ポケモン廃人、知らん地方に転移した。【完結】   作:タク@DMP

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第106話:メガシンカ激突

 ※※※

 

 

 

「キョウ殿は一度、カントーに戻る、と」

「うむ。ジョウトにも被害が及ぶ可能性が高い。人員を手配せねばならん」

「相分かった。世話になったでござる。気を付けて欲しいでござるよ」

「……そちらこそ。拙者はウルイの話に聞いていただけだが──立派になったな」

「……まだまだでござるよ」

 

 キョウの背中を見送り、キリは再びイデア博士から送られてきた映像データに目を通していた。

 

 

 

(にわかに信じ難いでござるが……!! もしこれが本当ならば、タマズサの攻略は困難極まるでござるな……!!)

 

 

 

 ※※※

 

 

 ──ユキノオーはサイゴクには生息していない。

 ガラル地方のカンムリ雪原でユイが出会ったポケモンだ。

 捕獲したパッチルドンを鍛えている過程で遭遇し、”ゆきかき”と相性が良いので手持ちに入れたのである。 

 当初、電気タイプ以外のポケモンを手持ちに入れるのはどうなのかと考えていたユイだったが、シンオウ地方には平気な顔でオクタンとエテボースを手持ちに入れている電気タイプのジムリーダーが居るという話を風の噂で聞いていたので、気にするのをやめた。

 その後、紆余曲折あってハイペースでユキノオナイトを入手することになるのだが、それはまた別の話。

 

 

 

【メガユキノオー じゅひょうポケモン タイプ:草/氷】

 

 

 

「──豪雪の化生を前に、何処まで抗えるかしら? メグル君」

 

 

 

 周囲は凍てつき、アブソルの足元をも凍らせていく。

 ただ存在するだけで冷気を充満させていく。

 例え未来が視えたとしても、その足回り自体を封じてしまえば、動くことなど出来はしない。

 ──そもそも、雪が降っている以上、不可避の吹雪を避けられなどしない。

 

「”ふぶき”!!」

 

 大吹雪が巻き起こる。

 それがメグルを、そしてアブソルを激しく吹き付ける。

 主人を守るべく前に出て正面から受け止めるアブソルだが、その身体は徐々に凍り付いていく。

 しかし、それでも抵抗することを止めはしない。尾に鬼火が灯り、それがぐんと伸びて、ユキノオーの身体に突き刺さった。

 

「”むねんのつるぎ”で体力を吸い取れ!!」

「ふるーる!!」

  

 ”ふぶき”は強力だが、後隙も大きい技だ。

 凍らせることが出来なければ、反撃されてしまう。

 それを理解していたアブソルは、全身が霜塗れになろうとも果敢に攻め込みにかかる。

 一方のユキノオーも自慢の耐久を盾に、アブソルを迎撃しにかかるのだった。

 激しい攻防が此処に始まった。

 

「”オーロラベール”展開ッ!!」

「”おにび”で火傷状態にしてやれ!!」

 

 4倍弱点のサブウェポンと言えど、雪とオーロラベールの前ではなかなか通りはしない。

 一方、ユキノオーもアブソルの堅牢な身体にギガドレインを撃てども、なかなか受けたダメージ分の体力を回収出来ない上に、火傷のスリップダメージが入ってしまう。

 吹雪を放てば、今度はアブソルが”むねんのつるぎ”で体力を回復し、更に全身に鬼火を纏うことで氷状態をも防いでみせる。

 メガシンカポケモン同士ということもあって、その実力は互角。

 アブソルの攻撃もなかなか通りはしないが、ユキノオーの攻撃も、未来予知を持つアブソルに致命打を与えられない。互いに、じり貧状態だ。

 

「ッ……互角ッス……!!」

「どっちが勝つの、この勝負……!?」

 

(全身に鬼火を纏ってる所為で、吹雪を使っても凍らない……ッ!! こうなったら、あの技でトドメを刺す!!)

 

(4倍弱点でも削り切れてない……とんでもない耐久だ!! こうなりゃ、高威力の一致技でトドメを刺すしかない!!)

 

 罷り通る。

 その意気で、ユイとメグルはほぼ同時に指示を出す。

 

 

 

「──”リーフストーム”よ、ユキノオー!!」

「──”インファイト”だ、アブソル!!」

 

 

 

 

 木の葉の嵐がアブソルに襲い掛かった。

 しかし、それを中央から突っ切っていき、アブソルはユキノオーの身体に打撃を何度も何度も何度も見舞う。

 それは、雪で固められた装甲を打ち砕き、遂に、その顔面に前脚を深く深くめり込ませるのだった。

 だが、当然それは捨て身の攻撃。ユキノオーの放った”リーフストーム”をまともに受けてしまうことを意味しており。

 

「ふ、るーる……!!」

「ブオオオン……ッ!!」

 

 2匹のメガシンカポケモンは同時に、折り重なるようにしてその場に倒れるのだった。

 

「……相討ちッスか……!!」

「拮抗してた……!! これが、メガシンカポケモン同士の戦いなんだ……!!」

 

 タイプ相性だけではない。

 天候、そして補助技も絡んだ恐ろしくハイレベルな戦いに、ノオトとアルカは息を呑む。

 勝負の行方は、ラスト1匹に賭された。

 

「ニンフィア!!」

「──パッチラゴン!!」

 

 

 

【パッチラゴン かせきポケモン タイプ:電気/ドラゴン】

 

 

 

 現れたのは、竜の下半身に鳥の上半身を持つポケモン。

 先程のパッチルドンとは違い、地を駆ける強靭な脚を持つ雷竜だ。

 

(──ユウリのザシアンと、パッチルドンの二匹掛かりで捕まえたポケモン……! 言う事を聞くまで時間はかかったけど、今や立派なエース格なんだから!)

 

 それを迎え撃つのは、対ドラゴン最終兵器であるニンフィア。

 相も変わらず、かわいらしさとは無縁の形相でパッチラゴンを睨み付けるのだった。

 

「……あの時のイーブイが、随分と立派になったじゃない」

「そっちこそ、凶悪なポケモン引っ提げてきたじゃねーか」

 

 互いに、互いを一撃で葬り去るだけの火力を持つ者同士。

 勝負は一瞬で着く。

 パッチラゴンがニンフィアを”でんげきくちばし”で貫くか。

 ニンフィアの”ハイパーボイス”がパッチラゴンを吹き飛ばすか。

 緊張感がその場に漂った。

 

「──”ハイパーボイス”!!」

「──”でんげきくちばし”!!」

 

 雷光の如き突貫。

 パッチラゴンがニンフィア目掛けて嘴を振り下ろす。

 一瞬で間合いを詰めた雷竜に、ニンフィアは”ハイパーボイス”を放つ間もなかった。

 しかし次の瞬間だった。パッチラゴンの足元が爆ぜたのである。

 

(ッ……しまっ──ステルスロック!?)

 

 地雷の如く地面にばら撒かれ、埋め込まれていた透明な岩が、パッチラゴンの足に踏まれたことで起爆したのだ。

 ぐらり、とパッチラゴンの身体が傾き、嘴がニンフィアの身体を掠める。

 背後に回り込んだニンフィアは──必殺の大声を見舞う。

 

 

 

 

「ふぃるふぃーッ!!」

 

 

 

 

 妖精の加護を纏った声が、パッチラゴンの身体を吹き飛ばし──地面に叩きつけた。

 効果は抜群。フェアリースキンで強化されたそれを耐えられるはずもなく。

 ごろん、と目を回して地面に倒れ込んでしまうのだった。

 

「……あたしの負け、ね。まさか──引き離すつもりが、追いつかれてるとは思わなかったんだから」

 

 ぽつり、とユイが言うのが聞こえた。

 緊張感が解けたメグルは、そのまま地面にへたり込んでしまうのだった。

 

「いや、間一髪だった……」

「ふぃー……」

 

 ニンフィアは、パッチラゴンの”でんげきくちばし”で穿たれたクレーターを見て、進化してから初めて身震いした。

 彼女らしくもないが、確かに生命の危機を感じ取ったのである。そのレベルの威力であったのだ。

 一撃で落とせていなければ、落とされていたのはニンフィアの方だったのである。

 それを見ていたアルカは、息を呑み、ごくりと生唾を飲み込んだ。

 思わず見とれてしまうほどの攻防だった。

 

「すごいバトルだった……どっちが勝ってもおかしくなかったよ」

「ハッキリ言って新顔共の所為で追い越されたかもッスね、オレっち」

「そんなに!?」

「あのパッチルドン、パッチラゴン、オレっち相手したくねーッスよ。んで、あいつらを従える為に他の手持ちも鍛えたはずッスから」

「……そうなんだ」

 

(あれが、おにーさんが初めて会ったトレーナー……! そして、それに勝ったおにーさんも、すごく強くなってる……!)

 

 メグルの話の中でしか聞いた事がなかったユイだが、そのバトルは鮮烈にして苛烈。

 はっきりと、アルカの前髪に隠れた両の目に焼き付けられたのだった。

 

 

 

「──おーい、ユイくーん!!」

 

 

 

 余韻に浸る間もなく、声が聞こえてくる。

 見ると、手を振りながらイデア博士がこちらに向かって走ってくるのだった。

 

「あっ、博士!? 何で追いかけてきたの!?」

「イデア博士──!」

「全くもう、思い立ったら一直線過ぎるよ……ま、結果オーライか」

 

 彼は、ユイとメグルだけではなく、ノオトとアルカの姿も認めると肩を竦めた。

 

 

 

「──役者は全員、揃ってるみたいだしね?」

 

 

 

 ※※※

 

 

 

「何でイデア博士までこっちに来てたんですか」

「忘れ物を届けにきたのさ」

「忘れ物?」

「まずはヌシ様! 特にサンダースかな。おやしろを壊されたからか、相当いきり立っててね。それともう一つは後でのお楽しみかな」

 

 イデア博士は、何度かクワゾメの拠点に足を運んだことがあるのか、迷うことなく大広間に辿り着いた。

 そしてそこには、既にスクリーンが表示されていた。

 

「今から流すのはね。サンダースの”念写”によって記録された映像だよ」

「念写?」

「ああ。サンダースはエスパータイプを持ってるからね。見たこと聞いた事といった記憶を、電気信号に変換して、出力させることが出来るんだ。それを応用すれば、CDやDVDに記憶をデータとして焼き付けることが出来る訳」

「このシステムは、イデア博士がサンダースの能力を元にして作ったんだから」

「科学の力って、すげーな……」

「実は既にキリ君にも送っているんだけど……君達には、僕の解説の元で見てもらいたくってね」

 

 ざ、ざざざ、と砂嵐が画面に映る。

 そして映ったのは──破壊されたはずの、やしろのもりだった。

 それを見て肩を震わせたのはユイだった。

 次に、映ったのはリュウグウにイルカマン。更にシャワーズ。

 視界は移り変わっていき、次第に見上げるようにして空を向く。

 そこにあった光景を見て、全員は戦慄した。

 ギガオーライズしたアーマーガアが6匹、空中で羽ばたいている。

 

「は、はぁ!? 何でだよ!? 何で増えてんだアイツ!?」

 

 メグルが狼狽する間もなく、何処からともなく──聞き覚えのある野太い声が響き渡った。

 

 

 

「──だが無意味だぜ。全くの無意味だ」

 

 

 

 男の声が響き渡った。

 そこに現れた光景は常軌を逸したものだった。

 ただでさえ6匹に増えていたアーマーガア達は、更にぶわっと増えて空を覆い尽くしたのである。

 そして次の瞬間には、全員がオオワザの構えを始めたのだった。

 リュウグウが何かを叫んだのが聞こえたが、嵐の音でよく聞こえなかった。

 だが最後に──「ゆけい!! ヌシポケモンはサイゴクの希望! 絶やしてはならん!」と力いっぱいの叫びが聞こえてくる。

 これにより、リュウグウがヌシ二匹を逃がしたことが分かった。

 いや、逃がさなければ確実にヌシ二匹もリュウグウと同じ運命をたどっていた。

 直後に、無数の竜巻が視界を埋め尽くしていった。

 轟轟と嵐が木々を薙ぎ払う音。

 目まぐるしく変わる森の光景。

 そこで──映像は途切れる。

 

「……これが、シャクドウの戦いの始終──」

「ふ、増えてたッス、あのアーマーガア……! 一匹でも厄介だったのに、ギガオーライズしたヤツが何十匹も──」

「多分、あれはオオワザだね。よく映像を解析すると、アーマーガアの周囲を飛んでる2枚の鏡が光った瞬間、姿が一気に増えたからさ」

 

 イデアはつとめて冷静に言った。

 しかし、全員は慄いていた。

 無理もない。リュウグウは圧倒的な物量を前にポケモンを逃がすことしか打つ手立てがなかったのである。

 

「三羽烏を攻略するなら、この増えるオオワザも攻略しなきゃいけない。キリ君にも言ったけど、今一度よく考えた方が良いよ。最悪、如何にヤツとまともに戦わないかを考える必要がありそうだからね」

「……1匹や2匹ならまだいいッスよ!! でも、何十匹にも増えたうえに、更にオオワザまで打つなんて聞いてねーッス!!」

「……まだ、あんな技を隠し持ってたの……!?」

「これが、あたし達の戦う相手──」

 

 メグルは腰が抜けそうになってしまった。

 最早、強さがどうこうとかそういったレベルではない。

 数、そして質。

 その両方が合わさった、恐ろしい何かだった。

 全員が圧倒される中、ぽつり、とアルカが呟いた。

 

「鏡、です」

「え?」

「……マガツカガミは、ヒャッキ三大妖怪の一角。鏡の力を操ると言われています。具体的にどうこうって逸話が残ってるわけじゃないけど……あいつのオオワザはアーマーガアの周囲を舞う鏡で発動してるんじゃないでしょうか」

「鏡が二枚、向かい合っていたよな。よく合わせ鏡って言うけど、その要領で増殖したのか」

「それで増殖されたら堪ったモンじゃねーッスよ!!」

 

(訳分かんねえ。鏡に映ったものを現実に呼び出せる能力なのかアレ。もし本当なら、ヒャッキ最強も納得だぞ)

 

「それが分かったところでッスよ!? 増えられたら、鏡どころじゃねーッス!! オオワザ打たれて全滅ッスよ!!」

「……そうね。あんなの一騎当千どころの話じゃないんだから」

「うんうん、取り合えず一筋縄じゃいかないってのを分かってもらったら十分かなあ」

 

 さっきまで勢いづいていた全員は項垂れてしまう。 

 しかし──同時にメグルはこの状況に希望も見出していた。

 もしもサンダースの念写映像が無ければ、全員タマズサのオオワザを前に成す術も無かったかもしれない。

 

(相手の能力の中身は分かった。後は対処法を考えるだけだ。問題は……その能力ってか、オオワザを防げる手段があるかどうか。発動させたら負けみたいなもんだし)

 

 かと言って、これ以上此処で足踏みしているわけにもいかなかった。

 タマズサ達は今もこの間に、赤い月に迫っているかもしれないのだから。

 

 

 

「──考えよう。考えるんだ。逃げるんじゃねえなら、このオオワザから目を逸らして勝つことは絶対に出来ない」

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