スライドダウン・ボーンアップ
一応言い訳しておくと今日ボンドルド・オンステージ見たからこの構造になったわけではなく前々からこの構造で考えてます
───あの後、質問攻めに合いそうなのを物理的にかわして逃げたこととか。
───二度とインベントリアから出すな! と何故か俺に殺戮の魔剣を押し付けてきたペンシルゴンのアホの事とか。
───何故こんなクソみたいな寄り道をしなくちゃいけないのかとか、改めて不発弾を抱えさせられたこととか、その他諸々多々様々……
あらゆる感情をミックスして生み出された疲労感のままに現れたバハムート三番艦「ベヒーモス」に乗り込む条件を満たしていた俺達は今───
◆
「なんだこりゃ」
『これは「試練」であり、「再現」であり、そして「試験」なのです我が子達』
ベヒーモスに乗り込んだレベル50以上のプレイヤー達は今、底の見えない程に深く深く続く「大穴」の淵に立っていた。
その穴の直上、足場のない虚空に浮遊するのは一人の女を象ったホログラムだ。首から上は仕事のできる女性! という感じなのに、首から下が何故か割烹着という……情報量の多い姿をした女だ。いやセーター! 白衣!羽衣!眼鏡! みたいな属性大洪水の「勇魚」も大概だったが……割烹着のパワーが強い。
そんなホログラム女「象牙」が俺達へと、まるで生徒に授業でもするかのように語り続ける。
『私は「象牙」、私は「勇魚」と同質であり……しかし私はアレとは異なる方針です』
「ここからどうすりゃいいのよ!!」
流石に転送されて早々、金属製の大穴にノーヒントで立たされるという現状に堪えきれなかったのかプレイヤーの一人が「象牙」へと叫ぶように問いかける。
それに対し、恐ろしく鋭い目つきの「象牙」はただシンプルに一言。
『自分で考えるのですよ炸裂グリンピース』
「ぶふっ」
「んぶふっ」
「なんで炸裂……っ?」
まさかのプレイヤーネーム朗読というネタネーム程大ダメージを喰らう「象牙」からのカウンターパンチによって炸裂グリンピースさんが無言で震えるだけの置物と化してしまった。いやでもなんて炸裂グリンピースなんて名前に……?
とはいえ炸裂グリンピースさんの疑問は多かれ少なかれここにいる全員が思っている事だ、「象牙」もそれは理解しているのか一応説明はしてくれるらしい。
『このベヒーモスは現在レガシーモードとして稼働しています。構造は上から下へ向かう……まぁ、見れば分かる通り大穴型です。そして大穴を貴方達自身の知恵と、勇気と、そして力で深層に辿り着く……それこそが私が貴方達に課す「クエスト」なのです』
なるほど、リヴァイアサンは中心へと向かうマトリョーシカ型だったが、こっちは一番下まで……多分リヴァイアサンと同様に外と中で重力の方向が違うんだろう、広さ的に……多分横向きに俺達は立っている。この潜行は外から見れば頭から尻へと向かっていると見た。
『ただし、重ねて言いますがこのベヒーモスで求められるものは「知恵」「勇気」「力」の三つ……この大穴は縦に十の階層に隔てられています』
「リヴァイアサンと同じように関門を越えろって事だろう。層の数が2倍くらいあるけど」
『サンラク、貴方の話は「勇魚」から聞いています……世界を拓く者、疑問を持つ者。先に断言しましょう、貴方の求める答えはこのベヒーモスにあります』
ええい、ただでさえ目立つと面倒臭いのに名指しするな。だがどちらにせよさっきから注目されっぱなしだ、もう気にするだけアホらしくなってきた。
『世間話くらいなら付き合いますが……ええ、ええ。どうか見せてください愛しき我が子達。貴方達が旅の中で培った強さを』
……
…………
………………
とりあえず五人ほど穴に叩き込まれたが、謎の「攻撃」を食らって全身ひしゃげながら真上にぶっ飛ばされて死んでいた。
「なんか見えたか?」
「この速度で松明なんか灯ってるわけないだろ、何も見えないまま攻撃されて死んだわ」
「魔法で照らせる奴いねーのかよ」
「三日前までは習得してたけど邪魔だから忘れたわ」
「でも打撃なのは確定よね、斬られたり突かれたりした死に方じゃないし」
「炸裂グリンピース姉貴の言う通りだ、まぁ分かっちゃいたけど直接落ちてショートカットってのは無理っぽいな」
「わざわざ名前で呼ぶ必要ないでしょ!?」
「せめて消えない灯りがあればいいんだが……」
…………なんでこっち見るんだよ。
「ツチノコさん、なんかないの? こう科学的照明とか」
「逆に聞くけど超巨大宇宙船に乗り込んで懐中電灯だけ買って帰る奴いるか?」
………仕方ない、こういう合同考察みたいなのも嫌いってわけじゃないんだ。ここは俺が一肌脱ぐとしよう。
「ある程度落ちると下に居る「何か」にブン殴られて叩き出される。そして少なくとも面制圧ではない……と」
「なんで? 根拠は?」
「そこの二人、一緒に落ちたのに吹っ飛ばされてきたタイミングがずれてた。多分個別に殴り飛ばされてるんじゃないの?」
俺の予想としては巨大なタコとかイカがいるんじゃないかと予想しているんだが……まぁ物は試しだ、ちょっと下まで行ってみるか。どうせ死ぬなら生きるためのセーフティも必要ないし、とりあえず頭装備他諸々を外して地面に置いて………視線。
「……何?」
「頭、取れるの!?」
「あのね炸裂グリンピースさん、確かに俺は胴体装備と足装備が時間経過で問答無用で破壊されるクソ縛りを課せられているけど別に頭装備が外せないってわけじゃないんだよ分かる? 炸裂グリンピースさん」
「連呼!!!!」
そして俺は別にマスクでも兜でも外したら死ぬってわけじゃないし、これから死ぬと確定した挑戦をするなら頭装備は普通に外す。一応身動きしやすい装備をつけて……スキルをフル起動、さらに過剰伝達で機動力をさらに上げて……流石にこれ以上強化すると制御できなくなるし、兇嵐帝証・極は使わなくていいだろう。というか未だ併用した時の完全制御が出来てないんだよアレ。
「じゃあちょっと死んでくる」
「気軽だなこの人……」
「すぐ死ぬしすぐ蒸発するのがツチノコの由来なのか……」
そんな儚い生態しとらんわい……してないよ、本当だよ。気を取り直していざダイビング、紐なしバンジー!
穴の淵から跳躍、過剰伝達の力で結構な跳躍距離を稼いだ俺の身体が穴のそこそこ内側まで飛んで……そこから落ちていく。
「なるほど確かに」
プレイヤーの視界は暗闇の中であってもある程度の明るさは確保されるはず、なのにそれが無いという事はゲーム側が「この暗闇は自分で何とかしろ」と定めているということだろう。戦術機の頭装備は暗視機能があったはずだがもしも壊そうものなら俺は多分ネフホロ2が発売する日までルストに追いかけられる、ああいうタイプは一回や二回キルしたところで満足しないタイプだ。
仕留めた死体を砕いて焼いて灰を家畜の餌に混ぜて屠殺して……とまでは流石にないだろうが、いやよそう。知人を脳内とはいえ勝手に貶すのはよくないし、最終的にスペクリ時代の俺に帰結するから自己嫌悪してしまう。あの頃はまぁ、うん、鯖癌が潰れてちょっとイライラしてたのを忘れかけてた頃にあの変態が出てきたから………
「む」
エドワードの研究室に行った時と同じだ、スキルを使って壁で制動しようとした時……それが見えた。
いや厳密には違う、いつどこから敵が来てもいいように……そして、「攻撃対象」が現れればそこに至る理想的ルートを視界に表示する星幽界導線が反応を示したことで分かったのだ。
そうか、先に犠牲になった五人は穴の淵からそんなに離れていない座標から下に落ちていった、それは穴の底である前に壁の側だということ。やつらは下から打ち上げられたというよりも、横から出てきた何かに上へと……要するに、だ。
「いるのは壁か………!!」
見えん、クソ。だが星幽界導線の反応からしてそんなにデカくはない、少なくとも俺が想像していた「穴の途中で対空しつつ上から落ちてくるプレイヤーをアッパーカットでぶっ飛ばすクターニッドみたいな巨大タコあるいは巨大イカ」ではないことは確かだ。
「これでどうだ!!」
魔法【マジック・トーチ】の使い捨て魔法媒体を使用し、魔力の照明を使ってあたり一帯を光で照らす。果たして壁にあったものは………………………へ?
「人間?」
何かの液体に漬け込まれたやけに個性のある人間の標本の顔と対面することになった俺は、先ほどまでしていた予想が、おそらく真実からは遠い位置にあるのだろうということを瞬間的に悟った。
じゃあ何がプレイヤーを…………そう考えていた瞬間だった。
「おぐべぇ!!!?」
まさか、打撃の正体とは………下から上に向かう、エレベー………
彼の名前は「バスタブ太郎」です、下手したらプレイ時間ゼロでワンキルされかけたという(攻撃判定があるだけで生半可な攻撃が通るほどヌルい耐久のガラスじゃないですけど)