神とて人なれば、確かに根付いた跡があり
八層。あえてこう言おう、【ライブラリ】の連中……馬鹿なことをしたなぁ、とな。
七層は二層の上位互換……確かに七層に到達した時はそう思った。だが実際は「モンスターの情報に関しての情報」が二層の上位互換、というのが正しい認識だ。では八層は? 答えは簡単、「神代人類の文明文化に関する情報」が集められた場所………つまりそういうことなのだ。
『ここは神代の叡智……貴方達を生み出し、後を託したかつての人類達の歩みそのものを保管したベヒーモス最大の記録保管施設です』
「その割に明らかに戦う用のフィールドが中央にあるように見えるが?」
『ええ、それがこの階層の試験内容に関係するモノですから』
試しにファイルを開く。わお、神代人類の食生活について纏められている。へー、むしろ末期の方がいいモノ食ってるんだな……成る程ね? 総数が減れば一人頭の配給も豪華になるってわけね。題材が題材なだけあってシャンフロの滅びにかける美学は半端ないな。
食文化だけじゃない、こっちは当時の農耕に関する技術についてのファイルだし……流石にゲームなので一つ一つの項目は一分か二分あれば読み切れるものだが数が数だ。
「で? 九層に行くのが目的じゃないってもう言ったよな?」
『ええ、ええ。覚えていますとも。アンドリュー・ジッタードールのラボは確かにこの八層にあります。ですが私はその道を提示しません、ラボに至る情報は……エルマ=317、貴女なら分かるのではないですか?』
「………」
『話を戻しましょう、この階層を超える条件は「この階層に存在するフラッシュメモリーで習得したスキルのみを使用して中央戦闘領域に出現する戦闘用人形を撃破する」事。どのフラッシュメモリーを使うかは貴方達の自由意志です……サンラク、貴方は既にフラッシュメモリーを使用したことがあるようですね』
「フラッシュ……? あー、晴天流か」
文字通りの意味で光って覚えさせるアレか。
……
…………
………………
「なんだここは、楽園じゃないか」
「ああ、磐斎氏こっち来たんだ」
「ああ、うん……意図的に「人」に関する情報が取り除かれてる感じがしたから進んでみたんだが……いやぁマジか、これ他の面々にも知らせないと巡り巡って何故か僕が恨まれそうだ。というわけで失礼、一旦ログアウトする」
来て早々にログアウトしていった磐斎氏を見送りつつ、俺は次のファイルを開く。このエリアどうやら晴天流の秘伝書のようなレベルアップせずともスキルを習得できるアイテムが何処かにあるらしいのだが……これが結構な難敵だ。
そもそも閲覧項目が多過ぎるというのもあるが、単純に戦闘に関する項目を調べればいいってわけではないようなのだ。
どうも神代の何時頃からか、初期型デバイスの魔力を利用して自身の肉体を強化する技法がそこそこ一般層にも浸透したらしい。
そのせいかボクシングっぽいスキル群だったりレスリングっぽいスキル群だったりならまだマシで、中には料理のスキル群だったりヨガもどきだったり……いやこれ確実にハズレ枠だろってスキルがちょくちょく出てくるのだ。
興味がないと言えば嘘になるが、既存スポーツ寄りのスキルは大体が対人想定なのだ。このシャンフロ世界では強い敵=デカい敵の方程式のモンスターがほとんどだ、かろうじて人型枠の殺戮の魔人ですら最終的にとんでもないことになっていたのだから顎やリバーを狙ったところで意味がない。
となれば理想系はやはり機動力、機動力に重きを置いたスキル群だ。
レイ氏が選んでいた「ジェラルド式改良型太極拳」なるものには俺も争い難い魅力を感じたが、資料を見た限りあれはAGI戦士とは相性がそこまで良くない。それこそレイ氏のような前線を張れる火力職が素手で戦う場合に輝く流派だ。ダメージ倍率は低そうだったけど装甲貫通はヤバくないか?
「機動力、機動力……機動力に関連してそうな検索項目ってなんだ……?」
ジェラルド式改良型太極拳は何故かレクリエーション関連のところにあったので油断ならない、控えめに言って【ライブラリ】百人くらい放流して情報整理してくれねーかなと思っているが五十人くらいは七層に永住しそうだしな……
「サンラクさん! 見てくださいサンラクさん! 忍者向けのフラッシュメモリーを見つけちゃいました!!」
「マジ? うわマジだ」
ニンジャ・アーツ疾風迅雷の巻……う、うさんくせぇ。
「どこにあったんだ?」
「娯楽項目でした!」
う、うさんくせぇ!!
調べてみたらアイテムの投擲を前提とした機動力系スキル群だった、うさんくさい割に俺の求めるニーズにそこそこ応えているのがむかつくなこれ。
もう少し調べてみるが、これで収穫が無かったら俺もニンジャ・アーツを選ぶしかない。何故か妙な緊張感を感じながらファイルを開いては流し読んでを繰り返していく。
うーん、医療系を探しても良いのがない。いや違うのか、フラッシュメモリーに登録されたスキル群は目的の違いこそあるがどれも共通して「そのカテゴリで使用する」という前提があった。であれば俺の求める機動力は「例えるならどこで使うのか」で考えた方がいい。
戦闘項目ではない、そっちにあるのは如何に始源獣勢力に効率的なダメージを与えるか、がメインの流派ばかりだ……じゃあどう避けるか、避ける前提のカテゴリ?
「……ドッジボールとか?」
いやそんなまさかあるわけ……あったわ。
いやマジか、ドッジボールにインスピレーションを得た回避メインの格闘術? 前後から挟まれている状況を前提として回避、受け止め、さらには自身の犠牲を込みにした脅威の減衰……いい、いいぞこれ、何が良いって習得できるスキルが機動力系メインなのが素晴らしい! ニンジャ・アーツよりは遥かにいい!!
「これだ、これにしよう。ええと、名前は……マクセル・ドッジアーツか」
いいねぇ、俺好みだ。
そこからの流れは早い。中央の戦闘領域にあったフラッシュメモリー用の機材に持ってきた流派を入れて網膜から脳味噌に焼き付ける。
「初期から四つ習得できるのか……ここでスキル覚えまくりとかやるやついそうだな」
『あまりお勧めはしませんがそれも選択肢の一つでしょうね』
「勧めない理由は?」
『二号人類のスキルシステムにはレベルによりますが上限があります、フラッシュメモリーによるスキルインストールは手っ取り早い手段ではありますが、拡張性がありませんし経験習得型のスキルの成長が妨げられるデメリットもありますので』
「良し悪しって感じだな」
『晴天流のような拡張性を持つフラッシュメモリースキルというものは案外貴重なのですよ』
「ふーん」
ステータスを開いて習得した四つのスキルを確認しつつ俺はコロシアムの中で戦闘用人形を掌底で吹き飛ばすレイ氏を観戦する。
とりあえず覚えたのは……
・多重的円周運動
・螺旋的確保挙動
・副次的防衛挙動
・相対的立体運動
の四つか。
ちとクセは強いが光るものはある、あとはその光をどう活かすかってことだろう……攻撃スキルが無いのはご愛嬌ってことで。
「制限はスキルだけだろ?」
スキル無しで殴る分には何の問題もないって事だ。戦闘用人形にとどめを刺したレイ氏がコロシアムから出たのを確認し、この階層にあるもう一人こと秋津茜が
まだコロシアムに挑むつもりがないのを確認してから中へと入る。
「さて………ん? なぁ一ついいか「象牙」」
『答えられる範囲であるなら』
「あの戦闘用人形ってさ……」
比較すると似ても似つかないマネキンもどきだが、妙に女性的なフォルムだったり球体関節であったり……いやもしかして、もしかしなくても
『ええ。正式量産される以前、試作期の征服人形システムを流用したものですよ。程よく強く程よく弱く、この試験を行うにあたって丁度良かったもので』
「お前、本当……そういうところ直さないとそのうちラスボス扱いされるぞ」
あーもうどうしてくれるんだ、ウチのサイナさんの顔が曇りまくりじゃねーかよ。
・マクセル・ドッジアーツ
神代人類マクセル・ポートマンが考案した生存能力に重きを置いた格闘術の一種。ドッジボールにインスピレーションを受けたそれは前後を敵に挟まれた場合を想定した回避運動、及び敵の攻撃に対する受動的アプローチを突き詰めている。
基本的に「複数人」でチームを組んでいる前提のスキルなので単体運用もできなくはないが本来の運用ではない。
・ニンジャ・アーツ疾風迅雷の巻
Mr. ニンジャマン(ペンネーム)が執筆したエンターテイメント用のモーション指南書。あくまでも娯楽としてのヒーローショーなどで使う前提なのだが、演劇用の小道具を実際の武器に変えれば戦闘技術として流用することも可能。
最大の特徴としては見た目の派手さ……ではなく、不測の事態が発生した場合における受け身などのリカバリが充実している点。衆人に安心して楽しんでもらうのならば、何よりも本人がまず安全でなければならない。