母なる地にて灯火は始まりを知る
『抑制進化機構クェンチ・エヴォリューション・ドライブ。識別コードは「Q.E.D.」……神代において生物としてこの星に人類が定着できないと結論づけられ、その果てに生まれたのがこの技術でした』
穴の壁面に大量の試験管があるというなら、それを裏側から見ればやはり同様に試験管があるという事だ。
アカウント登録して内部に降りた俺達へと「象牙」は語りかける。
『この星における旧人類種の強制反応を抑制する臓器の増設のみならず、それを生態に組み込む事で新たな人類種として定着させる……それこそが貴方達とは異なる人、我が手を離れ「根付いた」ヒト……』
要するにNPCの事だろう。
だがその言葉に待ったをかけたのはキョージュだ。こっちもこっちで「知る」「教わる」事が楽しくて仕方ないのか、ここだけ切り抜くと年相応に見える顔で「象牙」に質問を飛ばす。
「では我々は? 貴女の言う赤子として生まれ、死にゆく彼らが根付く者だとすれば我々は突如として現れ、そして老いずして去る者だ」
『良い着眼点ですねキョージュ。厳密に言えば一号計画そのものは3000年前の実行と、その後千年間の経過観察により既に達成されています。今稼働しているQ.E.D.は全て「二号計画」のみを実行しています』
二号計画、断片的だが少なくともリヴァイアサンを攻略しきっていないほとんどのプレイヤーよりは俺は物知りだ。
「二号計画……リヴァイアサンのところで資料を見たぜ、生まれついて「役割」と「人生」を持って生み出される人類種、そうだろう?」
『素晴らしい、よく学んでいますねサンラク。これはご褒美です』
5000リザルトを手に入れたぞ、やったね。やはりバハムートごとに通貨の単位が違うようだな、リヴァイアサンでアホほど荒稼ぎできる三層がある時点で予想はしていたが。
『まずは先に言っておきますが……貴方達は環境踏破、一号人類が長い時をかけて育む強さを生まれつき持つ事でより効率的な惑星開拓を期待されて生み出された存在です』
「そんな、俺に赤子時代がなかったなんて……!!」
「いやお前は現役でオギャってるじゃん……」
「ミルクの温度には気をつけてくれよな」
「知りたくなかった友人のこんな一面……」
デカい赤ちゃんだなぁ……
『マナ吸収、肉体還元の効率は一号人類の上位互換であり……噛み砕いて言えば「努力が必ず報われる」肉体を持つのが貴方達です』
なるほど、言い得て妙だな。仮にNPC……一号人類をこの世界における「一般人」だとしたら努力にも限界があり、何より命という絶対的限界がある。
だがプレイヤー……二号人類は違う、レアアイテムのために命を投げ出せるし死んでも何分か調子が悪くなるだけで蘇生する。
『反面、この世界に存在する……前へ進むという「意思」が減衰してしまうと消滅するというデメリットは解決しきれませんでしたが……』
「しれっと欠陥生物扱いされた?」
「まぁほら、引退=死みたいな事なんだろ」
「あー、半年くらい間隔開けてログインすると親密度上げたNPCでも「誰お前」されるらしいからな」
「それを差し引いても半不死身生物だからなぁプレイヤー」
流石にこのゲームへ本格的にのめり込んでいるプレイヤーがいたとしても普段からプレイヤー、NPCを問わず「開拓者ならちょっとくらい死んでも大丈夫だろ」扱いされているのでそこまで衝撃をもたらすわけではなかった。
だがそれはそれ、疑問を疑問のまま保存できない奴がいるわけで。
「では我々は捨て駒であると? 話を聞く限り二号人類とは一号人類の繁栄を助ける為の存在にしか思えないが……」
『それは違う、違うのですよキョージュ。貴方達は開拓者である前に一つの生命なのです、それだけは忘れないで……貴方達の尊厳は他でもないこの「象牙」が保証しましょう』
「しまった、哺乳瓶も作るべきだったか」
「台無しだよバカやろー」
おしゃぶりさんの心の中の何かタガが外れ始めたのか、段々と人格が暴走し始めているのを尻目に俺は「象牙」先生による道徳の授業から抜け出してベヒーモスの真の一層を見ていく。
「これが現在進行形でキャラメイク中のプレイヤーか……」
名前は……せ、精霊王グランフェアリオン……さんですか、はい。随分と個性的な初心者だ。頭から三本も角が生えてるちょっと個性的なアバターの体型が試験管の中でコロコロと変わっている。
どうやら男にするか女にするか迷っているようで、試験管の中で発生した泡で肉体が隠れる度に性別が変わる精霊王グランフェアリオンさん(Lv.1)から視線を外す。まぁ精霊の王にだってレベル1の頃はあるさ、種族二号人類だけど。
「ねぇ、あれなんだと思う?」
「炸裂グリンピース姉貴」
そろそろキレられそうだな、ええと何々……
「空の試験管に見えるわよね?」
「ついでに言えば扉付きだな」
『それは再計算の為の装置ですよ炸裂グリンピース、サンラク』
「ふっぐ………っっ」
せ、せっかく俺が名前弄りを控えようとしていた矢先に「象牙」がぶっ込んできやがった……いや、向こうにそういうつもりはないだろう。「象牙」は姉貴の本名を呼んだだけだ、炸裂グリンピースという本名をな……。
「再計算?」
『その通り。Q.E.D.はバトンタッチ計画の一端、次世代型人類種の創造の為に製造され、このベヒーモスに搭載された装置です。フラットステータスの人類種……すなわち一号人類、そのの「最少集落」を東大陸全体に設置し、さらに新大陸の座標を基に同様の転送を行なっていましたが……そのプロトコルが終了した時点で、二号人類の生産作業を続けています』
「へえ」
「なるほどね」
そっとアイコンタクト……良かった、姉貴も何が何だか理解できていないらしい。赤点を取ってもそれが一人ではなく二人なら心強いというものだ。
『二号人類は生誕段階で成長金型「ジョブシステム」及び境遇金型「ロールシステム」を刻印した状態で生産、流通されます。これは二号計画に基づいたレギュレーションであり………』
何か大事な事を言ってるのは分かるんだが……どうしよう、俺も姉貴も全く理解できていない。そんな難しいことは言っていない気はするのだが、矢継ぎ早に専門用語というか単語が出てくるせいでそっちが気になって仕方がない。
どうせキョージュ一人じゃないんだろう、どっかから【ライブラリ】の奴を引っ張ってくるべきだったか。
「あ、あの……」
「おやレイ氏」
「貴方は……確かサイガ-0……さん、よね。噂はかねがね」
「え? へ、あの、あ、えと、どうも」
『サイガ-0、サンラク……丁度いいですね、試してみますか?』
「え?」
「ん?」
『リセット・カリキュレーター・システム……R.C.S.と私は名付けました。簡単に言えば……肉体の再構築を可能とする後天的アバタービルドが可能なのですよ』
「え、私は?」
「すまん姉貴、これ多分リアイベ関連なんだわ」
そういえば貰ってたな、そんな感じのチケット……ここで使うのか。
(ら、楽郎君が女の人と……!!)
(れ、冷静さを失ってしまう……!!)
「あ、あの!!」
「お噂はかねがね(ゲーム内恋愛する気ゼロ姉貴)」
「(予想外にリスペクトされてる返答でキョドるヒロインちゃん)」