エンカウント・ノーエンカウント
自爆を仄めかす邪悪なる眷属に脅され、仕方なくサードレマへとやってきた俺は……なんか普段以上に人が多いサードレマでどうやって目立たずに大公の屋敷(いやどう見ても城では?)に行くか思案する。
「エムル、何か良い案無い?」
「また白い布被ればいいですわ?」
「いや、既に大規模PvP……あー、戦争の噂が流れてるから結構強い奴らがいる気がする。最悪捕捉されそうなんだよね」
最速称号を取ったからと言っても常に最速で動けるわけじゃないし、今の俺は臨界速を持っていない。捕捉される可能性はゼロじゃないし、派手に目立って大公のところまで行ったらペンシルゴンに何言われるか分かったものじゃない。
やはりここは無難に女モードでコソコソ行くべきか……そんなことを考えていると、ふと意識を引く「何か」が視界に映った気がした。
「ん?」
「どうしたんですわ?」
「いや今何か記憶に引っかかってる名前が見えたような」
くそっ、人混みでわかりづらいな……とりあえず偽装用の装備をつけて、あえて顔が見える頭装備にすることで「変な頭装備のサンラク」というイメージそのものをカモフラージュにするって寸法よ。
ではいざ……あっちに行ったよな視界から消えた方角的に。
「エムル、バレるようなヘマすんなよ」
「んっふっふっ、アタシの擬態技術はもはや兄弟一と言っても過言ではないですわっ!」
それ誇っていいのか……? まぁいいや、モフモフなファーが追加された鎧姿で人混みの中を進みながら先程の既視感と山のように積もったシャンフロの記憶を掘り起こしつつその人物Xさんを探す。
ぺむぽん……違う。
デンティ……違う。
ガムシロップ☆タカヤ……違う。
レザレット……んー? こいつか? いや違うような。
斬龍焔月……違う。
オルスロット……違、いや待てこいつの名前確か……ええとオルスロット、オルスロット……あっ、思い出した。
「あいつの弟じゃん」
ペンシルゴンの弟、ウェザエモンを倒した後にイチャモンつけてきたがレイ氏にボコられた奴だ。あの朋友救助だったかな、PK対策っぽい転移魔法……アレ確かアプデが重なるごとに条件緩みまくって今では別にフレンドじゃなくても救援で高レベルプレイヤーが飛んでくるらしいな。
京極が「雑魚を狙えば自動的に強者が送られてくるし向こうも後腐れなく全力を出すから楽しくていいね」と喜んでたから覚えている。他の雑魚狙いPKにとっては生きづらそうな世の中になったが。
そんな彼が何故ここに? 一回しか顔を合わせたことはないが、姉の敵に回りたがるお年頃に見えたが……んー? なんだ、ますます怪しくなってきたぞ。
ただサードレマの施設に用がある、ってのもまぁまぁ妙だ……そしてなにより恐らくオルスロット君の左右にいるパーティメンバーと思しき二人とのスリーマンセルでここにいるってのが最高に怪しい理由は旧大陸の状況が状況だからな他ならない。
俺とて人界の情勢くらい小耳に挟む。世間では世捨て人だの無人島で自活してる類の野人だの霞でも食ってるんじゃねだの……いや誰が仙人だっての。
いやそれはどうでもいい、この旧大陸を今騒がせているサードレマ大公と「現」国王との確執……そしてペンシルゴンが中枢を乗っ取りつつあるサードレマと敵対する王国側は確か、報酬でプレイヤーを釣っていた筈だ。そう、確か罰金帳消しの恩赦とか───
「ほほう?」
これはもしかしなくてももしかしてでは? 俺も経験があるし、なんならかつては彼と同じ立場だったから分かる、分かるぞ?
ペンシルゴンは悪巧みが得意だしさらに言えば「大勢巻き込む」悪巧みが大好きな外道だ。だがその反面、本体性能がそんなに高くないから一点突破で本人を狙われるとそこそこ簡単に撃破できる。つまり奴の弱点は少数精鋭だ、そういうところまでゲーム的魔王を踏襲しなくていいんだよなぁ……
「……どうしたんですわ?」
「あの赤いマントの騎士いるだろ、あれペンシルゴンの弟。しかも札付きの極悪人だ」
「ですわもごごっ!?」
はーいクワイエットプリーズ、ファーは喋らないぞー。
とはいえ少数精鋭でサードレマに潜り込んだとしても妙だな……ペンシルゴンはプレイヤーだ、百回殺したって百一回リスポーンするだけ。なんなら奴とオルスロット君の場合リアル方面で姉特権を行使されるリスクだってある。
となるとサードレマ大公の暗殺とか? NPCはリスポーンしない……大公を始末すれば新王君も大喜び、恩赦足湯でで足もキレイさっぱり洗えるわけだしついでに報酬も貰える。いい事尽くめだが……だが百人いれば三十人は思いつきそうな手段をあのペンシルゴンが無対策のはずがない。
影武者が自爆するという可能性もあり得るからな、世紀末円卓の自爆影武者姫軍団はあまりにも有名だ。馬車からワラワラと出てきて奇声を上げながら大量の同じ顔が自爆する光景……多分探せば動画が残ってるんじゃないか? 第三者視点で見てる分にはクソ面白いからなぁ。
「予定変更だエムル、あいつらを追跡してみよう」
「……殺る、ですわ?」
「おいおい俺は清廉潔白正々堂々を人の形にしたような男だぞ? 撃退でいいだろう」
ヘイ店主、そのパンとミルク瓶をくれ。追跡にはこの二つがないと始まらないからな……さてと、この俺のスニーキングスキルは鯖癌仕込みだぜ?ホラーゲーにおける分かってても怖い怪物の動き四十八手が一つ「気づいたら背後に立っているやつ」を教えてやろう……
……
…………
ボソボソと小声で喋っているので内容を聞き取ることはほとんど出来なかったが、裏路地に入っていった事で追跡もしやすくなったし声も断片的にだが拾えてきた。いや聞き取ったのはエムルなのだが。
「……「徘徊」「ルート」「確保」、ねぇ?」
レアエネミーでも探しにきたのかな? わざわざ敵陣ど真ん中に? 既に判定は黒寄りのグレーだぜ。
とはいえ何が狙いなんだ? 裏路地に入ってからやたら脇道を覗き込んだり振り向いたりするから何度もヒヤリとする場面があった。もう面倒くさくなって屋根伝いに追っているが上も時々見てくるからな……何を探している? そんな四方八方を見なきゃ見つからないもの? 少なくとも大公じゃねぇことは確かだ。
「サードレマ……徘徊Mob……なんかいた気がするんだが」
俺じゃない、俺が直接遭遇したとかじゃなくて誰かから人伝に聞いた気がするんだが。とりあえず今一番サードレマに詳しそうな奴に聞ければいいんだが、生憎メールは専用施設に行かないと使えない。つまり記憶力だけが頼りだ……サードレマに関する記憶自体少ないんだからヒットしそうなんだが。
「……むむ、また何か声を聞き取ったですわ!」
「もう少し声量を落とせ……で、なんだって?」
「ひめい……じゃなくて、多分「姫」ですわ」
姫? 旧大陸で姫っていうと例のあの……いや、いや、いや、奴はまだ新大陸の筈。流石に知らんって事はないだろう……となると、なんの姫だ?
「この街のお姫様じゃないですわ?」
「大公の娘って姫階級なのか? じゃなくて……それだ、冴えてるなエムル」
「ふふーん」
はいはいよしよし。
成る程辻褄が合う、そして思い出したぞ。一日かけて遭遇できなかったカッツォを煽るネタで使ったんだ、サードレマ名物ユニークシナリオ「おてんば公女に付き添って」! その内容はサードレマ大公の娘が城を抜け出して街に出掛けているのを発見、城に連れ帰るか満足するまで好感度を上げる!!
オルスロット君、お前って奴は……誘拐を企んでやがるのか?
どうしよう、俺もちょっとやってみたいな誘拐する側。
ちなみにオルスロット君たちが受けたユニークは「公女誘導作戦」
ユニークシナリオ「おてんば公女に付き添って」を発生させた状態で所定の位置に公女を連れて行くことでクリアとなる変則ユニークシナリオ
報酬は王認騎士としてのグレードアップと罰金が一時的に凍結されてるので受け取ることが出来るマーニ