第一階層基礎テスト「どう通る?」
約束はちゃんと果たします(予告通りの更新)
なんというかこう、リアルでもちょくちょく一緒に登校しているのに……ましてゲームだというのに何か異様な緊張感がある。
それは女装備用に形の変わった双理の鎧が少々過激なデザインだからなのか、それともフルフェイスの兜から顔の左半分を覆う仮面のような形になった双理さん(暫定)とちょいちょい目が合うからなのか……
未知の肉食獣みたいな形をしていた男用装備時の時とは異なり、なんというか今は化けの皮が剥がれた人間に擬態していた何かみたいな。
眼球に瞳孔が三つくらいある怪物の目が明らかにレイ氏の意思とは無関係にこっちを見てくるのでなんというか奇妙な緊張感がある。
「……あの」
「んぇ!? 何?」
「その、やっぱり……変な格好、でしょうか」
「いやいやいや、気にしてない気にしてない」
レイ氏の左目がぎょるんぎょるん回っているのが激烈に気になるのでそれ以外が気にならなくなってきた、というのはある。
と、やけに人が少なくなった第一階層を歩いていた俺たちは、プレイヤー達がどこに行ったのかを知ることになる。というか彼らが向かった「どこか」に到着したとも言うが。
「行けーっ! そこだーっ!」
「あーっ、落ちたーっ!!」
「いいとこまで行ったんだけどなぁ」
「次誰行く?」
「俺に任せろ」
「いやタンクには無理だろ」
「そうとも限らない、流石に軽戦士しかクリアできないってわけじゃないだろう」
「いやでもこいつAGIとDEXマジでゴミなんですよ」
「20あれば実質カンストみたいなところあるだろ」
「……もう少し、攻略の糸口が見えてから挑戦しようか」
率直な感想としては「何やってんだこいつら?」だ。
なんだろう……2Dの横スクロールアクションを3Dにしたような謎のアスレチックに挑むプレイヤーをその他で観戦しているというのは分かるんだが、おかしいなここはベヒーモスであってリヴァイアサンではなかったはずだが。
「なにこれ」
「あ、ツチノコさん……って、何かデカくなった?」
「ニューバージョン、グラップルフォーム的な」
「へー」
あれおかしいな、後からキャラメイクってもっと注目されると思ったんだが。なにその「まぁそういう事もあるのか」みたいな……いや俺個人が関節バキバキ曲げてるわけじゃないんだが!?
「で、これなにやってるんだ炸裂グリンピース姉貴」
「私は生まれてこの方一人っ子よ、なんでもこれをクリアすると次の階層に行けるんですって」
「……「象牙」、ベヒーモスはいつからアミューズメントパークになったんだ?」
『全ての階層間「試験」は貴方達を試すための検定なのです、この一階層では基本的な運動能力及び基礎知能テストを兼ねています』
「なるほどつまりこの程度簡単にクリアしなきゃお話にならないと」
既に何人かその「お話にならない」人がいるっぽいんだが……いや、何も言うまい。
とりあえず見た限りでは一直線の道を通って最奥の扉に辿り着けばいいらしい、ただその道中に大量のトラップというか障害物が設置されているが。
「トゲに、レーザーに、扉に、振り子の刃?」
「逆にレトロですらあるわね」
「ふむ……」
あ、普通にトゲ刺さるんだ……いやあれレーザーが肉体通り過ぎてるって事は崩れ落ちてないだけでスパッと行ってますよね? 振り子はタイミングを見れば行けるか? あー惜しい。
……これ順番とかあるのかな? いや立候補制かな? 見た限り先発の人柱達を見て攻略法を皆探しているっぽいな。
「成る程成る程……なあ「象牙」、あの扉の前に着いた時点でクリアなのか? それとも他に何か条件があるとかじゃないだろうな?」
『あくまでもここは基礎的な知能、運動能力のテストですよ』
雑にはぐらかしおってからに、だが見た限り……んー?
「……次俺が挑戦していい?」
「おお、ツチノコさん行くのか」
「最速ホルダー!」
「よせやい照れる」
頭装備がぷるぷる震えているのがダイレクトに伝わってくるが、安心しろと軽くぺふぺふ叩いておく。見てて分かったがこのデスロードは恐らく特定のラインを超えた瞬間にギミックが作動するタイプだ、つまり踏み込まない限りは起動しないし……逆に言えば踏み込んでから起動するタイプと見た。
つまり何が言いたいかってーと……ギミックの形状、挙動、速度を踏まえた上で俺の機動力ならいけるんじゃないかって事だ。
「跳んで、避けて、突っ切って、飛び込んで……オッケー、チャートは既に完成した」
「サンラク…君、その、頑張ってください」
「ん、ありがとう。レイ氏はこれ行けそう?」
「あ、えと、大丈夫です。少し、試したいこともあるので……」
どうやらレイ氏も何やら攻略の目処は立っているらしい。であるならば俺は俺の心配だけしておこう。
封雷の撃鉄・災をスタンバイ、スキルの発動順を脳内で組み立てていると、俺の一つ前に挑戦していたプレイヤーが振り子の刃にぶっ飛ばされた事でついに手番が来る。
ガラスのように中と外とを隔てていた入口の障壁が消え、俺と頭装備が入った時点で再び障壁によって中と外が隔てられる。というかエムルはいいのか? まさかマジで頭装備判定ではあるまいし……流石はシャンフロシステムと言えばいいのか?
「しっかり掴まっとけよエムル……だがまぁ安心しろ」
大体50メートルか……
「五秒だ」
「も、もう少し手心を加えて欲しいで」
エムルが残りの「すわ」を言う前にスタート。悪いがスタートを告げる空砲は俺の心の中で鳴り響いた、どうしても聞きたいなら読心術を習得してくれ。
「っ!!」
まず第一関門、シュレッダーで紙をバラバラにするように人間をミンチにする圧殺ローラーの上に浮遊する足場を最初の一枚と最後の一枚、歩数にして二歩で踏破してクリア。
五秒あればどれだけ時間差でスキルを使っても効果時間は重複する、あとはどれだけまっすぐ迷いなくスキル発動を思考できるかにかかっている。
第二関門、トゲが上下左右から飛び出す死のトンネル。スキル起動、トゲが飛び出すよりも先に速度にモノを言わせた強行突破でクリア。トゲが出るまでの速度が妙に遅いなとは思っていたが、やっぱり素通りできた。
第三関門、道を×印に塞ぐレーザー。逆に言えば上下左右は通れますって事だ、スライディングで下を潜り抜ける。
そして過剰伝達はあらゆるアクションに適用される、であればレーザーの股下をくぐり抜けた後に両手で体を持ち上げるという動作は黒い雷によって増幅され、「身体が勢いよく跳ね起きる」というアクションとなる。
俺が次の関門へと走り去る頃、ワンテンポ遅れて後ろでレーザーが通行不可能の壁を形成した。遅い遅い。
次、第四関門は勢いよく閉じては開いてを繰り返し続ける扉……いやどちらかというとシャッターか。その速度は並大抵ではない、閉じて開いての一往復が大体一秒なのだから如何に高速で走っていたとしても一度止まった方がいいのかもしれないが……
「甘い!!」
真界観測眼起動、一秒間に何回開け閉めしようがこちとら世界最速の幼女が師匠だ。この程度遅すぎてあくびが出るぜ、そしてスタート地点から走り出した時点ですぐに取り出せるようウィンドウを操作しておいた使い捨て魔術媒体発動!! 実行される魔法は……
「【瞬間転移】!!」
肉体が消えて、現れる。短距離にしか転移できない魔法であっても、扉一枚を超えるだけなら大した苦労もない。そして最終関門……勢いよく揺れる振り子の刃、その数十枚! そして厄介なのはそれぞれの揺れ方に法則性がないことだ。
上手くやれば回避できるかもしれないが、恐らく刃ごとに揺れる速さが違う。さっき挑戦してた奴らのプレイを見ていたから気づいたが……ある種力技で突破できる関門しかなかった、だからこそシンプルなタイミングずらしが遅効性の毒として立ち塞がるわけだ。
だが甘い、甘い! 甘いんだよ!! 先程の使い捨て魔術媒体は右手で操作した「インベントリ」から取り出したものだ。そして別枠の収納だからこそ左手で「インベントリア」を操作することが出来る! これぞクソ地道な練習の賜物、奥義「ダブルブラインドタッチ」!!
「知ってるか? 使い捨て魔術媒体と自前の魔法は連続で使用できる」
発動形式が違うからリキャストの概念が適用されない、万が一にもマントが背後のギミックに引っかかるようなことがあっては不味いと装備せずにしまっていたが、この一瞬が勝負どころだ。
インベントリアから取り出した瑠璃天の星外套を纏い……記憶させていた【瞬間転移】を再び使用する。即死級振り子ブレードが何枚あろうと関係ない、重要なのは魔法の射程圏内ギリギリが振り子刃最後の一枚よりも頭一つ分くらい離れているってことだ。
即ち二度目の瞬間転移で十枚の刃を全てスキップしてしまえばどれだけ高速で揺れていようが関係ない、背景オブジェクトと同価値かそれ以下だ。
「これでクリ───」
「サンラクサン上ですわっ!?」
「何っ!?」
見上げると、そこには上から落ちてくるギロチンの、ぉぉおおお!!?
……
…………
「……………エムル生きてるか?」
「……………生きてる心地はしないですわ」
もし僅かでも前にいたら……文字通り一歩間違えていたならばエムルごと俺を両断していただろう即死トラップは、しかし実際は俺とエムルの鼻先を掠めて地面に突き立てられている。
そして最後の関門が幻のように消えれば……そこには第二階層へと続く扉だけが残った。俺はこの五秒間の出来事を見ていたオーディエンス達に向けてゼスチャーを送る。
お先に失礼!!
双理の鎧は別に勝手に動いてるわけじゃないんですよ
装備したプレイヤーの心拍などを参照して仮面から生えた眼球を動かしたりしているので、要するにヒロインちゃん自身がキョドってるから双理の鎧さんもちらちらサンラクを見てしまうという……