深夜の叫び、夜明けの幼女
主人公人間辞めすぎ問題
───デスボイスは産声なんだ。
懐かしきスペクリでの日々の中で、「歌」という魔法を提案したプレイヤーは俺にそう説いた。
恨みや怒りだけがデスメタルじゃない、俺はここにいるのだと高らかに叫ぶ産声こそがデスメタルの本質なのだと………
生憎今現在も結局デスメタルってなんなんだよという問いに対する結論を見出す事は出来ていないが、それでもデスボイスを出す為の心得はちゃんと覚えている。
即ち、死ぬほど声を出せ。
「ァァァァァァアアアアアァァァァァアアアアアッッッ!!!!」
晴天流「暮叫」は言ってしまえば大声を出して相手を怯ませる為の技だ。だが副次効果というか、ある意味そういうエフェクトというか……このスキルの効果適用中は声量が増加する。それに加算してサイナが何故か持ってたマイク……拡声音響ユニット、要するにマイクを介して音量は更に増大する。そして「燃ゆる貌」の能力は頭部に存在するパーツに起因するスキルや魔法に特殊な追加効果を付与するというもの。
例えば魔法の詠唱は口で行うものだ、フル詠唱すれば通常の魔法に加えてデバフとダメージを複合した効果が追加で付与される。では口から音響波を飛ばす「暮叫」だとどうなるかというと……こうなるらしい。
「ァァァァァァアアアアア!!!?!?」
突如として口から放たれる吐息が青い炎に変換された事でデスボイスの波長が乱れる。普通の人間は何をどうこねくり回しても口から炎は吐けないはずなのだが、この燃ゆる貌はあの 暴血赤依骸冠と同じカテゴリに属するものだ。口から炎が出ようが雷が出ようが不思議ではない……いや摩訶不思議過ぎるがゲームでそれ言い出すとそもそも人間は脚の動きだけで壁のシミになるほどの速度は出せねぇ。
「に、にんげんじゃない……」
黙らっしゃい爬虫類。
気を取り直してデスボイス続行、口から放たれる火炎放射が真っ暗な樹海の夜を青白く照らし出す。炎に触れた樹木枝葉が腐り落ちるように朽ちて灰になっていくのが見える……単純な熱量ではないらしいな、今まで使い所を見出せていなかったがこりゃ中々いいコンボなんじゃないか?
「ァァァァァァアア……ヴァァアアアアイッ!!!!」
だがゲームとてフルダイブ、人体を基にアバターが製作される以上は呼吸にも限度がある。随分と長く感じられたが、一分も経過していないだろう火炎放射を終えた俺は、息を乱している事を悟られないように迅速かつ静かに息を整えて……再びマイクを握る。
「オイコラァ!! さっきからコソコソチマチマこっちの事を覗き見やがって……言いてえ事があるなら面見せろや!!」
口の端から青い炎を漏らしながらキレ気味にシャウト、ウィンプが「いる」と断定したならば恐らくこちらを見ている……そしてプレイヤーと組んでいるにせよまだ一人プレイをしているにせよ、下手なちょっかいを掛けられる前にこっちからイチャモンをつける!!
「このお方をどなたと心得る! 原初の蛇より分かたれた八つが一、八番目のゴルドゥニーネだ!! 文句があるなら言ってみろ、地獄の果てまで追い詰めて後悔させてやる!! なぁ?!!」
「………」
捲し立てるように叫んで、ウィンプへと視線を向ける。肩書きだけは立派なヘタレ蛇は腕を組み、まるで世界そのものを見下しているような表情のままに一つ頷く。仮面か何かかよと言いたくなるほどに固まった顔と隠し切れてない膝の震えはこの際目を瞑ってやろう……全身震わせないだけお情け及第点だ。
「それにぃ! こいつに挑むってんなら、まずは俺を通してもらうぜっ!! そんなに経験値とドロップアイテムに変えられたいってんなら俺は歓迎するぜ!!!」
…………反応を待つ。
これで何番目かは知らないがいるかもしれないゴルドゥニーネが逆上するなりして向かってこられると正直逃げの一手と言うか自棄っぱちの俺がソロで相手する事になるが……どうだ?
ゴルドゥニーネは恐らく皆、何かしら生き汚い面があると思われる。決死の覚悟で戦うという事自体縁遠い、ならばこちらが好戦的な意思を見せればその逆に───
「は、はなりぇていってる……っ!!」
「結論:プランBは成功かと」
「フッ………全て計算通りだ」
「絶対嘘ですわ!!!」
いいかエムル、どんだけ複雑な方程式も答えが合っていれば丸が貰えるんだ。二択問題だろうと百択問題だろうと、真面目に導き出した正解とサイコロを振って偶然当てた正解に違いはない。その場しのぎという意味ではな。
「つまり乱数はクソだが役に立つという事だ」
「さっぱり分からんですわ……」
悪魔は邪悪だが契約に関しては律儀、つまり乱数の女神はやはりダークサイドの存在という事だ。
だがこれで目下最大の壁は超えたと言っていいのではなかろうか、あとは厄介な通常モンスターが寄ってくる前に蛇の林檎へ駆け込めばいい。仮に俺と同じような考えで他のゴルドゥニーネの協力者が前線拠点に潜んでいたとしてもプレイヤーの拠点で「ここにユニークモンスターがいます」なんてアピールしたらどうなるかくらいは分かるだろう。
「さーて、後はちゃっちゃと樹海を抜けるだ……け………あー」
「どうした、のよ?」
「いや、まぁ……あー、うん。ちょっと待て」
疑問符を浮かべる他の面々から視線を逸らしつつも、俺は視界の端にずっと表示されていたそれに改めて意識を向ける。
今現在生きている以上、ゼロではないんだろうが……あー、うん。体力ゲージが無くなったのかと錯覚する程に、体力上限が削れてますねこれ。最大体力1になってるよね、これ。足を挫いたら即死とかなんの縛りプレイだ。
「はぁー………ちょっとリフレッシュするわ」
「は、はいな?」
キャンプ立ててー、横になってセーブしてー、キャンプから出てー……お、こんなところにちょうどいい太さの木が。
「ふんっぐどぅお!?」
「ほぁっ!?」
全力渾身会心痛恨のヘッドバット! 天を裂き地を割り泉を枯らす驚天動地の一撃は大樹を揺らし、そして何より俺の頭が砕けて死ぬ。鎮火……
「わたしはなにをみせられているの……」
「奇行:奇異、あるいは奇人の行動かと」
真人間に戻る為だ、つまりこの行動は人道に基づいた極めて普通の行いなのだ。
……
…………
………………
明けない夜はない、辿り着かないゴールはない、であれば俺達もまた夜明けと共にゴールへと辿り着くのだ。
「すご……」
「だろ? ちなみに俺はあの城を相手に勝ったことがある」
「うそいうにしたってもうすこしましなうそにしなさいよ」
「…………」
「えっ?」
マジだから、うん。厳密にはサソリスノマタが、だけど俺の魂を削って作った掘建て小屋だからな……実質俺の勝ちと言っていいだろう。
「さてウィンプ、月曜早朝の夜明けとはいえ人も多くなる……さっさと移動しよう」
つーか俺が学校に遅刻しかねない、今五時くらいだからなんかイベントを消化するにしてもスピードが要求される。スムーズに進めばいいんだが………
◆
「………ん」
「おはようございます幼女先生ッッ!!」
スピーディーかつスムーズに聖杯使用、女の身体となって俺は頭を下げる。クソッ、道理で馬鹿が騒いでいると思ったら……!!
戦闘衣装たるアレではなく普段着として(馬鹿共から俺を経由して)渡されたワンピースを着た賞金狩人最強の幼女が、何故か新大陸の酒場に君臨している現状に若干眠気を帯び始めた脳みそが急速に再起動し始めていた。
突如新大陸にやってきた幼女先生。
彼女が言い放った「フェロシタス・デレクタメンタムが食べたい」の一言が流浪の料理人ウィンプへ試練として立ち塞がる!
ウィンプ「ふぇろ……なに?」
サンラク「フェロシタス・デレクタメンタムって何?」
サバイバアル「フェロシタス・デレクタメンタムって何?」
幻の珍味を求め、ウィンプは荒れ狂う大海に挑む───!!
え? 魚河岸は朝から開いてる?
流浪の料理人ウィンプ第二話!
「競りのコツは現金で殴れ」
待て次回!!