12月12日に内閣府のAI時代の知的財産権検討会が公表した「AIの適切な利活用等に向けた知的財産の保護及び透明性に関するプリンシプル型コード(仮称)(案)」ですが、このままの内容で確定すると、日本のAI事業者(AI開発者及びAI提供者)に非常に大きな悪影響が及ぶと思います。
kantei.go.jp/jp/singi/titek
パブコメに付される予定のようなので、AI開発者及びAI提供者は必ず意見を述べるように強くお勧めします。
このプリンシプル・コードについて、現時点で私が問題と考える点は以下の通りです。
▼ 日本だけ先行して厳しい規制をしてどうするの?
コードの冒頭に記載されているように、このコードはEU AI Actにおける取組(透明性の確保のための措置や著作権保護のための措置)を参考に作成されたものです。
そもそも、なぜ日本がEU AI Actを参考にしてほぼ同じ内容の規制をしなければならないかがよくわかりません。
また、EU AI Actにおいても、実装(標準化・運用)を含め調整が続いている状況なのに、日本が先行して自分で自分を縛る必要はないのでは?
▼ 事実上の強制に近いのでは
このコードは①受け入れるかどうかは自由、②ただし受け入れた場合には「コードの記載内容を実施するか、実施しない場合にはその理由を説明する、という位置付けです。
したがって、形式的には強制ではなく、「コードを受け入れない」という選択も可能です。
もっとも、特にAIスタートアップにおいては、「コードを受け入れているか」「受け入れていないのであればその理由」について、投資家や取引先から説明を求められることが容易に想定され、その結果によっては投資や取引機会を失う可能性もあります。
また、コードの末尾に「政府においては、各事業者の公表内容や具体的な取組の状況等を評価し、政府が実施・運用す る各種の事業や制度等において、一定のインセンティブを設けることも期待される。」とさらっと怖いことが記載されていますね。
そういう意味で、事実上の強制に近いのではないかと感じます。
コードの冒頭では「『人工知能関連技術の研究開発及び活用の推進に関する法律』(令和七年法律第五十三号)の趣旨を踏まえつつ」とありますが、本当なんですかね。
この「人工知能・・・法律」(日本版AI法)は、「人工知能関連技術の研究開発及び活用の推進に関する施策の総合的かつ計画的な推進を図」ることが目的となっており、AI事業者に対して法的な義務づけはされていません。
プリンシプルコードはむしろこの日本版AI法の内容に反しているのではないかとすら感じます。
▼ 対象者が広すぎる
対象企業は「AI開発者」と「AI提供者」であり、およそAIをサービスとして開発・提供する企業は、その規模を問わず一律対象となります。
したがって、大企業はもちろんのこと、生まれたてのAIスタートアップも対象となります。そのような零細企業が原則1から3に示されている「ごつい」対応が可能か、甚だ疑問です。
▼ 原則1
原則1は、大きく分けると「透明性確保のための措置」と「知的財産権保護のための措置」の2つが規定されていますが、いずれも著作権法を大幅に超える要請が課されています。
要するに法令上の義務がないものを、事実上、本コードを使って事実上強制するものであって、国の手法として非常に疑問です。
▼ 原則2
原則2は、権利を侵害されたと考える人からの開示請求があった場合に一定の事項の開示義務を課すものですが、現行制度(弁護士会照会や、訴え提起前の照会・調査嘱託等(民訴132条の2等)でも十分対応可能です。
また、この原則2が採用されると、無茶苦茶多数の開示請求がAI事業者に対してなされ、対応に非常に多くのコストがかかることが容易に予想されます。
原則2には「原則2が示す要求の典型例」として「robots.txt やペイウォールなどの対応をした上で自らのウェブサイトBに記事を掲載している者が、当該ペイウォール内の記事と同一又は類似するAI生成 物が出力されることを発見したため、AI事業者に対して、当該ウェブサイト Bの作品掲載ページのURLを示して、クローラの名称・識別子、第三者クロ ーラの名称・識別子、ペイウォール・robots.txt の尊重の状況等について開示 を求める場合」とあります。
原則2が採用されると、報道機関によるAI事業者に対する開示請求が殺到しそうですね。
▼ 原則3
原則3は正直、どのような場面を想定しているのかよくわかりません。
原則3の典型例として「画像を生成することができるAIサービスAを利用してAI生成物を生成した 者が、当該AI生成物と同一又は類似する画像がウェブサイトBに掲載されて いることを発見した場合に、AIサービスAを提供するAI提供者に対して、 当該AI生成物、当該AI生成物を生成する際に用いたプロンプト、当該AI 生成物の利用目的及びウェブサイトBのURLを示して、当該URLのドメイ ン部分がAIサービスAに搭載されたAIシステムを開発する際の学習データ のクロール対象に含まれているか、第三者から提供を受けた学習データの取得 源に含まれているか、仮にAI提供者において回答できない場合には、AIサ ービスに搭載されたAIモデルを開発した者の名称について開示を求める場合」と記載されています。
ただ、AI生成物を生成した人が、当該AI生成物と類似した著作物を発見した場合は、そこで当該AI生成物の利用を中止したらいいだけでは?
AIサービスを提供している事業者に問い合わせて「私が作成したAI生成物と類似している著作物を見つけたのですが、当該著作物は学習用データに含まれていますか?」と聞いてくる人って、本当にいるんですかね。
以上、現時点で感じたことをざっくばらんに書いてみました。
繰り返しになりますが、プリンシプル・コードはパブコメに付される予定のようなので、AI開発者及びAI提供者は必ず意見を述べるように強くお勧めします。