人の心を動かすのは金と夢
とりあえずフィロジオはダメだ、スペックの暴力で殴れない。厳密にはスペックを活かすための思考を鍛える時間が無い。
思いっきり私用で寄り道していたことはぼかしつつ、俺が調査結果を話せば他二人もまた一時間遊……もとい、一時間のリサーチ結果を説明し始めた。
「私の、方は……その、ルストさんを見かけました」
「ルストを?」
「その……借金で、破産して……競馬? のような競技のジョッキーとして……働いてました」
ちょっと待ってくれいきなりデカいネタで殴りかかってくるのは反則じゃないか!? なにそれ超見たいじゃん、なにやらかしたんだ一個下の層で肉狩ればスコアは稼げるのに、なお破産するって相当だぞ!?
「ええと……ロボ競馬? みたいなモノで」
「成る程全てに納得できた」
そりゃ破産するわ、笑顔で負け濃厚の手札に全額レイズしただろうさ。いや何やってるんだあいつ、四層行けばレンタルじゃなくて正規品を入手できるだろうに……でもきっとアホほど笑顔なんだろうな、そんな確信めいた予感を感じつつも問題のサバイバアルへと視線を向ける。
「……で?」
「俺の方の収穫がこれ、妖怪スロット狂い」
「やぁ……早速で申し訳ないんだけど、スコアを貸してくれないかな」
「元いた場所に捨ててこい」
『ヤシロバード、そろそろ破産圏内ですがスコア管理はもう少ししっかりすべきですよ』
呼び捨てじゃん、でも口調とかから見ても親愛度の上昇によるものじゃなくて好感度の低さによるものだろこれ。「勇魚」が見たこともない表情してるもん、ルート分岐しないタイプの顔してるよこれ。
一体何があった伊達男、いち社長が完全にギャンブル狂いの末期症状じゃねーか。
「サバイバアル、アト……ヤシロバードってこんな感じだったっけ」
「いや、もうすこししゃんとしてた筈だけどな……スロットの景品がどうしても欲しいんだと」
「オンリーワンなんだよ、ただ一つなんだよ……いや本当、あと少しあれば勝てるんだよ、風が来てるって言うか、さ」
自分の困窮は理解しているけどやめるつもりは毛頭ない、典型的なアレですね。二ヶ月くらい無人島とかに流して資本社会から引き剥がしたほうがいいぞ。
「なぁ「勇魚」、オンリーワンってのは?」
『スロットのグランド・ジャックポット報酬として用意された特殊塗装が施された射撃ユニットですね。確かに私の記録する限り一つしかない塗装パターンではありますが……』
「ん?」
『何か質問が?「勇魚」は当然お答え致しますが』
特殊塗装が施された射撃ユニット? 世界に一つしかない塗装パターン?その言い方だと……
「なぁサンラク、それってつまりよお……」
「もしかして同じこと考えてる?」
「え? どうかしたのかい?」
「その……世界でただ一つなのは、塗装だけ……なのでは、ないでしょうか?」
「……?」
あー、つまりはだ。
「ヘイ「勇魚」、詳細はいらんから概要だけ教えてくれ。その景品とやら、デフォルトカラーのやつは四層以降で手に入るのか?」
『それはもう、当たり前じゃないですか。第四殻層は一部例外を除き、リヴァイアサン製戦闘用ユニット、およびデバイス等の全武装が生産される工廠ですから』
あっけらかんと、まるで何を当たり前のことを聞くのだろう、といった様子でそう答えた「勇魚」の言葉に俺、レイ氏、サバイバアルの三人は無言で悪趣味なカラーの為に破産しかけていた男へと視線を向ける。
で、その件のアホはといえば……よれた服のシワをぴんと伸ばし、落ちかけていたカウボーイハット風の頭装備を被り直しして決めポーズならぬ決め顔を見せる。
「やぁ、やぁ。サバイバアルから聞いたよ、上に行くんだろう? いつ本格的に動くんだい? 僕も同行しよう」
「人格的問題とスペック的利益の天秤、どっちに傾くかな」
「ええと……」
「まぁ、「同郷」だ。実力は保証できるだろうよ」
「任せてくれよ、伊達に破産しかけてないからね。この殻層の情報なら大体精通している」
自慢になってないんだよなぁ……
◆
「いいかい、フィロジオとスロットはダメだ。最短でここを抜けるなら時間がかかりすぎる」
「実感すげぇなオイ」
「茶化すなサバイバアル、話が進まない」
ギャンブル狂いから卒業したヤシロバードもパーティに加え、四人編成となった俺達はこの娯楽領域を突破する作戦会議の最中だ。
「競機も駄目、狙い目はグラビティボードか……ルーレットだ」
「ルーレットだぁ? あのひき肉マシンかよ?」
死亡率七割は伊達じゃない、死亡率七割の娯楽が成立するのって地下とか裏社会とかそういう場所じゃねえの?
「あの二つは単純な物理演算で動いてる、多分プレイヤースペックでなんとかなるんだよ」
「成る程……どうするよサンラク、一応リーダーはお前だぜ」
「え? あーそうか、パーティ組んだの俺だしそうなるのか……」
そうだな……グラビティボードは浮遊する板に乗って物理的に次のエリアまで飛んでいくという、中々にエクストリームな競技だ。流石に途中で転移魔法的なもので拾ってくれるらしいので挑戦者の数=潰れトマトの数ではないらしいが。
そしてルーレット、ひき肉マシンだの処刑器具だの散々な言われようだがルーレットの玉を人間がやれと宣うならやっぱりそれは殺人装置でしかないと思うのだ。
「……ちなみに競機がダメってのは?」
「あそこはプレイヤーがジョッキーになれるから談合が成立する筈だったんだけどね、やけに裏切りが多い上に「レッドワン」がいる」
『人間の心は移り変わりやすいですからねぇ』
「不思議なことに裏切った奴ほど何故か大量のスコアを持ってたりするんだよね、全く……何故だろうね?」
『この「勇魚」とて全知全能ではないですから、分からないこともアリマスヨー』
ああ、そういう仕組みなのか。競機による四層へと上がる条件は一着からドベまでを全て当てるパーフェクト万馬券の獲得だ。一人裏切ればそれだけで成立しなくなる。
「レッドワンってのはなんだよ、怪物でもでんのか?」
「レッドワンは赤ゼッケンの一番で出てくるプレイヤーのことさ、競機だと競走する戦術機同士の戦いも発生するんだけど……レッドワンはいつも全機撃破するから試合そのものが無効になるんだよ。まぁそれ単品で面白い見せ物だからレッドワンが出る時はそういうものだって割り切って見てるやつが大半かな」
レッドワン、赤い「一番」、やたら強い………ふむ、成る程成る程成る程???
「名案がある、これなら最速で上に行けるぞ」
人を釣るのは金だけじゃねえ、浪漫で動く人種もいるのさ。
レッドワン、一体誰なんだ……