純然たるルールに則った清く正しい八百長
ミュオン出ないので怒りの更新です
夜七時、最近はシャンフロにも積極的にインするようになったルストに当然のように付いてきたモルドがログインした時間だ。
ルストはいない、嬉々として自分から破産したとはいえ債務者は別の場所でリスポーンするのだ。
「もう、夏蓮……じゃないや、ルスト……「もう少し機体性能を把握しておきたい」って、それまた借金返済後回しってことじゃないか……」
並大抵の借金では「破産」認定にならないため、ルストの借金は凄まじい額となっているが……ルストとモルドが考案した必勝法さえあればどうとでもなる。それ故にルストはこの殻層での停滞……という名の自由に制限なく気の向くままに戦術機を使うことができるここでのバカンスに興じているのだった。
「毎回ルストが暴れるのを見てるだけってのもつまらないし……僕も何か遊ぼうかな」
門外漢だが、カードゲームというカテゴリには興味がある。どれだけの不利、どれだけの有利であっても冷静さを失わずに安定感を掴むことこそが尊ばれるというカードゲームは中々に自分に向いているのではと……
「モルド様っ」
「え? 僕?」
ぽん、と肩まで叩かれたのならば間違いはない。振り向けば、そこにはニコニコと満面の笑みを浮かべる一人の少女。露出の少ない燕尾服とバニーガールを合体させたような衣装は一瞬NPCか何かかと考えたものの、このリヴァイアサンでNPCを見かける事は非常に稀だ。
それ故にモルドは恐らく頭上に表示されているだろう名前を……あれ?
「なんで僕の名前を……」
疑問のままに視線を少女の頭上に向ければ、そこには「サンラク」の四文字。
「よぉ〜、モルドくぅーん……」
「ひゅっ」
その時の心理は、まるで羊だと思っていた何かの背中を食い破って出てきた狼を目撃してしまったかのようで。一瞬剥き出しの歯が全て牙であるかのような錯覚を抱く凶悪な笑みを浮かべた少女が万が一にもモルドが逃げ出さぬよう、白魚のような指を肩に食い込ませながら囁く。
「インする時間が分からないから日が暮れるまで待つ羽目になったよ……会いたかったぜ?」
「な、何かしましたっけ……?」
「強いて言うならこれからするんだよ」
◆
「というわけで連れてきましたレッドワンの右腕、あるいは脳味噌」
「ど、どうも……」
ルストがいるなら十中八九モルドもいる、俺の予想は見事に当たった。呑気な顔して現れたモルドを連行した俺はパーティメンバーの待つレストランへと到着。二層のボスことスペリオルオマージュ・フロストボディの霜降りを調理してくれるらしく、どいつもこいつもステーキを食べている中……賢将サンラクは霜降り君が別に牛肉の霜降り肉であるとは限らないとの予測を立て、奇策「握り寿司」を注文……っ!!
「馬鹿な、寿司だと……っ!?」
「お前の脳味噌プリンみたいにツルツルかぁ?」
「まぁ僕はリアルで食べようと思えばいつでも食べられるし?」
「でも今食えないなら絵に描いた餅より虚しくない?」
「フルダイブだから頭に思い浮かべた餅なんじゃ……」
分かってないな、リアルとVRの違いなんて胃の中に溜まるか溜まらないかでしかないんだぜ? 味と食感を楽しむだけならこっちの方が効率がいい。
でも俺は胃に溜まる方が好きなのでやっぱリアルだな。
「で、あの……なんで僕呼ばれたの?」
「いやなに、ちょーーーっとばかしルストに協力してもらいたいことがあってな……出来るんだろ?」
「な、なんのことか……」
とぼけんなよ、あのロボスキー・ネフホロニストがレンタルだけで満足できるわけがない。実質ノーリスクで戦術機を使い回せるジョッキー生活を楽しんでいるのは事実だろうが、そこに留まり続けるなんて事はあり得ない。
ルストとモルドが組んで四層に行くための条件を満たす方法なんて一つしかない、こいつらは既に競機の攻略法を握っている。
「パーフェクト万馬券、四層に行くためのチケットであり、莫大なスコアと交換するための引換券でもある……「勇魚」に聞いたぜ? ここの競機は同じ賭け方の馬券を複数枚買える、つまりモルド、お前が三枚買えば問題解決ってわけだ」
「あ、あはははは……はい、その通りです」
つまりこういうことだ、競機のレースにおいてルストはその気になれば好きな順位でゴールすることができるし、好きな順位でゴールさせることができる。
八百長? いいや違う、妨害有りという純然たるルールに従った順位操作だ。
行動不能にさえならなければレースの参加資格を失ったことにはならない、半殺しにして適当にゴールまで引き摺りこめばめでたく完走ってわけだ。
「あいつ、借金重ねまくったせいで「勇魚」の好感度調整下限まで行ったんだろ?」
「え、なんで分かったの?」
「一秒で好感度を見抜かないとピザに喰われるんだよ」
「?????」
バレていないとでも思ったか「勇魚」め、三層に来るまでは俺も分かっていなかったがヤシロバードへの対応が露骨に冷えてることに気付いた事でこの結論にたどり着いた。厄介だな、好感度次第じゃ下手すりゃシステム面にまで不親切が発動しかねない……条件はなんだ? ルストやヤシロバードの好感度が下限スレスレって事は寄り道が減点対象か? いやそれなら飯食ってるこの時点で「勇魚」の好感度が下がってもおかしくないはず……
「まぁいい、現状維持がベターなら無理に変わる必要はない……ではモルド、今日のレースはどんなもんかな?」
「ははは……ちょっと面会してきます」
面会? ルストにか、それなら……いや待て面会って何!?
◇
「───と、いうわけで」
「……成る程、相変わらず嗅ぎつけるのが早い」
さながら囚人との面会を思わせる個室の中で、借金まみれで破産したとは思えないリラックスぶりをモルドに見せつけるルストは相方から伝えられた事実に対し、ひとつため息をつく。
「とはいえ、性能調査はもうとっくに終わってるし……本当はもう少しスコアの流れが太くなってからにしようと思ってたけど」
「じゃあ……!」
サンラクの推測は概ね当たっている。ルスト以外にもジョッキー堕ちしたプレイヤーはちらほらと見かけるが、仮にその全員がルストを狙ったとしてもルストはその全てに対処できるだけの習熟を既に獲得している。
「3、1、5、7、8、6、2、9、4」
「え、ちょっと待って何か書くもの……」
「……駄目、暗記して」
「ええと、サイコーなハム肉よ……」
わたわたと数字の羅列を覚えようとするモルドを眺めつつ、ルストはコキコキと首を軽く鳴らす。
成る程、モルドを経由してサンラクから渡された「檄文」は確かに今のルストでは知り得ないものだ。そしてそれはルストが今すぐ次の殻層を目指すだけの価値があった。
「……引退レース、派手にする」
グラビティボードだって別に自前で飛んで距離を稼ぐなとは言ってないし、ルーレットも「球が止まった時点で結果が確定する」ルールなわけで