「事件の背景に漫画やアニメ」は本当か 専門家の科学的な考察は
世間を震撼(しんかん)させるような事件が起きると、その背景に漫画やアニメ、ゲームなどの影響が取り沙汰されることがある。ただ、有害図書規制の対象となる暴力表現や性表現が青少年に与える影響は、実際どれほど科学的に実証されているのだろうか。メディア表現が心理に及ぼす影響について詳しい渋谷明子・成城大教授(社会心理学)に聞いた。
「有害図書」規制のあり方を有識者に聞く連載は、以下のラインアップです。
▽漫画のエロ・グロ表現で犯罪が起こる? 「はじめの一歩」作者の憂い
▽“寸止め”パンチでボクシング描けない 有害図書規制と表現の萎縮
▽「表現の自由のため」じゃない 漫画家が有害図書規制と闘うワケ
▽科学的根拠ない「萌え広告」規制はダメ 議員になった漫画家の警鐘
▽性表現は「理性的な基準で吟味を」 憲法学者がみた有害図書規制
▽形骸化する「不健全図書」の審議会 “中の人”がみた不公平な仕組み
▽性表現はなぜ、子どもに見せてはいけないとされるのか 専門家に聞く
▽“朝チュン”では伝わらない 少女漫画に性愛表現が描かれる理由
▽「事件の背景に漫画やアニメ」は本当か 専門家の科学的な考察は
▽泥まみれはグロテスクか 漫画家が訴える有害図書指定の理不尽
▽義理の兄弟のBLも「近親相姦」? 市民がみた不健全図書審議会
暴力シーンの影響「ある」けれど…
――暴力表現が青少年に与える影響は、どうやって調べるのですか。
◆社会心理学では「青少年の攻撃的な態度や行動(攻撃性)を暴力シーンが助長するかどうか」について研究されています。
例えば、複数人の青少年を二つのグループに分けて、一方は暴力シーンのあるゲームを、もう一方には暴力シーンのないゲームをさせ、直後の行動を比べます。これにより、暴力シーンの一時的、短期的な影響が分かります。
より長期的な影響を調べるには、同じ人を対象に半年程度の間隔を空けて2回以上実施するパネル調査があります。複数回の調査により、性格や好みの違いといった個人差ではなく、暴力シーンの影響であることを示せます。
――どんなことが分かっていますか。
◆暴力シーンが攻撃性を助長するとの研究もあれば、影響なしとする研究もありますが、総じて「暴力シーンは青少年に影響を与える場合がある」というのが研究者の一致した見解です。
ただし、影響の程度はそれほど強いものではありません。研究者によって見解の違いはありますが、私自身は「影響はあるけれど弱い」と考えています。
実際には個人差や暴力シーンに接した状況の違いなどがあるので、全員が影響を受けるわけでもありません。
――では、青少年の攻撃性に強く影響するものは何でしょうか。
◆厳密な比較をしないと分からないので、明確には言えません。ただし一般的には、個人の性格、そして社会的状況や友人集団が、暴力シーンによる影響の強さに関係すると考えられています。
例えば、もともと攻撃的な人は暴力シーンによって攻撃性が増しやすい。同じ人でも孤独感を抱いている時ほど影響を受けやすい。環境が変わって新しい友人たちに認められたい時に攻撃的な行動を取りやすい――ということです。
他にも、親から暴力を受けていた場合、暴力を問題解決の手段として学んでいることがあるように、周囲の人による影響もあるでしょう。
――暴力シーンにも、殴る、殺すなどいろいろあります。
◆ゲームに関する研究では、暴力シーンで血が流れる場合は攻撃的になりやすいことが示されています。
テレビに関しては、ヒーローものに憧れる子供のように、登場人物に自分を重ねて見るほど影響を受けるとされています。これは悪い影響と良い影響の両面について言えます。
例えば、悪者と戦うヒーローをまねて攻撃的になることもあれば、どんな時でも諦めない心を学ぶこともある。大事なのは、メディアから何を学ぶかということです。
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