ポケモン廃人、知らん地方に転移した。【完結】 作:タク@DMP
※※※
──シャクドウシティ。壊滅状態。
原因不明の竜巻により、やしろのもりと、おやしろは更地に(オオワザと推測されている)。
ヌシサンダースと、ヌシシャワーズは健在であり、逃げていたところをおやしろの人間に保護された。
キャプテン・リュウグウ──死亡確認。
──ベニシティ。本島はパラセクトの大群が撒いた胞子により、住民への被害甚大。病院は医療スペースが逼迫している。
ひのたまじまも同様に、テング団三羽烏・イヌハギの襲撃を受け、おやしろが破壊。
ヌシブースターはオーラを抜き取られ、重体。
キャプテン・ハズシ、全身に毒を受けたことで集中治療室で処置を受けている。
──クワゾメタウン。おやしろが破壊されたものの、カバルドンを捕獲。町からテング団を追い出すことに成功。三羽烏・アルネの討伐完了。
キャプテンとヌシポケモン、共に健在。
──イッコンタウン。襲撃受けず。ヌシポケモン・アケノヤイバをクワゾメタウンに貸し出している。
──セイランシティ。襲撃受けず。ヌシポケモン・シャワーズをシャクドウシティに貸し出している。
続報を受け、クワゾメの拠点は悲痛な空気が流れていた。
特にハズシの重体に加え、リュウグウ死亡の報せは、全員の戦意を削ぐには十二分な情報だった。
信じられるはずがない。
受け入れられるはずもない。
サイゴクで最も強いポケモントレーナーが死力を尽くし、それでも尚、届かない。
そればかりか、おやしろ諸共森を消し飛ばす。
それが、三羽烏・タマズサという敵なのだと突きつけられる。
(ウソだと言ってくれよ……何で……)
ノオトは壁に手を叩きつけた。
勝てるビジョンが思い浮かばない。
悲しみよりも、先にそれが先行したのはきっと、そうでもしなければ悲痛さで胸が押し潰されそうになってしまうからだった。
キャプテンはサイゴクを守る為に命を賭すのだ。リュウグウでも死ぬときは死ぬのだ。
そう胸の中で言い訳しなければ、きっと彼は立つことすらままならなくなっていただろう。
(オレっち達が目指した頂点は、こんなに簡単に、呆気なく、落ちるものだったのかよ……?)
そうして考えているうちに、先代シャクドウのキャプテン・ショウブが亡くなった時のことを思い出す。
あんなに強かった彼が、野生ポケモンに襲われあっさりと命を落とした。
(……人は死ぬときは……本当に、前触れもなく死ぬのか……じゃあ、オレっちが今までやってきたことって……?)
リュウグウだって、例外ではなかった。
相手が三羽烏ならば尚の事だ。
では、残った自分達はどうすればいい?
考えているうちに、ノオトは立ちあがる気力を無くしつつあった。
思い浮かんだのは不可能の三文字だった。
がくり、とノオトは肩を落とす。
絶望感、そして閉塞感が彼を襲った。
(もう、やめてよ……どうしてそうやって、簡単に人を、ポケモンを傷つけられるのさ……!)
アルカは震えながら座り込む。
自分の故郷・ヒャッキに巣食う悪鬼が、どれほど強大なものかを思い知らされる。
そして、そこから逃げる術など何処にもないということを。
(森ひとつを消し飛ばす!? あそこまでだなんて聞いた事が無かった。いや、知る由も無かった……! どうにかしたいけど、どうすれば良い……!?)
直接会ったのは1度きり。
しかし、リュウグウが強いのを散々アルカは聞かされていた。
その彼が敗れた以上、現在タマズサと拮抗できる戦力はこの地方には無い。
(考えろ、考えるんだ……ボクの持ってるありとあらゆる知識を使って……! この地方にないなら、ヒャッキの力で!)
そう考え、アルカは絶句した。
ヒャッキにも彼に対抗できる手段はない。
故にタマズサが頂点に立っていたことを思い出す。
(手は……あるの……? 本当に──)
ぼんやり、とメグルは天井を向く。
笑顔で力強く自分を送り出してくれた、リュウグウの顔が浮かんでは消えた。
(分からねえ、何にも実感湧かねえ……死んだって言われたって……わっかんねえよ……)
登場人物が滅多に死なないポケモンの世界だと油断していた。
しかし、現実は──別世界同士での抗争が起こり、今此処に最強のキャプテンは息絶えた。
(……俺のやるべき事は何だ? 此処に呼ばれた理由は?)
メグルは──オージュエルをなぞる。
ポケモン廃人としての知識は、この世界であまり役に立たなかった。
ひたすら、サバイバルを繰り返して積み上げてきたものが全てだった。
此処まで出会って来た人達のおかげで、今自分は此処に居るのだ、とメグルは考える。
思い出せ、と彼は自らを鼓舞する。
──君は信用できる若者だからの。その力を無暗に使うことは無かろうて。
じわり、と涙が出てきた。
リュウグウは余所者の自分を信じ、目を掛けてくれた。
(……本当はおやしろまいりを終わらせて、一人前になった姿を見せたかったけど)
自分のやるべき事は何だ、と己に問う。
(この世界を救え、か。上等じゃねーか。ゲームなら何度でも世界救ってきてやったじゃねーか……ッ気合入れろや、メグル!! 此処が踏ん張りどころだ!!)
手が震える。
指がボールに触れる事すら拒む。
汗は止まらない。
怖い。
自らもまた死ぬかもしれない。
そんな事は分かり切っている。
(今まで散々キャプテン達にお膳立てしてもらったんだ。此処で立たなきゃ、俺は自分がやって来たことに、自分の好きなポケモンという存在自体にウソを吐くことになる)
破壊されたやしろのもりの画像を見て、メグルは自らの拳を握り締める。
テング団がシャクドウを破壊しただけで満足するとは思えない。
それに、赤い月もこれまでポケモンを暴れさせて来たことから、絶対にろくなものではない、とメグルは確信していた。
たとえそれが本当に無限の豊穣をもたらすものだったとして、破壊の限りを尽くすタマズサの手に渡して良いものではない。
(俺は、俺の好きなモンを守る為に戦う──)
メグルはアルカの方をちらり、と見た。
前髪で隠れて分からないが、その瞳はきっと恐怖に震えているはずだ。
それに加え、幾ら恐怖の対象だったとはいえ、唯一の血縁だったアルネが死んだことで、彼女自身も少なからず憔悴している。
(ポケモンが居るこの世界を守る為に。そして、コイツの呪縛を解くために──戦う。そう決めた!!)
「忍者隊やイデア博士のドローンからの報告で──テング団残存勢力は、サイゴク山脈に集結していると確定した。拙者が指揮を執り、テング団と戦うでござるよ」
あっさりと、キリは言いだした。
その声色に動揺はない。
しかし、それを受けて気色ばんだのはノオトだった。不思議と、姉の姿とキリの姿がオーバーラップする。
「正気ッスか!? 敵がどんなヤツかはシャクドウの惨状を見れば分かるはずっしょ!? カバルドンとアルネで疲弊しきったこの戦力で、どうやって──!」
「……キャプテンになることが重要ではない。キャプテンとして何を成すか、そのためにどう精進するかが大事だとかつてリュウグウ殿は言った」
「……!」
「拙者はこれ以上、サイゴクを傷つけさせないために戦うでござるよ。キャプテン筆頭は……この時を以て、拙者でござる」
「待つッスよ! 敵のオオワザの正体も分からないのに戦って──キリさんまでやられたら、どうするんスか!?」
「サイゴク山脈に理由も無く、奴らが集まっているとは考えづらい──何か良からぬことを考えている証拠でござろう! 阻止せねば、リュウグウ殿を無駄死にさせることになる」
「──俺も行く」
メグルは立ち上がり──言った。
驚愕した表情を浮かべたのはノオトだった。
「……あんた、何言ってんスか。リュウグウさんでも勝てなかった相手なんスよ!? 挑んで勝てる訳ないッスよ!!」
「かもな。だけど……今の俺には、メガシンカとギガオーライズの両方がある。この2つを持ってるのは俺だけだ。腐らせるつもりはねーよ」
「だけど!!」
「それに、言っただろ。俺はどうやら、この世界の事が──思ってた以上に好きになってたみたいだ」
「なら、オレっち達キャプテンが命を張る! あんたは只のトレーナー、本来は守られる側なんスよ!!」
「……ボクも、戦う」
ぽつり、とアルカは言った。
「ボク一人で、タマズサをどうにかする方法を考えてみたけど……ボク、バカだから何にも思いつかなかった」
へへっ、と笑ってみせると──彼女はメグルの方を向く。
「でも……今分かったよ。ボク、やっぱり守られっぱなしは嫌なんだ。それに──ボクを受け入れてくれたサイゴクのために、戦いたい」
「……アルカ」
「それに、おにーさん一人で行かせられないよ」
「……クッソ」
がん、と壁に拳をぶつけると──ノオトは苛立った様子で叫ぶ。
「クソ、己の情けなさに腹が立つッ!! そうッスね……あんたらは、何時だってそうだったッスもんね……ッ!!」
「……ノオト殿」
「なーんで他所から来たあんた達が気合入ってて、オレっちだけビビってんだか……ッ!!」
無理はない、とキリは考えていた。
覚悟が決まり切っているヒメノの精神性が異常なだけで、ノオトもまだ13歳の子供なのだから。
しかし、それでも彼がアケノヤイバに選ばれた理由があるとするならば、
(ああ、やってやろうじゃねーッスか。じゃなきゃ、メガシンカを身に着けた意味がねーッスよ……!)
心身ともに頼れる誰かが居るならば、彼はどんなに格上の相手にでも喰らいついていけるからだ。
そして、その誰かとは、短い間ながらも旅を共にしたメグルとアルカの二人だった。
(この旅で、良い出会いをしたでござるな、ノオト殿……羨ましいでござるよ)
「確かにリュウグウ殿1人では、タマズサには勝てなかったかもしれない。だけど、全員でぶつかれば……いや、今あるもの全てを利用しきれば、活路はあるはずでござろう」
「今ある全て──」
「サイゴクにあるもの全て、だよね」
「……キャプテン、ヌシポケモン、メガシンカ、そしてオーライズ……その全てをぶつける。総力戦でござるッ!!」
キリは踵を返すと──静かに言った。
「──作戦の詳細は、明日の朝説明するでござる。それまで──ポケモンも、自分の身体も、休めておくでござるよ」
※※※
「なに、これ……」
ユイは立ち尽くし、言葉を失っていた。
五重塔は倒壊し、家屋は潰れて火の手が上がり、そして森丸ごとおやしろ諸共更地となったシャクドウシティを前に膝を突くしかなかった。
「ユイ!!」
誰かの声が聞こえてくる。
しかし、彼女にはもう届かなかった。
この町に、自分の代理として誰が居たのかを思い出す。
サイゴク最強のキャプテン・リュウグウだ。
(あたしが……あたしが居たら……確実に死んでた……)
気が遠くなりそうになりながら、ユイは地面に手を突く。
そう考えてしまった自分に嫌悪感さえ抱く。
だが現に、その場に自分が居たとして何か助けになっただろうか? と考え──不可能だった、と思い直した。
空港に辿り着いた時、彼女に知らされたのはシャクドウがテング団を名乗る集団に襲われたことだけだった。
しかし、続報は容赦なく彼女に現実を突きつける。
テング団の襲撃の最中、突如”無数の竜巻”がやしろのもりを襲い、木々も建物も全て薙ぎ倒してしまった、と。
「ユイ君!! ユイ君!! しっかりするんだ!!」
「ッ……!!」
彼女は顔を上げた。
そこに立っていたのは、いつになく真剣な面持ちのイデア博士だった。
「……全く……一人で飛び出したら危ないじゃないか……」
「博士……リュウグウさんは……? ヌシ様は──」
イデア博士は首を横に振る。
がくり、とユイは肩を落とした。
「何であたしは肝心な時に──何も出来ないの!?」
拳を何度も、何度も何度も何度も地面に叩きつける。
血が滲み、唇を噛み切り、それでもまだ慙愧の念は消えず。
「あたしは……何のために、今まで……!!」
「リュウグウさんは……よくやったと思うよ」
「でも!! 町は──」
「あの人が時間を稼いでくれたおかげで、多くの人やポケモンの命が救われたからね。本当に……すごい人だよ」
「ボクも加勢したかったけど止められてね」と付け加えると、イデア博士はユイの方を向いた。
町での死者は最低限に抑えられた、と彼は語る。
それは、キャプテンである彼や町の衆がテング団を抑え込んでいたからだ、と言った。
「リュウグウさんでも勝てなかったのに……あたしじゃ、あいつらに勝てない……!」
「無力感に苛まれている所悪いけどさ。それで何にもしないなら、一体全体リュウグウさんは何のために死んだんだろうね?」
「ッ……あのねぇ、博士……あたしは──!!」
「サイゴクのキャプテンは、他所の地方のキャプテンと比べても仕事が過酷だ。代替わりが多いのも、死にやすいからだよね。だからヌシは見極めるんだ。君達候補が、サイゴクの為に命を賭す覚悟があるかを」
「……だけど!」
「──それを覚悟しないで君のお父さんがキャプテンをやってたと思う?」
「思わない、けど……!」
「……すっごく残酷なシステムだと思うし、僕は真っ平ごめん被るけどね。ユイ君はそうじゃないだろ?」
ユイは俯いた。
命を賭す覚悟など、自分には備わっていなかったと思い知らされ、打ちのめされた。
サンダースが認めないわけだ、と納得させられる。
いざと言う時に真っ先に命を張れない者に、キャプテンは務まらない。
その覚悟がない者に、キャプテンは任せられない。
(ポケモンばかり強くなって、あたしは……あたしは何にも覚悟出来てなかった……!)
「各員皆、動き出してるみたいだ。メグル君たちもクワゾメタウンで戦ってたみたいだし、僕も頑張らないとね」
「彼らが? 大丈夫なんですか!?」
「うん。先程メグル君から連絡があったけど、どうやらサイゴク山脈に向かうみたいだ」
ユイの顔色が変わる。
何故、サイゴク山脈のような危険な場所に? と考えた時、全てが繋がった。
「まさか博士──」
「流石察しが良いね──サイゴク山脈に、テング団集結の動きが観測できた」
そんな彼女に、道筋を示すかのようにイデアは言った。ビンゴである。
「奴らが動き出した理由……”赤い月”の本体を見つけたからなんじゃないかって思うんだよね。確かにあそこなら、隠されててもおかしくない。れっきとした禁足地だからね」
「……」
ボールを握り締める。
死にに向かっているとしか思えないメグルの行動に怒りすら募らせる。
「あんのバカ……ッ!! 止めなかったんですか!?」
「止めたよ。”死ぬよ”ってね。でも、彼には突っ切る理由があるみたいだったけどね。それに、君もキャプテンじゃないけど……行くんだろう?」
「だけど! 彼はポケモントレーナーになったばかりなんですよ!?」
「そうだね。だけど、この過酷なサイゴクで強くなったと思うよ。僕は彼から定期的に報告を受け取ってたからね。日に日に彼が強くなっていくのを見て、ワクワクしてたんだ」
「どいつもこいつもバカばっか!!」
ユイはボールを放り投げた。
中から飛び出したのはタイカイデン。大きな翼を携えたグンカンドリのようなポケモンだ。
その背中にはライドギアが取り付けられている。
博士が呆気に取られている間に、ユイはその背中に飛び乗り、空へと向かう──
(まさかと思うけど、そのまさかよね!? 冗談じゃないんだからッ!!)
「ちょっ、ユイ君!? おおおおおーい!?」
イデアは、その姿を目で追うと肩を落とした。
「