外道教師サンラクのワイルド授業
追加で分かったことがある、ご丁寧にエリア毎の蠍達は異なる戦術で攻めてくるってことだ。嘘だろスコーピオンズ、同胞ぶん投げ戦法を既に実用化して……!?
「サイナ地上を走れ! いいぜいいぜ盛り上がってきた! 奇策の使い方が上手いじゃねーか"皇金世代"!!」
「推奨:撤退」
「バカ言え! お前は答えが見えたのかよ!? 断行するぜぇぇぇえ!!」
大質量の落下は脅威だがそれが脅威になるのは逃げ遅れるようなすっトロいAGIしてる奴限定だろうがよ!!
機動力強化スキルフル回転! ファランクスじみた防衛網を強行突破して一気に進んでいく!!
「チッ、少しは頭が使えるようだな」
てっきり中継点個体は後方で潜伏しているものだと思ったが、防衛網を超えた先にいたのは器用にもスリーマンセルで同胞を投げ飛ばす発射台役の水晶群蠍だけだ。そして当然こいつらも水晶群蠍なので攻撃に転じてくるわけだが………
「ツーテンポは遅れたな、中継点個体からも見えづらい位置に俺がいるのか?」
となると、ここではなく………いやこっちか? おっと危ない、だがやはり対応が二手くらい遅れている。鋏の振り回しをジャンプで回避し、空中ジャンプで別個体による尻尾なぎ払いを走高跳の要領で回避。そのまま最初に鋏攻撃をした個体の背中に張り付いてウツロウミカガミ。退避した次の瞬間には他個体の一斉攻撃が哀れなデコイ君へと叩きつけられる……おっ、レアアイテムじゃん拾っとこ。
「補足ぅ!!」
「攻撃を開始しますか」
「当然! サイナ、一人であれ破壊できるか? 他の個体は俺が引きつける」
「……命令とあれば」
「じゃあ頼むわ」
ヘイカマーン親友達よ!! 悪いが授業中なんでな、指揮官に呼ばれてるとしてもちょーっと道草食ってもらおうか、ドレッシングは何がいい? 俺はお前らの血飛沫!!!
「骨の髄まで採掘してやるよ……!!」
剛掘の鶴嘴君……久しぶりに命を砕く感触を味わいたいんじゃないかい……? 安全マージンの取れた蠍なんざ動く鉱脈みたいなモンだぜ、命がけで損害度外視だからこそお前らは脅威だってことを思い出させてやるよ。
◇
NPCはあくまでもNPC、どれだけ人間に近い振る舞いをしていたとしてもそれはあくまでもゼロとイチに基づいた機械的な再現に過ぎない。
…………尤も、成人男性であっても1500グラムあれば大きいと言える脳みそで人間のアイデンティティが生まれるのであるならば、数十階はあるビル丸々一つを7つあるサブサーバーの一つとして使うようなゲームであれば、あるいはシャングリラ・フロンティアのNPCは人間よりも人間らしいのかもしれない。
「案外楽に倒せそうだな………ていうか予想外に楽だぞどうしよう。いっそ…………よしサイナ、残り二体の中継点個体は二手に分かれて倒すぞ」
鶴嘴を武器として運用し、現に何体かの巨躯を砕いていたエルマ=317の契約者サンラクは中継点個体……正式には儀仗個体が撃破されたことで命令が待機状態となって静止した蠍達の間を歩きながらそうサイナへと告げた。
「確認:当機単体での中継点個体の撃破」
「そんな難しくもないだろう、それにある程度距離が離れていてもインベントリアで収納できるのは実証済みだ…………いや便利すぎる気がするんだがなこれ、ナーフされてたらどうしよう。サイナ、一応同じエリア内なら収納可能だよな?」
「可能です」
「ならよし、いきなり無理になりましたとかやめろよなー」
なにやら「サイナ」の理解が及ばない独り言を呟いていたサンラクであったが、サイナとしては質問に対して嘘偽りなく返答する、ただそれだけのことだ。
「なら安心だ、お前の様子はこっちでも確認できるしもしヤバくなったら回収してやるよ」
「……了解:」
基本的にサンラクという開拓者は常に先頭を走らずにはいられない存在だとサイナは判断している。情報を先んじて獲得したい……というよりも、計画を立てて時間をかけてコツコツ、というものを根本的に好んでいないというべきか。思い立ったが吉日、善は急げ、尽きないリソースのそれでも残量を気にするような……生き急いでいるという言葉が似合う男、それがサンラクだ。
あるいはこの程度で果てに着くはずがないという信頼が、彼の足を動かすのかもしれないが………それでも、だからこそサンラクの指示にはサイナは疑問を覚えた。過去の傾向から見ても「さっさと他二体も潰すから遅れるなよ」と言われるものと推測していたためだ。
だが必ずしも一貫した思考を持ち続けることは意識的無意識的を問わず難しいもの、であればこういう指示を出すこともあるのだろうとサイナは了承し、サンラクとは別方向の統率のとれた「群」へと急行する。
(戦力推定:勝率0%……しかしながら特定個体の特定部位のみを破壊する、のみにオーダーを絞った場合を「勝利」と仮定した場合……勝率65%)
「賭けに出る分には不足ない数値ですね……「化粧箱」展開、双剣モード」
必要なスペックは本体の機動力を削がず、それでいて中継点個体の部位を破壊するだけの威力あるいは手数を兼ね備えていること。それ故に契約者に倣って双剣を展開したサイナは殺到する水晶群蠍の大群へと自ら歩みを進めつつも蠍達の「戦術」の解析を始める。
「直線的な挙動、しかしながら………妙ですね」
戦力の投入に違和感がある。というよりも、サイナが突っ込む前から既に軍勢が起動していたというのがそもそもおかしい。それは何故か……
「無理無理無理……ひぎぃっ!!」
「カナコちゃんが!!」
「やっぱレベル60じゃ無理だったんだってこれ! 死ぬしかないよーっ!! いやあーっ!?」
「ニュッキがホームランされたぁ!!」
「ゲームでも怖いぃぃい!!」
理由は単純明快、サイナが突撃するよりも前に水晶群蠍達を刺激した者がいるからに他ならない。
◇◆◇
これはあくまでも「もしも」の話であるが、この状況に直面したのがサイナではなくサンラクであった場合。彼であれば死にゆくプレイヤー達そのまま見守っていた、仮にその存在に気づかれたとしても「御愁傷様」と合唱することはあっても助けることはないだろう。
そしてそれはエムルであっても同様だ。ヴォーパルバニーというモンスターカテゴリに属する存在であるからこそラビッツの人語を解するヴォーパルバニーであっても、ある種野生のシビアさを備えているエムルは(二号人類がいくらでも死ねることもあって)基本的にはサンラクよりも自身の生存を優先する。
だが、サイナはそれを知らない。ウィンプを助け、聖女を庇い、多くのプレイヤー達と共にジークヴルムを踏み越え、バハムートに挑む姿からサイナは現時点でサンラクを「なんだかんだ他人の窮地を見逃せない人物」と判断している。
◇◇◇
だからこそ、サイナの取った行動は未だ存命の二人を助けるといったものであった。
「推奨:迅速な退避行動」
「誰!?」
「退避って……」
へたりこむ、という水晶巣崖では自殺行為とイコールな状態のプレイヤーが突如として割り込んできた人ならざる人形の姿に目を白黒とさせるがサイナとしてはそれに構っている暇がない。
「水晶群蠍の対処は請け負います。死亡による離脱を望まないのであるならば………っ! 迅速な、退避を」
「え、あの、え、どうもありがとう?」
もはやサイナはそれどころではない。そもそも最低限の対処で蠍の群れを突破し、中継点個体まで到達する為の双剣装備なのだ。少なくとも怒涛の勢いで殺到する水晶群蠍に対して殿を務める為の選択としてはあまりに不適切だ。
「ぐっ………損傷:中破」
そして、二手に別れる前はあの手この手でサンラクがヘイトの大半を請け負っていたという事実………あるいはこの群れの戦術が追討戦に特化していたという不運………そして装備の換装に一瞬とはいえ手間取った愚行………それら全ての積み重ねにより、サイナは水晶群蠍の一体に軽々と弾き飛ばされた。
「体勢の立て直し、を……」
だがそれを許さない。追討戦とは逃げる者を追い詰める為の戦いだ、休ませず逃さず……大地を削りながら振り抜かれた水晶の尻尾がサイナをさらに吹き飛ばす。
「損傷:大破……」
沈黙、これ以上の追撃を受けないためにも回避行動を取りつつ……気づく。
サイナの耐久はすでに残り三割を下回っている、それは別の場所にいるサンラクも分かっているはず。なのに…………サイナの躯体がインベントリアへと転送される気配が一向にない。
そしてサイナが今いる場所からサンラクへと言葉を送る手段はない。あるいは偶然サンラクが戦術機を使っていれば通信を使えたかもしれないが、刻傷のデメリットがある以上はその可能性もほぼあり得ない。
「待っ………」
エルマ=317は征服人形である。アンドリュー・ジッタードールが立案した「再征服計画」に基づいて稼働し、次世代原始人類の力となるべくその身を賭して働く機巧の人形。
仮にここでサイナが粉砕されたとて、だからどうしたというのか。317番目のエルマ型が喪失されるだけであり、既に征服人形と次世代原始人類がコンタクトを取った以上は「再征服計画」になんの支障もない。
水晶群蠍が迫る、無機質な眼は眼前のサイナがなんであろうと知ったことではない。皇の座す地に入り込んだものは全て等しく「敵」であり、それが人間だろうと人形だろうとやることに変わりはない。故に進撃し、踏み潰す……
「嫌……………………」
その言葉は、征服人形の口からごく自然にこぼれ落ちた。
「嫌だ……………!!」
紛れもない恐怖、あと数秒もしないうちにエルマ=317だったものが水晶の欠片と一緒に粉砕攪拌されてこの世から消え去ってしまうことに対する恐れ………何よりも、「終わり」に対する怯えが人形の身体をフリーズさせる。
死に瀕して知性持つ者が取る行動は二つ、足掻くか竦むか。サイナは後者であった。
そして、水晶の大波濤がちいさな人形を飲み込「はいストップ」まなかった。
◆
「ようサイナ、いいツラしてるぜ。スクショ撮ったけど後で見る?」
空中歩行と円周運動による加速を嵐の力でさらに加速させた旋風の一閃で統率者の肥大化した受信器を断ち切る。随分とまぁ人間臭い顔でへたり込んだサイナに向けて、俺はなんでもない風を装って話しかける。
七割くらい想定外の事態が起きるのは聞いてないぜ………!!
ちなみにサイナと別れた瞬間に速攻で封雷の撃鉄・災使って自分が受け持った儀仗個体を無効化して爆速シャトルランでサイナの方へと走って空中軌道の多重的円周運動+兇嵐帝痕・極の同時使用でブーメランみたいな感じで駆けつけた。
自分が飛び道具そのものになる系主人公という個性を大事にしたいですね
・カナコ、ニュッキ、ナス奈、そよよ
マジでなんの関係もなく水晶巣崖に突撃してきた四人パーティ、サンラクに同行しようとしたプレイヤーとは別。無知ゆえの蛮勇で突撃したが案の定球技大会された為に二人ほどホームランされていたが、偶然アイドル衣装のロボ少女に助けられるというレア体験をした。