表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
626/948

創造神の憂鬱

「シャングリラ・フロンティア」ワールド・アドミニストレーター継久理 創世の朝は基本的に昼から始まる。

文字にすれば奇妙に感じるが、吸血鬼とてもう少し規則正しく寝起きすると言わんばかりの不規則な生活リズムを送る創世は基本的に昼から活動を開始する(厳密には昼から仕事(・・)を開始する)。


とはいえ、今日ばかりは少々毛先が違うらしい。


現在午前八時十二分、早朝と言うには遅いがそれでも充分「朝」に分類される時間……創世は珍しい事に起きていた。


「…………」


その表情は喜怒哀楽の全てを鍋で煮詰めたような複雑なものであり……彼女が今し方まで見ていたものこそがその原因である事は明らかであった。


「元々気に食わないのはこの際置いておきましょう、言動は悪くなかったし……」


リヴァイアサンの難易度調整、オルケストラの「正典」の復活。

特定の一人を狙い撃ちにしつつも、創世が理想とする世界に近づく為の調整によって一人のプレイヤーが挫折し、そして神の鯨を制覇した。

何故彼がオルケストラに負けたのかと言えば創世が「正典」を復活させたから、だが創世が難易度の他にもプレイヤーの目を惹く要素を増し増しにしたコンテンツの数々にほとんど目もくれずリヴァイアサンを完全制覇してのけたという点ではそのプレイヤーは創世にとって都合の悪い挙動をした事になる。


とはいえ覗き見(・・・)していた限り、ところどころ興醒めするような言動はあったものの、彼を始めとするプレイヤー達はこの世界の一人物としてのロールプレイを通していた。「勇魚」の好感度が高いのがその証拠だ。


中々やるではないか、という関心がある。

攻略が早過ぎる、という驚愕がある。

外様の分際で、という憤慨がある。

この世界を楽しんでいる、という歓喜がある。

この世界はもっと素晴らしいのに、という不満がある。


戯れに技術革新を起こす天才とて己の感情までもゼロとイチで説明できるわけではない。要約すると継久理 創世という人物の対外的なパーソナリティは独占欲と承認欲求の螺旋構造で出来ている。


「難易度調整が足りなかった? いいえ、オルケストラもリヴァイアサンも根本は「理解」に依るキャラクター、始源と違って最終的には踏破されなければならない……」


…………


無知蒙昧な連中はユニークモンスターとレイドモンスターを混合するなどという愚劣な思考しかできないかもしれないが、それは鼻で笑うことすら出来ない失笑ものの勘違いだ。

レイドモンスターなどという無粋な名前で呼ばれる始源眷属、あるいは眷族の本質は「敵対者」であり……ユニークモンスターなどという無粋な名前で呼ばれる七つの最強種達の本質は「相対者」なのだ。


それを理解もせず、さも倒すべき敵として設定する天地(アホ)の姿が脳裏をよぎったことで創世の感情が怒りの側へと傾き始める。

そうだ、そこなのだ。シャングリラ・フロンティアという輝かしく尊い世界をただの娯楽として浪費される事が癪でしかないのだ。


「何が外部コラボよ、季節イベントよ。サンタクロースが別星系まで出張するわけないでしょ、フィンランドなんて核で地殻ごと消え去ってるっての」


……………!


「……でも、サンタクロースという伝承自体が神代のデータベースに残ってる可能性はゼロじゃない、か。忌々しい、少し考察の余地があるから余計に腹立たしい」


何も理解せず、上っ面だけを見て陳腐(ゲーム)に貶めようというのならば創世はなんの躊躇いもなく元同級生を切っていただろう。

だが天地 律という女が「ゲーム」にかける執念はある種狂気じみており……創世と口論が成立する程度には「シャングリラ・フロンティア」という世界を読み込み、理解している。

だからこそ、無関心に至らない……好意の類義語たる憎らしさの感情と共にあの女は創世の人生に楔として食らいついている、シャングリラ・フロンティアというゲームを成立させるべく日夜コンソールとパラメータ(と、創世)を睨み続けているのだ。


………!! ………!!!


だが、本題はそこではない。目下創世を悩ませている最大の要因はシャングリラ・フロンティア内部にて起きたある想定外のイベントだった。


「……「ヴァイスアッシュ」、もう一度問うわ。何故アガトレオ(・・・・・)をプレイヤーに貸し出したの?」


天地 律の言葉を借りるならばあの武器はイベント武器……それも、本来はNPC専用の武器である。さらに言えば、その出番はもっと先のはず……だが現在、「アガトレオ」は創世に名前を覚えられたあるプレイヤーが保有している。

貸し出されるはずのないものが貸し出されている状況に創世がそれなりに混乱しつつも調べた限りでは「アガトレオ」はシステムロックがかけられており、極めて限定的な状況と条件でのみ使用可能になっているようだ………


創世の問いかけに対し、応える人間はいない。だが代わりに創世が戯れに室内へ浮遊させていたホログラムウィンドウの一つが文字列を表示する。


『SS7:冥響のオルケストラ「正典」の性質及び実装経緯、難易度……それらに不滅のヴァイスアッシュの好感度を加味して助太刀イベントを実行』


………!!!!! …………!!!!!!!


「助太刀……成る程、世界観からは逸れていないと」


納得するだけの理由はある。七つの最強種(ユニークモンスター)「不滅のヴァイスアッシュ」に関連するユニークシナリオEXは隠しパラメータ「致命(ヴォーパル)魂」の数値が密接に関わってくる。

低ければシナリオそのものが進行しないこの致命魂のパラメータ……現在EXシナリオ「致命兎叙事詩」を発生させている四人のプレイヤーはそれぞれ


・サンラク

・秋津茜

・サイガ-0

・イムロン


であるが、当然この四人の致命魂パラメータには差があり、順位がある。

勇者武器の保有者、最前線のトッププレイヤー、竜と共に駆ける忍び……創世からしても「中々やる」「警戒対象」と評価できるプレイヤー達と比較して尚、致命魂パラメータ蓄積量第一位サンラクの致命魂は四位イムロンとはダブルスコア、二位の秋津茜と比較しても1.5倍の大差をつけている。


それはすなわち、ヴァイスアッシュというキャラクターが「お気に入り」と認めるに足る功績ということ。

七つの最強種のキャラクターAIも担当しているサブサーバー達の判断を創世は疑わない、それらをゼロから創り上げたのは他でもない創世なのだから。


「決議は4:3……成る程、好悪は別として道理はあるわけね」


………!!!!!


であればシャングリラ・フロンティアの世界は多少のブレはあれど創世の望むがままに運行されている。そのブレを受け入れるのもまた世界を作った者としての度量か………


ゴンッ


〜〜〜〜〜!!?!?


「……さっきからなにか気が散ると思ったら」


一度内側からロックをかければ、何をどうやっても創世が扉を開かない限り外からは一切の干渉ができないユートピア社の地下七階、創世のプライベートルームの扉を開けばそこには膝を押さえて蹲る天地 律の姿が。


「何よ、開かない扉に膝でもぶつけたの?」


「テ、メェ……レイドモンスターも、リヴァイアサンも、オルケストラもデータ……いじくりやがったな……!!」


「……私二度寝するから」


「テメッ」


扉を閉め、ロックをかける。もっと防音性能を高めるべきか……と思案しつつも創世の思考は愛すべき世界へと向けられていく。あるいは、最初からそこしか見ていないのかもしれない。


「ええ、ええ。お爺様の言う通り……世界を作るのは、こんなにも楽しいのだから」


執念と狂気で律が創世と相対すると言うのならば、逆説的に創世もまた同等の意思で立っている。

シャングリラ・フロンティアの世界に想いを馳せて笑う創世の目には、紛れもなく執念と狂気の光が宿っていた。


開かない扉に八つ当たりの膝蹴り喰らわせたら逆にダメージ受けるザリガニとダイアグラム1:1なプロデューサーとかいるわけないじゃないですか……

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
≫初心なグミさん 映像作品なら緻密な設定やシナリオが1番重視されるのは当たり前なんだけど………ゲームで1番重要視されるのは何か。それは、設定やシナリオ(所謂作者のオナニ○部分)とエンタメ(相手を楽しま…
シャンフロ中枢サーバAIが優秀すぎる。創造神の簡悔をものともせず、神の意に反してでも世界観に忠実に判断を下すの流石機械だなぁって
難易度高くしちゃうのって言われてみればそれに挑む気があるものに対するヴォーパル魂数値も上がっちゃうわな。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ