〈橘川武郎・国際大学長インタビュー〉①全3回
東京電力柏崎刈羽原発の再稼働が決まった。
長年、国のエネルギー政策の方向性を示す「エネルギー基本計画」の委員として政策提言をしてきた経験をもち、原発の推進派でも反対派でもない「中立派」を自任する橘川武郎・国際大学長(エネルギー産業論)は今回の再稼働をどう見たのか。3回に分けて紹介する。
まずは、柏崎刈羽原発の再稼働が難航した背景と、難航したとはいえ最終的に再稼働が決まった理由について解説した。(聞き手・砂本紅年)
①なぜ柏崎刈羽の再稼働は難航したのか 「中立派」の橘川武郎・国際大学長が挙げる3つの「特殊要因」(この記事)
②国の議論を支配する「原発脳」… エネルギー基本計画の元委員・橘川武郎さんが「時代遅れ」の現実を斬る
③「使い勝手が悪く、扱いにくい電源」になった原発 再エネはどうすれば? 橘川武郎さんの未来への提言
◆柏崎刈羽原発は東京電力が動かすべきでない
柏崎刈羽原発の再稼働が難航した背景には、他の原発とは異なる三つの特殊要因が存在します。
一つ目は、事故を起こした会社による再稼働であるということ。
二つ目は、国有化された企業による再稼働であるということ。
三つ目は、供給エリア外での原発運営であるということです。
まず一つ目、東京電力福島第1原発事故を起こした東京電力が運営することの問題です。
私は本来、柏崎刈羽原発は東京電力が動かすべきでないと考えます。
福島の事故の賠償、廃炉、除染にかかる費用は、政府のかなり低い見通しでさえ23兆4000億円です。
当然、東京電力に払える金額ではなく、既に電気料金や税金といった形で国民全体が負担する仕組みが始まっています。これは福島の復興のためには必要なのでやむを得ないでしょう。
ただ物事には順番があり、東京電力が徹底的にリストラをやった上ならば負担しようじゃないかというのが本来の筋だと思います。
◆原発は売るべきだった
では、徹底的なリストラとは何かというと、柏崎刈羽原発の売却です。あの事故を起こした会社が、原子力事業を続けていいのかということです。
今回、新潟県議会で認められたわけですが、事故費用を負担する国民の不満が残ることを考えれば、原発を売るというプランを国がとるべきでした。売却しても巨額の事故費用には届きませんが、すべて廃炉費用に回すべきでした。そうしていれば、もうとっくに柏崎刈羽原発は動いていたでしょう。
このプランの場合、誰が原発を買うのかといえば、まず考えられるのが新潟県を供給エリアとする東北電力です。東北電力も資金が足りないので、国が出てくることになりますが、財務省などが国営を嫌がった場合、日本原電を使った可能性があると思います。
原電は民間会社ですが、最大株主は東京電力です。東京電力は国有化されましたから、原電は準国策会社みたいなもの。その原電を前面に出し、中部電力やJパワーなど電力会社から出資させるような形の新会社が考えられます。
その場合、柏崎刈羽原発の従業員はその新会社に移りますから安定供給上の問題も雇用の問題も解決できたでしょう。
◆なぜ収益を福島の賠償に回せなかったのか
東京電力は柏崎刈羽原発がなくても、事故後に分社した三つの会社による収益が期待できます。
送配電会社の東京電力パワーグリッドは東京の地下に27万5000ボルトの送電線を持っており、それが抜群の強みです。
小売りの東京電力エナジーパートナーは電力自由化による競争激化で若干弱ってはいますが、世界的にもこれだけ人口密集地域に電気供給している会社はなく、稼ぐ力はあります。
それから再生可能エネルギーを担う東京電力リニューアルパワーは、大きな揚水発電所を山梨県に持っており、再エネ事業を進める上で非常に役立ちます。
これら三つの会社が稼いだ収益の一部を、半永久的に福島の賠償に回し、本体の東京電力ホールディングスが福島の事故処理に当たるという枠組みにすれば、50年後に東京電力は福島にきちんと責任を果たしたことになったでしょう。
ただ、それができなかった理由は、二つ目の「東京電力が国有化されている企業である」ということとかかわってきます。
◆国がこだわったシナリオ
2012年7月、原子力損害賠償・廃炉等支援機構が東京電力ホールディングスの株式を50%以上取得し、東京電力は実質国有化されました。
東京電力の会長には、三菱ケミカルホールディングスの小林喜光さん、日立製作所の川村隆さん、JFEホールディングスの数土文夫さんなど日本を代表する名経営者が就きましたが、実質は国が重要な意思決定をする構造になっているため、何もできませんでした。
国がメンツをかけて徹底的にこだわったのは、東京電力によって柏崎刈羽原発を再稼働させて東京電力の株価を上げ、ターゲットとする一定の株価まで上げたところで株を売り、元のように民営化するというシナリオです。だからどうしても、東京電力に再稼働させなければいけなかったのです。
◆新潟県だけの2つの「ねじれ」
そして最後の三つ目が重要なのですが、新潟県が東京電力の供給エリアではないという「ねじれ現象」です。
原発が自社の供給区域でない場所にあるのは、福島第1原発と第2原発が廃炉になった今、新潟県しかありません。日本で新潟県だけのねじれ現象なのです。
ねじれには二つの問題があります。
一つは避難計画です。原発事故時の避難計画は建前上、自治体が責任を持つことになっていて、それをその原発を所有する会社が支援する枠組みですが、電力の供給がどこでどのようにされていて、どこにどんな需要家(電力の購入者)がいるかが分からなければ、本当は避難計画を作れないはずです。
新潟県の供給の仕組みや需要家の実態を知っているのは東北電力で、東京電力ではありません。新潟県民はこの問題に気づいていて、避難計画における東京電力の支援能力への不信感となっていました。
長く問題視されていましたが、みんなが少し忘れたころになって昨年、能登半島地震が発生しました。新潟市内でも液状化現象などの被災があり、避難計画の問題があらためて思い起こされました。
◆地元にはメリットがほぼない
二つ目の最も大きい問題が、電力がすべて東京電力の供給エリアに送電されるため地元メリットがほとんどないということです。自民党が多数を占めるにもかかわらず、県議会が長く再稼働に賛成しなかった最大の理由です。
東京電力は今後、電気料金を値下げすることがあるかもしれませんが、新潟県民にはメリットがありません。花角英世知事は前々回の選挙で再稼働反対派との激戦の末勝ちました。
そして、柏崎刈羽原発の再稼働については、それをいったん認めたうえで選挙を行い、県民に「信を問う」とみられていましたが、途中から「信を問う」方法について言及しなくなりました。自民党の政治と金の問題が出てきたこともあり、選挙ではなく、県議会の信任という方向に変えたのでしょう。
それでも地元メリットがないことがネックとなり、県議会での議論は難航しました。
要するに、再稼働が難航した背景としては、根本的な解決策があったにもかかわらず、国の都合でそれができなかったこと、電力の供給地域でなかったがゆえになかなか地元で了解を得られなかったということが大きかったわけです。
◆札束で頬をひっぱたく原発方式
そのうえで、なぜ今ごろになって県議会が再稼働に賛成したかというと、それは国と東京電力がカードを切ったからです。
国が切ったカードの最大のものは今年8月、原発周辺での重大事故の際の避難道路の整備に充てる国の財政支援の対象地域を半径10キロ圏から30キロ圏に広げたことです。これは他の原発にも効きますから、必ずしも柏崎刈羽原発だけへの支援ではありませんが、柏崎刈羽原発の再稼働問題があったからこそ変更された仕組みといえます。
10月には、資源エネルギー庁の村瀬佳史長官が県議会まで出かけて、「柏崎刈羽原発周辺の避難道路の整備に必要な費用は全額国費で負担します」と約束した。
これは他の原発ではあり得ない非常に大きい、スペシャルな支援です。他の原発と違って、柏崎刈羽原発に関して国は当事者です。当事者としての本音が出てきたということです。
もう一つ、東京電力が切ったカードは、新潟県への10年間で1000億円の資金拠出です。
東京電力が言及した1、2号機の廃炉検討については、同様のことを関西電力、九州電力、東北電力、中国電力も言っているので、それほど新しいことではありません。
しかし、1000億円の支援はとんでもない額で、他の原発では言っていないことです。多額の資金提供という、札束で頬をひっぱたくようないわゆる原発方式で、あまりスマートなやり方ではないと思いますが、地元メリットがないことへの東京電力の回答となります。
◆スマートなやり方があったはず
東京新聞の意見とは違うと思いますが、私はスマートな地元メリットのやり方があったと考えます。柏崎刈羽原発で水を電気分解して、カーボンフリー水素をつくり、地元に役立ててもらう方がよかったと思います。
たとえば、トヨタ自動車などを取引先とするピストンリング製造のリケン柏崎事業所(柏崎市)や三菱ガス化学新潟工場(新潟市)など水素が必要な大きな工場があります。こうした地元産業に向けて水素をつくることが地元メリットになると思うのです。
ただ、結局、札束方式のカードを切ったことが、県議会自民党の姿勢を変えたといえます。
橘川武郎(きっかわ・たけお) 1951年、和歌山県生まれ。東京大経済学部卒業。同大学院経済学研究科博士課程単位取得退学。経済学博士。東京大教授、一橋大大学院教授、東京理科大大学院教授などを経て、2023年から現職。
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