プレ・インカ文化の墓から“男性”発見

2009.09.18
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モチェ文化の墳墓の床で発見された金箔の仮面。2009年9月に考古学者が発表したところによると、すぐ側に置かれていた棺にも同じような仮面が添えられていたという。モチェ文化は、南米ペルーでインカに先んじて繁栄していた高度文明の一つだ。

 棺の中には支配階級の男性の古人骨が横たわっていた。隣接する墳墓には王族の女性ばかりが埋葬されていたため、発掘チームはこの事実に驚いたという。

Photograph courtesy Luis Jaime Castillo Butters
 南米ペルーでプレ・インカ文化の時代に栄えていたモチェ文化の墳墓からは、これまで当時権力を振るっていた女性聖職者の古人骨ばかりが多数見つかってきた。しかし9月14日に考古学者たちが発表したところによると、新たに発掘された墳墓で支配階級に属していた男性の古人骨が見つかり、“予期せぬ”発見として注目を集めている。「その男性は紀元850年に築かれた珍しい2部屋式の墳墓の中で、その他数人と一緒に埋葬されていた。神秘性を演出する一種の“スモーク発生装置”やリャマの骨も周囲で見つかっている」と、ペルーの首都リマにあるペルー・カトリック大学(PUC)の考古学者ルイス・ハイメ・カスティーヨ・バターズ氏は話す。

「内部では、銅の格子や金箔の仮面で飾られた木棺が一段高いところに置かれていた。その木棺の中の埋葬者が男性だった。このサン・ホセ・デ・モロ遺跡で18年間発掘を行ってきた経験から、また女性が見つかるものと思っていたが、墓の主は意外にも男性だった。予期せぬ発見だが、考古学ではよくあることだ」。

 紀元100年から1000年頃まで栄えたモチェ文化はペルーの乾燥した沿岸地域に発展した農業社会であり、人々は分散した集落の中で暮らしていた。

 カスティーヨ氏は北海岸にあるヘケテペケ川流域のサン・ホセ・デ・モロ遺跡で1991年から発掘活動を行っている。同地はモチェの支配階級が行っていた儀式の中心地であり、墓地でもあった。「この遺跡からはすでに王族に属する女性聖職者の墓が7基見つかっている。モチェ社会で女性が重要な役割を担っていた証拠だ」と、同氏は話す。

 カスティーヨ氏の発掘チームは今年、ナショナル ジオグラフィック協会研究・探検委員会から資金援助を受けて、モチェ文化で初めて確認された2部屋式墳墓の発掘を開始した。

 有名なモチェ文化の陶器には、今回男性が見つかったような墳墓の墓穴に棺を下ろす儀式が描写されていることが多い。

「当時、葬儀は祝典にからめて行われ、それが次の支配者へのスムーズな権力移行を可能にしていた。サン・ホセ・デ・モロでは祭りが毎年催されていたが、その中で女性聖職者たちが埋葬式を執り行っていたのではないか」と、カスティーヨ氏は推測している。

 新たに発掘された墳墓で最初に発見された部屋では、片側に若い男性1人の骨が横たわり、隅にはリャマの骨も転がっていた。「男性とリャマは生贄として埋葬された可能性がある」とカスティーヨ氏は言う。

 さらに固く閉じられていた扉を開けると、2つ目の部屋に続いていた。赤と黄色で塗られたこの部屋には、女性2人と男性1人が質素な形式で埋葬されていた。

 カスティーヨ氏によると、支配階級の男性が収められていた棺の中では、本人の骨、仮面、先に鐘のつり下げられた長い杖や、その他の金属製品が散乱していたという。その乱雑な状態から判断するに、棺は不安定な長い道のりを経てこの墳墓に運ばれてきたと考えられる。

 これまでに発掘されたモチェ文化の墳墓では女性聖職者ばかりが埋葬されていたが、今回初めて支配階級の男性が見つかった。カスティーヨ氏の発掘チームはこのことに驚き、その理由を求めてモチェの芸術作品を片っ端から調べた。

 そして調査の結果、副葬品の長い杖には、モチェの芸術作品でよく描かれている鐘付きの杖とそっくりであることが判明した。「今回発見された男性は、この杖を持った人物だと思う」とカスティーヨ氏は言う。

 埋葬式を描いた場面に登場する中心的なキャラクターであり、現地語で“シワの寄った顔”を意味するアイ・アパエック神という名で呼ばれている。死の神であるイグアナ人間というまた別のキャラクターと一緒に、棺を墓穴に下ろす様子がよく描写されている。

 また、イグアナ人間や女性(おそらく女性聖職者)と一緒に、貝の装飾品を指導者に献上する様子を描いた図柄も見つかっている。カスティーヨ氏によると、アイ・アパエックとイグアナ人間は人から人へ代々継承される役割だったという。前任者が死んだ場合は、また別の誰かがその役割を引き継いでいたとみられる。

 モチェ文化の支配階級の墳墓からはこれまで女性が多く見つかっているため、この社会は女性が権力を握っていたのではないかと一部の考古学者は考えている。

「しかしモチェ文化の芸術作品では女性だけでなく男性も支配者として描かれているため、厳格な女性上位社会だったとは考えにくく、男女の区別なく権力を持ち得たと考える方が理に適っている。今回、支配階級の男性の埋葬地が発見されたことで、今後は後者の考え方が主流になるだろう」と、カスティーヨ氏は話している。

Photograph courtesy Luis Jaime Castillo Butters

文=John Roach

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