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優勢だと心に余裕ができますね、古戦場の話です
「おい、ベビーカーで殴るな」
空中で卍のポーズで三回転半して死亡した俺は、あまりに芸術点の高い死に様に拍手を貰いつつも、床に置いた帽子を装備して地下で見たものの状態についていつのまにか穴の直上中心ではなくこちらまで近づいていた「象牙」へと詰め寄る。
ベビーカー? とプレイヤー達が疑問符を浮かべる中、当の「象牙」はといえば、よくわかりましたと言わんばかりの笑みで鋭い表情を僅かに丸くしていた。
『素晴らしい、たった一度で見抜くとは……リヴァイアサンを制覇した知恵は本物ということでしょう』
「ベビーカー……成る程、新規プレイヤーか」
おやキョージュ、やけに静かだとは思っていたがここにきてようやく会話に参戦か。
「先程から我が子と呼称してくる事、ベヒーモスの潜伏していた座標から推察すれば当然ではあったが……ここは開拓者誕生の地、というわけだ」
『素晴らしい、素晴らしいですよキョージュ。そう、ここは貴方達二号人類……風と共に現れ、風と共に去る貴方達が生まれし子宮にして、旅立った産道なのです』
「俺達、揃いも揃って里帰りしていいのかそれ」
「宇宙船にオギャるのか……」
「俺はいけるぜ」
「ゴツい重戦士がおもむろに懐からおしゃぶり取り出すのはやめてくれよ……何想定だよそのアイテム」
俺や他のプレイヤー達をぶっ飛ばしたものの正体は穴の中を飛び交う誕生前のプレイヤーを詰めた試験管を移動させるエレベーターだ。SFだから当然と言わんばかりに無線式で縦横無尽に動く金属の塊がプレイヤーが落ちてきた時だけ一撃で殺傷できる速度で俺達を押し上げてくるのだろう。
「じゃあどうするんだ?」
「物理的に避けるとか?」
「いや無理だな、確実にスキルも魔法も追いつかないし最悪面制圧で打ち返される」
「ツチノコさんがそう言うなら……炸裂グリンピースは何かアイデアある?」
「私これ知ってるわよ、これ名字が珍しいから学校で教師に指名されまくる奴でしょ」
「いやいや、教師として流石にそこまで特定の生徒のみを指名することはないよ……日を跨ぐと怪しいが」
「リアル教授のお墨付きなんて要らないわよーっ!!」
炸裂グリンピースさんが叫んで蹲ったのを眺めつつ、さてどうしたものかとキョージュに視線を向ける。先ほどまで会話に参加しなかったのは呆けていたわけじゃないだろう、俺達が「穴」を見ている間にこの偽幼女はずっと「床」「壁」「天井」を見ていたわけだしな。
「で、考察の長はどう言う見解で?」
「恐らくだがこの大穴自体フェイクなのでは、と見立てている。いや機能としては真も贋もなく稼働しているのだろうが……そも、ここは本当に「外縁」なのかな?」
「と、いうと?」
「ベヒーモス、いやこの場合はバハムートか。バハムートは巨大な船だ、それは当然頭から尾までの長さであり、腹から背までの長さであり……胴回りの大きさもだ」
「つまりこの穴がベヒーモスの体内ギリギリまで広がっている穴とは限らない、と」
「正解だサンラク君、恐らくだがどこかに穴ではなく穴の周囲……今我々が立っている場所の直下に降りる、あるいは壁の先に入る扉が何かがあるのでは、と見ているのだが……」
まぁ、広いからな……探すにしても苦心しそうだ。うーん……ん?
「あれ、レイ氏と秋津茜?」
「あっ、サンラクさん! お祭りってこれのことだったんですね!!」
「ど、どうも……」
ちらほらと追加でベヒーモスの中に入船してきたプレイヤー達の中に見知った顔がいたので近づいてみれば、やはりレイ氏と秋津茜であった。レイ氏は普段通りの……少々悪役っぽ過ぎる鎧姿であり、秋津茜はといえば今回は旧大陸ということもあってかノワルリンド無しでこちらに来たらしい。
「ああ、レイ氏も間に合ったんだ」
「えと、はい」
玲氏の家はまぁ、見るからに作法とか厳しそうだしウチみたいに帰宅! 即! ログイン! みたいな事が簡単にできるとは思っていなかったが……いや違うな、思ったよりも俺が手間取ったと言う事だろう。おのれペンシルゴン姉弟、いやオルスロット君はこの場合悪いのか?
「とりあえずあの穴に飛び込むとエレベーターにぶん殴られて死ぬので別の侵入経路を探してるところ」
「エレベーター……殴られ?」
「よく分からないですけど入り口を探すんですね!!」
ふふふ、そうだ行け秋津茜! お前のリアルラックで入り口を見つけ出すのだ!!
いやまぁそんな上手くいくわけ「もしかしてこれじゃないですか?」
「嘘ォ!?」
待て待て待て、記録タイム十五秒はフカしすぎだろ流石に!! いや待て、うーわマジで入り口じゃないのかこれ。床のSFチックな模様に混じって確かに詰めて通れば四人分は行けそうなハッチらしきものがある。
「どうしたの?」
「ん? ああ炸裂グリンピース姉貴、ウチのストロングラックがハッチを見つけた」
「嘘でしょ!?」
これがマジなんですよ、外縁を調査する為に広く散っていたが、騒ぎを聞きつけたのか人が集まってきたのでとりあえず適当に動くスペースを開けろとゼスチャーしつつハッチを確認する。
「うーん……壊せそうな気配がしねぇ、となるとなんらかの条件で開くのか……「象牙」、これ開けてくれ」
『それを開ける方法も自分で考えるのですよサンラク』
はい言質。
「よし、ギミックで開くタイプ確定……と。アンバージャックパスじゃねぇし、外縁にそれらしき機械も無し……」
やはり破壊か? いや、発想を変えよう。こいつは「象牙」からの知能テストだ、奴は未だにこっちが幼稚園児か何かだと思ってる節がある。
力づくでこじ開ける可能性もゼロでは無いがむしろベヒーモスに入った時点でプレイヤーが持っている他の「手段」が怪しい。
ファンタジーはファンタジーでもサイエンスでサイバー、なおかつスペースなファンタジーなのだからオープンセサミで開くにしてもそれは科学に由来するはず。ハッチ、扉、門……必要なのは「鍵」か?
「BCビーコンか?」
反応無し、あくまでも呼ぶだけってか……さらに思考の方向性を変える。
「鍵」は物理的なものとは限らない、例えばそう……顔認証とか指紋認証みたいな。だがそれだとどうしようもない、神代人類の身体なんて骨の欠片すら残っちゃいないだろう。あるいはどこかにミイラとかがいるのかもしれないが……回復魔法でもかけてピチピチお肌を取り戻せってか?
「……いや待て、認証?」
「何か分かったの?」
「いや、あるいは……」
当たり前といえば当たり前過ぎる「入り方」だが、いや違う既に俺達は入っているし、さらに言えば「象牙」然り「勇魚」然り、奴らは言うなれば……そう、家主だ。
「なあ「象牙」……入るためのパスなのかセキュリティを潜るためのアカウントか知らないが…………新規登録、出来るんじゃないか?」
『ふふふ……よくできました』
次の瞬間、俺の身体が突然淡く発光した事を自覚するのとほぼ同じタイミングで……
「えっ」
ハッチをすり抜けて俺の身体が下に落ちた。
次回予告:次でQ.E.D.についてゲロる