彷徨う剣を担う者無し
仇討人二人に渡された二通の手紙、そりゃ当然その場で中身を改める。
「まぁ中身は違うわな、そっちはどんな塩梅だ?」
「あー……これ情報共有しても?」
「構わない、ただしひとりで倒すこと」
ソロ専門ってことか、じゃあ情報共有っと。
「ええと?『汚れた清め、夜な夜な哭くはおぞましき純白。冒涜の白化粧、無念の数だけ厚顔は恥を忘れる。しからば死者の刃だけが素顔を暴く』……だとさ」
「こっちはどうだろうな……『剣を掲げよ、槍を掲げよ、墓標こそが我が証明。無記名の朽ち鐡こそが我が生涯。栄光を陥せ、復讐の刃だけが正当なり』……あー」
謎解き系だぁ………しかもヒント一切ない系だこれ。
「おいどうするよこれ、俺の方完全に対象モンスターの特徴しか書かれてないんだが。白いらしい」
「いやお前、俺の方も大概だぞ。つーか墓ってことしか分からねぇ……人型でいいのかコレ」
暗号系? それとも何か別のギミックで答えが導き出されるのか? 分からない、さっぱり分からない。ニュアンスもロジックも通用しない……こいつは難題だぜ。
「おいおいお二人さん、俺たちの事を忘れてもらっちゃ困るぜ!!」
「何っ」
「お前達……!」
「サバさん、三人寄れば文殊の知恵って言うだろ?」
「ならばここにいる全員の力を合わせれば……」
「文殊の上位互換ってなんだ?」
「文殊って確か菩薩だろ? つまりその上は……釈迦如来……っ!!」
「おいおい、人生のカタルシスは今だったのか……」
無言でサバイバアルに視線を向けるが、そっと目を逸らされた。ああ馬鹿ばっかな自覚はあったのね、なんか安心したわ。
「で、できた……」
だが彼らは実力こそあるが馬鹿で変態なのでよろよろと厨房から出てきたウィンプに思考能力の全てが持っていかれたらしく、手紙の謎解きは過去のものに成り果てた……あーもういいや、どうせ学校行かなきゃだからせめてウィンプ関連のイベントは終わらせておきたい。
「ふぇ……ふぇ……ふぇなんとかのすーぷ、よ!」
「幼女先生は俺より強いぞ」
「すーぷ、です……」
無言でスクショや動画を撮影し始めたのが最高にアレ過ぎてインベントリアに退避したサイナやサソリスノマタ(まだ残ってた)に退避したエムルを召集して常識人の割合を高めたい衝動をグッと抑えつつ事の推移を見守る。
あの奇怪な見た目のフェロシタス・デレクタメンタムをどう捌いたのか、出てきたのは魚を使ったスープのようだ。匂いは……まぁ悪くない、驚くべき事に見た目はまっとうなのだ。てっきり魚のカシラをそのまま器に突っ込んだような間違った前衛料理みたいなのが出てくると思ったので意外だ……
「………」
無言で匙を取った幼女先生は魚の身とスープを掬うと、躊躇いなく口の中へ───
「結果は!?」
「匙を口から抜く瞬間が……ね?」
「スーパースローカメラが欲しいところだった」
はっ倒すぞ貴様ら、だがここで幼女先生が動いた!!
一口食べただけで匙を置いた幼女先生に何かまずったのかと硬直したウィンプであったが、幼女先生は席を立つのではなくそのままスープの入った器そのものを持ち上げ……
「行ったァーーーーーっ!!」
「ティーアスたんの一気飲みだ……レアだぜサンラク」
「そ、そうか……」
幼女先生、基本的に一口がやたらデカいし食い貯めみたいなこと出来るし………「食」のスケールがでかいからそんなレアな気がしないんだが。とはいえこれは良い結果に辿り着いたのだろうか。
「ど、どう……です、か?」
「…………まぁ、普通?」
あー、言うやつも言われたやつも反応に困るタイプの味か。だがこれは………ヘイ店主、採用の方いかがでしょうか?
「焼く、煮る以外の調理法を教えるところからですかね」
「成る程」
お祈り回避、やったぜ祝杯だ!! まぁジュース持ってかれたけど。
「しかし幼女先生も人が悪い、抜き打ちでウィンプを見定めに来るとは……」
「……なんのこと?」
……んん?
「いや、いくつかある用事のために来たと言ってましたし、それが目的の一つなのでは?」
「別に………ここに来た理由はそれを渡しにきたのと……」
「来たのと?」
「………ルティア達にも伝えるため」
何を、と聞き返すよりも早くこの世界最速の幼女は簡潔にこう口にした。
「我等「彷徨う剣」は今日をもって現王政との協力関係を解消した。しばし休暇せよ………とのこと」
要するに、特大の爆弾ですよね? それはそれとしてそろそろログアウトしないと遅刻が登校でやばい! くっ、リアルで考察しつつ続きは夜だ!!
………
………………
………………………
「は? ガス漏れで休校?」
学校からの緊急連絡が届いたのはいざ登校しようと靴を履いたその瞬間だった。ガス漏れとは物騒だが、まぁ明日までに修理を終わらせて再開するらしいのでラッキーホリデーだと思えばいいだろう。
「あら楽郎、遅刻するわよ?」
「なんかガス漏れで休校だって」
「あらそう………あ、今から一時間色々掃除するから部屋に籠ってた方がいいわよ〜」
げ、マジか。我が家において自室に閉じこもることを推奨する「掃除」とは即ちマイマザーの伏魔殿の清掃を指す。故に油断して扉を開けっぱなしにしておくと気づかないうちに逃げ出したパラワンオオヒラタクワガタが天井から鼻に…………い、いやそんな事実はなかった、なかったんだ。俺の記憶ではそういうことになっている。大顎に締め上げられた息子の鼻よりレオナルド(パラワンの名前)を心配した母親はいなかったんだ。
「母さん、またクワガタ逃さないでよ」
「このシーズンはみんな幼虫よ」
そりゃ何より、幼虫は天井に張り付かないし二階まで飛んでこないからな。とりあえずシャンフロに戻るか……
ログイン中………
セーブポイントとして利用していた三神教会の客間から蛇の林檎へ移動、リアルを詮索するつもりはないが平日の朝から余裕でインしているサバイバアルに片手を上げて戻ってきたことを示す。
「ん? 落ちるんじゃなかったのかよ?」
「予想外に休みになったんだ」
「ほぉん……ああそうだ、ウチの連中にはもう話を通してあるが、さっきのティーアスたんの話……箝口令を敷いておいた方がいいぜ」
「あん?」
箝口令?
「賞金狩人は国王との極秘契約を前提として活動してんだよ、それを打ち切ったってこたぁ………多分だが、今街中でPKしても出てこねぇぜ」
「………マジで?」
「おう、聞いた話じゃサードレマのトップと今の国王が冷戦状態って話じゃねーか。多分だが「彷徨う剣」関連の全フラグが停止していると考えていいぜ」
そうか………「頭領」がいつだったかの会話で王国との関係をほのめかしていた気がする、それを正式に断交したってことは後ろ盾を自分から捨てたってわけか。いわゆるバカな判断をするキャラには見えなかったので理由があるんだろうが賞金狩人が動かないってのは確かにデカいネタだ………あまり広めるものでもない、か。
「まぁどちらにせよこれも今すぐクリアできるようにも思えねーし………なぁサバイバアル、お前今暇か?」
「ん? まぁ暇だがよ………なんだ、適当に狩りにでも行くのか?」
「いいや?」
ウィンプの大移動は"戦災孤児"というイレギュラーによって起きた想定外のイベントだ。【ライブラリ】に啖呵を切った手前、スケジュールは迅速かつ確実にこなさなくっちゃな。本当は今晩でやるつもりだったが時間ができたなら好都合、実力を知ってる奴がいるならなおのこと好都合。
「大体一日で完全制覇の名誉を取りにいかねーか?」
親指で指差した先は、新大陸の海を埋める巨大な金属鯨───
ウィンプ、バイト生活
日給:10000マーニ
ボーナス:着せ替え隊の貢物
幼女先生、なんか料理漫画の審査員みたいなこと言ってきたけど単純に食べたいもののリクエストを出しただけだったという
ちなみにサミーちゃんについては賞金狩人達にはもうバレてるけどサンラクの首(職業的な意味で)とウィンプのカルマ値のおかげでセーフ判定
ティーアスは自身のスキル的に「個々の時間の流れ」で存在を察知するとかいう離れ業でサミーちゃんを察知し、ルティアはウィンプが心配で忍び込んできたサミーちゃんにつまづいて転んだことで気づいた