山芋の梅肉和(あ)え
秋のある日。
空飛ぶ絨毯を探したのだが、見つからない。
どこに行ったんだ?
そう思って屋敷内をうろつくと発見。
子供たちのお昼寝ベッドをやっていた。
荷物運びを頼もうと思っていたのだが、どうやら無理そうだ。
仕方がない。
何人かに声をかけて……
ザブトンの子供たちが、足を上げていた。
ちょっと遠い場所だが、大丈夫か?
よし。
それじゃあ、頼むぞ。
ああ、もちろん俺も一緒に行く。
目的地は、大樹の村を出て西にある森。
川までは行かない。
途中にあるエビの養殖池の近くだ。
散歩気分で進む。
同行者のザブトンの子供たちは、俺の周囲を警戒するように散っている。
散っているが、数がそれなりに多いので、俺を中心に黒い物体が進んでいるようにも見える。
まあ、見えるだけだが……
ザブトンの子供たちのさらに外周を、クロの子供たちがいつのまにか警護していた。
クロヨンのパートナーであるエリスと目が合うと、置いていくなと叱られた。
いやいや、誘おうとは思ったんだぞ。
だけどエリスたちは、ちょうど鬼人族メイドたちからビッグサイズの秋刀魚の頭をもらって、嬉しそうにかじっていたから邪魔をしちゃいけないなと……
言い訳だな。
悪かった。
次からはちゃんと誘うよ。
俺の謝罪にエリスは満足したのか、数頭を率いて先行した。
俺のそばに来ると思ったけど……ザブトンの子供たちに譲ってくれたのかな?
気を使わせてしまった。
今度、なにかで埋め合わせをしよう。
だが、俺の目的地をエリスは知っているのだろうか?
まあ、まっすぐ進むだけだから大丈夫か。
気を取り直して、俺はザブトンの子供たちと一緒に歩いた。
先行したエリスたちが待機している、エビの養殖池の近くに到着。
なにもないように見えるだろうが、よく観察すると周囲の木にツタが巻き付いているのがわかる。
山芋のツタだ。
俺の目的はこの山芋。
もちろん、自然に生えているものではない。
【万能農具】が頑張ってくれた。
【万能農具】で育てるなら、村の畑でいいじゃないかという意見もある。
俺もそう思う。
だが、山芋のことを思いついたのはここだったんだ。
以後、ここが山芋の生産地になっている。
まあ、収穫のために森に入らなければいけないのは不便だが、それなりの気分転換になっている。
さて、ザブトンの子供たちに運んでもらうためには山芋を掘り出さなければいけない。
山芋を折っていいなら、それほど難しくはない。
だが、山芋を折らずに掘り出すのはそれなりに難しい。
体力と根気が必要となる。
一本の山芋を掘り出すのに数時間かかるというのは珍しくない……らしい。
俺は【万能農具】を使って掘り出すので、それほど苦労していない。
あと、調理するときには切るのだから、収穫時に山芋を折ってもべつにいいんじゃないかなと思う派。
でも、文官娘衆たちが山芋を販売するときのことを考えて見た目を気にするし、ハイエルフ、山エルフ、鬼人族メイドたちはなぜか折れていない山芋を喜ぶから、折らないように注意している。
ザブトンの子供たちを待たせるのも悪いので、さくさくと五十本ほど掘り出していく。
ザブトンの子供たちは俺が収穫した山芋を糸で縛ってまとめてくれる。
サイズが小さい山芋は食べていいぞ。
そう伝えると、小さい山芋にザブトンの子供たちが群がった。
あっというまに消える。
もう少し収穫を頑張ったほうがいいかな。
護衛をしてくれるエリスたちにも渡してやりたいし……
おっとエリス、そのサイズは持ち帰りたい。
もう少し待て。
この辺りのが小さそうだから。
ツタの成長具合でなんとなくわかるだろ?
掘ってみると……
あれ?
それなりに長い。
……
わかった、これはエリスたちで食べていいぞ。
掘り出した山芋をザブトンの子供たちが背負う前に、俺はちょっと寄り道をお願いする。
エビの養殖池ではなく、逆方向。
少し行った先に平らで大きな岩があって、その岩を屋根に地下室を掘ったんだ。
実は、そこに俺が個人所有する酒や発酵食品の一部を隠している。
村に置いておくと、いつのまにかなくなっているからな。
とくに酒。
犯人は酒スライムだと判明している。
時々、代金として褒賞メダルを置いているから。
そんな知能があって、酒を盗むのは酒スライムぐらいだ。
酒の盗み飲みはべつにかまわないと言えばかまわないのだが、酒を飲みたいときに無いのは辛い。
あと、寝かせておきたい酒が消えているのも辛い。
それゆえの、この村の外の地下室、保管庫だ。
村の外だと魔物や魔獣に荒らされる可能性もあるが、大樹の村や一村、二村、三村に囲まれた場所のうえに、エビの養殖池が近いからか、いまのところは被害に遭っていない。
クロの子供たちの警戒網に引っかかるのだろう。
俺が保管庫から持ち出したいのは梅干し。
山芋を梅肉で和えて食べたい。
村にも梅干しはあるのだが、少し前にラーメン作りで使ってしまった。
塩ラーメンに梅が合うのが悪い。
使った分を補充しないとな。
山芋はここに置いておいて……不安?
持っていく?
そうか。
すまない。
そんなに遠くないから、許してくれ。
ほら、そこに平らで大きな岩が……あれ?
平らで大きな岩があった。
いつもと変わらない感じに。
だが、その岩の横に見知らぬ物があった。
天井と柱はあるけど、壁のない建物。
一見、バス停のようにも見えるけどバス停ではない。
なぜなら、屋根の下にあるのはバスを待つ客に座ってもらうベンチではなく、バーカウンターなのだから。
屋根、柱、そしてバーカウンターの汚れ具合から、かなり最近作られたものだとわかる。
ついさっき、作ったんだ。
へー。
俺の疑問に答えたのは、バーカウンターに隠れていたドワーフ三人。
なぜこんな場所にバーカウンターを?
いや、これは答えを聞かなくてもわかっている。
勝手に保管庫から酒を持ち出さない良識は褒めたい。
そして、俺が森に入ったのを見て木材を抱えてここにバーカウンターを作った労力に負けた。
俺は岩の下の保管庫から、かなり寝かせた梅酒の入った壺を持ち出し、ドワーフたちに渡す。
森の中だから、前後不覚になるほど飲まないように。
ストレートで飲むのは……あ、割る用の水とかちゃんと用意しているんだ。
おつまみも。
ご一緒したいが、ザブトンの子供たちを待たせるわけにはいかないからな。
俺は自分の目的であった梅干しの入った壺を保管庫から持ち出す。
……
ドワーフたちに山芋と梅干しをお裾分け。
俺はザブトンの子供たち、クロの子供たちに声をかけ、村に戻る。
今晩の食事で出るであろう、山芋の梅肉和えが楽しみだ。
お久しぶりになってすみません。
日常話です。
「密偵の情報」関連は次回以降で。