結局のところ一番足りてないのは
肉を集めながらえんやこーら
まさかサイナが人助けするとは思ってなかったし、予想よりも蠍の行動パターンが悪質だったのでよもや、と肝を冷やしたものだが………さすがは俺と自画自賛しておこう。とっさに多重的円周運動を利用したスーパー急がば回れアタックによってなんとか間に合った。これでサイナ破損とか好感度あげるどころか下手したらリセットからのマイナススタートだった。
「マス、ター………」
「涙の一つでも流せていれば完璧だったんだが……そもそも泣く機能ってあるのか?」
「要求:説明。契約者は意図的に回収を行わなかった」
そう怒るな怒るな。サプライズとジョークの合わせ技みたいなもんだろう。
「まぁ否定はしない。だけどそのおかげで身に沁みて自覚できたんじゃないのか?」
「…………」
え、マジか。あれだけ追い詰めて自覚できないの? それとも俺が教えるの待ち? まぁいいや、口で言えというのならお教えしようじゃないか。
「偉大なる先人曰く! 道具は死を恐れず、生に安堵しない!!」
死を損失と考えればそれを回避しようとする道具はあるかもしれない、だが自己の保全を認識はすれど「安堵」する道具は存在しない。まして、ガワが美少女なら日本人の八割はこいつを道具とは考えない!!
「お前は死を恐れた、エルマ型が今何機いるのかは知らんがお前で打ち止めってわけじゃないだろう。つまりいくらでも替えが利く……だがお前は自分が砕け散る事を拒んだ、そしてその顔を見ればわかる……今お前は生きていることに安堵している!!」
「それは、」
「生への欲望、死を恐れる本能。それは獣畜生から人間まで、それを考える知性とそれを支える自我を持つあらゆる知的生命体が当たり前に備えるものであり……お前の心に響くように言うなら、これを持っているなら即ちそれは知的生命体だ、使い潰す為の道具じゃない」
「……………」
死にたくない、まだ生きていたい。醜い叫びには生物としての全てが詰まっている。それを叫べるなら肉体を構成する物質が鉄だろうがカルシウムだろうが関係ない、そもそも魔力だけで構築されたどこぞの精霊が剣のオプションパーツ扱いでもエンジョイして生きている時点でサイナの悩みは考えすぎなのだ。
「水晶群蠍は「物」を無視するって知ってたか?」
「初めて認識する情報です」
「奴らは「敵」を撃滅するが百の同胞を斬った剣がその辺に刺さっていても無視する……だって敵じゃないからな。だがどうだ? さっきの蠍共は間違いなくお前を叩き潰すべく動いていた。それは地面に放置される道具だからではなく、お前が自分で考えて動いたことで「敵」として認められたからだ」
「敵として……」
「何より驚いたのはお前があのプレイヤー……もとい開拓者たちを助けたことだけどな、しらばっくれるなよあれどう考えても自己判断だろう」
「それは、契約者ならそうするかと……」
「えっ……………いや、絶対間違いなく確実に見捨てるけど。うん」
「……………………修正:契約者の性格情報」
いや助けるわけないだろう、笑顔で見送って念仏くらいは唱えてやってもいいが何で野良パですらない他人の面倒まで見なきゃいけないんだ。エムルだってそうするぞ、あいつが俺の頭上で「これも自然の摂理ですわー」とか言う光景が眼に浮かぶわ。
「……いや俺がどうするかはどうでもいいわ。大事なのは奴らを助けたのは間違いなく「俺の真似をしよう」と考えたお前自身の判断ってことだろう」
「…………一理は、あります」
「その割にはまだ納得していない顔だがな」
「肯定、します。当機はまだ、当機という存在のアイデンティティに、確信を持てないのです」
まるでサイナの叫びを聞くために水晶群蠍達すらもが黙り込んだかのような静寂の中で、サイナの声だけが響く。
「エルマ型とは即ちかつてのエルマ・サキシマの人格再現に過ぎず……」
「生後一年未満の赤ちゃんの人格なめてんのか」
「征服人形とは所詮再征服計画のための駒に過ぎない!」
「どうも、二号計画の再利用可能な捨て駒です」
「ここで当機が機能を停止したところで、また新しいエルマ型が稼働するだけではないですか!!」
「しゃらくせぇ! 今後何万体のエルマ型がロールアウトしようが317号機はこの世にただ一つしか存在しないだろうが!!」
全てはこれに尽きるのだ、こいつがどれだけ量産品だの替えが利くだのとしょーもない言い訳を重ねようと、その全ては「エルマ=317はこの世に一体しか存在しない」という純然たる事実で全て論破できるのだ。この先どれだけアップデートされたエルマ型が生産されようがウィンプを捕獲して撃墜されたエルマ型はただ一人だ、そこで偶然遭遇したこの俺と契約したエルマ型は317号機ただ一人だ。
そもそも一番重要なのは「そこ」じゃないのだ、こいつのアホみたいな曇り顔の本当の原因は別のところにある。ある意味一番シンプルな原因がな……!!
「いいかポンコツ、この際だからはっきり断言してやる、聴覚センサーをフル稼働して聞け」
びちん! とサイナの額にデコピンを一発入れてから息を吸い込む。
「───お前はただ生みの親に酷いこと言われるのが怖いだけだ」
「………怖い、だけ?」
「どうせあのラボに入ったら「所詮は征服人形とか道具にすぎまセーン」とか言われるとでも思ってるんだろう、そーゆーのなんて言うか知ってるか? 被害妄想って言うんだぜ」
そりゃ確かに親から「お前なんて産まなきゃよかった」とか言われたらショックだろうけどさ、だがそれでも前に進まなきゃいけないならやることは一つしかないのだ。
「お前に何よりも足りないのは勇気だ」
「勇気:」
「そうとも、事実を受け止める必要はない。だがな、死人の言葉なんぞに何故今を生きる俺達が振り回されないといけないんだ?」
引退した元プレイヤーの言葉を参考にすることはあっても律儀に守る必要はない、好きにやってなんぼのゲームだろう。それと同じだ、このビビりインテリジェンスはアンドリュー・ジッタードールが征服人形を道具としか思ってないかもしれないと過剰に怖がっているが、だからなんだというのだ。
何言われようが数千年前で常識が止まってる奴が今の征服人形を語るなって話でしかないだろう、あーでも耳障りのいい話は胸に刻んでやってもいいかもな。
「疑問:ではどうしろと?」
「知るかボケ、以上」
「……………は?」
「エゴ、アイデンティティ、インテリジェンス。呼び方はなんでもいい、そういうのは他人に評価されて決まるもんじゃないだろう。誰にどれだけ貶されようが他人事なんだよ、うるせーお前の評価なんて知るかボケで片付けとけ」
サイナの悩み、実は俺とて覚えがないわけではないのだ。主にクソゲー関連で似たような経験をしたことがある。
人間というものは不思議なもので、「このゲームはこのようにしてクソゲーだから買うのはオススメしない」と善意で忠告していた奴がいつのまにか「このゲームを買うやつは頭がおかしいのでバカにしてもいい」みたいな思考にねじくれることがままあるのだ。まさに知るかボケとしか言いようがない。
誰がどう評価しようが俺がプレイしたいからクソゲーを買うのだ。「こんなゲームを買うやつの正気が知れない」とか実際に言われたこともあるが、お前に正気の保証されたくてゲームやってるんじゃねーんだよバーカ!! まぁそれでもやった上でそうのたまってるならまだマシだ。酷い時は伝聞だけで評価するやつとか普通にいるからな………数字と通販サイトの文章でしかゲームを評価できないなら一生読書感想文と数独だけやってろって話だぜ。
おお、ドス黒い炎が俺を動かしている。負のモチベーションは時に正のモチベーションよりも強い火力を出す。両方一緒に炉にぶち込めば最強じゃね?
「お前に何より必要なのは事実を受け止める強さじゃない、事実をぶつけられてもそれをねじ伏せて踏みつける勇気だ」
だからこそこれが卒業試験だ。
「"皇金世代"がなんだ、蠍の王様くらい片手間でぶっ飛ばせなきゃ反抗期なんて夢のまた夢だ」
グレていこうぜサイナ、親と世の中に逆らって突っ張っていくのは楽しいぜ?
……後が怖いけど。
勇気があればなんでもできるって勇者ロボが教えてくれた