ポケモン廃人、知らん地方に転移した。【完結】   作:タク@DMP

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第107話:指切り

 ※※※

 

 

 

 ──ひとしきり作戦会議を終えて、メグルは眠れないまま拠点の屋上で空を眺めていた。

 

(対策らしい対策は立てたけど……本当に通用するかは別問題)

 

 はぁ、と彼は溜息を吐く。

 正直──タマズサを倒せる確証は何処にも無い。

 あの破壊的な威力の”マガツフウゲキ”に加えて、増殖する”むげんあわせかがみ”の2つが組み合わされれば、全滅も避けられない。

 しかし、それでもこれ以上のテング団の狼藉を看過することはできない。しかも、最早一刻の猶予も無いのである。

 

(どうか、全員で──帰ってきたいけど……ッ!!)

 

 

 

「おにーさん?」

 

 

 

 声が聞こえてくる。

 振り向くとそこには、見慣れた彼女の姿があった。 

 メグルを視界に認めると、意外そうな顔をして彼女は歩を詰めてくる。

 

「……アルカ。寝てなかったのか?」

「ごめんなさい、寝付けなくって」

「……無理もないよな」

「あははは……それに、月が赤くなってないか気になっちゃって」

「俺もだよ」

 

 欠けた月は、白い。

 元居た世界と全く同じだ。

 しかし、空が晴れているからか、嫌に綺麗だった。

 

「……怖くないか? アルカ」

「ふぇ?」

「……」

 

 問うた後でメグルは気付く。

 一番怖いのは──自分自身だ、と。

 仲間を、そしてアルカを喪うのが、とても怖い。

 

「……怖く、ないです」

 

 力強くアルカは言った。

 

「一人で、誰も味方が居なかったヒャッキに居た時の方が──よっぽど怖かったです。あの時に比べれば、今のボクには背中を預ける人が、ポケモンが居るから」

 

 はにかんでみせると、アルカはメグルの手を強く握ってみせる。

 

「ボク、おにーさんにあの時出会って良かったって今は思ってます。もしもおにーさんが居なかったら、ボクはずっとあいつらから目を逸らして逃げ回りながら生きてたから。あいつらと決着をつける機会をくれて、本当に感謝してるんです」

「アルカ……」

「ヒャッキに居た頃、弱かったボクは──必死にこっちでポケモン達を鍛えたんです。カブトはおばあさんからの貰い物でしたけど。ヘラクロスとモトトカゲはそれはもう苦労しました」

 

 彼女は語る。

 ヘラクロスは、森の王者とウワサされていた個体に目を付けたアルカが勝負を挑み、何度も敗れた末に捕獲したのだという。

 モトトカゲはそれはもう素早く、なかなか追いつけないので、なかなか群れの中の1匹も捕らえられなかったのだという。

 結果的に寝ていた個体を捕まえようとしたものの、気付かれて暴れられてしまい、ヘラクロスが必死に抑え込んだ末に捕獲したらしい。

 こうしてポケモンを捕まえ、育てる経験はヒャッキでは得られない経験だった。

 ポケモンではなく、モンスター。強いポケモンは、ヒャッキにおいて生物兵器でしかなかった。

 

「商人になったのも、自分一人で生きていけるようにするためで、必死に勉強したんです。強くなきゃ踏み躙られる。そう思ってたから」

「……頑張ったんだな」

「強くなったって思ってたんです。結構調子に乗ってたと思いますよ。……ベニシティでイヌハギに会うまでは」

「……」

「テング団に会う度にボクは自分の弱さを突きつけられて──その度にどうしようもなく情けなくなったりもしましたから」

 

 イヌハギには実力差を思い知らされ、アルネとは切れない因縁を突きつけられ、アルカはテング団から逃れられないことを嫌でも思い知らされた。

 そして、彼らの前ではあまりにも無力だった。

 

「でも、今はあんまり気にしていないんです。どうしようもないボクを暗闇から引っ張ってくれた人がいるから。今度は──ボクが、不安な貴方の手を引っ張る番ですっ!」

「……それでも俺は万が一のことを考えちまうよ」

 

 自分が死ぬのは怖くない。

 だが一番怖いのは──喪うこと。

 リュウグウの件で、既にメグルの心には小さな穴が開いていた。

 今は、彼の死を受け止められていないが、もうじきに彼が居なくなったことを実感した時、その穴はもっと大きくなる。

 そのことを既にメグルは予感していた。

 もしも手持ちが、そして仲間達が喪われれば、今度こそ心が折れてしまいそうだった。

 

「……アルカ。約束してくれないか?」

「何ですか?」

「……絶対、生きて帰るって。そして──もし、生きて帰ってこれたら──」

 

 その後の言葉をメグルは言えなかった。

 どきどきと胸が高まってしまい、喉の奥が詰まってしまう。

 

「……生きて、帰ってこれたら……また、旅の続きだ。まだ、おやしろまいりは終わってねーんだからな!」

 

(こんな時に……勢いで何を言おうとしてたんだ俺は!)

 

 顔が熱くなりながら、メグルは思わずアルカから目を逸らした。

 

「じゃあ、ボクも同じですっ。勝手に居なくなったりしたら、許しません。絶対に──許しませんからっ」

「……ああ。約束だ」

 

 メグルは思わず、小指を差し出す。

 きょとん、とするアルカに──「ああ、俺の故郷の風習みたいなもんでさ」と付け加えた。

 

「小指と小指を絡ませるんだ。大事な約束をする時にさ」

「……えへへ、何だか照れ臭いですね」

「今更だろ」

 

 ──小指と小指が触れ合う。

 それはささやかで、あまりにも確証のない約束でしかない。

 それでも──祈るしかない。

 皆が生きて帰ることを。

 

「いーんスか? 声掛けなくって」

「良いのよ。……隅に置けないんだから。奥手過ぎるのは、マイナスポイントだけどねっ!」

「あはは、同感ッス」

 

 そして、そんな束の間の安息を物陰から見守るキャプテンとキャプテン代理なのだった。

 

「全く……すっかり立派になっちゃって。鼻が高いんだから」

「完全にメグルさんの保護者気分ッスね……」

「そうよ。彼はあたしが育てたんだからっ! だけど、乙女心の扱い方がなってないんだから。補習が必要ね」

「えー、間に合ってるッスよ。だってオレっちが──」

「あんたが一番参考にならないわよ」

「泣くッスよ」

「……ほんっと、リュウグウさんにも──今のメグル君を見せてやりたかったんだから」

 

 ぽつり、とユイは呟いた。

 

「リュウグウさん、楽しみにしてた。メグル君が成長するのを」

「……きっと、見てくれてるッスよ。空の上で」

「……だと良いけど」

「いや、きっときっとでござるよ」

 

 びくり、と二人は肩を震わせる。

 後ろには──キリが腕組みしながら立っていた。

 

「キ、キリさん……」

「全員揃いも揃って、こんな時に──いや、こんな時だからこそ、でござるな。後から伝えたかったことを伝えられなかったと後悔しても遅いでござるからな」

「……そうね。覚悟はしてるつもりよ、キリさん」

「だが、寝ないといい加減に明日に響くでござる。特にユイ殿は長旅の後でござろう」

「あっはははは……ごめんなさーい……」

 

 そそくさ、とユイは去っていく。

 そんな彼女を目で見送ると──キリは溜息を吐いた。

 

(……拙者は全員の命を預かる身でござるからな。気合を入れねば……)

 

「そう固くならなくて良いんじゃねーッスか、キリさん」

「固くもなる! 分かっているでござろう!? 逆に何故、ノオト殿は落ち着いているでござるか!」

「この期に及んで騒ぐもクソもねーッスから。タマズサへの対策は練りに練ったッスからねえ」

「……」

「オレっち達はキャプテン。同じ立場なんスよ。あんたが抱えられないモンは……オレっち達が抱えてやるッス」

「ッ……フン。仮面の下を見たくらいで、好い気にならないでほしいでござるなっ」

 

 ノイズ混じりだが、その時の喋り口は少し怒っているのがノオトには分かった。

 拗ねた時のゴマノハのそれと全く同じだ。

 

「それに一つ勘違いしないでほしいんスけど──オレっちはいずれ、あんたを追い越すッスから」

「……拙者の仮面の下を見て尚、目標にしてくれるでござるか?」

「だから何だってんスか。あんたの価値は何にも変わらねーッスよ。昔も今も、オレっちが乗り越えるに相応しい相手だ」

「……そう簡単に追い越されるような訓練はしていないでござるよ」

 

 夜は更けていく。

 束の間の平穏もまた、過ぎ去っていく。

 それぞれの思惑を胸に、彼らは戦いに挑む──

 

 

 

 ※※※

 

 

 

「ところで、うめーなこのキノコ。さっきそこで拾ったんだけどよ」

「それは猛毒なのだが……」

「アリ? そうなのかよ。ちょっち舌が痺れると思ったけど気の所為じゃなかったんだなあ」

 

 ──サイゴク山脈、中枢部。

 キャプテンですら立ち入ることが憚られるこの場所には、既に何人ものテング団の団員たちが警備の為に張り込んでいた。

 その中を悠然と、三羽烏であるタマズサとイヌハギが通っていく。

 

「それよりもイヌハギよ、アルネはどうしたアルネは」

「……死んだ」

「おん?」

「クワゾメの忍者達に捕縛されたが、機密を守る為に自爆したと」

「おーん? んだよ……負けたのかよ、アイツ。カバルドンまで持ちだしたのにかァ? 姉貴を取り返すって息巻いてたのにかァ?」

 

 大して悲しむ様子も見せず、タマズサは肩を竦めた。

 

「あーあァ、もうちょいバカだったら、自害なんざしなかったんだろーが──爆ぜて死ぬなら俺の前で果てて欲しかったもんだぜ、カッカッカ!」

「……」

「命ってのは、果てる瞬間が一番──美しいのによォ。あいつはそこんとこが分かってなかったなァ、最後の最期まで」

 

 今更イヌハギは怒りも沸かなかった。

 これが、タマズサと言う男である。

 例えそれが自らに近しい嫁と言えども、替えの利く玩具同然。

 アルネもまた例外ではない。三羽烏になったのも、タマズサに歯向かって殺された前任者の空きに入れられたにすぎない。

 タマズサと共に三羽烏になり、今に至るまで共に居るイヌハギは、この無頼の権化とも言えるこの男に対して何度も悪感情を募らせる機会こそあったものの、ついぞ彼を始末するに至らなかった。

 理由は一つ。タマズサは死なない。

 断っておくと、特に何かカラクリがあるわけでもない。ただでさえ屈強なヒャッキの人間の中でも、()()()()()()()()()()のである。ただ、それだけである。

 ポケモンで例えるならば生まれつき6Vだった。それだけの話である。

 現に今も、ヒャッキの人間でも食せば間違いなく命を落とすであろう毒キノコを何食わぬ顔でぽりぽりと齧っているのだった。これに全てが集約されている。

 

「ま……それでも、()()()()()()が負けたのはちと、想定外だったけどなァ。壊しがいがあっていいじゃねーかよ、サイゴク地方!!」

「……」

「とりま、後任は適当に見繕っておいてくれよ。お前そういうの得意だろ」

「……承知した」

「あーあ、賢さだけなら、ウチの嫁共の中じゃあトップだったのに。()()()も良かったから、惜しいと言えば惜しいぜ。そうだ! あいつの姉貴……アルカっつったよな? あいつで代わりになったりしねーかな? カッカッカ!!」

 

 この男に仲間意識だとかそういったものを期待するのが無駄だとイヌハギは諦めていた。

 確かに、付き合いの上では相手に対して都合の良いことをいって言いくるめることこそあるが、それは本心ではない。

 自分の退屈を満たせる刺激的な相手を見定めているにすぎないのだ。

 そしてそれが壊れてしまっても、対して気にする素振りも見せず、また次の玩具を探しに行く。

 無邪気で悪辣な子供が、そのまま大人になったような男。それがタマズサなのだ。

 しかし、誰もタマズサに逆らえはしない。

 毒を盛ろうが、刺そうが殴ろうが死なないので当然である。

 おまけに、苦楽を共にして来たアーマーガアは、マガツカガミの鏡を手に入れたことで更に手が付けられなくなってしまった。

 なんせこの男一人で軍を率いているも同然なのだ。勝てるはずがない。

 そんな恐ろしい男の前では皆従うしかない。

 

「つか、あの馬鹿でかいパラセクト落としたら面白いんじゃね? 厄介払いついでに、町一個があいつの胞子で滅びるところ見るのが楽しみだぜェェェーッ!!」

 

 とタマズサが言えば、幾らそれが()()()()()()()()()()()()()()()だったとしても皆頭を垂れて従うしかないのである。

 結果、これはイヌハギが悪趣味なゲームに仕立て上げたことで、メグル達は何とかパラセクトの処理に成功した。

 イヌハギ本人は最初から、禁じられた兵器レベルの巨大パラセクトで町を滅ぼすつもりなどなかったのである。

 

(むしろ感謝してほしいくらいだ、サイゴクの民。某が居なければ、とっくにサイゴクの地は人一人住めない更地になっているぞ……ッ!! まさに()()()()……ッ!! このような男をのさばらせている、テングの国が、ひいてはヒャッキがどれほど情けないか!!)

 

 彼の傍で、ブレーキ役となっているイヌハギは気が気でない。 

 この男から手綱を離したが最後、世界は滅ぶ。間違いなく。

 

「さあ、お待ちかねだぜ!! 赤い月の御開帳だ!!」

 

 タマズサに連れられ、イヌハギは洞窟の最深部に辿り着く。

 そこにあったのは、巨大な石の蓋。

 だが、それを押さえつけるための鎖は2本。あまりにも頼りない。

 そして、その鎖は今にも音を立てて朽ちてしまいそうだった。

 

「今更だけど、昔のサイゴクの人間も考えたモンだぜ。赤い月を封じ込める為に、()()()()()()()()を楔にするなんてな」

「……秘伝の巻物の記述は、正しかったか」

 

 テングの城に伝わる巻物。

 そこに記されていたのは──500年前の戦争の始終であった。

 サイゴクに持ち帰られた”赤い月”は、オヤシロの民によって封じられたのだという。

 5つのおやしろの役目は文字通りの楔。

 サイゴク山脈を囲うようにして、おやしろ自体に封印の術を掛けることで、強大な赤い月をサイゴク山脈から出てこれなくしたのだという。

 

(では、そうしなければいけなかった赤い月とはそもそも一体何なのだ……本当に、無限の豊穣を齎すものなのか?)

 

 イヌハギは内心、慄いていた。

 しかし、アルネも、ひいてはタマズサの上っ面の言葉でヒャッキの再興を信じているテング団の団員達も皆、赤い月に希望を抱いている。

 彼だけが赤い月に対する疑念を吐露するわけにもいかない。

 尤も、その封印を解くのはタマズサ。団員達の望むような使われ方をしないことだけは確実だとイヌハギは分かっていた。

 分かっていたところで、今更彼に反抗する気力など削がれきっていたのであるが。

 

(神でも、モンスターでも、赤い月でも何でも良い。この、人の皮を被ったバケモノを止めてくれ──)

 

 音を立てて、鎖が砕け散る。

 次の瞬間、禍々しい赤い光を放ちながら──それは、姿を現すのだった。

 

 

 

 ※※※

 

 

 

 ──数時間後。

 サイゴク山脈上空。

 イデア博士の尽力により、広大な山脈の中で異常にエネルギーが放たれている地点は突きとめられた。

 そして、サイゴクのおやしろの力を集結した”サイゴクおやしろ連合”がライドポケモンによって空中から降下。

 テング団が集結している場所へ突入開始したのである。

 忍者隊のエアームドによって、安全にキャプテン達は山脈内部に突入。

 すぐさま警戒に当たっていたテング団の団員達との戦闘が始まったのだった。

 

 

 

 

「──作戦概要を説明する」

 

 

 

「サイゴク山脈に集結しているテング団の団員を撃滅。同時に、赤い月の正体を突き止め、奪還する」

 

 

 

「過去がどうであれ、ならずものに赤い月を渡すわけにはいかない!」

 

 

 

「──そして全員欠けることなく、帰還せよ!」

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