我が階を塞ぐ者、その一切を撃滅せん
こんな物騒なサブタイトル、一体誰が活躍するんだ……
◇
跳んで、駆け抜けて、滑り抜けて、ワープして、ワープして、一歩下がる。
今起きた現象を説明するとすればこのような感じになるだろうか。次の階層に消えた男の影を探すように「通路」を見る者達の心は今、一つになっていた。
即ち、
「参考にならねぇ……」
この一言に尽きた。
「いやマジでなんなんだ今の動き、同じ軽戦士系だし真似しようと思ってたのに」
「転移魔法とか覚えてないんだが!?」
「スクロールあればいけるだろ」
「いや最後スクロール使ってなかったよな?」
「あのマントが魔法の発動を代理してるとか? 苦行剣みたいに」
とはいえ、クリアはクリアである。そして最後の最後にとんでもない初見殺しがあることが発覚したこともあり、プレイヤー達の攻略談議は俄然盛り上がる。
「やっぱ最初の飛び石は駆け抜け正解なんだな」
「これタンクも鎧脱いで走った方がいいな、速度とかじゃなくてレーザー避けるために」
「瞬間転移はわりと盲点でしたね……使い捨て魔術媒体と併用すればリキャスト関係ないし」
「ていうかなによあのギロチン!」
「ゴール前で気が緩んだところをスパッと……」
「気付いていればそんな怖くないって」
「ていうかさっきからあの帽子、インベントリに仕舞わずに地面に置いたり変だと思ってたけどやっぱあれ兎じゃん! あの人何持ち込んでるの!?」
そうそこだ、とサイガ-0は考える。世間一般ではサンラクとエムルの関係はテイマーとテイムモンスターと思われているが、同じ状況にあるサイガ-0はそれが間違いであることを知っている。
その上でサンラクとエムルが同時に次の階層に進んだということはつまり。
「……秋津茜さん」
「え? ……あっ! サイガ-0さん! 聖杯の効果ですか? 姿が違ったので分からなかったです!!」
「そう、ですね………その、一つ試したいことがあるのですが、協力してもらってもいいですか?」
「もちろん!」
……
…………
「ん? あれ今二人で入らなかったか?」
第二のクリアを目指して何人かが脱落した中……攻略談義に花を咲かせていたプレイヤーの一人が呟いた言葉に会話相手達も顔を上げれば、そこにはこれまで一人しか入室できないと考えられていた通路に立つ、二人のプレイヤー。
「ドラ姫ちゃんと……誰?」
「サイガ-0って……あれ、最大火力って男アバターじゃなかったか?」
「性転換アイテムでしょ、クターニッドの報酬にあるって話だし」
「でもなんで今……? ていうか複数人で入れたのか」
狐面の忍者と、顔の半分を異形の仮面で覆った騎士。双方少女アバターであることを差し引いても衣装の世界観がちぐはぐなタッグである、だがその様子は「二人で入ることができたから検証終了」といった様子ではない。前を、通路の最奥にある扉を見る様子はクリアを目指す者の目だ。
◇◇
「……行きます、秋津茜さん」
「はいっ!!」
素体が女になったからといって、サイガ-0というアバターが明確に弱体化したわけではない。その膂力も、スキルも、魔法も……性別変更前からなんら変わりはないのだ。それ故に一人通過した時点で足場が崩落する第一関門、飛び石エリアの攻略法は極めてシンプルかつ力技であった。
「っ!!!!」
「ジャーンプ!!」
サイガ-0が取り出した大盾を斜めに構え、それを足場にした秋津茜が物理的に飛び石エリアそのものを跳び越える。そしてサイガ-0が飛び石エリアを利用して先に進む………この時点で二人組になる必要性の薄い攻略模様であるが、本題はここからだ。
「確か、忍者ジョブには……パーティメンバーの攻撃と同化できる「朧隠」という魔法が……ありました、よね?」
「はいっ! 私も覚えています!!」
「なら…………」
サンラクが力技で突破するならば、サイガ-0の選んだ方法は頭を使った結果力技になったとでもいうべきか。
太極の剣を構え、サイガ-0というアバターが習得している魔法の中でも見た目の派手さにおいてはトップクラス……太極の剣固有の奥義に見た目だけは匹敵する魔法を発動する。
「秋津茜さん、奥まで走ってください……私が道を拓きます」
この攻略法の根拠はただ一つ。決して少なくはない失敗者達による試行の中で、とあるプレイヤーが刃を向ける形で振り子を防いだ時に防いだ剣だけではなく振り子刃の方もわずかに欠けていたのを目撃したから……ただそれだけの根拠でサイガ-0は秋津茜にこの危険な一直線を全力疾走させようとしている。
「───蒼天を見上げ、手を伸ばす。されど我が身は地に重く、この身が振るうは重塊錬武。」
考察に確証があるわけではない、だから……成功にたどり着くために必要な要素全てを純粋な力で押し通すのだ。太極の剣に蒼光が宿り、サイガ-0からMPを吸い上げて光はより激しく凶悪に輝きを増す。
両手持ちかつ重量級の武器を「発動条件」に含む魔法の中でも珍しい魔法使いではなく完全重量級魔法戦士向け魔法流派「輝天魔操流」が二大最終奥義の一つ。
「ならば天よ、空よ、刮目せよ。我が一撃、地より始まり天を撃つ。天空に描け我が道を!!」
それは地より天に伸ばす剛撃の階。
「……【輝天へと続く階】!!」
全力のスイングと同時、大剣から放たれた極大の光が哀れな犠牲者を待ち構えていた通路のギミックをブチ抜いて突き進む。
消費MPが任意ということもあり、サイガ-0の持つMPの八割を注ぎ込んだ破壊の光は刺のギミックを吹き飛ばし、レーザーを掻き消し、勢いよく開閉するシャッターを貫通し、振り子の悉くを粉砕し……
「刃隠心得!【朧隠】!!」
光が穿ち、作り上げられた輝ける道を走る影一つ。
パーティメンバーの魔法攻撃によるフレンドリーファイアを完全無効化し、さらには魔法そのものに「擬態」する事で敵に近づく移動用の魔法によって【輝天へと続く階】の中に溶け込んだ秋津茜が一直線に前へと駆け抜ける。
開拓者の身を貫く棘のトンネルは飛び出した端から光に消し飛ばされ、秋津茜を止めることができない。
開拓者を斬り裂くレーザーの網はさらに高出力な光を貫いて網を張る事が叶わず、秋津茜を絡め捉えることができない。
開拓者を挟み断つシャッターの罠はその防御力そのものを亡きものとされ、秋津茜を素通りさせてしまう。
開拓者を阻み、吹き飛ばす筈の振り子は……もう一つも残っていない。振り子とは必ず往復運動をするもの、即ちどうあがいても攻撃に当たり続ける、逃げられない。
それ故に秋津茜が通る頃には単なる一本道と成り果てた。
そして真に最後の関門、安堵を断ち切る断頭の刃は……
「分かっていれば引っかかりませんよ!」
あっけなく避けられ、秋津茜はある意味サンラクよりもあっさりと通路の果てへと到達したのだった。
「やりました!」
「……」
通路の向こうでぴょんぴょんと跳ねながら喜びを表現する秋津茜へ無言で頷いたサイガ-0は懐から一本の投げナイフと紙の筒……スクロールを取り出す。
「………」
【我が身を盾に】、パーティメンバーが攻撃対象になった際、自身をその攻撃を庇う位置に転移させる事が出来る転移魔法。本来はサンラクがピンチになった時に颯爽とカバーする為に購入したが……サイガ-0の想定以上にサンラクがその手の援護を必要としなかったこともあり、使われる事なく死蔵されていた悲しい曰く付きの使い捨て魔術媒体である。
そしてこの魔法には一つ、面白い使い方がある。
攻撃に反応して発動するこの魔法は、攻撃者の敵対か否かを問わない。つまりサイガ-0がフルパワーで投げた(投擲系スキル込み)投げナイフがパーティメンバーたる秋津茜に向かいさえすれば……
「痛っ」
「わ、大丈夫ですか!? 思いっきり顔に当たってましたが!!」
「あ、いえ……仮面の方に当たったので、ダメージは殆どないです」
いわゆる小技、自作自演ワープによって一瞬でゴール前に到達したサイガ-0の顔に当たった投げナイフがからんと地面に落ちた音が、壊滅した通路にやけにはっきりと響いた……
外から見てたプレイヤー達「参考にならねぇ……」