厚生労働省が発表した10月の毎月勤労統計調査によると、名目賃金から物価変動の影響を差し引いた実質賃金は前年同月比0・7%減少した。食品などの物価上昇が賃上げペースを上回る状況が続いており、10カ月連続のマイナス。ただ、筆者は各方面で「心配ない」と強調する。その理由を解説しよう。
まず、データを説明したい。厚労省のいう実質賃金とは、かつて毎月勤労統計の現金給与総額の対前年同月比から消費者物価指数(持ち家の帰属家賃を除く総合)の対前年同月比を差し引くことで算出されていた。
しかし、この計算方法には疑問がある。持ち家の帰属家賃があまり変動しないため、これを除く総合はインフレ時には総合より高めにでる。実際10月のデータでは、持ち家の帰属家賃を除く総合は3・4%、総合は3・0%だ。
厚労省も、従来使っていた実質化の指標である持ち家の帰属家賃を除く総合のおかしさに気付いている。最近では総合を使った実質賃金も公表している。マスコミは相変わらず持ち家の帰属家賃を除く総合を使った実質賃金0・7%減を使うが、総合を使うと実質賃金は0・4%減になる。
さてここからが肝心である。筆者の「心配ない」というのは実質化の指標の使い方ではない。どちらの実質化の指標を使っても、実質賃金は過去データを見ると、1~3年のサイクルで山と谷を繰り返している。なお、実質賃金の動きは景気変動とはまったく関係ない。
実質賃金の動きが上下する理由は、賃金の上がり方と物価の上がり方に差があるからだ。賃金の改定は通常、年1回である。しかも、その改定には過去の物価上昇に基づく生計費が勘案される。
このため、賃金の変動は物価に遅れる。公務員の場合、民間企業の賃金に準拠するが、過去の賃金なのでさらに遅れる。官民ともに、賃金は労使の交渉であるが、過去データによるしか方法はないので、実態経済の動きに敏感な物価の変動に遅れざるをえない。
今回のような景気上昇局面では、物価は早く上がり、そのうちに賃金が追いつき、追い越すと思われる。
今回からの実質賃金サイクルは、半年移動平均を見ると、2024年11月にピークになり、25年6月がボトムだ。単月のデータを見ても、25年1月がボトムだろう。その後、多少上下しつつ、物価より賃金の動きが勝り、上方トレンドになっている。半年以内にプラス転換する可能性があり、1%程度まで上昇するだろう。
(たかはし・よういち=嘉悦大教授)