一体誰が悪いのか
筆が進むのもあるけど最近リアルが楽になったのが大きい
冗談を言ってる場合じゃないか。
回避の体勢から立て直しつつも着弾地点を見れば、貫通こそしていないが問題ないとは言い切れない感じに壁が抉られている。
「……ここはもうダメだな」
「え……? ど、どういうことよ」
「戦うにせよ逃げるにせよ、アレにここが破壊されるのは時間の問題ってことだ。家具を片付けつつ動く、家での準備をすんだよ引きこもり……!!」
「う、うそでしょわたしのあたたかなねどこ……」
地味に重い過去を匂わせる泣き言を漏らすんじゃない! 【ライブラリ】に全面協力させりゃなんとかなるだろ!!
「ウィンプ! 出口を塞ぐ石を少しずつどかしておけ! ギリギリまで開通させんなよ、最悪蜘蛛が雪崩れ込んでくるからな!!」
「ふぐぅぅ……ううっ、わかったわよ!!」
さて、待たせたなサイボーグカブト。
「サイナ! エムル! 火力で叩き落とせ! これ以上暴れられたら上から蠍が落ちかねんぞ!!」
「了解:「化粧箱」展開」
「はいなっ! 詠唱に入るですわっ!!」
「よーしクソカブト、こっちも合わせてやる。カブトムシらしく相撲しようぜ!!」
頭装備を懐かしき戦角兜【四甲】に変更。お前が不世出だろうと関係ない、こっちの角は神代無双の刀と張り合った角だぜ……むしろこっちが言ってやろう
「相手にとって不足無し!!」
とはいえ流石に正面切ってぶつかるわけにもいかない。だったら戦法を変えるまで……相撲に階級は存在しない、だったら小兵の戦い方でその巨体を沈めてやろうとも!!
明確に俺を狙った突撃に対して連結スキルの数々を起動した俺の身体が加速する。狙うは奴の角……ではなく、角を足場にさらにその向こうの翅だ。
どんな不安定な体勢でも一秒耐えられれば一瞬の攻防の中では値千金のモーションとなる。【四甲】の角、その一本による一点倒立とでも言うべき曲芸も真界観測眼あってこそだ。普通にやっては一秒保てば上等な曲芸も轟速で突っ込んでくるサイボーグカブトとの交差という一瞬であれば成立する、そしてこちらの制御下に置かれた吹き飛びを利用したスピンで奴の後翅を斬りつける。
だが手応えは芳しくない、これは硬さによる弾かれではないな……微振動? 超振動? このクソカブト、巨大を支えるにしては明らかにおかしいが翅の振り幅が恐ろしく小さい。もはやバイブレーションと言っていいレベルの微小な羽ばたきで巨体を動かしてやがる。なんで浮いてるんだ、なんで飛べるんだ、それはきっと魔法パワー。
「向こうの速度込みの交差斬りでもこの程度かよ泣けるぜ……」
着地、近くにあった燭台をインベントリアに格納しつつ次の策を練る。エムルは詠唱中、サイナは……エムルに合わせるつもりか、下手に手を出してヘイトを逸らされても困るしナイス判断だ。
さてどうしたものか、外殻の硬さは言わずもがな。飛んでる最中は翅への攻撃も無駄、腹を狙うか? 腹も外殻と同質っぽいですねクソが。さぁ攻撃が来るぞ、思考は動きながらだ。
「おっと足場」
「わたしのいすーっ!!」
跳躍で回避しようにも距離が足りなかったので咄嗟にインベントリアから椅子を取り出して足場にする。当然その場に取り残された椅子はサイボーグカブトによって粉砕される。くっ、なんでヤローだ許せねえ……っ!
「机シールド! 箪笥ガード!」
「いやぁぁぁっ! やめてえええええ!!」
無視。
「エムル! サイナ!」
「準備完了:同時砲撃します」
「クラスター・マギストーム!!」
あ、馬鹿。エムルこんな狭い場所でンな範囲技使ったら………
「全員外に逃げろォーっ!!!」
「ほへ?」
「はえ?」
「推測:この場の崩壊」
くっ、俺とて家具を惜しいと思う気持ちくらいあるわい!!
封雷の撃鉄・災を左胸に叩きつけ、リキャスト完了したスキルで強化した脚で一気に隠れ家内を駆け抜ける。まだ使える家具を手当たり次第に回収し、迅速に出口へと駆け出したウィンプとは逆に混乱しているエムルの首根っこを掴んで出口まで一気に駆け抜ける。
すまん大家、床抜けるかも。
「サイナっ! 外の状況は!!」
「ご覧の通り、既に開戦かと」
ヒューッ! 外も中も地獄絵図じゃねーか!
住まいを揺らす騒音にキレて身体を起こせば不倶戴天の敵とばったり遭遇、そりゃあもう戦争だわな。見慣れるのもどうかと思うが、フォルトレス・ガルガンチュラとトレイノル・センチピードは今日も今日とて元気にガチンコバトルを始めていたようだ。
そんな最前線に飛び出してしまった俺達は今のところはこちらにヘイトを向けていないアーミレット・ガルガンチュラにバレないよう慎重に距離を離しながら……
次の瞬間、崩落して埋まった隠れ家への入り口をぶち抜いてサイボーグカブトが戦場へと躍り出た!!
基本的にこのシグモニア前線渓谷は蜘蛛と百足と蠍の領域だ。そんな中に突如として現れた重装甲高機動高火力を兼ね備えたニューフェイスに僅かだが蜘蛛と百足の動きが止まった。
それは俺達のような外様ではなく、ともすれば自分達よりも長くここに住んでいた住人に出会したような……だが、騒音の源であるサイボーグカブトは目に入る全てが気に食わないらしい。周囲を観察するように滞空していたのはわずか三秒、その間に「皆殺し」の結論を算出した奴は戦闘体勢となってフォルトレス・ガルガンチュラへと突撃を敢行した!!
「うわぁ、やべぇな大自然……」
「に、逃げるですわ……これはもうどうしようもないですわ……」
そうは言うがなエムル、ゲーマーという人種はそう簡単にレアエンカを諦められない生き物なんだ。
サイボーグカブトをして城塞蜘蛛の装甲には歯が立たなかったと言うべきか、それとも城塞蜘蛛ですら軽くノックバックで揺れるほどの衝撃をぶちかましたサイボーグカブトを恐れるべきか。少なくとも今の一撃で奴は蜘蛛と百足から明確に敵として認められたらしい。
二種の超巨体が宿敵を警戒しつつもサイボーグカブトという新たな敵を視野に入れた状態で動き始める。先手はトレイノル・センチピード、すり鉢状の円形渓谷の壁面を這って高速でフォルトレスの背後へと回り込み、そのまま蜷局を巻いてフォルトレスを締め上げる。そして背中の大砲でサイボーグカブトに砲撃。
対するサイボーグカブト、回避など邪道と選択したのは直進! 正気か? 否、シラフの奴から死んでいくのが戦場だ! そのまま突っ込んで毒砲を真正面から貫いた!!
だがあの毒は対フォルトレス用の極大神経毒、百足蜘蛛と比べれば小さすぎるサイボーグカブトが食らえば……いや、違う!
全身の装甲を引き締めることで関節の隙間を埋めて毒が体内に入らないように……!?
なんて奴だ、この戦場における対策を心得てやがる……! 一時的に慣性による移動しかできないが毒への完全耐性を備えるメリットは大きい。そして翅を再展開したサイボーグカブトのぶちかましがトレイノルの顔面に命中!!
「せ、せいきまつ……」
俺もそう思います。
思わずスクショを撮ってしまう程に見事なぶちかましによってあのトレイノルの巨体がアッパーカットでも食らったかのように吹き飛ばされた。とはいえ体型的に吹っ飛んだのは頭を起点とする全長の五分の一程度だが、それでも要塞が稼働するには十分過ぎる隙だ。
「おお、フルバーストとは珍しい」
小蜘蛛を大量に消費することで全方位に砲撃を行うフォルトレス・ガルガンチュラの必殺技だ。主にトレイノルに巻きつかれた時に使う技だが大抵は百足の締め付けが完全に決まって砲撃ができなくなるため、なんらかの理由で締め付けが弛まないと見ることができないレアモーションだ。
内側から大量の衝撃を受けたトレイノル・センチピードがこれはたまらないと拘束を解いて距離を離す。サイボーグカブトは飛んできた小蜘蛛砲弾を危なげなく回避していたが、先程の恨みを忘れていなかったトレイノルの尾が奴を地面へと叩き落とした。
「よーしチャンスだ! ちょっくらトドメ刺してくるわ!!」
「横からかっさらう気ですわ!?」
ハイエナ戦法の何が悪い? 最小の被害で最大の成果を得る、自然の中で生み出された素晴らしいタクティクスじゃないか。ククク、多少のヴォーパル魂が削れたとしてもエクゾーディナリーを倒せるメリットを取るのさ俺は……
「疑問:この混戦の最中であのモンスターが倒された場合、素材は失われるのでは?」
………………。
「やってやろうじゃねぇかオラァーッ! かかって来いや大自然!!」
どうやら床下を雑に荒らされたのが余程腹に据えかねたのか、上から降り注ぐレーザーの雨まで追加された地獄の戦場に、身体一つでいざ挑戦───!!
あ、簡易セーブテント作らせて、四回くらいは死ぬ気がする。
蠍:床下揺らすな殺すぞ
百足:騒音がうるさいてめーのせいだな死ね蜘蛛
蜘蛛:騒音がうるさいてめーのせいだな死ね百足
甲虫:寝てる間ずっとうるさいんじゃ全員殺す
人間:素材落として?