叡智の殿堂
第一殻層「迎門」は迷宮。
第二殻層「教道」は草原。
第三殻層「戯盤」はカジノ。
第四殻層「機舎」は工廠。
現実的非現実的で言えば全部非現実的なのだが、それでもこれまでの四つのエリアは全て「場所」と言っていい。地面があり壁があり、なんというか道があった。
だがこの第五殻層「叡智」はなんというか……そう、場所というよりも「空間」と言った方がしっくりくる。楕円形の内側に立つという構造自体は他の殻層と同じ、強いて言うなら次の殻層の代わりに空間中央には輝く光の球体が浮遊しているのが他の殻層と違うところか。
そして全ての殻層の中で最も小規模な空間である五層は光の球が邪魔で見えないところ以外は肉眼で空間のほとんどを目視できる。多分平面にしたら……学校の体育館くらいか? サッカーコートよりは小さいな。
ある意味このリヴァイアサンの中で最もこじんまりとした空間のはずだが、それでも地方規模の迷宮よりも、都道府県サイズの草原よりも、都市スケールのカジノよりも、街と見紛う広さの工廠よりも……そのどれよりもここは現実離れしている。
気を抜けばフワフワと浮いてしまいそうな、認識と実体の間に一枚のカーテンがあるような……夢見心地、が一番この状態を説明するのに適切だろうか。
「なんというか……今までのスケール的に狭く感じてくるね。サバイバアル、ちょっと全力でダッシュしてきてよ」
「面倒いからパス、俺よかサンラクの方が速いだろ」
「ほーん? まぁ見てろ……位置についてヨーイ、」
ドン!
「はいゴール」
「今一瞬お前が二人に見えたぜ」
「しかも最後の方減速してその速度かぁ……二秒くらいかな?」
アイアムアスピードホルダー、アイアムトテモハヤイ。単純加速だけで空を飛べる臨界速程じゃないが今のスキル群でもこの程度の距離なら二秒で走れる……ゲームといえどあまりにもインフレしてるんじゃと思わなくもないが、常に壁のシミか地面で擦りおろしになるリスクを抱え続けるならこれくらいのインフレはしてくれないと困るというもの。
とはいえ全力で走り抜けたら頭が冴えてきた、この殻層は……流石にただのゴール地点というわけではないだろう。怪しいのはやはり頭上の光球だが、地面の光で描かれた六角形模様も怪しいと考え始めれば途端に怪しく見えてくる。
「その、ここでは何を…?」
行った! レイ氏が言った!!
それに対して勇魚は無言で床を指差し……いや違う、地面の六角形がせり上がって丁度腰と胸の中間辺りまである柱に……ほらやっぱり怪しかった! やっぱり床に何かギミックあった!!
『ここで出来ることは情報の閲覧のみ。そして五十の情報を閲覧した時、最後のアンバージャックパスが与えられます』
「なんつーか【ライブラリ】に聞かせたら発狂しそうな内容だな」
「俺後で伝えてくるわ」
「サンラク君ってやつは……動画撮影アイテムは持ってるかい?」
完備しとるわ。それはそれとしてこのエリアのギミックは理解した、要するにノルマ付きの図書館だ。
読破した本の数が一定数を超えればクリア、さっきの称号獲得内容的にクリア後コンテンツみたいな扱いなんだろうか。
「つっても俺ァ、【ライブラリ】の連中ほど世界観に興味はねぇんだがな」
「そう食わず嫌いするものではないと思うよサバイバアル、神代が滅んだ原因とかも閲覧できるんじゃないの?」
『はい、私は最後までそれを見ていましたから』
「つまりレイドモンスターについての情報も分かるかもしれないってことさ」
「あ゛ー……成る程な、そりゃ確かにやる気も出てくる」
「? 何でこっちを見るんだ」
見るならレイ氏とかの方じゃないのか? 始源関連の進行度なら多分レイ氏がぶっちぎりだ、何せ俺ですら始源の下っ端や枝毛としか相対していないのにレイ氏は……なんだっけ、ネヘモス? 新大陸の方の、いや新大陸そのものである怪物と直接フラグを立てている。
「とはいえ一筋縄じゃないんだろ?」
『ええ、閲覧できる情報ファイルは皆様自身がその断片を見聞きし、保有していなければならないのです』
成る程、つまり全く知らない情報を見ることは出来ないってことか。
どうやらその判別はせり上がってきた六角柱に触れる事でリヴァイアサンがプレイヤーこと二号人類の身体を解析して判断するらしい……え、何そのディストピア機能。
「モルド、一番槍行ってみよう」
「ええ……まぁいいけど」
俺はなんとなく最後にやった方がいい気がしてならないのでとりあえずモルドに一番手を譲る。俺達の中で囮オブ囮の称号を与えられつつあるモルドが恐る恐るといった様子で六角柱に触れると、その掌が触れた部分から何かが吸い取られるように光の線が六角柱を伝って地面へと吸い込まれていく。
「……モルド、HPとか減ってない?」
「いや、俺は経験値と見たね」
「あの、モルド……さん。一応、MPも確認した方が……」
「待ってそんな危惧しないといけないものに一番槍させたの!?」
いやホラだって、ディストピアマシンじゃん……
とはいえ俺たちが危惧するような生命力吸収とかそういった事はなかったようで、先程とは逆に地面から昇ってきた光の線が柱に触れた掌へと集約すると、モルド本人の周囲にウィンドウがいくつか出現した。
「いち、に、さん……十二、かな?」
「モルドって神代関連の情報どこまで掴んでたっけ?」
「いやそこまでは……」
何故俺を見てからそれを言う。
なぜか視線を集めている事に半目になっている俺を他所にルストもまた六角柱に触れ………出現したウィンドウの数は十六。
「ん? そっちの嬢ちゃんの方が多いんだな」
「……モルドだと入れない遺跡とかを調べたことがあるから、その違いかも」
なんでモルドだけ………ああ、単純にタッパの問題か。え、そんなアバターで選別する場所あんの? 控えめに言ってクソじゃん。あーでも視線さえ通ってれば転移とかで強行突破できないこともないのか。
「……私の目当ては戦術機のカスタム権だけ。ので、ウィンドウの数はどうでもいい」
何故俺を見ながらそれを言う。
その後もヤシロバードが十五、サバイバアルが二十、レイ氏がなんと六十八ものウィンドウを出現させたことでいよいよ俺の順番が回ってくる。
「いや………うん、まぁ視線の意味は分かってましたよ、はい」
「おう、面白ぇ絵面を見せてくれよなツチノコ」
「一応録画しとくよツチノコ」
誰がツチノコだ誰が。それにツチノコなら既にハンティング済だ、途中から脱皮して巨女になったし最終的に仕留めたの俺じゃなくて龍蛇だけど…………そこはほら、真実を知ってるプレイヤーは俺だけだから。
「っし!! 行くぞっ!!!」
勢いよく掌を六角柱に叩きつけ、リヴァイアサンに俺という一個人の経歴を読み込ませる。他の連中よりも明らかにロード時間が長い時点で既に嫌な予感しかしないのだが、いやいや短時間で六人も読み込んでいるからOSが疲労しているだけだろう。「勇魚」が笑みを深くしているのは特に意味のない行動だろう、そして地面から掌が触れる部分に戻ってくる光のラインが明らかに多いのも気のせいで──────
「うわキモっ」
「上半身が爆ぜて大量のウィンドウが出てきたみたいだ」
「サンラク………さん、その、大丈夫です、か?」
「……システムウィンドウの妖精?」
「妖精……ふくぐっ」
「好き勝手言ってからに貴様ら………」
『えー、アンロックされたファイルの総数は………百三十二、ですね』
そんなにィ?
サンラクが百個以上も情報を抱えていた、と言うよりも一つの情報片でアンロックできる情報が複数あるパターンが更に複数ある感じ(実は結構当たり外れもある、エドワード君の愚痴だらけの日誌とか)
ルストとモルドで数が違うのは本編で推測されたこと以外に戦術機の練度でアンロックがあるから、具体的に言うと戦術機ダービーに明け暮れていたルストはカスタム権限の為のライセンスを取得するためのファイルを解放している
最大火力を実現する剣なんかよりも、最大の自由を行使できる赤い頭蓋の方が孤島帰りの二人を惹きつける。