神象に続くモルゲンロート
とりあえずココで一旦区切って次章で「謳えスカイスクレイパー」の下を始めます
「………あ゛ー、眠い」
久しぶりにギリギリまでゲームしてたせいでほとんど徹夜状態だ。学校行くのってこんなに面倒臭かったっけ?とりあえずコンビニでライオットブラッドを飲んでエネルギーを前借りしつつ、ブドウ糖とカフェインで寝ぼけた脳味噌を動かす。
「おごごごご……今日は一段と脳が震えるぜ」
まさか禁断症状……いや、単純に寒いだけだ。もう秋を名乗るにはちょっときつい寒さになってきたからなぁ。
「お、おはようございますっ」
「んあ、あー……おはよう玲さんさっきぶり」
「ふふ、そうですね」
いや本当にさっきぶりだ……シャンフロからログアウトして一時間経ったかどうかってところだからな。朝風呂で生乾きの髪の毛が冷気でパリパリしてる俺と違って玲さんの身嗜み立ち振る舞いには一部の隙もない
、リアルとゲーム両立できるって怪物かよ……
「あ、あのっ。そのぉ……シャンフロの、話なんですけど」
「え? うん」
「あの、最後に聞いてたのって……」
「あー。遠回しに全部ぶん投げられたアレ?」
「はい」
俺は「勇魚」、いやリヴァイアサンに眠る全てのデータを閲覧できる存在に対して二つの情報の検索を求めた。
一つはユニークモンスター「冥響のオルケストラ」の暫定本体こと音楽プレイヤーの詳細についてだ。結果から言えば結果は芳しくなかった。分かったのはこの音楽プレイヤーがこの星における神代の歴史の更に前、宇宙を旅していた頃よりも更に更に前、つまり地球から人類が逃げ出す前に作られた超超超骨董品ということくらいか。
あの「勇魚」がよくこんなものが現存してますねとまで言ったので、俺達リアル人類の感覚で言えば江戸時代とかの道具が綺麗な状態で壁に埋まってるようなものなんだろう……いや壁に埋まってる状態がまず理解できないが、化石?
そしてもう一つ。音楽プレイヤーが再生する際に表示した名前であり、恐らくあの歌姫の名前でもある「エリーゼ・ジッタードール」について。これに対する答えは至極単純明快で簡潔だった。
『貴方が「ジッタードール」について知りたいのならば、リヴァイアサンではなくベヒーモスを当たってください。あの船にはアンドリュー・ジッタードール……征服人形を創り上げた男の研究室があります』
成る程つまり「リヴァイアサンじゃ分かることはないからベヒーモス行けや」とのことらしい。いっそ清々しいまでのぶん投げであった………いやまぁ予想はできてたよ。オルケストラと征服人形が完全に無関係とは思えないし、そもそも操り人形だし、どこかでベヒーモスが征服人形の故郷とか聞いた気がするし…………
だが玲さんのお陰でイベントシーンを好感度最大で潜り抜けたおかげか、「勇魚」はとある情報を俺たちに提示した。
それはベヒーモス統括AI「象牙」に関する情報。その性質上、全てのプレイヤーの母たるその女は偏屈なようで……凄まじい過保護なのだと、人のこと言える立場ではねーだろと言いたいくらいには大概過保護な「勇魚」はそう苦笑いしながらこう補足した。
『如何に「象牙」が貴方達次世代原始人類に優しいと言えど、彼女の慈愛は「検証」と両立し得るものです。「勇魚」が言えた身ではありませんが……おそらく、もっと直接的に貴方達の力を試しに来るかと』
まさしくお前がそれを言うのか、だ。寄り道厳禁の好感度ゲーは中々に引っ掛けだったぞ。
「……楽郎君は、その……すぐにでも、ベヒーモスに?」
「んー、まぁそのつもり。元々オルケストラの攻略の為に過去関係を洗い出すつもりだったからむしろベヒーモスが本命みたいなところはある」
ぶっちゃけベヒーモスの座標も八割くらいの確信で当たりをつけているが、もしかしたら新大陸側のバハムートの方が情報を持っているかもと攻略した、というのが真相だ。プラスマイナスで言えばプラス寄りなのは明らかだが本命はやはり向こうだったという訳だ。
「その、もしよければ……」
「ん? ああ勿論、玲さんの都合が合えばまた一緒に攻略しよう」
「は、はいっ! その、今度は槍が降ろうと時間通りに!!」
「いや、槍が降ったら俺が休むかな……」
しかし夏頃にコンビニで会って移行からやたらと玲さんと登下校するな……そんなんだから交際疑惑とか出てるのかもしれないが、玲さん会話上手いから普通に話してるだけでも楽しいんだよなぁ。
ま、いっか。裏心なく交友関係を張っているなら何を恥じらう事があるのか、勘違いする恋愛脳はお好きにどうぞってな。外道二人が好き勝手生きてるのに俺だけ悩み多く生きてるとなんか負けた感じがするから癪だし。一流の煽りは心身共に健やかで初めて最大の威力を発揮する……
「そういえば玲さん期末の方はどう?」
「期末……はい、特に問題はないです」
「俺も言ってみたいよそう言うセリフ……玲さんも文系だよな確か、世界史だっけ?」
「いえ、日本史なんです……」
「あー、俺世界史なんだよね」
武田氏が世界史を覚えておいて損はないって言うから……ジョークで役立つってのがいまいちよく分からないが武田氏の描く将来設計に必要ならリアルスキル取得もやぶさかではない。ゲーマーは攻略wikiを見て知見を得るが俺に取ってのリアルwikiこそ武田氏なのだ……
「日本史って誰だったっけ、須磨セン?」
「そうですね、須磨先生です……教科書の片隅に一文だけあるような問題を出してくるので、油断はできないです、ね」
「いやいや、授業中に口頭で言っただけの豆知識にやたら高配点つける世界史の関先生よりマシだって」
一回百点満点のテストで二十点の問題出したことあるからな世界史の関先生……世界史クラス一位がその問題外して八十点だったのはあまりにも哀れだった。余裕ぶっこいて居眠りしてたからそうなるんだ、クラス総出で励ましてやりましたよワハハ。俺はライオットブラッドを一本奢った。
「まぁ、要点抑えて平均以上取っておけば来鷹B以下にはならないと信じたい」
「大丈夫、じゃないでしょうか………そこまで、難関というわけではないですし………いえその、簡単と言うわけでも、ないんですけど」
だからこそ厄介なんだよな、中間ちょっと上というのはそこそこ良いと同時にそこそこ危険という冒険の途上におけるプレイヤーの伸びきった鼻をへし折りにくる引っ掛けトラップだ。油断はできないが気を張り詰めっぱなしなのも良くない………うーん、ちょっとは本腰入れて勉強した方がいいのかな。
「まぁいいや、尻に火がついたら全力で走れば」
「あははは……………んっ?」
「どうかした?」
学校に到着した事で、若干テンションが沈むような……あるいはほぼ毎日のルーチンワークとしてテンションが切り替わったのを自覚していると、玲さんがいきなり校舎の変な方向に視線を向けた。
「いえ………視線を感じた、ような?」
「誰か校庭見てたんじゃないの?」
仮に誰か見てたとして校舎の三階四階から向けられてる視線を感じ取るってリアルで出来るやついるんだ………とはいえ気のせいという可能性も否めない。何せあそこらへんには一年、二年、三年いずれの教室もなかったはず。こんな朝っぱらからあんな場所に生徒が行くとは思えないし、職員室も一階だから教師が行くとも思えない。ていうかあそこら辺何があるんだっけか………準備室じゃなかったはずだけど、んー?
「きっと、気のせいですね。行きましょう」
「玲さん、あそこらへんって何室があるんだったっけ」
「え? えぇと……校長室、はあっちなので………あぁ、あそこは」
───生徒会室ですね。
「あー」
生徒会室か、じゃあなんか役員の誰かでもいたんかな。些末な疑問が解消された事で改めてスッキリとした心持ちで俺たちは校舎へと歩みを進める。如何にゲームで最前線を走っていようが廃人だろうが、リアルじゃ高校生……その本分は学業と青春だろう。だから……………
「ようラブポエマー! 現代文で赤点とったらギャグとして百点満点だぞ、後は分かるな?」
「おうコラ朝の一発目から言ってくれるじゃねえか、誰がラブだ」
「おっとここは全日本アームレスリングバトル協会のマスタールールに則り腕相撲で決着をつけてもらうぜ!」
「いや誰だよ」
「朝礼もうすぐだぞ」
「全三戦で二勝先取なら間に合うだろ」
これもまた青春。
ギリギリ楽郎が二勝した