飽・食・解・禁
いやあったんです! あったんですよ確かに!
オルスロット君と敵対的エンカウントするけど殺戮の魔人が登場したことで不本意ながらも共同戦線を張るプロットが!!
でも気づいたらこうなってたんですよね、不思議
殺っちまった!? いや待て、殺ったのは俺じゃないよね? よしノーカン、レッドネームにはなってない!!
「どうするよ姉、弟が喰われたけど」
「いやどうなんだろう、なんかモゴモゴしてるし中でまだ生きてるんじゃ……」
グブシュッッッッ!!!
おっと? 人間一人分膨れ上がっていた殺戮の魔人、その鳩胸みたいな胸部がこう……なんだろう、中に詰まってたものを圧し潰してサイズを元通りにした感じ……あーうん、これは死にましたね。一応確かめたが俺のプレイヤーネームは通常のままだった。
「あー良かった、こんなんでPKになってたら凹んでたぜ」
「怪我の功名だねぇ」
「目の前で一人死んでるのに冷静すぎるだろあいつら……」
四字熟語君が何か言っているが無視、俺もペンシルゴンもあとオイカッツォも不都合な事実は耳から抜け落ちていく生態だからな。
だが流石に殺戮の魔人、こいつを見なかった事にはできない。プレイヤーだけを殺したらハイ満足、とはならないだろう……何やら全身を蠢かせて第二形態になりそうな様子だが、既に変化が起き始めているので止めようがない。
「Slaaaaaaaaaaaaaaaugh……!!」
盛り上がった肩の肉が形を変え、粘土が固まるように肉とは異なる質感のものへと変化していく。
単なる肉の巨躯でしかなかった身体が引き締まり、ある種の機能美を備えていく。そして右腕から肉を突き破って飛び出した骨にも鉄にも見える物質が剣の形を取り……魔人の痙攣が終わった時、そこには一体の騎士……否、騎士の形をした魔人が立っていた。
「なぁペンシルゴン、あいつにアテレコするとしたらなんて台詞入れる? 俺は「解析完了……」だな」
「私は「足りない……もっと、もっと……!」とかかな」
「Slaaaaaaauuuuughteeeeeeeeeeeeerr!!!」
なるほど、どちらにせよ好き嫌いはしない性質らしい……!!
奇声を上げて突っ込んできた魔人に対して、俺とペンシルゴンは左右に分かれて突進を回避する。ガゴン! と大門に激突した魔人であったが、内臓があるかも怪しい肉塊にとっては大したダメージでもないらしい。
若干怯みこそすれ、弱った様子は欠片も感じられない魔人は骨剣を振りかぶりながら俺達……じゃない! 狙いは公女サマか!!
「させるかボケがぁ!!」
不世出の奥義「戦砕琥示」、ジャブで吹き飛べクソケバブ!!
公女サマと魔人の中間に割り込み、ギリギリ拳が触れるか触れないかのタイミングでスキルを込めたジャブを魔人の鳩尾に突き出す。普通は魔人の質量を止められるはずもなく吹き飛ばされるだろうが、この拳はウォールフェンの力を宿す。
「Slllllllloooooo……っ!?」
「ノックバックぅ!!」
ズゴォン!! と空気の圧が炸裂し、魔人の身体が後ろへと押し込まれる。だが浅い、リヴァイアサンで霜降り肉にかました時と比べてもこのサイズならもう一度大門まで吹っ飛ばせると思ったのだが……いや待て、地面に刻まれたこの轍、まさか特殊能力とかそういうの抜きにただ単純に踏ん張って耐えたとか……?
「VITいくつだよ化け物め……!!」
どうする? 思ったよりも怪物だぞこいつ。VITが高いのもあるが獣にしちゃ動きが人間臭すぎる……オルスロット君を食ったからか? 貪る大赤依は加算的にリソースを増やしていたがこいつは乗算的に性能が上がっていやがる。
「公女殿下、ここは危険です故避難を。南門ではなく、西門をお使いください」
「あら〜……貴女達は大丈夫ですか?」
「ご安心を、あそこにいるのは私が保有する中では最も凶暴な手駒ですので」
「おうコラさっさと公女サマを逃しな! そしたらお前を盾にするからよぉ!!」
「あ、公女様もうちょっとおしゃべりします?」
この野郎……!! だが、そんな悠長な考えに異議を申し立てたのは他でもない魔人君であった。叫びを上げ、暴れ狂う様子はもはや尋常のそれではない。
喧騒から離れているとはいえ、人がいないわけではないのだ。この一帯は恐慌状態に陥った、そして好奇心に負けたプレイヤー達が次々に……いやいやいや!!
「まずいぞペンシルゴン! 餌が徒党を組んでこっちに来てる!!」
「あーもう! そこ! 愚弟の友人共! あんたらも協力しなさい!!」
「え、いやあの」
「返事!!」
「「はいっ!!」」
「サイナ! エムル! 気ぃ引き締めろ、こいつは多分リュカオーンなんかと比較する強さだぞ……!!」
「はいなっ!」
「了解:」
ちょっ、アホかあの初心者! なんで魔法職が先陣切ってんの!? いやその魔力ブレードみたいなので勝てるわけ……あっ、おかわり……
「slaughteeeeeeeeeeeeeer!!!」
やべぇ、三人喰われた。
「参加するなら注意しろ! 喰われたら即死だぞーっ!!」
ぐむぐむとさらに形態変化しようとしている魔人に対し、もはや押し切るしかないと傑剣への憧焉終刃と傑剣への憧刃を構えて前に出る。
「硬い……が、押し切れる!!」
「サンラク君どいて! 装甲無視ならこいつの十八番だよっ!!」
スイッチ。俺と立ち位置を入れ替わったペンシルゴンの構えた聖槍カレドヴルッフが殺戮の魔人、その脇腹に突き刺さる。防御力の完全貫通、聖槍の穂先はあらゆる壁を穿ち貫く。
何かスキルを発動しているのだろう、突き立てられた聖槍から放たれた閃光が魔人の脇腹を大きく抉る……が、ダメージエフェクトが吹き出したのも数秒、瞬く間に肉で傷口を埋め切った魔人の払い退けがペンシルゴンの身体を叩き据えて吹き飛ばす。
っていうか
「腕増えてるぅ!?」
喰ったからか!? 三人追加で平らげたから性能アップしたのか!?
やばいぞ、逆に百人くらい喰わせたらどうなるのか気になってきた自分がいるのが何よりやばい!!
「ウ、ウオァァァ……」
「え、今度は何?」
「ちょっ、弟の顔になったんだけど……っ!!」
そこで噴き出すの、最高に外道だと思うぜ。
「ドウナッテンダコレェー……カッテニウゴクァァァァァァー……」
「ぶほふっ!!!」
「ふぐっ、あははははは!! え、嘘マジで? 取り込まれたプレイヤーの意識搭載してんの?」
あ、オルスロットフェイスからさっき先陣切ってた勇者系魔法使いの顔になった。
「ウワ、シャベレルヨウニナッター……」
ちょ、待って、待って。面白すぎる、待ってくれ魔人君! それが効果的なのはNPCを喰った時であってプレイヤーでそれやっても笑いにしかならないんだよ!!
「ヒューウ! 今楽にしてあげるよオルスロットォーッ!!」
「バカアネェェェ……!!」
悲痛というか、怒りに歪むオルスロットフェイスはきっと、取り込まれた激痛とかじゃなくてマジのブチ切れな気がするよ……射的しようぜ! 眉間に当てたら500点な!!
仮にNPCが喰われた場合、デビルマンに出てくる甲羅に顔を浮かべる亀みたいな事になってたんですけど残念ながらプレイヤーしか食われてないのでまぁまぁ笑える絵面になってしまったという