戦力比の天秤は派手に傾いて
マクスウェル8-1と名付けられた人造の竜が吠える。
バランスボールに頭と翼と前脚後脚、あと尻尾を生やしたようなずんぐりむっくりな身体はプレイヤー達によって「こいつならいけるんじゃね?」と思わせていたが……後々から知ったのだが名前の「8-1」部分って第八回の試行で環境の頂点、一位になったって意味らしい。繰り返すなぁ!!!
つまり何が言いたいかというと、このおデブちゃん、アーマードケルベロスより強いらしく。
「無理無理無理! 何あの近接殺し!! ジークヴルムだってもう少し有情だったぞ!?」
「予備動作を割り出せ! あのフィールドに捕まったらほぼ即死だぞ!!」
「ヒーラー助けてぇぇぇ!!」
「範囲回復を使う! 回復希望は固まれ!!」
「て、手応えを感じない……」
「二人死んだ!!」
「おごごごご!!?」
「ひぃっ! 頑張れ赤ちゃん!! お前が死ぬと後ろの五人がまとめて死ぬ!!」
デブ猫みたいな体型してる割に数秒触れているとスリップダメージでタンクが即死するフィールド展開、歪に生えた爪による多段ヒットパンチ、3Wayかつディレイが織り交ぜられたブレス攻撃。
プレイヤー達の悲鳴をどこか他人事のように聞きつつ、俺も俺で自分の仕事を遂行するべく足を動かす。
「よっしゃあ!! かかってこいやクソギンチャク!!」
ニュートン6-2、そう名付けられた触手生物が先程から延々と己の前を飛び続ける羽虫に対して攻撃を加える。
だが数十数百はありそうな触手一本一本を個別で動かすのではなく、十本くらいを絡め纏めて一撃として叩きつけてくる。ならば回避はそう難しいことじゃない。
別にワンマンプレイをしているわけじゃない、マクスウェルと戦ってる最中に誰かがヘマしたのかそれともこいつが勝手に気づいたのか、いきなり乱入してきたのだ。
で、刻傷のパッシブ効果で格上から狙われやすい俺が単独離脱してニュートン君とじゃれあってるわけなんだが……これがまぁ中々に面倒臭い。
ニュートン君は触手生物らしく体表が粘液でヌメヌメしているのだが……この粘液、恐ろしく滑る。具体的に言うとこの俺のステータスでクリティカルを外すくらい攻撃が滑る。
「しかも、お約束みたいに酸性だしさぁ……!!」
対クリティカルに特化した防御力、巨体故のタフネス、そして近接攻撃に対するウェポンブレイク……!!
こんな偶然あり得るのか? こいつの性能尽くが近接クリティカルアタッカーに対する完全解答、上位互換性能で殴ってくるオルケストラよりも尚シンプルな天敵……!!
いやまぁニュートン君、クリティカル対策と近接対策はしてるけど高速戦闘に対応してないからスキル無しの動きでも対処余裕なんだけどね。千日手という奴だ。
「まだかー!!」
サイナやエムルがちまちまと有効打になり得る魔法攻撃(あるいは魔力由来の攻撃)を加えているが、まぁ焼け石に水だろう。
いやもうだって見るからにタフい見た目してるもん、触手を束ねてスカートを履いた人型みたいになっているけどその人らしき形をした上半身がどう見てもマッチョだからね? もう雰囲気からしてVITが高い。
阿鼻叫喚の様相を呈しているマクスウェル戦の方だが、それでもやはり最前線プレイヤー達だ。クソみたいな即死オーラがどのタイミングでどこまで広がるのかを把握し、攻勢に転じている。
一応俺も何回か攻撃しているのでクリア条件は満たしていると信じたいが、最悪どうにかしてニュートン君を倒す必要があるな……
「一応魔力弾が通ってるのは救いといえば救いか……」
焼け石に水どころか水滴垂らしたようなダメージしか入ってないが、一応俺名義で買ったリヴァイアサン製武器とか色々あるのでやってやれないことはない……筈。
「部位が分からねぇんだよ……っと!!」
人の形こそしているが見た目通り頭(推定)が弱点とは思えない、下手に蛮勇を見せるよりもヘイト管理に努めた方がいいだろう。
おかしいな、なんで俺だけこんな隔離措置になっているんだ? 大規模戦闘ってもうちょっとこう……あるだろう? 協力とかそういう……あれ、おかしいな? いや気を取り直して戦いに集中だ。
だが何故かソロで食い止めさせられている事とはまた別の理由で思考に引っ掛かりがある。
「……アグアカーテ、やっぱりがっかり武器なのでは?」
あまりにも火力貢献がゴミすぎる、隣でサイナがぶちかましているガトリングのダメージエフェクトと比べると口径とか火力とか以前の問題なのが悲しみを誘う……いやしかしちょっと気になるので例のブツを取り出す。
「ウィズダムウェポンシリーズ!!」
多機能型魔力弾頭形成銃装? 正式名称なんぞいちいち覚えていない、だが通称くらいは覚えているもんだ……リヴァイアサン第五殻層で獲得可能なライセンスと四層で戦ったウィズダムガードのデータを使う事で製作可能なピカピカ新品の遺機装!!
「大喰らいめ、役に立たんかったらお前はヤシロバードに売り飛ばす……貫け【STING】!!」
銃ガチ勢さんが大絶賛していたゲーム特有のウィンドウ操作や試行操作ではない、実際に銃の機構を操作して射撃モードを変更するこの遺機装:リヴァイアサン【STING】は専用の魔力弾倉を装備することで三種類……いや、アレも含めて四種類の魔力弾頭を発射できる。
形だけ見れば弦のないクロスボウのような分厚い銃器、それが今一本の槍が如き弾頭を形成。そしてどういう原理か網膜に直接投射されたUIの中、残弾数を示す「0」が「1」に増えた。
弾数上限一発、三つある射撃モードの中でも最強の貫通力を誇る特殊弾頭……モード「槍弾頭」!!
「触手生物め、筋肉ムキムキでも骨は通っちゃいねーだろ!!」
発射!!
銃口から飛んで行った釘のような槍弾頭はサイナの攻撃にニュートン君が意識を逸らしたその隙を縫うように胴体部分に着弾。粘液など知らんとばかりに触手をぶち抜き、奥へ奥へと突き立てられる。
そしてどうやら触手集合体であっても体内に釘を撃ち込まれるのは堪らないらしい。初めて見せる苦悶の蠢きにこれが有効打になるということを確認した俺は次弾装填に……
「サンラクさーーーーん!! マクスウェルを倒しましたーーーっ!!!」
よし撤収!! 命拾いしたなニュートン君! 俺急いでるんで、じゃあな!!!
他にもシュレディンガーとかオイラーとかいる