鉄人なれど鉄ならず、冷やし熱せば崩すは身持ち
ゼウスを引き当てたことですべての神石を手に入れました、実質全てのライドウォッチを手に入れたのと同義なので今日から僕のことはグランド硬梨菜とお呼びください
よくわからない流れで玲さんと地図アプリを頼りに向かったのは「ハイパー銭湯「浮島」」という場所だ。ちなみにハイパーとついているがカテゴリ的にはスーパー銭湯である。
かつてスーパー銭湯現象の危機に際し、複数の企業が手を組む事で「最新のバスルームに慣れた奴らをさらに上から技術力で殴る」という超力技によって解決したこの場所では銭湯の他にも食事処、コインランドリー、ゲーセン、映画館、フットサルフィールド……いや見境なさすぎでは?
それはそれとして最新鋭のシミ抜きからアイロンまでを全て一機体のみで実行するとかいう家電量販店でもなかなか見かけない最新型の洗濯機に服を突っ込んだ俺は足早に浴場へ入り、身体を洗って温まった身体を水風呂の中に頭の先まで沈めて……
「ぐぼばばばばばばばば!!!!」
やらかした! やらかした! やらかした!
何やってんの俺!? リアルで何やってんの俺!? 思い返したら頭の血管ブチ切れそうなくらい恥ずかしいんだけど!! 公衆の面前でゲーム中でも中々使わない痛い煽りしちゃったんですけど!!?
しかも! よりにもよって! 玲さんが見てる前で!! ダメじゃん! リアルでもゲームでも同じグループに所属してる人の前でやらかしたんですけど!? 玲さんの口が一ミリスリップするだけで俺の社会的地位が微生物レベルまで落ちるんですけど!!
「びぼぼぶぼばばぁぁぁーっ!!!」
※ミトコンドリアは微生物ではありません
胃の中でウニがスーパーボールみたいに跳ね回るような感情の爆発をどうにかするべく、俺はサウナの扉を開いたのだった……
◇
大衆浴場というものは家に檜風呂がある玲からすれば中々に新鮮なもので、勢いのままに楽郎に着いてきたものの当たり前だが男女別に分かれ、身体を清めてからぼんやりとした頭を冷やすべく水風呂に潜って……
「ばゃばばばばばばばば!!!!」
冷ましてなお臨界点を下回らなかった感情が水風呂の中で大爆発を起こした。
やってしまった! やってしまった! やってしまった!
護身術の中でも割とグレーゾーンな技を公衆の面前で躊躇いもなく! 容赦もなく! 確かに自分を庇いに来てくれた楽郎がコーヒーをかけられた事で頭に血が上ったことは事実だが、それを差し引いてもあまりに浅慮だった。
しかも、よりにもよって、楽郎が見ている前でこの醜態。物騒で暴力的な女だと思われたに違いない、水風呂の中に溶けて消えた涙は悲しみか、怒りか……もうこのまま水風呂の底に張り付いてしまいたい衝動を生存本能が浮上させる。
「ぼばばぼぼばば………っ!!」
胃の中に剣山が落ちてきたような手綱を握れない感情をどうにか沈めるべく、玲はサウナの扉を開いたのだった……
……
…………
………………
そして一時間が経過した。
「うぅう、頭痛い……」
サウナと水風呂だけを何往復もするもんじゃないな……だが胃の中のウニは喉に刺さった魚の骨くらいには大人しくなってくれた、コインランドリーにしちゃやたら高い金を支払っただけあって服の方もパリッパリだ。
「つーか一時間も……やべぇ」
これ確実に玲さんを待たせている、流石に遅れてごめんで済ませるわけにはいかないだろう……コーヒー牛乳で許してもらえるだろうか。
他人の金で飲むコーヒー牛乳はさぞや甘いだろう、牛乳瓶を二本指に挟んで男湯の暖簾をくぐってエントランスに出る。さて玲さんは……
「「…………あ」」
と、そこでふと横を見たらちょうどのタイミングで女湯の暖簾をくぐって出てきた玲さんと視線がかち合い……そして俺の目は玲さんが両手に一本ずつ持っているフルーツ牛乳に向けられて。
「………ぷっ」
「………ふふっ」
どちらとも長風呂で、どちらとも詫び牛乳を買っていて、それでいて奇跡に牛乳のフレーバーだけは被らなかった。そんな偶然に俺と玲さんは同時に吹き出した。
「くくくくく……玲さん、せっかく二つ持ってるなら一つ交換しようか?」
「そう、ですね。せっかくですから」
ちゃっちゃと帰るつもりだったが、無理して今すぐ二本飲むこともないだろう。互いに笑いながらコーヒー牛乳とフルーツ牛乳を交換した俺達は、先ほどまでの災難の事なんて一欠片に至るまで忘れ去ってスーパー銭湯とは名ばかりの複合施設を楽しむべく歩き出すのだった……
「どうせなら夕飯もここで食べていっちゃう?」
「いい、ですね」
「うわ、無駄にレパートリーが多い……玲さんはどうする?」
「私は……その、楽郎君はどうします、か?」
「……これ無限ループじゃん」
「パンチングマシンがエラー吐いてる……」
「き、機材のトラブルですよね!? 私が壊したわけじゃ……ないですよ、ね?」
「俺の方からはなんとも」
「な、なんか遊び回ったせいか結構疲れてきたね……」
「そ、そうですね……」
「リニアは……あれこれそろそろ来るんじゃ?」
「は、走らないと次は三十分後では!?」
予想外の訪問とはいえ、「浮島」を十分に堪能した俺達は多少ダッシュしたもののなんとか地元へと帰ってくることが出来た。このまま徒歩で帰ってもいいがまたあんな感じのに遭遇してもたまらないと、俺たちは徒歩ではなくタクシー乗り場へと来ていた。
「もう夜だし、変なのに引っかかったのがさっきもさっきだからタクシーとか使ったほうがいいんじゃないかな?」
「そ、そうです……ね」
ドアを開いて客を迎える状態のタクシーの前でなにやら立ち尽くしていた玲さんだったが、何か意を決したようにこちらへと振り向くと歩いて帰るつもりだった俺へとこう持ちかけてきた。
「あの、もしよろしければ、楽郎君も……一緒に、その、いかがです……か? いえっ! その、途中までは同じ方向ですし、仮にそこで降りるにしても私も距離を稼げるというかその、あの」
「あー……いいの? あの運転手さん俺だけ先に降りる、とかできます? 料金は当然払うんで……あ、オッケー? じゃあ、お言葉に甘えても?」
善意が有り難い、とレディファーストで玲さんに先に乗るよう促し………ふぁ
「は、はい……へくしゅっ」
「だいじょ……えくしっ!!」
「「…………」」
なんだろう、この寒気は。楽しかった今日はここで終わり、何か波乱を思わせる明日が来ることを予感させるようなこの背筋を襲う寒気の正体は……
……
…………
………………
◆翌日
「風邪ねぇ、疑いようもなく」
「マ゛シ゛で゛す゛か゛」
「そりゃこの季節にサウナと水風呂往復した後に運動なんてしたらそうなるわよ、ニジーちゃんの様子見たら風邪薬買ってきてあげるから安静にしてなさい」
「息子の風邪はニジイロクワガタの次、っすか……あだまいだい」
「趣味の問題は自己責任、お父さんがカキに当たった時だってそうだったでしょう?」
「まぁ確かにあの時はトイレに篭ってる父さん放置して加熱調理したカキフライ皆で食ってたけどさぁ……あ、風邪薬と一緒にライオットブラッド買ってきて」
「白湯にしなさい、学校には連絡しとくから」
「え゛ぁ゛い゛」
◇翌日
「私の見立てでも風邪、ですね」
「ごほっ……です、よね」
「後で白湯と風邪薬を用立てるよう言っておきます、時に……夜分遅くに帰ってきたようですが、済ませたのですか?」
「済ませて………? っっっなぁ!!? そんなことしてまっ……ごほっ! ごほっ!!」
「おや残念……親類縁者に良い報告が出来ると思ったのですが。しかし玲、病床の身でそう取り乱すものではありませんよ」
「姉さん、誰のせいか分かってますか?」
「学校の方には連絡させておきます、今日は休んでおきなさい」
「………はい」
楽郎は熱から、玲は喉の痛みから
なお、ガラガラ声のヒロインちゃんからJGEでの諸々を聞いた岩巻さんは大吟醸を開けた。開けたというか空けた。