簡単に出来る芸当ではない。

 それくらいはやってのけるだろう、と考えてはいたユイだったが、あくまでもリュウグウとの連携が前提である、と希望的観測をしていたのは否めなかった。

 

(やはり、強い……!)

 

「ジュワァ!!」

 

 そのまま、尾びれで地面を叩き、大きく跳ね上がるイルカマンは、そのままパッチラゴンを押し倒してマウントポジションを取ると一発、二発、とジェットパンチを見舞っていく。

 確かに効果は今一つだが、その恐ろしい腕力から放たれる拳は、次第にパッチラゴンの顔面をへしゃげさせていく。

 終いには嘴を掴み、圧し折ろうと力を込めたその時だった。

 

「”ほうでん”!!」

 

 その油断が命取りとなった。

 一気に高圧の電流がイルカマンを襲い、更にその喉元に嘴が叩き込まれたのである。

 ぐらり、とイルカマンの身体は揺れてパッチラゴンを離れるのだった。

 リュウグウが居れば、決して犯さなかったであろうミス。暴威のままに暴れる強制オーライズポケモンであるが故に起きたエラーである。

 ばちばちと電撃がイルカマンを迸り、身体がガクガクと痙攣してしまうのだった。

 

(と言っても、このままじゃパッチラゴンが持つかどうか分からない……! かと言って、ユキノオーやパッチルドンじゃあ相性が悪すぎる)

 

 イルカマンの動きは封じる事が出来た。

 後は仕留めるだけである。すぐさまボールにパッチラゴンを戻すと──彼女は次なる一手を打つ。

 

(かつてのあたしは、引き際を見誤ってがむしゃらに突っ込むだけだった──だけど、今はもう違う!!)

 

「──ランターン、お願い!!」

「きゅーん!」

 

 身体が痙攣しても尚、飛び掛かるイルカマン。

 しかし、その動きは先ほどと比べても明らかに鈍い。

 そこに立ち向かうのは、ユイの手持ちの中でも恐ろしい耐久力を誇るランターンだ。

 突っ込んで来るイルカマンの顔面に、高圧縮された水の束をぶちまける。

 

「”ハイドロポンプ”!!」

 

 今のイルカマンは炎・鋼タイプ。

 水タイプの技は効果抜群だ。しかし、それを受けても尚イルカマンは力任せに強行突破を図る。

 拳がランターンを捉え、吹き飛ばす。そして人間の子供サイズはあるであろうランターンの身体がユイに降りかかるのだった。

 

「ッ……が!?」

 

 押し潰され、肺に空気が入らなくなってしまうユイ。

 それでもランターンが自ら退くのを待つと──漸く地面に向かって咳き込み、呼吸することができたのだった。

 心配そうに彼女を見るランターンだったが「攻撃続行ッ!! イルカマンを助けるんだからッ!!」という彼女の叫びに応え、頷く。

 

(とんでもない馬力……ッ!! そこにマグマの身体も加わって厄介なことになってる……ッ!!)

 

「ジュワァ……ッ!!」

 

 麻痺しても尚、攻撃力が低下したわけではない。

 むしろ、目の前のユイを脅威と認めたイルカマンは、拳を突きあげ、全身にマグマを収縮させ始める。

 

 

 

【イルカマンの──】

 

 

 

「ッ!? まさかあれって──」

「ハッハ! やったぞ! オオワザだ!」

「やっちまえーッ!!」

 

 団員達がはしゃぎたてる中、イルカマンの胸に高熱のエネルギーが集まっていく。

 ”メルトリアクター”。ヌシブースターのオオワザだ。

 その身体を高熱で溶けた鉄へと変換させ、相手に向かって突貫する非常に危険な技である。

 放てば最後、周囲を灼熱地獄に変え、地面さえも溶かしてしまう。

 ハズシもブースターも、このオオワザを放つときは出力を絞るように気を使っている程である。

 あの膨張したパラセクトを白い炭へと変えた程の威力なのだから。

 

「ま、まずい……メルトリアクターは……ヤバい……確か解除方法は──冷却!!」

 

 だが、そんなオオワザも弱点が全くないわけではない。

 急速に冷却してしまえば、炉心が停止し、しばらくの間、溶けた鉄によって全身が冷え固まって動かなくなってしまうのだ。

 すぐさま冷凍ビームを放ち、イルカマンを冷却させにかかるランターン。しかし、溶鉱炉の如き熱の塊を鎮めることは容易いことではない。

 だが、此処でもしも最大出力のメルトリアクターが放たれた場合、この場に居るテング団の団員も、彼女自身も無事では済まない。

 

「あんた達逃げなさい!! 死ぬんだから!!」

「ハァ!? 何言ってやがる!! お前達の所為でこちとらリーダー1人やられてんだ、今更引き下がれるか!」

「それに、こっちにゃ故郷に残した子供がお腹空かせてんだ!! 俺達はなぁ、こんなところで逃げるわけにはいかねーんだよ!!」

「それが命令だからな!! お前を此処で足止めするぜ!! タマズサ様の邪魔はさせねぇ!!」

「そうだそうだ! タマズサ様は、俺達に無限の豊穣を齎してくれる救世主なんだ!!」

 

(だ、ダメだ、聞く耳持たない……!)

 

「メルトリアクターを制御無しでぶっ放したら、全員溶けるんだから!! どろっどろよ!!」

 

 ぐん、と周囲の温度が更に急激に上昇する。

 テング団の団員達も、そしてユイも、汗腺から一気に汗が噴き出した。

 イルカマンの放つ熱量は膨大そのもの。漸く彼らも事の重大さに気付いたようだった。

 周囲の気温は既に60℃を超えている。抑え込んでいる熱が爆発すれば、全員溶けるだけでは済まない。

 

 ──メルトリアクターは確かに強い技よ。でも、気軽には使えないのよねぇ、他のオオワザと違って。

 

 ──何でですか?

 

 ──強すぎるのよ。文字通り。熱そのものを扱う技だから。下手したら、自分自身を傷つけちゃうの。遠い昔にも、ヌシのブースターが怒り狂ったことで大火災が起きちゃったらしいのよね。

 

 ──原因は──確か、子供を連れ去られたことでしたっけ。

 

 ──そう! よく勉強してるわね、ユイちゃん。それだけ、ブースターは繊細なポケモンなのよ。感情に応じて技の威力も跳ね上がっちゃうから。

 

 ──えーと、じゃあ、普段は手加減してるってことですよね? 私たちが普段見てるメルトリアクターって、ポケモンの技の威力の範疇って感じですから。

 

 ──手加減とはまた違うわね。重要なのは、力に飲まれないこと。つまり、自分を程よくクールダウンさせることよ♡ これ、人間もポケモンも大事なことよね。

 

 そうハズシが言っていたのをユイは思い出す。

 

(大丈夫、ハズシさん。ようがんのおやしろに伝わるオオワザで、悲劇は生ませない!)

 

 そして技を放ったイルカマンも、無事では済まない。

 メルトリアクターは全身を溶けた鉄に変える技。制御無しで撃てば、本体の身体も霧散する諸刃の剣なのである。

 故に、実質的にあのヌシブースターしか扱えないオオワザなのである。

 

「ユキノオー!! パッチルドン!! 冷凍ビームとフリーズドライで冷却して!!」

 

 そしてこの技の厄介な所は、水を掛けた程度では蒸発してしまう程に本体が熱を溜め込む点である。

 冷却には、氷タイプの技を用いるしかないのだ。

 しかし氷タイプは当然、熱いところが苦手なわけで、その力を十全に発揮できない。

 ユキノオーがゆきを降らせても、それらはすぐに掻き消えてしまう。

 

「や、やべぇ、あ、熱さで頭がやられそうだ……!!」

「どうなってんだ!? まだ暑くなるのかよ!?」

「ッ……やっと事の重大さに気付いたみたいね……!!」

 

 ユイはメガストーンに手を触れる。

 

「ユキノオー、ごめん! ちょっと無理させちゃうけど……!!」

「バオォン!!」

 

 メガシンカにより、更に冷気をイルカマンに集中させていくユキノオー。

 だが、3体による同時冷却でも尚、互角。イルカマンを抑え込むことなど出来はしない。

 

(まだイルカマンがオオワザを撃ってないのが幸いだけど──にしたってチャージが長すぎる気が──)

 

 

 

「ジュ、ジュワ……ッ!!」

 

 

 

 ユイは暑さで意識を奪われつつある中、イルカマンの目を見た。

 その目からは──涙がこぼれ、そしてすぐに蒸発していた。

 

「──ッ!! イルカマンは……耐えてくれてるんだ……ッ!!」

 

 ばちん、と彼女は自らの両頬を叩いた。

 強制オーライズで理性を奪われても尚、イルカマンの心にはまだ正義の心が、リュウグウに教えられたものが残っている。

 そもそも、彼の実力が十全に発揮されていれば、たとえリュウグウが居なくとも、パッチラゴンはとっくに倒されていてもおかしくないし、メルトリアクターのチャージももっと早く終わっていてもおかしくはない。

 そうではないのは、イルカマンもまた戦っていたのである。

 己を蝕む破壊衝動と──

 

「ユキノオー、外すんじゃないわよ!!」

「バオオオオン!!」

 

 ランターン、そしてパッチルドンがイルカマンを冷却させ続ける中──最大出力を以て、中央のユキノオーが大きく息を吸い込む。

 

 

 

「”ふぶき”!!」

 

 

 

 霰混じりのブレスが正面からイルカマンを捉えて、全身を凍り付かせる。

 それでもまだ、熱を抑えるには程遠かったものの、パッチルドンのフリーズドライとランターンの冷凍ビームが更に上からイルカマンを冷やし──溶けていた鉄の身体は完全に固まってしまうのだった。

 それと同時に、ランターンが”ハイドロポンプ”を叩きこむ。

 がたん、と音がしてイルカマンは倒れ込み、冷え固まった溶岩の鎧は砕け散ったのだった。

 

 

 

 ※※※

 

 

 

「ヘラクロス、メガシンカッ!!」

 

 

 

 出し惜しみして勝てる相手ではない。

 すぐさまヘラクロスをメガシンカさせ、アルカはイヌハギに立ち向かう。

 

「──まさかと思うが、本気の本気で某に勝てると思っているのか!」

「思ってなきゃ、此処に立ってない!!」

 

 ルカリオが雪を降らせ、あの半獣人形態へと化す。

 雪の鎧を身に纏い、更に”ゆきかき”で超機動力を手に入れたのだ。

 更に、鉄の扇を広げたダーテングがアルカ目掛けて斬り付けに掛かる。

 それを腕で受け止めたヘラクロスは、それを力強く投げ飛ばし、地面に叩きつけた。

 

「”ミサイルばり”!!」

 

 至近距離で角からロケットのように棘が飛んで行く。

 それを受けたダーテングは呻き声を上げると、沈黙してしまうのだった。

 メガシンカポケモンの中でもトップクラスの攻撃力は伊達ではないのである。

 

(ッ……鋼の身体を持つダーテングが一撃で沈められただと!? だがまだこちらにはルカリオが居る──ッ!)

 

 だが、それを好機と見たルカリオは、そのままヘラクロスに食い掛かる。

 しかし──次の瞬間、その鼻の頭に雫が落ちた。

 パキッと音を立てて氷の鎧が砕け散る。

 

「しまッ……何故雪が止む!?」

「今だーッ!!」

 

 一瞬動きの鈍ったルカリオの顔面にヘラクロスが突きを見舞い、そして至近距離で岩石の弾丸(ロックブラスト)を放つ。

 完全に自らが押されていることにイヌハギは気付いた。

 そしてアルカの背中に貼り付いているポケモンを睨み付ける。

 

「貴様、その背中にポケモンを隠しているな……!!」

「雪を雨で上書きしたんです!!」

 

 カブトだ。

 彼女の背中に貼り付いて安全なポジションを確保しながら、天候を操作したのである。

 当然、アルカ自身が狙われれば危険な立ち位置となるが、森の王者がそれを許さない。

 

「”インファイト”!!」

 

 懐に潜り込んだヘラクロスが、拳を何度も何度も何度も叩き込む。

 効果抜群の一撃を受けたルカリオは、そのまま岩壁まで吹き飛ばされ、叩きつけられて気絶してしまうのだった。

 

「……某のこれまでに積み上げてきたものは何だと言うのだッ!!」

「ポケモンを──戦う道具としか思ってないお前達と、確かな絆を積み上げてきたボク達の差なんだッ! それに……ボクだって寝てたわけじゃないんだ、イヌハギ。お前達のおかげで、強くなるって決めたから!!」

「認めるかッ!! 落ちこぼれのお前なんぞがッ!! 某を倒したところでタマズサは絶対に倒せん、倒せは──せんのだ……ッ!!」

 

 イヌハギは倒れた二匹を瓢箪の中に吸い込ませると、次なる瓢箪を目の前に投げ入れる。

 二匹目、エース個体のルカリオだ。

 

「──どうにもならんものが、世の中にはあるのだ、アルカ!! ギガオーライズ──!!」

 

 毒性を放つ鎧がルカリオを覆い、更に獰猛な鬼獣へと姿を変えさせる。

 牙は長く伸び、白い身体は紫色に染まり、そして背中には氷の棘が生える。

 

 

 

【ルカリオ<ギガオーライズ> いてつきポケモン タイプ:氷/毒】

 

 

 

「そのヘラクロスというモンスター……なかなか、堅牢な装甲を持っているようだが、毒の前ではどうだ?」

 

 飛び掛かるルカリオ。

 ゆきかきに依存していた先程の個体とは比べ物にならないほどの速度だ。

 その拳をヘラクロスは正面から受け止める。更にカブトが宙から岩を降らせてルカリオを押さえ込もうとする。

 しかし、それら全てを跳ね飛ばし、ルカリオは掌から冷気の波動を放つ。

 

「”こごえるはどう”!!」

 

 それを浴びたヘラクロスは、がくり、と膝をついてしまった。 

 脚が凍り付き、地面と縫い付けられてしまったのである。

 その隙をイヌハギが見過ごすはずも無かった。

 ルカリオは再び地面を蹴り、ヘラクロスに肉薄して拳をとがらせる。

 

「洗練された拳は、剣にも匹敵するという。鬼の国の言葉では、()とは()()()()、すなわち極限まで空気抵抗を減らした手刀を指す言葉!!」

 

 時が止まったようだった。

 確かに研ぎ澄まされ、刀を通すかのような繊細な突きだった。

 

 

 

「オオワザ──”ウガツイチゲキ”ッ!!」

 

 

 

 外骨格を砕き、そこから更に剣で貫いたような衝撃がヘラクロスを襲う。

 正確無比にして一撃必殺。

 それが、このオオワザの本領。

 ぐらり、と揺れるヘラクロス。 

 それだけならばまだ耐えられたかもしれないが、更にその身体を蝕むのは、毒。

 ウガツキジンの力を得たルカリオの拳には、相手を確実に瀕死に至らしめる猛毒が常に分泌されている。

 

「そ、そんな……ヘラクロス!?」

「そのモンスターは、もう戦えまい。体に穴が開いている上に、そこから毒を流し込んだのだ。あのリザードンも……こうやって倒したのだ」

「ぐぅっ……!!」

 

 ヘラクロスは明らかに苦しそうに地面を転げ回っている。

 頼みの綱のメガシンカポケモンがオオワザの一撃で倒されてしまったことに、アルカは戦慄を隠せなかった。

 

「戻って、ヘラクロス!!」

 

 ヘラクロスを手持ちに戻し、一瞬考える。

 あの毒は脅威そのものだ。

 しかも、それを確実に相手の体内に流し込む”ウガツイチゲキ”も、厄介そのもの。

 問題は恐ろしい瞬歩と、正確性でそれを実現するルカリオの機動力である。

 

(落ち着け、よく観察するんだ相手を! 相手のタイプは……背中の氷、周囲に広がる冷気から氷タイプ、そして毒の技から毒タイプも確実だ。そして元のルカリオは格闘タイプだから……それに有利なポケモンを出せば良い!)

 

 彼女はそこまで考えて蒼褪めた。

 そんな都合のいいポケモンなどそうそう居はしない。

 ジャローダは氷と毒が両方弱点で悪手も良い所、モトトカゲも氷格闘が弱点、ゴローニャも格闘と氷が弱点、頼みの綱のヘラクロスは倒れてしまった。

 

(──つまり、氷と毒を半減以下に出来て、尚且つ格闘でも抜群を突かれないポケモン!? そんな都合のいいポケモンが居る訳──ッ!!)

 

 そこまで思い、残る1匹のボールに手を掛ける。

 

「ナ、ナカヌチャン……!!」

 

 居た。

 鋼/フェアリーというタイプで、氷を半減、毒も無効にし、格闘を等倍に抑え込めるポケモンが。

 そして、そのボールはやる気に満ち溢れているかのように揺れている。

 

「……うん、分かった。やってみなきゃ、結果は分からないもんね!」

 

 彼女はボールを投げる。 

 そこから現れたナカヌチャンは、ハンマーを構え、目の前のルカリオをキッと睨むのだった。

 初めて会った時とは見違えた姿に、アルカは思わず息をのむ。

 アルカと共に、ハンマーを再び手にした今の彼女に、恐れる物は何もない。

 

「カブト……ナカヌチャン。これが最後のチャンスだ。仕留めるよ!!」

「ぴぃ!」

「カヌヌ!!」

「仕留める? 今、この某を仕留めると言ったのかッ!!」

「うん、言った。お前を倒して……ボクは、おにーさんのところに行くんだッ!!」

 

 もう泣かないと決めた。

 もう逃げないと決めた。

 彼のいる場所と同じところで立つために、彼女は──戦うと決めた。

 例え相手が自分よりも強大な三羽烏だったとしても。

 

「だから力を貸して! 二匹共!」

 

 その声に応えるようにして──ナカヌチャンの身体が光り輝いた。

 ハンマーは更に巨大化し、髪の房は大きくなっていく。

 

「ッ……!? 進化した……!?」

「ナカヌチャン……!?」

 

 光が消える。

 そこにあったのは、これまでよりも豪快な笑みを浮かべた鍛治であった。

 その表情には、自信、そして力が漲っている。

 

 

 

【デカヌチャン ハンマーポケモン タイプ:フェアリー/鋼】

 

 

 

 自らの体躯など優に超えるサイズのハンマー。

 それを肩に担ぎ、力強くデカヌチャンは叫ぶのだった。

 

「カヌヌ!!」

「……す、すごいよ! この土壇場で!」

「バカを言え──メガシンカもオーライズもしていないポケモンに負けるはずがないだろうがッ!!」

「いいや、負けるよ。”相性”は絶対。それに、相手の能力を下げるのは強敵を攻略する時の基本!! きっと、おにーさんだって同じことを言うね!!」

 

 ルカリオが”ウガツイチゲキ”を放たんとばかりに、手刀を尖らせる。

 空気抵抗をギリギリまで減らした刺突、そして瞬歩でデカヌチャンを貫くべく飛び掛かる。

 

 

 

【ルカリオの──ウガツイチゲキ!!】

 

 

 

 しかし。

 その手刀が届くことはなかった。

 さっきよりも一歩、ルカリオの動きは遅い。

 

「能力──まさか!!」

「そのまさかさ! 弱いなら……弱いなりの戦い方があるんだッ!!」

 

 その足には、岩が纏わりついている。

 先程カブトがルカリオに降らせたのは”がんせきふうじ”。

 受けた相手の素早さを下げる技だ。 

 そしてデカヌチャンは、巨大なハンマーを軽々と振り回して走り回るだけの機動力を持つため、ルカリオを素早さで上回る。

 レベル差を考慮したとしても、素早さが下がっているので、デカヌチャンの方が一手速く動けた。

 

 

 

「カッ飛ばせ!! デカハンマー!!」

 

 

 

【デカヌチャンの デカハンマー!!】

 

 

 

 ルカリオの顔面が、野球のボールのように跳ね飛ばされる。

 その身体は宙を舞い、毒の鎧を霧散させながら──天井に突き刺さるのだった。

 その様を、イヌハギは唖然としながら眺めることしかできなかった。

 デカハンマーの威力は、鋼タイプの物理技でも最高峰の160。それをタイプ一致で受けたのである。

 一撃必殺も止む無しであった。

 

(ど、どこに、そんな力が……!? 敗れた……!? 某が……!? アルカなどに……!?)

 

「勝った……勝ったよ、デカヌチャン!! カブト!! やったんだボク達!!」

「カヌヌ!」

「ぴぃ!」

 

 ポケモン達と喜ぶアルカ達。

 それを見て──イヌハギは自らが敗れた理由を悟る。

 脳裏に過るのは、タマズサに傅く自分の姿だった。

 

 

 

(……否……勝ち目など、元より無かったのだ……希望を捨てた時点で……)

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