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TIPS: ballad.(バラード)②

短編集です。

TIPS【三木田と健人】

 ずっと会社を辞めたいなって考えていた。毎日笑顔を作って、毎日居酒屋で酒を飲んでは吐いてを繰り返した。酒だけ飲めるようになっても友達なんてできやしないことも、ちゃんと理解していたのに、気づいたら『友達づくり』というやつは、俺の中では当たり前になっていた。

 会社にいるやつらも、大学からの付き合いのやつらも、家族ですら俺に『良い顔』だけしている。それだけだ。まあ仕方がないよな。俺は自分が悪く思われるのが嫌なんだ。今更めんどくさいだとか、嫌だなという表情見せても、周りだって『三木田くんってなんか違ったね』になるだけだ。俺にとっても、相手にとっても何の得もない。だから誰かのために何かをすることが俺の存在意義なんだ。ただ時々すごく疲れて、ものすごく死にたくなる時があるけどな。

 「はあ」俺はため息が出た。中村のやつ――取り調べを受けるのはいいが随分と長くないか?全部「知りません」でいいし、実際知らないんだから警察なんか相手にする必要だってないはずだ。それとも…『例の事件』について想うことがあるのか?俺達が山田の家に居た時に、中村がカーテンを開いて窓の下をチラリと見ていた横顔を思い出した。あの何に対してかわからない厳しい表情。『例の事件』が発生した時間。俺達全員にアリバイはない――アリバイを証明しとかないと、後々めんどくさいのを中村はちゃんと理解しているのだろうか?口裏通りに話しを合わせただろうな?山田が初めに事情聴取をされたが、こうして俺が何か聞かれなかったということは、俺の言う通りにしてくれたということだろう。

 山田の身体が震えた。「山田?大丈夫か?」俺は山田に話しかけた。…肌色はだいぶ良くなったけど、殺人未遂事件にまで巻き込まれて、山田の精神状態も決して良くはないだろうな。俺は自然と笑みが出てきていて慌てて隠した。

 「――だいじょぶ、心配ありがと」なんだその笑顔。反吐が出る。あっ「そ…」と俺は反応した。別にお前の心配なんてしてない。冷たい態度を取れば山田はもっと精神を病むだろうな。もっと追い詰めて、追い詰めて、追い詰めてしまえば、お前はこんなどうしようもない俺を殺してくれるだろ?

 「三木田、ごめんな なんか変なことになっちゃって」は?なに?謝った・・・?なにに?

 「せっかくの忘年会だったのに、三木田ほったらかしにしてたし…」ああ、そのこと。別にどうでも…「いいですよ 気にしないでくださいよ。」…甘いな。俺は。「怖い思いさせちまった」「別にいいっですって。」良い子ぶんなって山田。「それより事件のほとぼり?解決する?まで、警察から保護してもらえるって良かったじゃん…ですね。」当たりさわりのない話題に変えよう。山田は特に反応はなかった。短くそうだねと肯定した。

 沈黙が苦しい。誰も通り過ぎるわけのない取調室前の廊下は寒かった。部屋の用意ができたからと、山田は木ノ内と呼ばれていた人と一緒に離れて行った。「三木田さんも受付の方が暖かいと思うので、そちらに移動してもいいですよ」と木ノ内から言われて、俺は場所を移した。警察署内の受付って深夜でもやってんの?って想ったけど、何人か夜勤の警察の人も休みに来ているのか、眠っている人がちらほらいた。別に帰っても正直良かったんだけど、ちゃんと中村に確認を取らなきゃ安心できない。俺は一体何に怯えてるんだよ。さっきから。思考回路はもうぐちゃぐちゃだった。

  エレベーターから中村が降りてくる。
  朝方まで一緒に居ることになった。

  そういえば、中村サンだけは違ったな。俺と山田の関係を知っても、それでも自分自身には関係ないことだと言ってくれた。何故か心が救われたような気持ちになれた。…認めないけどね。中村サンの冷めた態度が心地良いと想った。自分の気持ちを隠して日々を過ごすことに対して、どうして拘っていたんだろうとなれた。

  「もうすぐ、クリスマスだな」めちゃくちゃどうでもいい話題を中村サンに振ってみる。「そうだな。」なんだその会話終わらせますみたいなニュアンスは笑うわ。ははは。やっぱ嫌いになれねえなあ中村サン。また、飲み会開いたら来てくれるかな。



TIPS【悠星と健人】

 「健人――大丈夫?怪我なかった?」健人は返事をせずに縮こまっている。人気のない暗くてじめじめした路地裏だもんな、無理はねえさな。つっても俺の方がズタボロだけど。オレは苦笑する。「いてて…」殴られた頬がひきつる――くそ。

 「健人もう大丈夫だから、行こうぜ」健人には目立った外傷もなさそうだしな。大丈夫そうで本当に良かった。オレは学生ズボンの尻ポケットからタバコの箱、制服の内ポケットからライターを取り出して、タバコを蒸かす。健人が若干フラつきながら立ち上がると、そのままオレの横を通り過ぎていこうとした。「健人?」オレは健人の肩に触れようとした時、健人の手がオレの手を強く払い除けた。

 「どうしたんだよ」と声をかける暇もなく、健人は「怖かった」と叫んだ。オレは脳みそがガーンと強く打たれた感じがした。全身が震えた。いきなり怒る健人が怖かった。密集した建物の壁に健人の言葉は反響した。健人はオレの方を振り向きながら、両手の拳は地面にパンチするように握りしめて、わなわなと震えていた。水色のパーカーは土に汚れて薄汚い感じになっていたし、今にも涙がこぼれそうな程に溢れかけている。「お前といると本当にろくな事ない」健人の言葉はもう絶叫に近かった。

 気づいたらオレは路地裏で座り込んでいた。独りだった。どれくらいそこにいたんだろう。健人は?オレは顔を上げた。夕焼けがいちょう並木を紅く照らしているし、通行人の視線が時折きつかった。目をそらして、オレはまた下を向く。健人はもうとっくに家に帰っただろうし、晩飯もきっと済ましてる。そんな時間にはなってるだろう。

    脳みそはじんじんしてとても痛い。つい先ほどの喧嘩を反芻していたからだ。オレも健人にめちゃくちゃ言い返していたけど、もう何を健人に叫んでいたのかわかんなかった。オレは腰を上げて路地裏から出た。たいようが眩しかった。らしくなかったなと今更になって反省の心が出てくるんだもんな。

 健人の言動はいつも支離滅裂で一緒に過ごしていて、常に不安があった。たまに健人が笑ってくれる時があって、その時は少しでも家族のことを忘れられていたらいいと思ったし、健人が楽しければそれで良かった。

    健人にとっては迷惑じゃないかなと思ったことは何度もあった。そりゃそうだアイツの価値観に踏み込んでかき回したのはオレなんだ。健人に対してのオレの不満は言葉を出す前に飲み込むことも多かった。色んな場所に連れて行けば視野も思考も広がって、いつからかオレをオレとして見てくれる日が来ると期待してしまっていた。友達として好きだったのに、同じ気持ちで健人と歩くことはできなかった。

    むしろ、あんなに拒絶するほどに追い詰めていたなら、もっと、早く、絶交してくれたなら、こんな気持ちにならなくて済んだのに…そんなに一緒にいるのが嫌だったなら「どうしてオレと一緒にいてくれたんだよ」って聞けたら良かった。もし言えたなら、健人のヤツはどう答えてくれたのかな?今更がすぎる。どうして今更になって冷静になるんだよ、オレってやつは…!目の前がぐちゃぐちゃで、クソ。泣くなよだせえ。あんな事を言わなきゃ良かった。もっと違う言い方があった。もっと、もっと、、ちゃんと言えたら良かった。もっと今まで以上に気を遣えたら良かったッッ!!!!「絶交する」と言った健人の苦い顔を抱きしめる力なんてなかった。引き止める力も言葉もなかった。オレは、オレはただ…。

 健人とずっと友達でいたかった。
 「ただそれだけで」…よかったのに。



TIPS【告白】


 食器がカチャカチャと重なる音。
 人の酒帯びたはしゃぎ声。

 「オレ、久美ちゃんと結婚したい」

 ヒューヒューとまくし立てる声

 「…もう、大人をからかわないでね、星野さん、金木さんも。」皿を洗う音。

 「オレ本気だよ」水が出る音。
 「…うそばっかし」皿を洗う音。

 「私と結婚したいなら、山本組抜けてくれなきゃ無理ね。」蛇口を締める音。

 「久美ちゃん、悠星は」「わかってるわ。組なんて関係ないことも。星野さんとは私、彼が中学生の頃からの知り合いだもの。あんなに小さくてかわいくて…。」でも…と、小声。

 「ハッキリ言っておきます。貴方達のボスが私の旦那を殺したことは、私の頭の中で一生チラついてしまうの――牢獄で罪を償っている最中だとしてもね。忘れたくても忘れられないわ。だから、友達のままでいた方が絶対、いいわ――だからこの話はなかったことにしましょう。あっ」いらっしゃいませー…声が遠のく。コップを机に置く音。

  「…また振られちまったな」薄ら笑う声。

  「押せばいけるんじゃねえか?」「いや…」椅子を引く音。「ダメって言われちまえば、もうダメさ。大吾さんもしつこいと嫌われちまうよ。」豪快な笑い声。

   「久美子さん、オレたち、お勘定。」
   「…はーい。」



TIPS【真犯人】

 絶対におかしい。
 犯人が捕まらないことがおかしいって言ってんだ。開示要請までされて提出したらしいビルの防犯カメラの映像に証拠が何ひとつないなんてあり得るわけがねえだろうが。つまるところ、証拠映像を消したとしか考えられねえだろうよ。

 誰がやったかって?並木久美子――久美ちゃんしかありえねえだろ。あの女…ならできる。大雪に乗じて犯罪現場の痕跡を無くす事はできる。ビルに設置されている防犯カメラの改ざんだって管理人に頼み込めば容易にできる。なんたって管理人もあの居酒屋の常連なんだからな。悠星のカタキ、ここで俺が打たねえと、悠星が浮かばれねえ。俺がやらなきゃ誰がやるってんだい。黒い服とメットにマスクを付けちまえば暗闇に紛れて防犯カメラもしのげるだろうし、必要な材料もわざわざ用意したんだ。よし、忍び込むぞ、あの店にって決意したわけよ。

 居酒屋『よってこ』は久美ちゃんの家と繋がっている。あの店内に入る方法は二つ。お店の正面か、悠星が殺された裏手の階段を少し上がった久美ちゃんの家に直接だ。俺は裏手の入り口から侵入しようとした。「ん、今日3階明かりついてやがる。」

    たしか、山田だっけか。悠星が殺された日はいなかったんだよな…単に寝てただけってのはあるかと考えたさね。山田が出てくりゃあ家に入って救急車、警察を呼べたのに…星野が死なずに済んだってのに…アイツらに追われるなんてなかったのに…「おっとぅ」いけね、今回も携帯、家に置いてきちまったことに気づいた。まあ、どうでもいいさね。なんとかなるだろうと思ったさ。

    久美ちゃんの家の鍵は何度も侵入してるくらいには簡素なセキリュティだ。こうやって少し太え針金を折り曲げちまえば手馴れたもんさね。…うし、開いた――ピッキング成功だ。ついでに今日履いたパンツでもいただこうとするかねえなんて、おい冗談だよ。

   扉を開こうとしたその同時だった。「うがっ!!」何か重たい物で背中を刺された感じが、した――ぐおおっ、「がっ、だ――」誰が!?後ろを振り向いて俺は誰かを確かめようとしたが――久美ちゃんじゃない。誰か…だめだ、暗くて顔がよくみえ、、、げほっ、ごほっ「ひっ、ひいいいいっっ」咄嗟に相手の横脇を抜けた。「が」ま、た、刺されだ…!!こ、殺されるっっ、、!!死にものぐるいで裏手の階段を転げ落ちた感覚。「げほっ、、ごほっっ!!」血を吐いた感覚。震え、寒い。死ぬ。死ぬ!!逃げる!!どこ!!たすけで!!寒い!!死ぬ!!階段にもつれる感覚。血を吐いた感覚。扉を…開けて…くれ。

白い光。眩しい。
うっすら目を開くと、生意気な目で見てきた坊ちゃんと、山田じゃない方の友達と、刑事さんが2人立っていた。そしてここは病院なのを理解したってわけ。「警察署内の病室だけどな」片側の刑事――神田だっけか。神田がそう呟いた。

    「そして今に至るってわけよ。」俺は周囲を見渡すと付け加えた。「結局…俺を刺した犯人は誰か分からんかった。」

   「は、はあ…そうなんですか。」まるで他人事だな。おいこら。舐めたクソガキがよ。

   「どうなんすか、刑事さんたちの考えは。こいつがただ変態なくらいしか分からなかったな…管理人が犯人の可能性があるんじゃないすか?知らんけど。」

   「てめえら、俺の貴重な証言しっかり事件解決に役立てろや!!うっ!」ごほごほ…あ~ぐるしい。

    「まあでもこれでだいぶ犯人は絞れこめます。ご協力ありがとうございました。木ノ内。こいつの牢獄用意しとけよ。住居侵入罪、窃盗罪の証拠映像を入手ついでに管理人に聞いてみよう。」「了解すね。」え、ちょ、待てよ!!木ノ内と呼ばれた刑事が敬礼して部屋から出ていきやがった!!

  「いやーここまで自白しちゃあねえ。ついでに中村サンも暴力罪でこの変態、訴えたらどうですか?」なんだと!!「――あ、すんません、、」そんな睨まなくても…。俺はへこんだ。

    「あの、」
     唐突にクソガキが話しかけてきやがった。

 「星野について、色々教えてほしいんですけど、質問してもいいですか?」

TIPS終わり
本編に続く。


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